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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
354 イサベレと一緒に戦闘にゃ~
しおりを挟む東の国で休暇を取ったわしたち猫パーティは、新たな仲間イサベレを加えて新婚旅行先へと転移した。そこでさっそく戦闘機に乗って出発。
イサベレが増えた事で機内は少し狭くなったが、コリスソファーは余裕があったから、問題は無いようだ。
そうして空を行くと、イサベレが何度かわしに指示を出してくれる。
「その方向は、やめたほうがいい」
「北でいいかにゃ?」
「ん」
「わかったにゃ~」
女王には文句を言ったが、イサベレを連れて来て正解じゃったかもしれないな。いまだにどうやっているかわからないけど、危険が迫って来ると気付いてくれる。
イサベレのおかげで戦闘機の移動が格段に楽になったわい。これなら低空飛行を続けても、距離を稼げるから、早くに海まで辿り着けるかも?
戦闘機は東に進み、何度か方向を変えて空の旅は続く。鳥との接触がないので機内は安心した空気になり、ぺちゃくちゃと喋っていると、イサベレがまた口を開く。
「あ……」
「あ……にゃ?」
イサベレは口数が少ないので、わしが質問する事が多い。
「ごめん」
「にゃ~?」
「今まで避けていた鳥が追って来てた」
「そうにゃると?」
「囲まれる」
「わかったにゃ。みんにゃ、緊急着陸にゃ~」
「「「は~い」」」
わしが指示を出すと、リータ達は返事をしてコリスにしがみつく。イサベレは不思議そうな顔でわしを見ていたが、リータに言われてコリスに抱かれていた。
戦闘機は垂直に降下し、強引に黒い森の中に着陸すると、辺りを確認してからお昼休憩にする。テーブルを出して次元倉庫から配膳し、手を合わせて食べ始めるが、イサベレが食べようとしない。
「どうしたにゃ?」
「なんで怒らないの?」
「怒るって……にゃんでわしが怒らにゃいといけないにゃ?」
「さっきミスした」
「ミスにゃ? ……あ~。あんにゃのミスじゃないにゃ。イサベレのおかげでこんにゃに進めたんにゃから、謝る事じゃないにゃ~。にゃ?」
わしがリータとメイバイに同意を求めると、応えてくれる。
「そうですよ。いつもはもっとドタバタしてるんですから、助かっています」
「本当ニャ。ありがとニャー。シラタマ殿のほうがミスが多いから、気にする事ないニャー」
「にゃ~? わしがいつミスしたにゃ?」
「着陸する時に、よく目測を誤るじゃないですか?」
「そうニャー。アレはお尻が痛くなるからやめて欲しいニャー」
「そ、それは、森の中に降りるのは難しいからにゃ~。それに急いでいるんだから、焦るにゃ~」
「謝ってください」
「謝るニャー」
「にゃんで~!!」
「プッ……」
わし達のやり取りを見たイサベレは小さく吹き出す。
「あはははは」
そして大笑い。
「「「にゃ~~~?」」」
腹を抱えて笑うイサベレに、わし達は質問するが、リータとメイバイまで「にゃ~?」と言うのは、いまだに謎だ。
「みんな仲がいい。それが面白かった」
「怒られてばっかりにゃ~」
「私も怒ったほうがいい?」
「やめてくれにゃ~。怒られたくないにゃ~」
「「「あはははは」」」
「笑ってにゃいで、『うん』と言ってくれにゃ~」
ダメじゃ……リータとメイバイの目が笑っておらん。何かわしが怒られるような事をしておるのか? 質問して……やめとこ。変に勘繰ると逆に怒られそうじゃわい。
それよりも、ごはんを食べよっと……
「にゃ!? コリス! イサベレの分まで食べちゃダメにゃ~!!」
「パクパクパクパク」
「だから~!!」
コリスはイサベレ用に出した大量の食べ物を頬袋に詰めるていたので止めたが、食べるのをやめないので、イサベレに早く食べるように促す。
すると、早食い大会のように競って食べだし、あっと言う間に食べ物の山が消えた。コリスの頬袋は膨らんだままだが……
とりあえずコリスには「メッ!」と叱っておいて、イサベレに侘びる。
「コリスが食べてしまってすまないにゃ。足りないにゃら出すから、遠慮なく言ってくれにゃ」
「ん。大丈夫。最近、食事量が減っていた」
「そうにゃの? 体でも悪くしたにゃ?」
「絶好調」
「それにゃらいいけど……原因はわからにゃいのかにゃ?」
「……訓練で、最前線の森に入るようになってから、減った?」
わしに聞かれてもしらんがな。いや……最前線の森は、王都近辺の森よりは魔力濃度が高いか。魔力濃度が高い場所で生活すると、食事量が減るからそれと一緒かな?
う~ん……聞く限り、毎日ではないから、それはそれで違うかな? わからん。ひとまず経過観測にしておくか。
食事が終わるとコリスの食休みを待ってから、東に向けてひた走る。空は現在、大量の鳥が飛んでいるので、最善の選択だ。
かと言って、地上にも生き物は多数棲息するので、イサベレレーダーの指示を聞きながら方向を変えて進むが、虫の大群に遭遇してしまって空に逃げる。
そして空を進もうとするが、まだ鳥の大群が近かったらしく、すぐに着陸。なんとか虫テリトリーからは出ていたので、走って離れる。
「そろそろ夕暮れだにゃ~」
「ここで休むのですか?」
「いや~……」
「やめたほうがいい」
リータの質問に返答しようとしたが、イサベレに先を越されてしまった。
「イサベレはこう言ってるにゃ。まぁ近くに、にゃにかの群れがいるからだけどにゃ」
「戦うニャー?」
「戦っても、移動はしなくちゃにゃ~」
「でしたら、近くに白い木の群生地があったじゃないですか? そこで休むのはどうですか?」
「あ~。最悪、主を倒してしまっても、一日は持ちそうだにゃ。たしか方角は……」
白い木の群生地は生き物の群れを越えた所にあったので、相談の結果、直進して、倒すか振り切るかに決まった。
そうして出発しようとしたのだが、忘れ物に気付いたわしは、振り返ってイサベレを見る。
「ちょっと、イサベレの剣を貸してくれるかにゃ?」
「何するの?」
「改造にゃ。この森では、ちと攻撃力が低すぎるにゃ。大事にゃ剣だと思うけど、わしを信じて預けてくれにゃ」
「……ん。わかった」
イサベレはレイピアを鞘から抜くと、少し心配そうな顔になりながらも、わしに手渡す。
わしはちょちょいのちょいで、レイピアの柄辺りに【光一閃】の入った宝石の魔道具を取り付けて返したら、たいして変化の無い改造だったので、イサベレは何度もレイピアを確認している。
「綺麗な装飾が付いただけにしか見えない」
「それには、光の剣になる魔法が入っているにゃ。使い方は言わなくてもわかるにゃろ?」
「ん。なんとなく……」
「じゃあ、実践で慣れてくれにゃ。あとは、これも渡しておくにゃ」
今度は宝石の輝くネックレスを取り出して、しゃがんでもらったイサベレの首に掛けてあげる。
「そっちは肉体強化と風魔法を強化する魔道具にゃ。イサベレの肉体強化魔法より強い魔法が入っているから、気を付けて使ってくれにゃ」
「指輪じゃない……」
「にゃ? 指輪がよかったにゃ?」
「既婚者から指輪を貰うのは、愛人の憧れ」
はい? 愛人はそんな物より、嫁と別れる事が最高のプレゼントじゃないのか? とりあえず急いでいるし、お茶を濁しておこう。
「いまは手持ちはそれしか無いから我慢してくれにゃ~」
「ん」
イサベレの装備が整うと、わし達は生き物の群れに突っ込み、取り囲まれる事となった。
「クワガタにゃ~!」
生き物の群れの正体は、人間より大きな黒いクワガタだった。
「どうして嬉しそうに言うんですか!」
「シラタマ殿の嫌いな虫ニャー!」
「だって……かっこよくにゃい?」
「「どこがよ!」」
わしがリータとメイバイにツッコまれていると、イサベレが口を開く。
「囲まれているけど、遊んでいていいの?」
「「「にゃ……」」」
イサベレの指摘で、それどころでない事に気付き、わし達はいそいそと武器を構えるのであった。
「わしが遊撃に出るから、みんにゃは気を付けて戦ってくれにゃ。たぶん体は硬いから、メイバイとイサベレは、武器を壊さないように関節を狙うにゃ~」
「はいニャー!」
「ん!」
「コリスとリータは、ガンガン殴ってやれにゃ」
「うん!」
「はい!」
「では、行っくにゃ~!」
「「「「にゃ~~~!」」」」
気の抜ける掛け声がひとつ増えたが、気にしない。わしは【鎌鼬】を放ちつつ、二刀流で、クワガタの脚や関節を斬りながら、糸を縫うようにクネクネと走り回るのであった。
* * * * * * * * *
シラタマが離れて少しあとに、リータ達の元へと黒クワガタが迫る。
リータはハサミを開いて近付く黒クワガタをジャンプで避け、拳を頭に減り込ませ、着地と同時に正拳突き。黒クワガタは吹き飛ばされて仲間にぶつかる。
コリスは近付く黒クワガタに、何もさせない内に尻尾を落として頭を潰し、もう一本の尻尾で薙ぎ払い。こちらも仲間の黒クワガタにぶつかって沈黙する。
メイバイは突撃する黒クワガタの横に回り、脚の関節を狙ってナイフを走らせ、トドメは長く伸ばした光の剣。頭と胴体の隙間に通して斬り落とす。
イサベレもメイバイと同じく脚を斬り、その隙に背中に飛び乗って首元を狙う。だが、メイバイと違って急遽装備した光の剣を使わず、三度ほどレイピアを走らせて倒していた。
皆は危なげなく黒クワガタを倒しているが、数が多く、いつもより手数が増えている事で、苦戦を強いられているようだ。
なかなか黒クワガタが減らない中、少しの時間が出来ると、リータとメイバイの話し合う姿がある。
「硬いから、なかなか減りませんね」
「リータとコリスちゃんはいいとして、問題は、私とイサベレさんだニャー」
「何か打開策が欲しいですね」
「イサベレさん。何か思いつかないニャー?」
「ん……たしかこの手の虫は、お腹が柔らかかったはず」
「お腹ですか……なるほど」
イサベレから助言を聞いたリータは、コリスと共に土魔法を使う。
「「【土槍・いっぱい】にゃ~!」」
すると、クワガタの真下から、土で出来た槍が多数出現した。
「やったニャー! 串刺しニャー!」
「でも、かなり避けられてしまいましたね」
「弱点だとわかっただけでも十分。二人でひっくり返してくれたら、剣も通じやすい」
「わかりました。一気に行きましょう!」
これより皆は、コリスとリータを盾役にして、迫り来る黒クワガタと戦う。
リータは黒クワガタのハサミに挟まれる前に、アッパーカットでハサミに当てる。すると、黒クワガタは簡単にひっくり返り、後ろから跳んだメイバイが腹に飛び乗って、十字に斬って無力化する。
コリスも迫る黒クワガタを二匹同時にひっくり返し、イサベレが腹に斬撃。コリスも、もう一匹を爪で切り裂く。
慣れてくれば、リータとコリスが黒クワガタをひっくり返しながら走り、イサベレとメイバイは黒クワガタの腹を足場に飛び跳ねながら斬り裂く。
囲まれる事があれば、【土槍・いっぱい】で数を減らし、包囲を抜けるとまたひっくり返して斬り裂く。
こうしてリータ達は、息の合った攻撃で、黒クワガタを減らして行くのであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、わしは黒クワガタの急所を狙って走り回っていた。
ふぅ。なかなか面倒臭いのう。じゃが、下手に刀を振って刃毀れしても困るし……。リータ達は大丈夫かのう?
ん? 【土槍・いっぱい】か……なるほどな。腹を狙って攻撃しておるのか。その弱点があったのを忘れておったわい。
わしもマネしよっと。
わしはリータ達と同じく、土の槍を使って数を減らす。そのおかげで、あっと言う間に黒クワガタの群れが減って行き、残りが三十匹を切った頃、二匹の白くて巨大なクワガタが現れた。
デカイ! 20メートルは軽く超えてそうじゃ。ハサミの数も多い。……刃が八枚? 顔を丸く囲んでいるから、これをクワガタと呼んでいいのか悩みどころじゃ。
もう一匹は、10メートルちょっとってところか? ハサミの刃が六枚……本来の数から四枚プラスで、ハハリスより強いな。
二匹相手取るのは、ちとしんどいな。このあと白い木の群生地に入るし、体力を温存しなくては……。傷は気にせず、デカイ攻撃を使うか。
サイズを調整して……
「【青龍】×2にゃ~」
わしから放たれた二匹の氷の龍を狼煙に、巨大な白クワガタとの戦闘が始まるのであった。
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