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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
368 野人と戦うにゃ~
しおりを挟むリータ達が地下道に入った頃、わしはネコパンチで吹っ飛ばした野人を追いかけていた。
か~……痺れた~! この感じは、シユウをぶっ飛ばした時と同じじゃな。デカさはシユウのほうが三倍はあるのに同じ痺れが来るとは……それだけ硬いと言う事か。
あの時より強くなっているのに同じとは、野人の強さをもう少し上方修正しなくてはいけないのう。おっと、追い付いたな。
わしは、黒い木にぶつかって立ち上がろうとしている野人を視界に収めると、じっくりと観察する。
念話は……通じるわけないか。人型じゃから、話を聞いてから殺すか決めたいんじゃけど、魔法が通じないんじゃどうしようもないな。とりあえず話し掛けてみるか。
「ハローにゃ~」
「ぐるるぅぅ」
これもダメ。英語も通じないか。言葉らしい言葉も返さんな。さて……話し合いが出来ないとなれば、相手さんの出方次第で、殺すかどうか決めるか。まぁ痛め付けてから、念話が通じるか試してみるのもアリじゃな。
わしが野人を見つめていると、野人も睨み殺さんばかりにわしを見る。その睨み合いは長くは続かず、野人が仕掛ける。
野人は一瞬で間合いを詰めて、大きな拳を振り下ろし、わしを殴り潰そうとする。わしはすぐさま後ろに飛んで、三発の【鎌鼬】を発射した。
すんごい威力の拳じゃな。地面に当たっていないのに、へこんでおる。これで殺す気満々なのはわかった。
しかし、ちょっとショックじゃな。わしの【鎌鼬】を受けて、意に介さんとは……確実に当たったはずなんじゃけど、どうなっているんじゃろう?
【鎌鼬】が野人に当たって霧散する中、わしは着地するや否や、横に飛ぶ。野人が着地間際を狙って、拳を振り下ろしたからだ。そこにもクレーターが出来上がり、すぐに野人はわしを追い、拳を振り回す。
うむ。速いしバワフル。じゃが、攻撃が雑じゃな。これでは人とは程遠い。獣じゃ。いや……獣のほうが考えて攻撃して来たぞ? もしかしたら、自我すらないのではないか?
また力任せに腕を振り回しておるし……。とりあえず、魔法が通じない謎解きだけしておくか。
わしは追いかけて拳を振るう野人の攻撃を、引き付けてからかわす。すると、空振った拳で砂煙が巻き上がり、わしは砂煙に紛れてしまう。
野人がわしを見失っている時間を使って、【風玉】【水玉】【土玉】【火の玉】を作り出す。
まずは【風玉】じゃ!
わしは【風玉】から順に、野人に向かって放つ。野人は避ける事もせずに真っ直ぐ進み、次々に魔法の玉を霧散させて、わしを殴らんとする。
お! 【火の玉】だけ横に跳んで避けよった。弱点か? おっと。
野人は【火の玉】を避けたものの、すぐに体勢を立て直してわしに殴り掛かる。その拳もわしはひょいっと避けて、刀を抜く。
「猫又流抜刀術【駆け猫】にゃ!」
擦れ違い様に、ただの居合い斬りが野人の腹を通り過ぎる。技名は、たったいま、かっこいいかと思って付けた名前じゃ!
わしが通り過ぎた直後、遅れて斬撃音が「ガキーン」と鳴り響き、すぐに振り返って刀と野人を注視する。
刃毀れも無しじゃが、ダメージも無し。ちょっと赤い痣が出来たくらいじゃ。魔法も効かんのじゃよな~。火は避けたけど、獣の反応と大差ないし……ひとつ気になる点だけ確認しよっと。
もういっちょ! 【土玉】×5!!
わしは腹をさすって無防備な野人に、五つの土の玉を放って様子を見る。
やっぱりじゃ。野人に当たって落ちた【土玉】の質量が減っておる。野人は体表数十センチに膜を張り、魔力を吸収して無効化しておったんじゃな。
どうりでババア達の攻撃が効かないわけじゃわい。野人の体に触れるまでに、魔力で作られたグローブは剥がれ落ちるのだから、素手で殴る事となる。
それにあの膜は、やや弾力があるから体に届く前に威力を削がれ、元々硬い野人がさらに硬く感じるのじゃな。
謎解きは終わり! じゃが、打つ手無し! それでも勝つのはわしじゃ!!
わしは【白猫刀】を鞘まで次元倉庫にしまうと、代わりに【猫干し竿】を両手に持ち、下段で構える。そして、目にも留まらぬ速度で野人の横を駆け抜けた。
「?? ……がぁ!?」
野人は一瞬、何が起こったかわからなかったようだが、少し動いたところで足の傷が開き、痛みに驚いた。
さすがは東の国一の名匠、ドワーフが作りし銘刀。かなり浅いが、斬れたようじゃな。しかし野人も、あの程度の怪我で驚き過ぎじゃ。痛いのが嫌いなのか? 久し振りの傷だからか?
まぁどっちにしても、隙だらけの背中をもらっておこう。
わしは足を押さえる野人の背中に向けて跳び上がり、真っ直ぐに腰辺りまで刀を振り抜く。
すると野人は痛みに驚き、前回りに転がって、すぐに立ち上がるとわしを睨む。
おうおう。怒っておるのう。まだまだわしのターンなんじゃから、おとなしくしておれ!
そこからは一方的。地を駆け、数多く出した【風玉】を足場に、ピンボールの玉の如くわしは飛び跳ね、野人を斬り付けていく。
野人は、最初は無防備に刀を受けていたが、わしの動きについて来れないと悟ったのか、両腕を上げ、体を前のめりに倒してガードを固める。
ヤベ……刀が通らなくなっておる。あの体勢をとったら、さらに体が硬くなるのか。それとも気合いか? まぁ外から効かないなら、内に入れてみるだけじゃ。
わしは野人の肩口を斬り付けながら着地すると、跳び上がり、首に目掛けて突きを放たんとする。野人はわしを視界に入れていたが、両手両足は力を入れている最中なので、刀を無防備に受ける事になる。
バシーーーン!
その衝突音は打撃音。そう、わしの刀が当たった斬撃音や金属音ではなく、野人が出した打撃音だ。
その打撃を喰らったわしは地面と平行に飛び、何本もの黒い木を折って、倒れる事となった。
「う、うぅぅ……」
予期せぬ攻撃を喰らったわしは、立ち上がれずに呻き声をあげる。
「ち、ち、ち……」
そして出血に……
「ち……ちんこで殴りやっがたにゃ~~~!!」
いや、出血もない。痛みも少ししかない。ただ、三本のちんこで殴られて吹っ飛ばされた事に、わしのプライドが傷付けられたのだ。
あんの野郎……わしの事をちんこで殴りやがった……うぅぅ。わしの初体験じゃ。なんか泣けて来た。
まさかちんこが動くとは思わなんだ。腰も動かしていないのに、三本のちんこが、わしの頭、胴、足を薙ぎ払った。動かし方はわからんが、屈辱じゃ。
尻尾ならわかるぞ? わしだって尻尾で殴るもん。でも、ちんこって……
「ごろにゃ~~~ご~~~!!」
わしはキレて叫ぶ。その声に、わしを探していた野人は気付き、近付いて踏み付け。一回で終わらず、ドドドドと地響きが起こる。
しかし、わしはすでにそこには居ない。木の上に登って猫又に戻っていた。
もう、手加減なしじゃ! お前はわしを怒らせた!!
「ごろにゃ~~~ご~~~!!」
わしはわざと叫んで、野人に居場所を教える。野人はわしをキッと睨むが、もう目の前だ。肉体強化もすでに掛けていたので一瞬だ。その力で、頭のてっぺんからネコパンチ。
一撃で、野人は地面に埋まる。だが、野人も力が強い。地面が階段になっているかのように、一段一段、一歩一歩、地上に出ようとする。
当然、そんな動作を黙って見ているわしではない。顔面にネコパンチネコパンチネコパンチ。ガードが上がれば、腹にネコパンチネコパンチネコパンチ。
性懲りも無くちんこで殴って来ても、一瞬で回り込んで背中にネコパンチネコパンチネコパンチ。タコ殴り……ネコ殴りだ。
この攻撃に、野人は痛みに呻き声をあげ、四つん這いで丸くなり、防御体勢を取る。それでも攻撃を緩めずに背中を殴り続けたわしであったが、一旦距離を取った。
パンチでは、ちと火力が弱いか。せめてあの魔力の膜が無ければ、一撃がもっと重たくなるんじゃけど……ならば吸収魔法!!
……う~ん。お互いが吸い合っているから相殺ってところか? このまま殴り続けても倒せるとは思うが、時間が掛かる。時短の方法を試してみるか。
わしは【火の玉】を十個飛ばし、野人の周りに配置する。なかなか顔を上げない野人であったが徐々に熱が伝わったのか、熱さに驚いて顔を上げ、立ち上がって飛び退く。
野人の行動は計算通り。わしはその着地を狙って大技を使う。
「にゃ~~~ご~~~!!」
極大魔法【御雷】だ。
魔力は控えめで使ったのだが、わしの口から発射された雷ビームを喰らった野人は、胸を焦がしてよろける事となる。
そこをわしが【風爆弾】の加速を使って飛び込んだ。
その結果、わしの高速ネコパンチは野人の胸を貫き、大きな穴が開く事となった。
思いもよらぬ速度と貫通に、わしは着地を見誤り、転がり続けて止まるのであった。
しまった~! 痛め付けてから、もう一度念話を繋ごうと思っていたのに、やっちまった……。まぁやっちまったものは仕方がない。向こうも殺す気で来てたんじゃしな。
しかし、まさかパンチが貫通するとは思わなんだ。さっきのは、なんじゃったのじゃ? めちゃくちゃ速かったな。過去最高じゃったわい。
雷の魔法を使った直後にその軌跡に入ったから、抵抗が無くなったとかかな? ちょっとしたリニアモーターカー気分じゃわい。
と、言ってる場合じゃない。野人は!?
わしはスタタタと野人の元へと戻り、姿を確認する。
まだ立っておる……威力を抑えたと言えど、わしの【御雷】を喰らって吹き飛ばなかったのも驚きじゃが、胸に大穴開けて立っておるとは……立派な最後じゃった!
わしが野人の最後に感銘を受けて拍手を送っていると、ふと、念話が繋がった。その念話は短く、ふた言の単語で切れてしまい、わしは勝利の余韻から、一気に奈落の底へ落とされる。
な、なんじゃと……
わしはすぐに野人の治療に取り掛かろうとするが、すでに事切れていた。仮に生きていたとしても、胸の大半が無くなっているから治す事は出来なかったので、治療を断念する他なかった。
意気消沈しながら人型に戻ったわしは、野人を次元倉庫に入れるとダッシュで祠に向かう。祠に着くと、外に出ていたリータ達に走り寄り、わしは焦りながら声を掛ける。
「娘にゃ! 野人の娘は居たにゃ!?」
「は、はい……あちらです」
リータはわしの言っている意味がすぐに理解できたようなので、祠の穴を指差した。わしは頷きもせずに穴に飛び込み、皆を置き去りにして一直線に駆ける。
そして、明るい洞窟内に疑問も抱かず、奥にあった白い建物まで走り、急ブレーキを掛けて止まる。
な、なんてことじゃ……
建物の中で、白い獣の毛皮に包まれて眠る女の子を見て、わしは自責の念に苛まれるのであった。
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