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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~
401 歓迎会にゃ~
しおりを挟む「はぁ……キツネが歩いているのですか……」
「タヌキまでもが……」
「「猫が歩いているのも驚きですのに……」」
猫の街役場に帰り、まずは姿がアレなキツネ店主とタヌキ少女つゆを紹介してみたのだが、双子王女は困惑した顔になった。何故かわしも困惑の対象になっているが、気にしない。
「それでこっちの尻尾が九本ある幼女が玉藻にゃ。玉藻は日ノ本の国で、一番偉い人の名代として働いているにゃ」
「「こんな子供がですの!?」」
「妾は幼子ではない。そちもちゃんと説明せい」
双子王女が驚きの声をあげると、わし達の頭に玉藻の声が響いた。
「にゃ? そんにゃ呪術が使えるんにゃ」
「そうじゃ。他心通……リータ達が使っていたのは念話じゃったか。それぐらいは容易い」
「お~。それにゃら、話が通じて楽だにゃ」
玉藻とのやり取りで双子王女もわしの念話を思い出したようなので、そのまま話を続ける。
「玉藻は、たぶん九百歳を超える化け物にゃ。わしと同格として扱ってくれにゃ」
「「九百歳!?」」
「なっ……何を言っておるんじゃ!!」
「さて、ここで話もなんにゃし、歓迎の宴でも開こうにゃ~」
三人の驚きは無視してスタスタ歩くわしであったが、三本の尻尾を掴まれて拘束されてしまった。このままでは準備に取り掛かれないので、リータ達にはエミリと料理班に準備するように伝えて来てもらう。
わしはと言うと、双子王女と玉藻に拉致されて執務室で質疑に答える。ちなみにキツネ店主とつゆはどうしていいかわからずにボケーっと立っていたらしいが、メイバイが対応してくれたらしい。
執務室には、双子王女と玉藻が「ギャーギャー」騒ぐ声と、わしが「にゃ~にゃ~」と反論する声が響いたとさ。
そうして宴の準備が出来たと聞いたわしは、双子王女に首根っこを掴まれて大会議室にて、ポイッと投げ捨てられた。その姿を見ていた玉藻は、何故かジト目で見ている。
「そちは、この国で一番偉いのではないのか?」
うっ。わしもそう思うんじゃが、女には勝てん。
「まぁ立てる時は立ててくれるし、偉そうにするのもわしの性に合わにゃいから、これでいいにゃ」
「ほう……変わった国王じゃな」
見た目の話ですか? 見た目の話にしておいてね?
「それと、妾は九百歳ではないからな!」
「まだバラした事を根に持ってるにゃ~? ゴメンゴメンにゃ~」
「違うと言っておろう!」
その焦りようが正解だと言っておるんじゃけどな~。女性に年齢は禁句じゃろうけど、見た目は変化の術でどうとでもなるんじゃから、どうでもいいと思うのはわしだけか?
わしと玉藻がケンカしていると、リータに席に着くように睨まれたので、玉藻と並んで席に着く。
「え~。みんにゃも知っての通り、わし達は新婚旅行に出ていたにゃ。目的地は時の賢者が向かった島だったにゃ。そして、この三人はその島の住人……日ノ本の国からやって来た者達にゃ。今日は友好を深める為に、楽しく飲もうにゃ。かんぱいにゃ~~~!」
「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」
わしの音頭で真っ昼間から始まる宴。リータ達も、双子王女も、職員達も、グラスを持って高く掲げる。日ノ本の者もマネをして、隣の者とグラスを合わせていた。ただし、双子王女や職員は、まだ仕事が残っているのでジュースだ。
そうしてお互いの文化の違いを肴にするのだが、キツネ店主とつゆが英語の質問にあたふたしていたので、念話の入った魔道具を貸してあげた。
話が通じても話が合わないと面白くないだろうから、二人の職業に近しい者を隣に座らせて盛り上がってもらう。
もちろんわしの元へ集まる職員も多く、冒険談を話すと、目を輝かせて聞いていた。
そうやって騒いでいたら、大会議室の扉が乱暴に開き、黒と白の物体が飛び込んで来た。
「シラタマ~! こんにゃ楽しそうにゃ事をするにゃら、うちも呼べにゃ~!!」
ワンヂェンだ。宴に呼ばなかったからご立腹のようだ。なのでわしは手招きして呼び寄せる。
「ほい。オニヒメも食べるにゃ~」
「たべるにゃ~」
オニヒメを、だ。わしの出したスプーンをパクッとくわえてモグモグしている。
「聞けにゃ~!」
「にゃに~?」
「どうして呼んでくれないか聞いているんにゃ~!」
「さあ? わしは双子王女の説教を受けていたから知らないにゃ。リータ達に聞いてくれにゃ」
「リータ~! にゃんで教えてくれないにゃ~!!」
どうやらリータは、ワンヂェンの事をすっかり忘れていたようだ。なのでわしと同じく職員に罪を擦り付けていたが、職員はワンヂェンが仕事中だから伝えなかったと言っていた。
仕事を出されるとワンヂェンは反論できないらしく、オニヒメに餌付けしているわしに標的を移して擦り寄って来やがった。
「治療院は忙し過ぎるにゃ~。にゃんとかしてくれにゃ~」
「暑苦しいから擦り寄るにゃ~」
「シラタマもたいして変わらないにゃ~」
まったく……オニヒメと大違いでうるさすぎる。しかし治療院は、わしが手伝った時も、人が大勢来ておったな。しかも、些細な怪我が多かったような?
「う~ん……そろそろお金を取ろうかにゃ?」
「にゃ……そんにゃ事していいにゃ?」
「いまは無料だから、小さな怪我でも来てしまっているんにゃ。少量でもお金を取れば、人は減るはずにゃ。双子王女も、それでいいにゃろ?」
治療院は、まずは普及させないといけなかったから、わしが無料にするようにと指示を出していた。猫の街は不遇な者の集りなので、それでも治療院に行く者は全然いなかったから、ようやく普及活動が終わったと言っていいだろう。
もちろん双子王女は大金が取れるのにと反対していたので、ようやく街の収入が増えると、ふたつ返事で大賛成のようだ。
そうして話がまとまったところで、ワンヂェンは飛び跳ねて喜び、キツネ店主とタヌキ少女つゆに驚いて、触りまくっていた。
ワンヂェン騒動が落ち着くと、玉藻がわしに話し掛けて来る。
「そちの国は、黒猫もおるのじゃな。他の色もいるのか?」
「そうにゃ。いっぱい歩き回ってるにゃ」
「嘘つかないでください!」
わしと玉藻が喋っていると、料理を運んで来たリータにツッコまれてしまった。
「嘘なのか? この前も、そやつは猫がいっぱい居ると言っておったぞ」
「嘘です。立って歩く猫は、二人だけです」
「ほお~。妾に嘘をつくなど、いい度胸じゃのう」
リータさんはすぐ言う~! てか、玉藻は嘘に厳しいタイプなのか? なんだか怖いんじゃけど~?
「嘘じゃなく、冗談にゃ~」
「はぁ……だんだんそちの性格が掴めて来たわい。すぐに調子に乗る質じゃろう?」
「はい。いつも注意しているのに、すぐに忘れるんです」
うっ……わしの愚痴で盛り上がっておる。そんなにわしは調子に乗っておるのか? 今日はコリスの代わりに、オニヒメを愛でてやろう。
「美味しいにゃ~?」
「おいしいにゃ~」
「よしよしにゃ~」
「よしよしにゃ~」
オニヒメは、料理を食べても表情を変えず、頭を撫でても表情を変えずに、わしの頭を撫で返す。相変わらずオウム返しだが、簡単な単語は発声できるようになったようだ。
オニヒメの成長に、わしはいっそう喜んで餌付けしていたら、玉藻が不思議そうに質問して来る。
「そう言えば、その子は鬼じゃろ? 危険は無いのか?」
「にゃ? 玉藻は鬼を知ってるにゃ!?」
「知ってると言っても、物語に出て来るぐらいで、出し物で変化する者が居るだけじゃ」
「にゃんだ~。それだけにゃ~」
「あからさまにがっかりして、どうしたんじゃ?」
「オニヒメは、どこから来たか情報があったら知りたかったんにゃ」
わしはオニヒメとの出会いを、父親を殺してしまった事を省いて、玉藻に説明する。
「なるほどのう……それほど広い森となると、集落を見付けるのは難しそうじゃな」
「しかも、百年も昔の話だから、残っているかもわからないにゃ」
「占いでもしてみるか?」
「それでわかるにゃ!?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃ」
「にゃ……」
「コンコンコン。嘘をついた仕返しじゃ」
わしの嘘と玉藻の嘘は、質が違うからな! 笑えん嘘じゃ。
それからも宴会は続いていたが、職員は時間が来ると解散し、各々の仕事に向かって行った。残されたわし達はどうしたものかと考えた結果、玉藻達に街の案内をする事となった。
ひとまず玉藻達は、リータとメイバイに丸投げ……頼んで、わしはコリスを寝かし付ける。このままわしもお昼寝したいところだが、サボッているのがバレると怒られるのは必至なので、キッチンに向かう。
そこでは、街の料理班にまざって、エミリが皿を洗っている姿があった。
「エミリ~。お疲れ様にゃ~」
「ねこさん!」
エミリはわしの声に反応し、濡れた手のまま抱きついて来た。
「おかえりなさ~い。モフモフ~」
う~ん。ぬいぐるみの帰りを待ち侘びておったのか? わしの頬にエミリの頬をぐりぐりして来るけど……
「ただいまにゃ。いきなり大量の料理を準備させて悪かったにゃ」
「いえ。仕事ですから大丈夫です!」
「にゃはは。頼もしくなったにゃ~」
エミリが離れたところでお土産を各種取り出して、料理班にも振る舞う。
「な、なんですかこれは!?」
「本物の大福にゃ」
「本物……わたしが作った物より、全然モサモサしてないです」
「アンコには小豆が大事だからにゃ。小豆は買って来たし、将来的にはうちでも作る予定にゃから、覚えておいてくれにゃ」
「はい! それにしても、綺麗なお菓子が多いですね~。食べるのがもったいないです」
「にゃはは。腐ったらもっともったいないにゃ。まだまだあるから、目で楽しみ、舌で楽しんでくれにゃ」
エミリ達は和菓子をいろいろな角度から見ていたが、まだ仕事中だったらしく、それが終わってからいただくとのこと。
皆の感謝の声をあとにして、双子王女の職場、執務室にノックして入る。
「ちょっとだけいいかにゃ?」
「ええ。どうかしまして?」
「お土産を渡し忘れていたにゃ。おやつにでも食べてくれにゃ」
テーブルの上に、桐の箱に詰められた和菓子を置く。すると双子王女は箱を開けて中を覗き込む。
「綺麗なお菓子ですわね」
「日ノ本の食べ物は、繊細に作られていますのね」
双子王女はエミリほど驚かなかったが、概ね高評価のようだ。食い意地も張っていないので、一通り見てから箱を閉じていた。
「それと、これにゃ」
次にわしが出した物は置き時計。高さが150センチぐらいあるので、わしより大きい。
「箱ですの?」
「まさか、棺桶ですの?」
「まぁ初めて見るから、にゃにかわからないにゃ。これは時計にゃ」
「……時計? 砂はどこにありますの?」
「まぁこっちに来て、よく見てくれにゃ」
双子王女が立ち上がって文字盤を眺める中、わしは説明しながら箱を開けて、中の構造も教えてあげる。
「凄いですわ!」
「世の中には、このような機械があるのですわね!」
今度は大絶賛。わしは揉みくちゃにされて、おいしい思い……無理矢理顔を胸に埋められて気恥ずかしくなった。それからようやく落ち着いたところで、計画も話しておく。
「ソウではバスと電車の製造や整備で忙しいからにゃ~。どこかの街で作れたらいいんだけどにゃ~」
「つまり、そう言うことですの?」
「街の中央に大きにゃ時計台があれば、人々は時間を見て取れるにゃ。置き時計にゃんかは、貴族に売れるだろうにゃ~」
「「大規模な工事から、安定的な収入源……」」
双子王女の脳内では、街の発展と金勘定が始まったようだ。
「にゃはは。人選は任せるにゃ。手先の器用な者を、数人集めておいてくれにゃ」
「「はい! お任せくださいまし!」」
双子王女は家臣らしく、意気込みの感じる返事をくれたので、わしは執務室をあとにする。
それからも目に付いた猫の街の住人にアメちゃんやお土産を配り、リータ達と合流すると、玉藻達の接待。
夜になると歓迎の宴第二弾を行い、玉藻達は興奮冷めやらぬまま、我が家で床に就くのであった。
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