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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

390 平賀家当主にゃ~

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 ドッカーーーン!

 わし達が平賀家の屋敷内を見回しながら歩いていると、突如、大きな爆発音が響き渡ったので、わしは玉藻を見る。

「にゃんか凄い音が鳴ったんにゃけど……」
「またか……いつもの事だから気にする必要はない。おそらく音の発生源に当主が居るから、そちらに向かうかのう」

 マジですか? すんごい音が鳴ったと思ったんじゃけど……リータ達も驚いているぞ?

 玉藻は本当に気にする事も無くスタスタと歩くので、わし達もそれに続き、煙の上がる方向へと進む。
 そうして煙が立ち込める場所まで行くと、怒号が耳をつんざき、バケツリレーで蔵についた炎を消すマッチョな男達の姿が目に入った。

「早く消せ~! 次の実験が出来ないだろうが~!!」
「「「「「う~い」」」」」
「残りは電気だ! 漕いで漕いで漕ぎまくれ~~~!!」
「「「「「う~い」」」」」

 はい? 何この状況……屈強な男達がバケツリレーをしておるは、自転車に乗って漕ぎまくっておるは……なんじゃこの体育会系の男どもは……

 わし達が呆気に取られて見ていると、玉藻は呪術で大きな水の玉を作って蔵に叩き落とし、火事を鎮火した。
 そうして一番偉いであろう大きな男の元へ向かうので、わし達は小走りで追い付く。

「おお! 玉藻様じゃないですか。火を消してくれて、ありがとうございます。それじゃあ俺達は実験に戻ります。おい! アレを持って来い!!」
「「「「「う~い」」」」」

 え? それだけ? もう実験に戻った……玉藻さん。それでいいの??

 わしが玉藻を見ると、苛立ちの表情を見せて怒鳴り付ける。

「待て待て~! 源斉! 客人を連れて来ると言ったじゃろ!!」

 玉藻に怒鳴られた源斉と呼ばれたマッチョな男は、さすがに実験を出来ないのか、渋々戻って来て言い訳をする。

「あ~。そんな書状を受け取ったと家内が言ってましたね。俺は実験が忙しいので、適当に見てくれますか?」
「だから、説明をしてやれ!」
「この筒がですね、爆発で回ると……」
わらわじゃない!」
「あ、そちらの方ですね。ちょっと忙しいんで、見ててもらえますか?」
「待て! はぁ……」

 源斉は早口で捲し立てて離れて行ったので、わしはため息を吐く玉藻に声を掛ける。

「アレが当主にゃ?」
「そうじゃ。源斉は……平賀家の者は実験バカでのう。話すと専門用語ばかり使うから、会話が成り立たないんじゃ」
「そんにゃ奴が当主で、時計とか作れるにゃ?」
「分家が製造しておる。そいつらも、作るのは優れておるんじゃが、話が噛み合わなくてのう。困っておるんじゃ」
「それで販売にゃんて、よく出来るにゃ~」
「そこは妻達が頑張ってくれておる。商売に強いキツネ族や、規律に厳格なタヌキ族もめとらせたりしたから、なんとかのう」

 タヌキ族……あ! 時計台の館長か。やっぱり平賀家だったんじゃな。平賀家の嫁だから、あんなに猛プッシュしてわけじゃ。でも、マッチョな人間の男が多いところを見ると、タヌキやキツネは少ないのかな?

「ここでは話が出来ないし、時計の製造現場を見学するか? 源斉の妻を呼べば、なんとかなるじゃろう」
「う~ん……そっちは、リータ達を連れて行ってくれるかにゃ? わしはここに残って話を聞くにゃ」
「話をするだけ無駄だと思うんじゃがのう」
「まぁやるだけやってみるにゃ。リータはコリスの事を頼むにゃ~」

 工場見学なんてコリスは面白くないかもしれないので、収納袋におやつを詰めてリータに渡す。これでコリスはおとなしくしているだろう。
 それから皆が玉藻に連れられて離れて行くのを見送って、わしは辺りを見回す。

 あの穴の開いた蔵が実験施設で、チャリを漕いでる奴らは、電気でも作っておるのかのう? そこから線が、タンクみたいな物に繋がっておるから電池か? 記念館でも電池の記載があったから、可能性は高いな。
 ひとまず蔵に入ってみるか。

 そうしてトコトコと穴の開いた場所から中へ入ると、源斉が大声で指示を出し、動き回るマッチョな男達の姿があった。

 金属が至る所に飛び散っておるな。これは……ネジ? たしか、火縄銃が持ち込まれた時に、日本に伝わった技術じゃったはず。あ、機械時計にくっついていたから、平賀家がマネして作ったのかもな。製鉄の技術もなかなかじゃ。
 この場所は、わしの若い時に使っていた工場に匂いが似ていて、少し懐かしい気持ちになるな。あんなヘンテコなタンクはなかったけどな。
 あと汚い! 掃除もせんとは、職人失格じゃ。いや、あいつらを分類すると科学者か。あのマッチョな体の使い道が意味不明じゃけど……
 しかし、源斉が作っている装置は気になるな。


 わしは着流しに腕を引っ込めて、源斉の隣に立って声を掛ける。

「これはにゃにを作っているにゃ?」
「素人に言ってもわからねぇだろ! 邪魔だ! あっち行ってろ!!」

 邪険にされてしもうた……玉藻と態度が大違いじゃな。見るのは構わないが、質問するなと言う事か。
 じゃが、何を使って動かそうとしているか気になるから、わしも引けん。たしかモーターの名前は……

「電動機の代わりの物にゃろ?」
「は? わかるのか!?」

 お! 食い付いた。

「だいたいはにゃ」
「まぁどっかで噂を聞いただけだろうが、お前に言ってもわからねぇだろうな~」

 あら? もう離れそうじゃ。少し専門的な知識をまぜたほうがよさせうじゃな。

「小規模にゃ爆発を使って回転を生み出す装置にゃろ?」
「お、おお! そうだ!! これさえ完成すれば、電動機より、力を出せるはずなんだ」

 うん。針を喉まで呑み込んだな。

「にゃにを爆発させているにゃ?」
「水だ」
「水にゃ??」
「これは俺が発見したんだがな……」

 そこから源斉は早口で説明し始めて、外にあるタンクの機能まで教えてくれた。
 爆発する水の正体は水素。独学で発見したようだ。水素という言葉を知らないから、燃焼したあとに水が残るのを見て、そのまま水と呼んでいるようだ。
 製造方法は、塩水に電気を通して作っているとのこと。鴨川で水力発電をしているらしいが、水素を作るには結構な電力が必要になるから足りないので、自転車を使って自家発電してるようだ。
 ちなみにさっきの爆発は、水素の圧縮に失敗して爆発したんだって。


 一通り説明して満足した源斉は、実験に取り掛かるらしいので、わしも隣に立って考える。

 賢いんじゃか馬鹿なんじゃか、よくわからん集団じゃな。自力で水素エンジンを作ろうとしているのは凄い事なんじゃが、動かすコストが高過ぎない? 電力を使って水素を作るって、二度手間に感じるんじゃが……

「にゃあにゃあ? もっと扱いやすい、燃える物は無いにゃ?」
「たしかにな~。そんな物があれば、これも楽に開発が出来るんだがな」
「石油……臭水くそうずは無いのかにゃ?」
「石油? 臭水?? なんだそれは?」

 はて? 言い直したのに、通じない。

「燃える黒い水の名前にゃ」
「そんな水があるのか!? どこにある!!」
「えっと……越後の新津にいつだったかにゃ?」
「はあ? そこは呪力場だ。嘘ばっかり言いやがって」

 呪力場? 新津は江戸時代から平成まで油田だったはずなんじゃが……

「じゃあ、石炭は採掘されているにゃ? これも燃やすにはもって来いなんにゃけど」
「またわけのわからん事を……もういい。時間の無駄だ」

 そう言って源斉は、水素エンジンの調整に戻って行った。

 石炭も無いのか……そう言えばわしの生まれた土地でも、木炭は見た事があるが、石炭は無いな。石油も無いと言う事は……この世界には、化石燃料自体が無いのか?
 だから蒸気機関車を飛び越して、電車が作られたのかも? 電気さえあれば、モーター作りのほうが楽じゃもんな。どうりで蒸気機関の記載が無かったわけじゃ。

 さて、ここから想像するに、魔力の源は化石燃料なのではないか? 海が黒ずんで見えたのは、天然ガスやメタンハイドレードが魔力となって、海底から漏れ出た魔力が、サンゴを黒い森のようにしたのかもしれん。
 この世界は、枝分かれするどこかの時点で、化石燃料が魔力に変わった可能性が高いな。新津油田が魔力の源泉となっているのならば、仮説が立証される。
 今度、アマテラスが夢枕に立ったら、答え合わせをしてみよう。


 わしが考え事をしながら源斉の実験を眺めていると、またしても爆発が起こった。なのでわしは、自分の前にだけ【光盾】を出して、火事も水魔法で鎮火してあげた。

「お、おう……助かった」

 わしのそばまで飛ばされた、アフロヘアーになった源斉は、わしに礼を言う。

「ずっと見てたけど、効率が悪くにゃい?」
「どこがだ?」
「建物も実験機も、壊れてばっかりにゃ。それに電気もそのまま使ったほうが、よっぽどお得にゃ。いったいにゃんの為に作っているにゃ?」
「そりゃアレだ……じい様や親父の跡目を継いだからには、それを超える物を作らないとな」
「ふ~ん……それって、誰の為になるにゃ?」
「誰って……俺??」
「プッ……にゃははははは」

 わしが大笑いすると、源斉は怪訝な目で見て怒鳴る。

「何がおかしい!!」
「にゃははは。す、すまないにゃ。あまりにも自分に正直で、清々しくて笑ってしまったにゃ」
「ふ、ふん!」
「ちなみになんにゃけど、我が国でも電車が走っているにゃ」
「我が国??」
「たぶん玉藻から聞いているはずなんにゃけど……」

 わしは軽く自己紹介し、猫の国で作られているキャットトレインの説明をしてやった。源斉は疑いの目をしていたが、モーターの機能を事細かに説明してやったら、驚きの顔になった。

「まさかそんな遠い異国で……」
「さて、源斉は自分の為に物を作っていると言ったけど、我が国では、民の為に物を作っているにゃ」
「民の為に……」
「お前の父達が、にゃんの為に電車を作ったかわからにゃいけど、初めて電車に乗った民の顔を、見た事がないかにゃ? わしは見たにゃ。すっごく喜んでいたにゃ。みんにゃ笑顔だったにゃ~」
「笑顔??」
「物作りは楽しいにゃろ? その楽しみを皆と分かち合えば、もっと楽しくなるにゃ~」
「………」

 わしの説教に源斉は黙り込んでしまったので、次元倉庫の中から、スペアで持っていた雷魔道具を取り出して見せる。

「これは??」
「お前達の言うところで、雷の呪術が入った箱にゃ。いわば、電池だにゃ」
「これが電池!?」
「わしの国では小型の電車……車という乗り物を、街中を走らせているにゃ」
「電線は!?」
「電池があれば、車は動くからにゃ。必要ないにゃ」
「そんな電力は、俺達の作った電池では……」
「じゃあ、車を走らせるだけの電池を作ったらどうにゃ? 作れたら、街中を、至る所で車が走るんにゃ。そうすれば、みんにゃ移動時間が減って、笑顔が増えるにゃ~」
「た、たしかに……そんな物が多く走れば……電池の改良をすれば、親父にも引けを取らない実績になるかも!?」

 よしよし。わしの作れない電池の改良に力を入れてくれそうじゃな。これでうちでも水力発電所を作って、街中を電球で照らせるかも? 魔道具だけでは、キャットトレインと生活に使うモノでいっぱいいっぱいじゃからな。


 わしの言葉を聞いて、源斉はブツブツ言い出したので、現実に引き戻す為に左腕をまくって見せる。

「あ、そうそう。平賀家が作った時計を改良してみたにゃ。どうかにゃ?」

 わしは、昨夜作った鉄のベルトを取り付けた腕時計を見せる。何度か修理をした事があるので、鉄魔法を使えばちょちょいのちょいだ。

「そ、それは……なるほど、腕に付けて歩けば、振り子が振られてバネが巻かれるのか……何故、誰も気付かなかったんだ~!!」

 本当に……懐中時計が機械時計じゃ、回復に時間が掛かるじゃろうに……しかし、ゴツイ男に手を触られるのは気持ち悪いから離して欲しい。

「この細工はなかなか……細かいパーツになるけど、うちでも作れそう……。師匠~~~!!」

 源斉が突然叫ぶので、わしは耳がキーンとなりながら後ろを見るが、誰も居ない。

「師匠!!」
「にゃ? わしにゃ??」
「そうだ! 俺に、物作りの楽しさを思い出させてくれたあんたは師匠だ!!」

 なんだかこんなこと、前にもあったな。猫師匠よりはマシじゃけど、とりあえず丁重に断っておくか。

「いきなりでごめんにゃけど、破門にゃ~」
「し、師匠~~~!!」


 ぜんぜん丁重ではなかったわしの断りに、源斉は泣き付いて来るので、わしは説得を繰り返すのであった。
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