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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

376 京を歩くにゃ~

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 コリスの元の姿を見たお海は、手をわきゅわきゅしていたので、ちょっとぐらいなら抱きついていいよと言ってあげる。
 そうしてコリスの腹に埋もれてだらしない顔になっているお海に、怖くないのか問いただしてみたら、不思議そうな顔で返された。
 どうやらこの世界の日本では、大きな獣は滅多にお目に掛からず、白い獣の驚異も知らないらしい。だが、海には白くて巨大な生き物が多く居るらしく、そちらは怖がられているとのこと。

 ひとまず服装やコリスの相談は終わったので、お海には別れの挨拶をして戦闘機で飛び立つ。何度もまた来てくれと言われたが、珍しい物も無かったので、行くかどうかは悩みどころだ。


 漁村を立ち、三十分ほどぺちゃくちゃとお喋りしながら空を行くと、京が見えて来た。リータ、メイバイ、イサベレは、その街並みに興奮して話が弾んでいる。

「あそこには、人がいっぱい居そうですね~」
「ドキドキするニャー」
「ん。こんな気持ち、初めて」

 エルフの里では、いきなり人と出会ったからな。心の準備があるいまとは、皆の感じ方が違うな。わしも江戸時代からどう発展したか気になるから、ドキドキするのう。
 侍は残っておるんじゃから、刀を差して歩いているのは想像できる。まぁそれも、この目で見たらいいだけじゃ。

「さあ、降りるにゃ~」

 わしは期待に胸を膨らませ、京から離れた場所に戦闘機を着陸させる。そうしてコリスにはさっちゃん2に変身してもらい、服が苦手なので締まりの緩い甚平を着せる。女性に甚平はダメでも、コリスは子供の姿だから、なんとか大丈夫だろう。
 コリスの服装が整うと、街道をひた走る。人の姿が見えると徒歩に変え、逸る気持ちを抑えて早足で歩き、人から離れるとまた走る。

 遠くに人だかりがあったが気にせず走り続け、徐々に京へ向かう人が増えて来るとわし達も合わせて歩き、ついに京へと辿り着くのであった。


「壁が無いです……」
「こんなので、街は大丈夫ニャー?」

 リータとメイバイは、文化の違いに戸惑いの顔を見せる。わし達の暮らす場所は壁の中に街があったのだが、日本では街の中心から離れると、まばらにボロい家が建っているだけだったからだ。

「強い獣もいないから、必要無いみたいだにゃ」
「ほへ~。私達の住む土地と違って、暮らしやすそうですね~」
「それはどうにゃろ? 島国にゃから、資源を外に求められないとにゃると、厳しい側面があるにゃ」
「あ……漁村の人は、細い人が多かったニャー」
「まぁそこまで食べ物に困っている感じもしにゃかったし、アレが普通の暮らしなのかもしれないにゃ」
「私の村と、そう変わらなかったですもんね」

 そうして周りを見ながら喋っていると、家の密集地に入った。

「ガラッと雰囲気が変わりましたね」
「猫の街ぐらい道が整備されてるニャー」

 ふ~ん……地面は土のままじゃけど、木造の長屋が真っ直ぐ建ち並んでおるな。時代劇で見た、京都の街並みのようじゃ。

「とりあえず、中央に向かってみようにゃ」

 わし達はただただ真っ直ぐ歩くと、また街並みが変わる。地面が石畳に変わり、建物も漆喰しっくいで塗られた白い壁に変わったのだが、それよりも奇妙なモノに目が行ってしまう。

「にゃ……」
「シ、シラタマさん! 本当にタヌキが歩いていますよ!」
「猫耳族もいるニャー!」
「アレはタヌキじゃない……キツネ??」
「モフモフがいっぱ~い」

 わしが愕然がくぜんとして道行く人々?を見ていると、リータ、メイバイ、イサベレ、コリスは、興奮して喋っている。

 嘘じゃろ……タヌキが着物を着て歩いておる。それだけでなく、キツネも着物を着てる……。猫耳族も居るかと思えたが、タヌキ耳と太い尻尾、キツネ耳とフサフサの尻尾じゃから、二つの種類の獣が人間と混じったのか?
 普通の人間は……居るな。分類すると、種族がざっくり五分の一ってところか。

「どうりでシラタマさんが驚かれないはずです」
「私も驚かれなかったニャー!」
「ん。道行く人は、私とリータ、コリスを見てるように見える」
「変身、もういい~?」
「も、もうちょっと待ってにゃ。先に宿を探してみようにゃ」

 コリスの変身は維持させて、お茶屋オープンカフェを発見したので、とりあえずそこでお茶休憩にする。

「えっと……すいにゃせ~ん」
「は~い。どうされました?」

 お茶屋のシステムがいまいちわからないので、入口らしき場所で店員を呼んでみたら、京言葉を使うキツネ耳の女性が対応してくれた。

「わし達は京に来るのは初めてでにゃ。こんにゃハイカラな店に入るのも初めてなんにゃ。どうしたらいいか、教えてくれると助かるにゃ~」
「あらあら。ハイカラだなんて、お侍様は口がお上手どすね。たいした店じゃありまへん。とりあえず、あちらにお座りくださいな」

 わし達は、尻尾を揺らすキツネ耳女性の案内で、長椅子が二本並ぶ所に座らされる。

「ご注文はいかがいたしましょう?」
「お品書きにゃんてありませんかにゃ?」
「うちはそんなにお出しする品がありませんので、あちらに書いてある通りになります」

 キツネ耳女性は店の奥を指差すので、わしもその方向を見ると、商品名と値段が書いてある紙が垂らされていた。

 緑茶と三色団子に、みたらし団子と……大福!? 大福じゃ……やっと出会えたアンコ! スサノオのなんでも叶えてくれる券で、何度、小豆を頼もうとした事か……我慢して正解じゃった!
 しかしどれも高価じゃ。漁村でけっこうな量の小銭を分けてもらったけど、京はインフレしておるのか? この分では宿にも泊まれない。この際、小銭は全部使ってしまおう。

「それじゃあ……」

 わしが注文するとキツネ耳女性は奥へ消えて行き、しばらく待つと、お茶が長椅子に置かれ、続いて皿に乗った団子や大福も置かれる。

「「「「「いただきにゃす」」」」」

 皆で手を合わせていただくが、コリスはガッツこうとするので、これしかないから味わって食べてくれとお願いしてから、わしは大福を頬張る。

「にゃ~! デリシャス、にゃ~~~」

 当然、泣く。元の世界の好物なので、涙は必至。コリスに味わって食べろと言ったのに、皆の大福まで食べてしまった。

「モフモフずるい……」
「にゃ! グスッ。す、すまなかったにゃ。またお金が手に入ったら買ってやるからにゃ」
「ぜったいだよ~?」
「絶対にゃ~」

 コリスには怒られたが、リータ達は、珍しいわしの行動だったので、笑って許してくれた。それから街行く人を見ながらぺちゃくちゃ喋っていると、キツネ耳女性が急須きゅうすを持ってやって来た。

「おかわりはいかがどす?」
「あ~……あまり手持ちが無いんにゃ」
「そうでしたか……でしたら、一杯だけおまけさせていただきます」
「いいにゃ?」
「京に初めて来られたのならば、いい思い出を残して欲しいですからね」
「ありがとにゃ~」

 わしが感謝すると、キツネ耳女性は急須でお茶を注いで回り、わしの元へと戻って来た。

「それにしても、変わった集まりですね。言葉も何を言っているかわからないのですが、どちらから来られたのですか?」

 う~ん……お姉さんの目には、わし達は変わった集団に見えるのか。わしも含まれておるのかな? タヌキだと思われているから入っていないと思うけど、ここはひとまず……

「肥後って、わかるかにゃ?」
「ええ。西にある地方の名前ですね」
「そのさらにド田舎から出て来たにゃ」
「それは遠方から来られたのですね。電車もまだ繋がっていないのに、大変だったでしょう」

 電車? ここは電車が走っておるのか?

「電車って、なんにゃ?」
「あら。知らないのでしたか。京と江戸を繋ぐ蛇のような乗り物で、何百人も乗せても、その日の内に着くんですよ」
「へ~。便利にゃ乗り物があるんだにゃ~」
「現在は西に工事中で、近々、海への電車も走る予定なんですって」

 海にか……そう言えば走っている途中で、遠くに大勢の人を見掛けたか。あれは線路の工事中だったんじゃな。

「ちなみに動力はにゃに?」
「電気どす。あ、お侍様に言ってもわかりませんね。平賀家と言う発明家の士族が発見した不思議な力で、夜になると街の電灯も明るく輝くんどすえ」

 平賀家? 平賀源内の事を言っておるのか? 自力でエレキテルを発明したとはビックリじゃわい。とりあえず、知ってる振りしてみよう。

「にゃ! 源内先生にゃ」
「源内? そんな名前は聞いた事がないですね。……源外さんと勘違いしているのでは?」
「間違えて記憶していたにゃ~」

 失敗! 全てがそのままってわけにはいかないか。源内の魂がここに居るはずないもんな。

「そうにゃ。物を売って路銀にしたいんにゃけど、どこかいい所を知らないかにゃ?」
「そうですね……。手っ取り早いのは、質屋に入れるのが早いのですが、売るとなると……」
「わからないにゃら、質屋で聞いてみるにゃ。道だけ教えてくれるかにゃ?」
「ええ。その道を……」

 質屋の場所を聞くと、漁村で手に入れたお金を全て置いて、お礼を言って茶屋を出る。それからしばらく歩いていたら、リータ達が質問して来た。

「道を聞いていたみたいですけど、さっきの説明でわかったのですか?」
「一本、二本とか言ってたニャー」
「京は碁盤……アミの目のように街が作られているんにゃ。だからある程度はわかるにゃ。そこまで行けば、にゃんとかなるにゃろ」

 そうしてお喋りしながら歩くと、漆喰の白い壁の続くゾーンに入った。

「長い壁ですね~」
「お城かニャー?」
「ちょっと中を見て来る」

 イサベレがジャンプして壁を越えようとするので、わしは慌てて服を掴んで止める。

「勝手に入ったらダメにゃ~」
「なんで?」
「メイバイが言った通り、お城かもしれないにゃ。城主に知られたら面倒ごとになっちゃうにゃ~」
「あ……ちょっと浮かれてた」
「にゃははは。イサベレでもそんにゃ気持ちになるんだにゃ~」

 またぺちゃくちゃと喋って歩いていたら、立派な門に辿り着いた。そこには、刀を差した袴姿はかますがたのタヌキがふたり立っていたので、わしはリータ達に押されて声を掛ける。

「すいにゃせん。この建物って、にゃんですか?」
「ん? ここは五条城だ。永井様のお住まいでもある」

 五条城? 二条城じゃと思っていたけど、またニアミスじゃ。城主の名字は聞いた事があるような気もするけど、名字だけでは判断がつかんな。

「教えていただき、ありがとうございましたにゃ」
「そんな事も知らないなんて、どこの侍だ?」
「田舎から出て来たばかりにゃので、勉強不足でしたにゃ~。失礼しましたにゃ~」

 タヌキ侍から少し疑いの目で見られたわしはそそくさと逃げると、皆と合流して足早に離れる。

「やっぱりお城だったにゃ」
「お城って事は、この国で一番偉い人が住んでいるのですか?」
「う~ん……この国で一番偉いのは、天皇陛下?天子様?帝かにゃ? この城は、たぶん京をまとめる人が住んでると思うにゃ」
「その天皇陛下は、どこに住んでるニャー?」
「おそらく、京に住んでると思うんだけどにゃ~。その情報も仕入れようにゃ」

 リータとメイバイの質問に答えながら歩き、五条城を通り過ぎて直角に曲がるとまた街並みが変わり、高い建物が目立つようになった。
 わし達は上を見ながら歩き、キツネ男とぶつかり掛けたら、おのぼりさんと悪態をつかれてしまった。まぁわし達が悪いので、丁寧に謝って先に進む。
 すると……

 ボーン、ボーン、ボーン……

 と、鐘の音が鳴り響いたのであった。
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