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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~
392 しばし休息にゃ~
しおりを挟む京に滞在して四日目。今日は何をしようか悩んだ結果、池田屋でダラダラする事に決まった。
コリスもそうだが、リータ達も慣れない和装で出歩くのは、少し疲れたみたいだ。なので、先日借りた本に目を通そうと思う。
昨日もわしが留守の間に貸し本屋が大量に本を置いて行ったので、一日で読み終えるのは難しい。ひとまず仕分けをしつつ、面白そうな本を探していたら、リータ達も興味を持ったようだ。
「字が違いますけど、シラタマさんは読めるのですか?」
「にゃんとかにゃ。わしの世界とほぼ一緒にゃから読めそうにゃ」
「線がいっぱいあって、まったく読めないニャー」
「にゃはは。漢字は外国人には難しいからにゃ~」
わしが笑って答えていると、読もうと思っていた一冊の本を、リータが手に取る。
「こっちの本は、猫の絵が書いてありますけど、なんて書いてあるのですか?」
「『吾輩はネコである』にゃ」
「シラタマ殿の話ニャ!?」
「わしじゃないにゃ~」
「ちょっと読んでニャー」
「しょうがないにゃ~」
わしはメイバイのお願いに応えて、夏目漱岩作「吾輩はネコである」を、原文そのままに聞こえるように念話で朗読する。
「吾輩はネコである。彼氏はまだない」
ん?
「生まれて三十年、ひとりもだ。いつか吾輩も男色を暴露して、あの安五郎の太くいきり立ったモノを、こう……」
パタン……ポイッ!
わしが本を閉じて投げ捨てると、リータ、メイバイ、イサベレが様々な反応を示す。
「あわわわわ」
リータは顔を赤くし……
「なんで読むのをやめるニャー?」
メイバイはいまいちよくわかっていない。
「ん。いまから面白いところだった。フンスコ」
イサベレに至っては、目が輝いて鼻息が荒い。
わしはと言うと……
こんな本、読めるか~~~!!
夏目先生の本が読めると思ったのに、まさかのBL官能小説! ネコってそっちの事じゃったんかい!! こんな本、喜ぶのなんてフレヤぐらい……イサベレも何故か興味を持っておるな。新しい世界に足を踏み入れる前に、違う本を読もう。
健全な人間の読む本ではないと軽く説明したわしは、絵の多い本を手に取って開く。
「こっちは絵が多いからわかりやすいにゃろ? コリスもおいでにゃ~?」
コリスがリータ達と並ぶと、わしは念話で読み始める。
「昔々あるところに……」
わしの読んでいる本は、桃太郎の絵本だ。ただし、コマ割りが多い事から見て、漫画なのかもしれない。
内容も全然違う。桃太郎という主人公が、鬼の総大将に攫われた姫を助け出す話になっている。
お供にはタヌキの盾役とキツネの回復役を連れて鬼達と戦うのだが、巨大な最後の総大将との戦いで大ピンチに陥る。
そこで取り出しましたるは、科学者の用意してくれた吉備団子。
吉備団子を食べた桃太郎は、超桃太郎に巨大化して、桃光線なる必殺技で辛くも勝利し、姫を取り返したのであった。
わしが「めでたしめでたし」と本を閉じると、リータ、メイバイ、イサベレ、コリスは目を輝かせながら感想を述べる。
「お姫様……よかったです~」
「絵も凄かったニャー!」
「ん。ハッピーエンド」
「おもしろかった~」
概ね好評のようじゃが……桃太郎の要素か薄い!! 桃太郎、吉備団子、鬼しか要素が無かったぞ。それにずっと刀で戦っていたのに、最後の桃光線ってなんじゃ! 侍が刀を投げ捨てるな!!
ツッコミ所が多い桃太郎を読み終えたわしは、このあと数冊の漫画をツッコミながら読んであげて、わしも読みたい本があるからと言って読書に戻る。皆は一度読んだ漫画なら絵が多いので、何度も楽しめているようだ。
さてと……古事記から行くか。うん。読めない。簡単なヤツを用意しろと言ったのに、まさか原文のほうを持って来るなんて思っていなかったな。たしか他にもあったはずじゃが……あったあった。
……だいたい一緒かな? 神様の名前は完全一致じゃけど、人の名前が若干違う。序文で古事記を書いた人は、わしの記憶では安万侶だったはずじゃけど、安五郎ってなっておる。ネコの話の安五郎じゃないよな?
スタートはわかったから、次は歴史の流れが知りたい。どこかに年表みたいな物が無いかな?
わしは何冊も本を開き、軽く目を通していたらお昼が運ばれて来たので、本を読みながらモグモグする。
食べるのが遅くて、コリスにほとんど食べられてしまったが気にしない。次元倉庫からサンドウィッチを出して、モグモグすればいいだけだ。
でも、皆も久し振りにパンが食べたいらしく、ガン見されていた事に気付かなかったら、激しく揺すられた。
なので、多く出して、キツネ少女にも分けてあげた。キツネ少女は恐る恐る一口食べて、美味しさに驚いていたと、あとから聞いた。
その間も、わしはモグモグ読書だ。
ふ~ん。年表も戦も、ほぼ一緒みたいじゃな。武将の名前が半分以上違うけど、土地が同じなら、同じ歴史を辿るのか。
しかし、戦国時代は大戦と言ってもいいほどの戦があったのに、何故、スサノオの浄化装置が作動していないんじゃろ? 負の感情が足りなかったとかか?
関ヶ原なんて、東軍、西軍の大戦じゃったのに……すぐ終わったからか? 他の戦も期間が短い気がするし……まぁなんにしても、浄化装置が発動してなくてよかったわい。
そう言えば、この世界も関ヶ原は1600年の10月21日なのに、祭りはなんで8月なんじゃろう? 資料が見つからなかったら、玉藻に聞いてみよっと。
さてと、明治維新は……お! あったみたいじゃな。ただ、内容が大きく違う。
徳川家や武士の堅苦しい暮らしに、嫌気が差した下級武士と民衆が立ち上がり、天皇家が事を収めた事になっておる。
最初は暴動で血が流れたようじゃけど、それ以降は天皇家が間に入って話し合いで解決したのか。ただ、東では、いまでも徳川家が幅を利かせているみたいじゃな。
解決と言うよりは、線を引いて暮らしを分けたみたいじゃ。移住は自由らしいけど、これで大丈夫なんじゃろうか?
明治維新以降は、白黒写真が残っておるな……この尻尾の多い女は玉藻か? めっちゃ美人で妖艶じゃ。てか、エロい。
ロリ巨乳より、アダルトバージョンのほうが断然いいけど、玉藻の写真、多くない? 天皇陛下がちょっとしか写ってない。なんか砂浜で、水着姿で寝転んでいる玉藻もいるし……お前は裏方じゃねぇのかよ!
おおかた知りたい情報は知れたか。次は……演芸系の本もあったはず。これこれ。
ふ~ん……相撲に歌舞伎、落語に漫才? 堺から芸人がやって来てるっぽい。
あとは、爆音ってなんじゃろう? 歌舞伎役者みたいな奴が三味線片手に歌っているっぽいけど……太鼓もあるし、ビジュアル系バンドかもな。
なかなか娯楽も発達しているようじゃ。
それからも、わし達はゴロゴロしながら本を読んでいると、キツネ少女が客を連れて来たと言うので、動くのは面倒だったから部屋に呼んでもらった。
「お邪魔しまんにゃわ~」
来客者はキツネ店主。ボケに乗ってあげようかと思ったけど、やっぱりやめた。
「にゃんか用かにゃ?」
「今日はノリが悪いでんな~」
「たまには変化がにゃいと面白くないにゃろ」
「まぁ今日はそれでよろしいですわ。用件とは、厳昭さんに京の街を案内するように言われましてね」
「接待とは、裏がありそうだにゃ……」
「そりゃ大ありですわ! シラタマさんに、他所の商人が近付いて来られては困りますからね~」
「にゃはは。はっきり言ってくれるにゃ~」
「コンコンコン。下手な事を言って、信用を失うほうが怖いですからね~」
どうやらキツネ店主は、厳昭の商売に一枚噛む事になったようだ。厳昭の店では、いまある商品を置くだけで手いっぱいなので、新店を作って、事情を知っているキツネ店主が番頭となるらしい。
質屋のほうはどうするのかと聞くと、そちらは弟子が引き継ぐとのこと。目利きはきっちり仕込んでいるから問題はないようだ。
キツネ店主の立場はわかったので、ついでに仕事を頼む。小豆やニガリ、猫の国に無い食材の種や製法なんかを、手に入らないか相談してみた。
だが、わしの欲する物は、キツネ店主の領分を大きく超えていたらしく、厳昭に聞いてみないとわからないとのこと。なので商売の話を絡めて、メリットを懇々と述べ、味方に付ける。
食品の輸出はさすがに難しいから考える余地はあるので、いい返事をもらえた。
輸出関係の話がまとまる頃には、キツネ店主は気付いた事があるようだ。
「と言う事は、天皇家の確約が取れたんでっしゃろか?」
「ああ。玉藻も乗り気だから、三ツ鳥居を使える事になったにゃ」
「お、おお! さすがシラタマさんです~」
「まだ三ツ鳥居の製造があるし、我が国まで届くかどうかがわからないんだよにゃ~」
「そうでっか……でも、何がなんでもやるんでっしゃろ?」
「もちろんにゃ。いざとなれば、中間地点の候補もあるからにゃ」
こうして仕事関係の話が終わると、接待の話が出たので、わしも乗っかる。
「この演芸本に載っている娯楽を見てみたいんにゃけど、手配できるかにゃ?」
「もちろんです~。でも、相撲はすでに券が売り切れになっているので、手に入れられないかもしれまへん」
「あ~……にゃらいいにゃ」
「あ! そう言えば、千秋楽は天覧試合となっていたので、玉藻様に聞けば連れて行ってくれるかもしれまへん」
「そうにゃんだ。じゃあ、聞いてみるにゃ~」
娯楽関係も時間を決まれば、キツネ店主は何かを思い出し、手をポンッと叩いた。
「そうでしたわ。宿はここでよろしいのですか? 厳昭さんに言えば、もっといい旅館に泊まれまっせ~」
「う~ん……そこは高いにゃ?」
「そらもう。大名御用達なので、金子は掛かります。ですが、うまい料理に広い部屋、備え付けの浴室もありますので、満足してもらえると思います」
「……ちなみににゃけど、そこを運営しているのって……」
「えっと、その……」
「厳昭にゃんだ……。先払いしてる料金もあるし、それが無くなってから考えるにゃ」
キツネ店主の策略は軽くいなしたが、わしは明確に断ってはいないので、それでいいようだ。そうして商談の話も接待の話も上手く行ったキツネ店主は「コンコン」と鼻歌まじりに帰って行った。
キツネ店主が帰ってからしばらくして夕食をとり、寝床で横になると漫画を読み聞かせながら、眠りに就くわしであった。
だから「吾輩はネコである」は忘れてくれ! 読みたくないんじゃ!!
しつこいイサベレの要求を受け流しながら……
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