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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~
385 九尾の猛攻にゃ~
しおりを挟むわしが猫又だと知ると、玉藻は血相を変えてわしを敵視し、九尾のキツネとなって吠える。
「ゴォォーーーン!!」
おお~。正に白面の者。白くて大きなキツネじゃ。じゃが、思ったより小さいな。5メートルくらいか? 強さも先程と変わらんし、どうなっているんじゃろう?
尻尾が九本もあるならば、伝説の白い巨象より強くてもおかしくないんじゃが……日本は魔力濃度が低いから、本来の強さにならなかったのかな?
イサベレも魔力濃度が高い場所で戦い続けたら、めきめき強くなったし、これが答えっぽいな。
てか、どう見てもやる気じゃな。さっきまで幼女じゃったから、やりたくないんじゃけど……。獣なら、女と思えないから戦う事ができるんじゃけど、どうしても幼女の姿を思い出してしまう。
とりあえず、リータ達には武器を渡しておくか。玉藻さん以外にも、強い奴が居るかもしれんしのう。
わしはリータ達が座る畳の上に各々の武器を取り出すと、庭の中央、玉藻の目の前まで歩み寄る。
「わしは戦いたくないんにゃけど、どうしてもやるにゃ?」
「愚問じゃ!」
「じゃあ、場所を変えようにゃ。こんにゃ所で玉藻様が暴れたら、建物が潰れるにゃろ?」
「むう……ならばついて来い!」
まだ自制が残っていたらしく、玉藻はわしの言葉を聞いて空を駆ける。わしもそれに続き、屋根をぴょんぴょんと跳んでついて行く。
ふ~ん……風魔法で足場を作っておるのか。イサベレと同じ魔法かな? 薄い風の円盤みたいじゃからちょっと違うか。
後ろから玉藻の実力を確認しながらついて行くと、玉藻は京の街から離れた鴨川上流、その川の上に降り立った。
川は十分な広さはあるけど、ここでやるのか……。てか、水に浮いているところを見ると、水魔法も得意なんじゃな。
わしも玉藻に続いて、川の水際ギリギリまで行って止まる。
「さて、やろうかにゃ」
「余裕ぶって、すぐに死んでもしらんぞ!」
「まぁ出来るだけ頑張るにゃ~」
「ふ、ふざけやがって……」
わしがドサッと地面に腰を落とすと、玉藻はさらに怒りの炎を燃やす。
「わしは女は殴らない主義なんにゃ。だから、玉藻様の怒りは全て受けるにゃ。気が済むまでやってくれにゃ」
「妾は死ぬまで攻撃はやめないぞ! ゴォォーーーン!!」
怒りの玉藻は、凄い速さで近付いて前脚を叩き落とす。わしは歯を食い縛り、重たい前脚を耐えるが、埋まってしまった。このままでは玉藻が攻撃しづらいだろうと思い、脚を上げた瞬間、地面から飛び出して刀を抜く。
そして地面に突き刺すと、柄を足で包むようにしてあぐらを組む。
玉藻は、わしが地面に埋まった事で勝ちを確信したかのような顔をしていたが、もう一度座るわしに怒って尻尾の薙ぎ払い。これも、刀を支えに耐える。
そこからはサンドバックだ。右から左から尻尾を叩き付けられ、わしは耐え続ける。
すると、まったく体勢を崩さないわしに気付いた玉藻は、戦法を変える。
「【狐火の術】!!」
九本の尻尾の先から放たれる青白い炎は、わしに全てヒット。その火力は凄まじく、大きな火柱となって辺りに熱風を振り撒く。
「ふっ……これで跡形もないじゃろう」
それほど強力な魔法なら、わしが消し炭になっても仕方がない。見失っているので勝ち誇っても仕方がない。
「なっ……」
もちろん、わしはあぐらを崩さないので、驚いても仕方がない。
「気が済んだにゃ?」
「くっ……まだまだ~! 【氷牢の術】」
絶対零度の氷の檻。わしは密閉される前に息を大きく吸い込み、ジッと耐えるが、数秒後には尻尾で叩き壊される。おそらく、わしを粉微塵にしたかったようだが、わしは座ったままだ。
「【雷遁の術】じゃ~!」
九本の尻尾から、一直線に放たれる光。雷鳴と共に命中するが、これもわしは耐える。
「な、何故……死なない……」
「玉藻様の怒りを全て受け止めるまでは、わしは死ねないにゃ」
「妾の怒りなら、受け切れるわけがないだろう! 【五芒星の術】!!」
次なる魔法は、五属性の槍の同時発射。尻尾の数……風の槍、火の槍、水の槍、氷の槍が、二本の尻尾から。雷の槍が最後の一本から放たれ、わしに接触した瞬間、爆発と暴風雨が吹き荒れた。
「な、何故じゃ……何故じゃ何故じゃ!!」
それでも死なないわしに、玉藻はめちゃくちゃな攻撃をして来る。魔法、尻尾、前脚……何度も強烈な攻撃を繰り返し、辺りは轟音が響き渡る。
玉藻の攻撃がわしに効かない理由は簡単だ。
わしが魔法を使って防御しているからだ。
使っている魔法は【吸収魔法・球】。
なんの事はない、野人の魔法の丸パクリだ。
野人の体表に吸収魔法が見て取れたので、わしも同じ魔法を使えないかと魔法書さんを検索してみたが、見付からなかったので方針を転換。
エルフの里のヂーアイから習った魔力を纏う戦法を応用に、吸収魔法を圧縮して集めてみたら、野人の魔法とほぼ同じ効果となった。
実験で、リータに本気のパンチを打たせてみたら、弾力があると言っていたので、同じ魔法と言っても過言ではないだろう。
玉藻の直接攻撃は、体重が軽いから刀で体を固定する方法で耐え、魔法は美味しく吸収しているので、わしへのダメージは直接攻撃のみ。それも弾力で弱められた攻撃なので、わしの柔らかい毛皮と頑丈な体のおかげでちょっと痛い程度だ。
玉藻はわしより弱いと言っても少し弱いぐらいなので、かなり強烈な攻撃のはずだが、【吸収魔法・球】を使っているおかげで服が破ける程度で済んでいるというわけだ。
そうして無言でタコ殴りにあって三十分……
ついに玉藻に限界が来る。
魔力も体力もすっからかんになったのか、攻撃が止まった。
そこでわしは立ち上がり、川に浸かる玉藻にゆっくりと近付く。
「にゃにがあったか知らないけど、わしは玉藻様が思っているようにゃ猫又じゃないにゃ」
「はぁはぁ……」
「この京には、いろんにゃ人が居るにゃ。キツネ、キツネ人間、タヌキ、タヌキ人間。普通の人、優しい人、悪い人……全て同じ人じゃないにゃ。全て性格も姿も違うにゃ。だからわかってくれにゃ。わしの事も見てくれにゃ。そうすれば、きっと怒りをぶつけるようにゃ猫又だとは見えないと思うにゃ」
「はぁはぁ……」
玉藻は返事をくれないが、殺気が消えたので大丈夫だと思い、わしは玉藻の下にモゾモゾと潜り込んで、土で出来た板に乗せて力業で持ち上げる。そして岸まで歩くと、水気を水魔法で弾き飛ばし、ゆっくりと地面に降ろす。
「吸収魔法……呪力を吸う術は使えるかにゃ?」
玉藻は頷くので、わしは【土玉】を多く出して回復を待つ間、地面に散らばっている玉藻の【大風呂敷】に入っていたであろう物を拾い集める。でも、ハリセンなんて、なんに使うんじゃろう?
とりあえず、全てを顔の前に置くと、櫛で玉藻の毛並みを整える。
「綺麗にゃ毛並みだにゃ~。コリスに負けず劣らずにゃ。尻尾もモフモフしてていいにゃ~。いっぱいあるから、この中で寝たら気持ち良さそうにゃ~」
わしが毛並みを褒めながら櫛でとかしていたら、玉藻は徐々に息が整い、優しく語り掛ける。
「すまなかった……」
「にゃにも気にしてないにゃ」
「それでも……」
「謝罪はいいにゃ。その代わり、昔話を聞かせてくれにゃ」
「……そうじゃな。昔々あるところに……」
わしは特にリクエストをしなかったが、玉藻は昔話調で猫又の話をしてくれた。
* * * * * * * * *
その話は、この京に白い猫又がふらっと現れた事から始まった。
その猫又は、まさに傍若無人。盗み、犯し、殺し……京を震撼させたそうな。捕まえようとするが、神出鬼没でなかなか見付からず、被害者が増える一方。
そんなある日、猫又は御所にまで忍び込んで、まだ幼い皇太子を殺し、探すなと警告したそうな。
当然、そんな事をされたならば京に住む全ての者が怒り、猫又大捜索となった。その中で、一番怒り狂ったのが玉藻の母、玉藻前。
代々天皇家の守護神として仕え、時には天皇家を表から支え、時には天皇家を裏から支える玉藻前は、総力を上げて猫又を追う。
それから一ヵ月後、人々に追い詰められた猫又だったが、多くの命を道連れにして御所に進む。そうして猫又と対峙した玉藻前は熾烈な戦いを繰り広げ、顔に大怪我を負わされるが、辛くも勝利したそうな。
話はそこで終わらず、綺麗な顔に怪我を負わされた怒りの収まらぬ玉藻前は、猫又に犯された女を赤子と共に殺し、疑いのある妊婦も、逆らう者も殺してしまった。
その暗い後日談があったので、猫又は歴史から完全に消され、親から子へ、口伝のみで後世に伝えるようにと、玉藻前は遺言を残したらしい……
* * * * * * * * *
そりゃ表に出せない歴史ですわ~。猫又の首を鴨川に晒したまでは、まだ聞けたけど、そのあとが怖すぎる。関係ない妊婦まで殺しているとは……
しかし、猫又もやりすぎ! 京の人口が三分の一も減るって……もしかして、大陸から流れて来たのか? それならば合点はいくが……。て言うか、そういうのは、白面の者の仕事じゃないの? わしの記憶している歴史と違うな。
それはそうと、玉藻前が殺した者も、猫又が虐殺した数に入れてね? 玉藻前は、全て猫又のせいにしたのかもしれない。
それほどの怒りとは、それだけ皇太子が愛されていたのか……玉藻さんも、そんな話を何度も聞かされていたら、自分の事のように思ったのかもしれんな。
昔話を聞き終えたわしは無言で毛を櫛でとかし、玉藻も気持ち良さそうに「コロコロ」言っていたが、探知魔法に人が近付く反応があったで、奉行所に帰る事にする。
だが、玉藻は魔力が少し回復して、荷物を【大風呂敷】に入れる事と、キツネ耳ロリ巨乳に変身する事は出来たが、体力が限界と言うのでわしがおぶって走る事となった。
う~ん……柔らかな物が当たっているんじゃけど、なんか複雑。九百歳オーバーのババアの乳だと思うと、喜ぶに喜べないのう。
奉行所に戻ると、ボロボロのわしの姿を見たリータ達に、かなり心配された。なので、ちょっと喧嘩したけど和解したと、事の顛末をボカして説明してあげた。凄惨な猫又の昔話は、わざわざ教える必要もないだろう。
タヌキ奉行の悪事は情報収集に時間が掛かるらしいので、奉行所に居る理由も薄いので池田屋に帰って休もうとしたら、玉藻に連れて行きたい場所があると言われたので、のこのこと出向く事にした。
玉藻が案内したい場所とは、京都御所。この世界では「御所」と呼ばれ、現、天皇陛下がお住まいになられる地だ。
そんな畏れ多い場所に向かったならば、わしは緊張し、皆にも無礼があってはいけないので、おとなしくするように言って、立派な門を潜る。
背負う玉藻の指示に従いしばらく歩くと、格式の高そうな木造の建物が見え始め、わしはさらに緊張が高まる。
すると、リータとメイバイが、わしに念話を繋いで来た。
「様子がおかしいですけど、どうしたのですか?」
「おなか痛いニャー?」
「ちょっと緊張してるだけじゃ」
「シラタマさんが緊張って……珍しいですね」
「本当ニャー。女王様も各国の王様と会う時も、いっつもふざけてたニャー」
「ふ、ふざけてなんかない。女王達は慣れてただけじゃ。今回は、元の世界で会おうとしても会えなかった人のお住まいに入ったから、緊張しているんじゃ」
「シラタマさんの世界の偉い人ですか……」
「現人神と言ってな。神と並ぶ、とっても偉い人なんじゃ」
「へ~。でも、シラタマ殿は、神様の事をいっつも悪く言ってたニャー」
「あ、あいつらは、わしの夢の中でいつも暴れ回るから……」
わしがリータ達を見て言い訳していると、正面から何かにぶつかられ、言い訳が止まる。
「にゃ~?」
何かの正体は、公家装束の男の子。疑問の声を出したら、ポコポコと叩かれた。
「ボク~? 暴力はいけないにゃ~」
「悪い奴はボクが倒す!」
「わしは悪い事にゃんかしてないから、叩くのはやめてにゃ~」
「玉藻を放せ~!!」
男の子の言葉に、わしが背負っている玉藻を見ると、玉藻はとんでもない事を言い出した。
「陛下。お元気なのはいいのじゃが、話を聞かずに暴力を振るう事は、いけない事じゃ」
「にゃ~~~?」
「こちらが、今上陛下、悠方様じゃ」
「にゃ……にゃんですと!?」
そう。男の子の正体はちびっこ天皇。初対面でポコポコと叩かれ続け、わしは驚きを隠せないのであった。
それならそうと、前もって言ってよね~~~~!!
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