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第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~

417 エルフの里の話し合いにゃ~

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「フフフ。昨夜は楽しかったですね」
「そうじゃのう。コンコンコン」

 エルフの里で、ドンちゃん騒ぎの翌日。さっちゃんと玉藻が昨夜の事を笑い合い、そこに女王達も加わっている。

 ここはわしの別荘。昨夜、どこで寝るかの話になったら、ヂーアイがわしの為に新居を建ててくれていた。しかも、全て白い木。ヂーアイの屋敷より小さいが、高級感の漂う空間となっている。
 布団も、黒い鳥や白い鳥の羽毛が使われており、女王達ですら、こんな布団を使った事がないと言っていた。わしが何人連れて来てもいいように、十組も作ってくれていたようだ。
 ただ、所々わしの木像が立っているので居心地が悪い。なんか玉座っぽい部屋もあるし……

 昨夜の宴もあったし、朝は自前の物を食べるからと言っておいたので、わし達は別荘の中華テーブルのような物がある部屋で朝ごはんにする。

「あ! コリスちゃん。回しちゃダメー」
「えへへ~」

 懐かしいから、なんとなく大皿料理を並べてみたのだが、大失敗。さっちゃん達が食べたい物を取ろうとしても、コリスが回しながら皿の料理を呑み込むので、あっと言う間に空になってしまった。
 なのでわしは、頬袋がパンパンになったコリスに「メッ!」と叱って、テーブルから排除する。コリスはもうすでに、お腹も頬袋もいっぱいだから、素直に言う事を聞いてくれた。

 これで邪魔者が排除できたので、皆で和気あいあいと食べる。ただ、女王と玉藻が手間取っていたので、わしが取り分けてあげた。さっちゃんとローザはわりと順応していたので一人でも出来るし、楽しんでいるようだ。
 オニヒメは世話係のリータがいるから大丈夫だし、兄弟達はメイバイが面倒を見てくれているようだ。


 朝食を終えると、リータ達はリンリーと共に、観光案内係。バスも貸してあげたので、半日ぐらいならリータの魔力でもなんとかなる。
 コリスなら一日中使ってもいけるだろうけど、お腹いっぱいになって眠そうにしていたので、事故りそうだから運転させるなと言っておいた。
 もしもの時は、通信魔道具で呼ぶように言っておいたから、呼ばれたらピックアップする予定だ。

 そうしてわしは、ヂーアイの屋敷に向かうのだが……

「にゃんでついてくるにゃ?」
「私も長とお話したいのよ~」
「そちもか? 気が合うのう」

 女王と玉藻がついて来てしまった。何やら息が合ってる振りをしているけど、関西のおばちゃんみたいじゃぞ?
 だけどわしも引けない。これからいろいろと難しい話があるから、追い返そうと頑張ったのだが……

「ほれ。乳じゃぞ」
「もう~。こうしたらいいのね」
「押し付けるにゃ~! 挟むにゃ~~~!!」

 巨乳二人の雑なハニートラップに引っ掛かって、渋々同行を許可した。だって、リータ達にチクるって言うんじゃもん。てか、こんなのハニートラップじゃなくて、ただの脅しじゃからな!

 なので、ぷりぷりしながら、三人でヂーアイの屋敷に乗り込んだ。そうして応接間に通されて座布団に座ると、わしから話し始める。

「さてと~。まずは、この里がわし達にどう呼ばれているか知っておいてくれにゃ。『エルフの里』こう呼んでいるにゃ。そして、人種はエルフにゃ」
「エルフさね?」
「物を売る時に、この名前のほうが都合がいいんにゃ。まぁわし達が勝手に呼んでるだけにゃから、正式名称は他にあってもいいからにゃ。種族、国名、呼ばれたい名称があれば、考えておいてくれにゃ」
「難しい事を言うさね……わかった。考えておくさね」

 とりあえずの名称は『エルフ』として、誰かに呼ばれた場合は返事ぐらいはするようにと里に伝えてもらう。

「つぎは、交易の話だにゃ。ヂーアイには、わし達の数の数え方を覚えてもらわにゃいといけないけどにゃ」
「うっ……この歳で勉強さね……」
「苦手にゃんだ……。それじゃあ、数に強い者を呼んでくれてもかまわないにゃ」
「ああ。わかったさね」

 ヂーアイが手を叩くと世話係が入って来て、二言ほど指示を出すと、程なくして、この里の作物を管理しているという女性が入って来た。

「じゃあ、これを見てくれてにゃ」
「う~む……見てもわからんさね」
「玉藻、わしの言う通り、数字を書いてくれにゃ」

 わしが英数字の書かれた紙を広げても、思った通りヂーアイ達には伝わらないので、猫の街で数字の勉強をしていた玉藻にアシストしてもらう。

「これが『一』じゃ」
「むぅ……」
「あ、難しいほうで書いてやってくれにゃ」
「こうか? 『壱』……」
「おお! 読めるさね!」
「では、続けるぞ。弐、参……」

 玉藻に漢数字を書かせると、ある程度ヂーアイ達に伝わったようだ。少し違う部分もあったが、予測から当て嵌めて、わしの提示した数字は完全に理解してくれた。

「これが、ヂーアイから受け取った物を販売した総額にゃ。そしてこっちが、それの内訳にゃ。解読にはちょっと時間が掛かるだろうから、省かせて説明するからにゃ」
「ああ。でも、けっこう大きな数だとはわかったが、それで何が言いたいんさね?」
「つまりだにゃ。この総額からわしの取り分を決めたいんにゃ」
「取り分……数を減らすんさね?」
「その通りにゃ。ここの物を売るにしても、諸経費が掛かっているからにゃ」

 わしは出来るだけわかりやすい言葉を使って、運搬費や人件費、それと、商人に支払われる利益について説明した。
 ちなみにエルフの里の商品で、一番高値で売れた物は、白と黒の木像。オークションでめちゃくちゃ高値が付いて、飛ぶように売れたようだけど、わしは信じられない。ただの動物じゃのに……


「まぁざっくりとは、わかってくれたみたいだにゃ。でにゃ。わしの取り分は、諸経費を除いた一割にしておいてあげるにゃ。諸経費を足すと、その数字から二割減って、この額にゃ」

 わしは新たな用紙を出すと、ヂーアイ達は目を通しているが、女王は念話の魔道具を使って、玉藻は他心通を使って会話に入って来やがった。

「それは安すぎるでしょう」
「そうじゃ。これほど手間が掛かっておるんじゃから、四割は取っていいはずじゃ」
「それが妥当ね。最低、三割よ」
「うむ。妾もそう思う」

 二人は関係ないのに、何やら勝手に喋って勝手に納得する。どうも二人は、交渉事が趣味なので、わしのやり方が気に食わないようだ。

「うちの会計担当からも、そう言われたんにゃけどにゃ~」
「じゃあ、どうして取らないのよ?」
「目の前のババアを見てみろにゃ。交易を初めて行う者には、まずは経験させる事が大事にゃろ?」
「つまり、今回はお試しってことか?」
「そうにゃ。文化が違うと、どうしても先進国が有利に搾取さくしゅしてやろうとするにゃ。わしが日ノ本のお金について、適当にゃ事を言っていたらどうなっていたにゃ?」

 玉藻はわしの言いたい事を理解して、難しい顔をする。

「日ノ本のお金の価値が下げられていた……」
「ご明察にゃ。そうにゃったら、あとから恨んでいたにゃろ? 騙しやがったにゃ~! ……てにゃ」
「たしかに……」

 玉藻は納得するが、女王は違う意見を言う。

「でも、国どうしのやり取りなんて、そんなものよ。騙されたほうが悪いわ」
「女王は力があるから、そんにゃ事が言えるんにゃ」
「ちから?」
「小国からしたら、たまったもんじゃないにゃ。騙されても、軍事力で黙らされるんだからにゃ」
「そんな事は……」

 女王は何か引っ掛かる事があるのか、言葉が詰まった。

「国としては正しいんにゃけど、わしはそれをしたくないにゃ。特にここは、助けが必要な地にゃ。無駄に搾取されないようにしてやらにゃいと、大きにゃ火種になるからにゃ」
「「あ……」」

 わしの火種発言に、エルフの里の驚異にようやく二人は気付いたようだ。エルフの里を敵に回すと、一国が簡単に落とされる事態になると……

「さてと……ババアも念話で二人の会話を聞いてたにゃろ? その事を踏まえて、それを了承するか決めてくれにゃ」
「ううむ……」

 ヂーアイはうなりながら考えて、結論を言い渡す。

「四割! 四割を支払うさね」
「にゃ? 二割でいいんにゃよ??」
「小難しい事はわからんが、シラタマ王が、我が里の事を考えてくれている事は、よ~くわかったさね。だから、感謝の気持ちで支払わせておくれ」
「まぁババアがそれでいいんにゃら……」

 わしはヂーアイの気持ちを汲んで、書類の数字をいじってからサインする。ヂーアイにも漢字で名前を書かせたら、作物を管理している女性と一度外に出て、そこに塩や包丁、その他欲しがっていた物資を出す。
 生活に必要な物からわしの取り分を差っ引くわけにはいかないので、肉や塩を減らしておいた。これなら次回の支払いにも使えるので、減らしても何も問題ない。
 女性に説明しながら内訳の書かれた書類も数字をいじり、了承してもらったら元の部屋に戻る。


 少々時間が掛かってしまったが、部屋に戻ると女王と玉藻が、ヂーアイ相手に勝手に交渉していた……

「我が国に、三人ほど戦士をくれないか? もちろん報酬は支払うぞ」
「うちも、大至急で戦士が欲しいんじゃ。二人ほど回してくれんか?」

 やっぱり……わしについて来ていたのは、そんな魂胆じゃと思っておった!

「にゃにしてるにゃ……」
「「にゃ!?」」

 わしがこめかみに怒りマークを浮かべて呟くと、女王と玉藻は驚いて振り返った。どうやらわしの足音が聞こえてなかったようだけど、なんで二人揃って「にゃ!?」って驚くんじゃ?

 そうして「にゃ~にゃ~」喧嘩していたら、ヂーアイが変な事を言い出した。

「魅力的な提案なんだが、その件はシラタマ王の許可がないと出来ないさね」
「にゃ? にゃんでわしの許可が必要なんにゃ?」

 わしが質問すると、ヂーアイは両手をついて頭を下げる。

「あれから里の者と話し合って、やはり猫の国に入れて欲しいとなったんさね。この通り、シラタマ王の国に相応しく、猫を多く配置した。どうか、我が里を猫の国に入れておくれ」

 つまり、エルフの里がわしだらけになっていたのは、猫の国がそんな国だと思われているって事か……うん。逆効果じゃ。猫の国は、わしの意向で猫が少ないんじゃぞ。
 てか、懇切丁寧に交易の話をしてやって、ババアから断ってくる事を期待しておったのに、まだそんな事を言っておるのか……。面倒ごとを増やすな~!

 わしが呆気に取られていると、女王と玉藻がよけいな事を言う。

「うふふ。これだけお願いされたら、断れないわよね~?」
「そうじゃぞ。シラタマに相応しい里じゃないか。うらやましいのう。コンコンコン」

 どこがじゃ! たんに面白おかしく思っておるだけじゃろ!! 

「ちょ、ちょっと待つにゃ。まだ話が終わってないにゃ! それを聞いてから、もう一度考えるにゃ~。実は……」

 起死回生。三ツ鳥居の機能と、猫の国とを繋ぐ事をヂーアイに説明して、交易をすれば、里が豊かになると説明するのだが……

「これで行き来が出来るんさね! 里をあげて猫の国を盛り上げて行くさね~!!」
「ちがうにゃ~~~!!」

 ますます猫の国入りを望むヂーアイの説得は難しく、「戦士をくれくれ」と顔に書いてある女王と玉藻がハニートラップで援護射撃を仕掛けるので、エルフの里の猫の国入りが決定してしまうのであったとさ。
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