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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~

361 里に泊めてもらうにゃ~

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 黒い森の中にある里のおさ、ヂーアイは昔話を語り始める。

 その昔、この土地には黒い森は無く、多くの民が暮らしていたそうな。民は田畑を耕し、貧しいながらも食べる物に困らずに過ごしていた。
 しかし、その平穏を崩すが如く二つの国が手を組んで大きな国に攻め込み、皇帝を討つ事となった。そこからは大きな国の残党を加え、三つ巴の大戦となり、戦乱の時代に突入した。

 その戦乱では多くの血が流れ、ヂーアイの祖先も戦争に参加するように脅されたそうだ。その時の長は戦いを嫌い、民を連れて隠れ里に移住した。
 そこは平和。誰からも気付かれないので、血を流す者もいない地。民にも笑顔があふれ、幸せに暮らしていたそうだ。
 だが、その平和も長くは持たなかった。

 突如、黒い森が溢れたのだ。

 元々隔離された空間にいた祖先は気付く事に遅れ、凶暴になりつつある獣を見て、ようやく何かがおかしいと気付いたが、その時にはもう遅かった。
 どれだけ探しても人の姿は見当たらず、探索する地域もどんどん少なくなっていく。そうして長い年月を過ごす内に、白い森が誕生して強い獣が鎮座ちんざし、完全に隔離されてしまった。
 白い森に入った者は、帰って来る者は誰ひとりなく、これ以上の死者を出すわけにもいかないと、外に出る事を諦めるしかなかった。

 それからはこの地で穏やかに過ごし、今日の日を迎えたそうだ。


 なるほどのう。三つ巴の大戦が行われたから、スサノオの浄化装置が発動して、東の地が黒い森に変わってしまったのか。
 出来れば、戦っていた国の名も知りたかったんじゃが、元々離れて暮らしていたから知ってる人も少ないし、伝える事が出来なかったのか。
 聞ける情報は、こんなもんか……

 わしはヂーアイの話を聞き終えると、酒をくいっと飲み干して質問する。

「面白い話を聞かせてくれてありがとにゃ。それでなんにゃけど、我が国と交易しないかにゃ?」
「交易とはなんさね?」
「物のやり取りにゃ」
「あんだけわたすの里の物を断っておいて、欲しい物があるのかい?」
「さっき受け取った花椒かしょうだったかにゃ? アレは香辛料としていいにゃ。米も断ったけど、味がいいからやり取りしたいにゃ。それとお酒にゃ。名前はあるのかにゃ?」
「ああ。これは紹興酒しょうこうしゅさね」

 やっぱりか。そこまで好みではないが、猫の国にも東の国にも無いから、売れば高値で取り引き出来そうじゃ。
 それに多少は援助してあげないと、この里自体、密閉されているから資源が枯渇してしまう。いまだに残っている奇跡の里を、みすみす潰したくないからのう。

「ここで必要にゃ物資と交換でどうかにゃ? そう頻繁には来れないけどにゃ」
「本当さね!? でも、どうやって運んで来るのだ?」
「そこは聞かないでくれにゃ。じゃなきゃ、取り引きは無しにゃ」
「……どうやってかはわからんが、塩や砂糖が多く手に入るなら、聞かないでおいてやるよ」
「おお~。即決とは、お見逸れしましたにゃ~」
「ぬかせ。このタヌキ」
「猫だにゃ~」

 それから酒を酌み交わし、親睦を深めていると日が暮れ、宴会はお開きとなる。


 里の者の残念そうな声を聞きながら、わし達はヂーアイの屋敷へと案内される。その屋敷は他の建物とは違い、真っ白な外装をしていた。

 ほう。白い木で建てたのか。長く建ってそうに見えるけど、汚れがわからない。撥水加工なのかな? 今度、わしの家も白い木に代えてやろうかのう。

 わし達は、ヂーアイに続いて屋敷の中へ通されると周りを見ながら歩き、リビングのような場所に案内される。

「ここで寝な」
「ここにゃ!?」
「なんだい? 不満なのか?」
「広いだけで布団が無いにゃ~」
「贅沢な猫さね。住人に行き渡る分しか無いんだから、そんな物があるわけないだろ」

 そっか。訪れる者がいないんじゃから、宿も無ければ、布団も無いんじゃな。

「じゃあ、庭を借りるにゃ」
「庭を? ここのほうが、まだマシだろう」
「まぁ勝手にやるからおかまいにゃく」
「そうかい。なら、好きにしな」
「ありがとにゃ~」

 と言うわけで、御付きの女性に案内され、わし達は広い庭に出る。そこで寝床の準備。
 バスを取り出し、お風呂も取り出して、皆でキャッキャッと入る。その声はヂーアイにも聞こえたらしく、御付きの女性に「話し合いをしてるから静かにしろ」と叱られた。
 わし達は平謝りしたが、御付きの女性がお風呂をチラチラ見ていたので、どうしてかと聞いたら、どんな仕組みでお湯を沸かしていたのか気になったようだ。
 わしの魔法で沸かしていると言ったら、魔法がどんな力なのか伝わらず、不思議な力で沸かしていると適当に説明してみたが、やはり伝わらずに首を傾げて帰って行った。

 それから火照った体を冷ます為に、外に出したテーブルで冷たい飲み物を飲みながら、コリスとイサベレに餌付けし、まったりしていたら暗くなって来た。
 そろそろ寝るかとの話になり、片付けと日記をつけてから、わし達はバスの中で横になる。コリスは中に入って丸くなった瞬間、眠りに就いたので、その寝息を聞きながらこれからの事を話し合う。

「飛行機が襲われた時は焦りましたけど、人と出会えてよかったですね」
「そうだにゃ~。でも、黒魔鉱とガラスの手持ちが無いから、修理に一度戻らないといけないにゃ」
「すぐに帰るニャー?」
「こにゃいだ東の国に行って、双子王女にバレたからにゃ~……しばらく滞在しようかにゃ? 他にも売り物になる物があるかも知れないし、調べてみようにゃ」
「それなら、攻撃して来た生き物も調べません?」
「別にそれは興味ないかにゃ?」
「なんでニャー? 絶対強いと思うニャー」
「強いにゃらなおさらにゃ。相手にするのは面倒にゃ~」
「気になるじゃないですか~」
「そうニャー。私も気になるニャー」

 リータとメイバイは、両側からわしを引っ張り、ぐわんぐわんと揺らす。

「わかったから揺らすにゃ~。明日、婆さんに聞いてみようにゃ。姿形ぐらい知ってるかもしれないにゃ」
「たしかに……見る前に情報は必要ですね」
「敵を知れば、戦いやすいニャー」
「いや、戦わないにゃよ?」
「楽しみですね~」
「戦闘に忙しくて、なかなかシラタマ殿の全力を見れないから楽しみニャー」

 戦わないと言っておろう! うっ……心を読まれて睨まれた。ここは味方を募ろう。

「イサベレは、生き物の正体はどう思うにゃ?」
「やめたほうがいい」
「にゃんで?」
「かつてない程の驚異。絶対に近付いたらダメ」
「白いカブトムシよりもかにゃ?」
「ん。足元にも及ばないぐらい強い」
「だってにゃ?」
「「え~!」」

 いや、やめておこうよ。わしより強い白カブトムシより、遥かに強そうなんじゃから、ほっぺをつつかないで!

「それも気になるけど、里の者の目も気になった」
「イサベレが美人だから見てただけじゃないにゃ?」
「違うと思う。けど……」
「けどにゃ?」
「シラタマに美人と言われるのは嬉しい。セックスしたいって事でいい?」
「違うにゃ~! どう聞いたらそうなるにゃ~!!」

 わしがイサベレの誘惑を拒否していると、荒ぶるリータとメイバイがわしに絡み付く。

「何を言ってるんですか! 一番は私です!」
「次は私ニャー! これだけは譲れないニャー」
「ん。わかってる。最後においしくいただく」
「にゃ~! 離してくれにゃ~!!」

 わしが三人の伸びる魔の手から必死に股間をガードしていたら、救世主が現れた。

「うう~ん……うるさい~」
「「「「にゃ~~~」」」」

 コリスだ。寝返りを打って、わし達にのし掛かって来た。イサベレまで悲鳴が「にゃ~」になっているのは、永遠の謎だ。
 そのチャンスを使って、わしは猫又になって危機を脱するのであった。

「それじゃあ出来ない。人型になって」

 だからじゃよ! 早く寝てくださ~い!!

 そうしてめちゃくちゃ撫でなれながら、無理矢理眠るわしであった。




 翌朝……

 バスのガラスを叩く音で目が覚めたわしは、寝惚けまなこを擦りながら外に出る。

「ふにゃ~。おはようにゃ~」
「猫!?」

 わし達を起こしに来たのはリンリー。お座りして目を擦る猫又のわしを見てビックリしているようだ。

「白い獣が増えてる……猫さん……いえ、シラタマはどこに行ったの!?」
「にゃ! わしがシラタマにゃ。これが元の姿なんにゃ」
「そ、そうなの??」
「すぐに支度して来るにゃ~」

 念話で説明してみたが、リンリーはいまひとつ信じていないようなので、わしは奥に戻ってリータ達を起こし、人型に変身して外に出る。

「お待たせにゃ~」
「猫さんだ……」
「驚かせてすまなかったにゃ。それで、わしににゃにか用かにゃ?」
「大婆様に、里を案内するようにと頼まれたのよ」
「それはありがたいにゃ~。それじゃあ、リンリーも朝ごはん、一緒に食べて行くにゃ~」
「いいの?」
「気にするにゃ~」

 リンリーと共にテーブルに着き、皆のリクエストに応えて朝食を取り出す。
 わし達夫婦は幕の内弁当。イサベレはサンドイッチセットと大量の串焼き。コリスはハンバーグ弁当と大量の串焼きを食べていたのだが、リンリーは何を頼んでいいかわからないようだ。
 それなら、全部ちょっとずつ食べればいいと、わし達が食べていた物をシェアする。足りなければ、何かの肉の串焼きがあるので、お腹は満足だ。
 リンリーは、お米以外は初めて食べる物が多く、終始驚いて食べていた。驚いた理由も、森の外にはこんなに美味しい物があると知ったからで、食べる手が止まらない。
 デザートに出した果物まで食べると、リンリーは動けなくなってしまった。

「うぅ……気持ち悪い……」
「食べ過ぎにゃ~」
「だって……美味しいんだから仕方がないじゃな~い。それにあの二人がずっと食べ続けるから、釣られたのよ~」

 コリスとイサベレか……まだ食べておるよ。最近、食事量が減って来てるみたいじゃけど、それでも三人前ぐらいは食べておるな。

「それで案内は出来るにゃ?」
「うっ……もう少し時間をくれたら……」
「じゃあ、コリス達が食べ終わるまで、ゆっくりしてるにゃ~」
「……昨日食べたケーキが食べたい」
「案内が終わってからにゃ~!」

 リンリーは、まだ食べようとするのでドクターストップ。バスの中に放り込んで隔離する。
 それからコリス達も食事が終わり、身仕度を整えてヂーアイの屋敷から外へ出る。ちなみにリンリーは、復活にはまだ時間が掛かりそうだったので、土魔法で作った車イスに乗せて、リータに押してもらっている。

「これ、いいわね」
「車イスにゃ?」
「大婆様は足腰が悪いから、移動に苦労しているのよ」
「昨日は普通に歩いていたように見えたけどにゃ~」
「初めての来訪者の手前だから無理していたのよ。今日も朝から、針とお灸で治療しているんだから」
「ふ~ん」

 だから住人は、クラクラが立ったみたいになっておったのか。あれ? クラゲじゃったかな? まぁいっか。

「じゃあ、それあげるにゃ。使い終わったら、婆さんの所に持って行くといいにゃ」
「ありがとう」

 それから里の見学を行うが、猫耳の里と大差無いので見る物が無い。なので、どうやって生活をしているかを聞きながらブラブラし、製造業の見学もさせてもらった。
 その頃にはリンリーも復活して歩き、外壁を出て畑の見学に移る。ここでもいまいち盛り上がりに欠けるので、コリスが飽きたと言って来たから、荷車に乗せてわしが引く。

 畑見学を始めてしばらく経つと、コリス時計がわしの頭をモグモグするので、お昼にする。
 ピクニックシートを広げて、先ほど食べ過ぎたリンリーを気遣い、気に入っていたパン食を出してあげた。サンドイッチならば、リータと同じ量を出せば食べ過ぎる事はないだろう。

 でも、イサベレとコリスの分に、手を伸ばすのはやめてくれる?


 そうして昼食を終えたわし達は、畑見学を再開していると、里の方向から鐘の音が聞こえて来た。

「にゃんの音にゃ?」
「空の恵みの合図よ」
「恵みにゃ?」
「昨日、あなた達も同じ目にあったでしょ? 四神しじん様の地を横断しようとする鳥が居ると、攻撃して落としてくれるのよ」

 し…四神……じゃと? わしの四獣とほぼ同じモノじゃけど、この世界にもおるのか?

「し、四神って、なんにゃ?」
「ちょっと待って!」

 わしの質問をリンリーはさえぎり、鐘の音に耳を傾ける。

「私達の位置が近いみたい。私は見て来るから、あなた達はここを動かないで!」
「わかったにゃ~」

 リンリーは鐘の音の決まったリズムから位置を特定したらしく、焦りながら指示を出すので、わしはふたつ返事で答えて背中を見送るのであっ……

「追うにゃ~!」

 もちろん、そんな指示を無視して走り出すわし達であった。
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