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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
345 新婚旅行に出発にゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はシラタマだ。職業は、王様兼ハンターだ。
猫の国の王様となってからハンター活動は激減したが、王様の仕事は無給でやっていたので辞めるわけにはいかなかった。わしの持つ特許も、ほとんど猫の国に寄付してしまったので、ハンターを収入源にしなければ食っていけない。
まぁわしにかかれば、少ない日数でも大金が稼げるので、食うには困らない。それに大蟻の駆除は、わし達夫婦とコリスの力が無いと出来ないので、ハンターの仕事として、ここから大物はピンハネしているから、懐はホクホクだ。
猫の国も大蟻が大量に手に入るので、食べる物に困る事はない。実際には穀物も国民に行き届いているから、わざわざ大蟻を食べる必要はない。キャットトレインもあるので、輸出しているとも聞いている。
東の国の村や困窮者には、安く手に入る食材として人気があるらしいが、わしは食べたいと思わないからウンチョウとセンジに丸投げだ。
猫の国で行っている事業はかなり順調だ。
キャットトレインは、各小国にも一台は売ったので、次の事業に乗り出した。いや、大国組がうるさいので、電動バスの製造を開始した。なんでも、そんな便利な物を、猫の国だけ使っているのはズルイんだとか……
しかし人員も資材も足りないので、鉄製の部品を鉱物が豊富な西の国で外注できないかと足を運ぶと、即決定。西の国の新王様とは初めて会ったけど、物腰の柔らかい青年で、西のじい様とは大違い。腹黒さが一切ないので、少し心配だ。
当然、外注なんてしたからには、東の女王と南の王が黙っていない。女王はグチグチ言って来るし、南の王は涙で字が滲んだ手紙を毎日送って来るし……
とりあえず女王には、車両を作る権利があるんだからと、猫なで声を出しながら説得し、南の王には猫の国、唯一の失敗事業を引き継いでもらう事にした。
失敗した事業とは、ゴムの木の増産。冬を越せずに、苗が壊滅的被害を受けてしまった。南の王には渋々譲った感を出したけど、うちで作れないのだから、ちょうど良かったかもしれない。優先的に卸してもらう契約もしたしな。
南の王も、産業が増えて喜んでいたようだが、嬉し涙で字の滲んだ手紙はもういらない。だから毎日毎日、送って来るな!
人族と猫耳族の仲はというと、さほど良いとは言えないが、子供達はサッカーを通じて仲良くなっているから、大人も変わりつつある。
まだまだ時間は掛かると思うが、ここ最近はいざこざが一件も起きていないと聞いているので、割と早くにわだかまりが消えるのではないかと期待している。
猫の国にある森は、着実に押し返して土地は広くなっている。村々からも森が遠くなり、危険が減ったと、わしの元へ感謝をしに来る者もいた。
やたら拝まれて恥ずかしいから、時間が無いと嘘をついて謁見は控えている。だが、大人数で来た時は、双子王女から「どうせ暇なんだから会え」とお達しが下り、渋々会う事となった。
玉座なんて無いので、役場の庭にわしみずから作らされ、王冠を被らされ、予想通り拝まれ続けた。それを見たワンヂェンが腹を抱えて笑い続けていたから、腹いせにデザートを食ってやった。
そんなこんなで猫の国は順調に問題が少なくなっていき、種蒔きも終わって次の収穫も豊作が期待できそうなので、遅ればせながら新婚旅行に旅立った。
同行者は新婚旅行なので、当然、我が妻のリータとメイバイ。それとキョリスから預かっている巨大リスのコリスだ。
コリスは妻ではないが、子供の居ないわし達の子供のような存在なので、二人も連れて行く事に反対しなかった。体年齢では、一番の最年長だけど……
目的地は、東の森と海を越えた先にある新天地。時の賢者が向かったと聞いたので、人が居るかもしれない。闇雲に冒険するのも面白いだろうが、目的地があったほうが達成感があるだろう。
初日は、戦闘機に乗って猫の街を立ち、すぐに着陸して転移した。見送りの者が居たから空気を読んでやったんじゃ。
まず最初に訪れた場所は、白ヘビの巣。お供え物を持って来てやった。白ヘビは長さがわからないぐらいデカイので、調理する料理を用意するのは、手間も金銭面も大変だから、シロップだけ持って来た。
作る料理はかき氷。二度目に訪れた時は、シャーベットを持って行かなかったら悲しそうにしていたので配慮した。だが、シャーベットを作るのは手間が掛かるので、かき氷にしたわけだ。
魔法を使えばちょちょいのちょい。氷を削ればあっと言う間だ。なんなら、魔法で雪を作れば、もっと手間が減る。
土魔法で作った巨大なお椀に、ふわっとした氷を山盛り盛って、シロップをドバドバ掛ければ、「まさに山かき氷」の完成だ。
白ヘビも満足して食べている。だけどコリスはどこ行った? さっきまでそこにいた? ま、まさか……白ヘビ! 食べるのストップ! 何か硬い物? ぺっしなさい! ぺっじゃ~~~!!
コリスは雪山に埋もれて食べていたっぽいので、白ヘビが気付かず口に入れてしまった。慌てて吐き出してもらって大惨事にはならなかったが、コリスも学習したから、もうそんなお茶目な事はしないだろう。しないでね?
落ち着いたところでわし達もかき氷を食べて、全員で頭をキーンとする。これも醍醐味じゃ。
それから白ヘビに氷魔法と雪魔法のレクチャー。魔力もあるからなんとかなるだろう。シロップの入った一升瓶も、数十本も置いて行くので、食べたくなったら自分で作れる。
しばらく来ないからね? だからすぐに食べちゃダメだからね? 今日はいっぱい食べたんだから、我慢せい! 我慢するからわしの住み処を教えろじゃと? そ、それは……また来ま~す!
白ヘビに住み処なんか教えたら、猫の国が滅んでしまうので、シロップの瓶を放り投げてさっさと逃げ出した。東に向かったから、バレる事はないだろう。
そこから南にある川に向かって走り、船に乗って東に下っていたのだが、巨大黒タガメの大群に行く手を阻まれて逃げ出す。
やはり空を移動しようと戦闘機に乗り換えたが、黒い鳥が大量に寄って来たのでまた逃げる。
空も諦めて東に向けて走っていると、黒ゲジゲジの群れに遭遇。全員、発狂して逃げ出した。
逃げ切って「ゼーゼー」言っていたら日が落ちて来たので、ここで夜営にするかと相談した結果、全員一致で猫の街に帰る事となった。
旅立ってすぐに戻ったから双子王女にガミガミ言われてしまったが、寝ている時に虫が出そうで怖かったんじゃもん!!
こうして新婚旅行初日は、不甲斐ない結果であったが、家の布団で安眠したのであった。
そして翌日、双子王女に挨拶をして旅に出る。
「「あ~。はいはい」」
出発式の昨日の今日とあって、かなりおざなりに送り出されてしまった。猫の街を歩くと、わし達に気付いた住人にも白い目で見られている気がしたので、ダッシュで脱出。ここがわし達の住む街なのに……
それから、昨日の旅の最終地点に転移して戻って来た。
「よし! 辺りにはにゃにもいないにゃ」
わしはさっそく探知魔法で危険の有無……いや、虫の有無を確認する。
「ジョスリーヌさん達に怒られちゃいましたね」
「一日で帰ったもんにゃ~。でも、緊急事態だったんだから、仕方ないにゃ~。今日は違う所に泊まろうかにゃ?」
「毎日戻るって、そんなに魔力を無駄遣いしていいニャー?」
「あ~……たしかに白ヘビクラスが出た時にはマズイにゃ」
そうしてリータとメイバイに相談した結果、週一、多くて週二の頻度で、どこかの街に滞在する事を決める。
「移動も問題なんだにゃ~」
「虫が多いもんニャー」
「飛行機を、もっと高い所を飛ばせないのですか? ビーダールの時みたいに」
「出来るけど、道中、面白い物が発見出来るかもしれないから、あまりやりたくないにゃ」
兵馬俑みたいに、何か残っているかもしれんしのう。
「じゃあ、どうするニャー?」
「う~ん……船は戦闘になると戦い難いしにゃ~。地上と空を行ったり来たりしようかにゃ? それにゃら、危険は少ないにゃろ」
「問題は、虫ですね……」
「それはコリスに頼むにゃ」
そう言ってコリスを見ると、顔を青くする。
「や~!!」
当然コリスも虫嫌いなので、拒否されてしまった。
「違うにゃ。戦うんじゃなくて、戦いを避けるんにゃ」
「どういうこと~?」
「コリスが隠蔽魔法を解けば、弱い生き物は寄って来ないにゃ」
「あ! なるほど~」
コリスはわしの案に賛成してくれたが、リータとメイバイは、わしを冷やかに見る。
「シラタマさんが、それをすればいいのでは?」
「そうニャー! シラタマ殿より強い生き物なんてめったに居ないんだから、シラタマ殿がやるニャー」
「わしでもいいんにゃけどにゃ。でも、二人を怖がらせてしまいそうにゃ」
「あ……たしかに少し怖いです」
「にゃ~? それに強者を求める生き物なんかが居たら、わしより強い生き物を引き寄せるかもしれないにゃ。我が家のある森でも、たまにあったにゃ」
「なるほど……シラタマ殿より強い生き物は危険だニャー」
「それじゃあ、方針はこれでいいかにゃ?」
深く頷いてくれる皆の顔を確認し、わしは出発を告げる。
「それじゃあ、行っくにゃ~!」
「「「にゃ~~~!」」」
相変わらずの変な掛け声だが、気にせず走り出すわしであった。
予想通り、弱い生き物はコリスを見て逃げて行くので、それを横目に見ながらわし達は走り続け、リータとメイバイに疲れが見えたら戦闘機にて空を行く。
戦闘機では、皆に何か発見したら報告してと地上を確認させ、探知魔法に一匹でも鳥の反応があれば、強引に森に着陸する。前回、鳥を落として群れが湧き出して来た事を覚えているとは、わしは出来る猫だ。
着陸して少し進むと、コリスがお腹がすいたと飛び掛かって来たので、テーブルセッティング。いま、準備してるんだから、頭をモグモグしないで欲しい。
昼食は、いつもエミリや街の料理部隊に多く作ってもらっていたお弁当。弁当箱はその都度わしが土魔法で作っているから、猫の街に損害は無い。
コリスはドカ弁でも足りないだろうから、次元倉庫に入っている焼いたブロック肉も付けてあげた。
和気あいあいとデザートまで済ませれば、コリスがおネムになってしまったので、食休みを兼ねて休憩。わしも寝てしまいたいが、見張りもあるからリータかメイバイの膝に乗って、ひと眠り。
結局寝てしまったが、二人が起きているから問題ない。
だって、撫でられて気持ちよかったんじゃもん。
そう言っておけば、見張りで寝てしまった事はお咎め無しだった。まぁ三十分程度なので、元々怒る気はなかったようだ。
コリスを起こすと、またしばらく走るが、こちらに向かって来る生き物が居た。
「みんにゃ。ストップにゃ」
わしの言葉で、皆は一斉に止まってそばに寄る。
「獣ですか?」
「虫ニャー?」
「たぶん虫かにゃ?」
「あれ? 虫なのに、冷静なのですね」
「少ないからにゃ。一匹向かって来てるけど、どうしよっかにゃ?」
「一匹だけニャ……大きさはどうニャ?」
「10メートルオーバーだにゃ」
わしが向かって来ている虫の大きさを知らせると、リータとメイバイが目を輝かせる。
「戦ってみたいです!」
「私もやりたいニャー!」
一年間、ソウの街で訓練した脳筋の二人は、こう言う始末。
「にゃろめっ!」
心の中で口を滑らしたわしは、針で刺されてこの始末。
「まぁ相手しだいだにゃ。わしが見て、行けそうにゃら譲ってあげるにゃ」
「絶対ですよ?」
「ちょっとぐらい上なら譲ってニャー?」
「わかっているにゃ~」
そうして生き物の接近を、リータとメイバイに撫でられながら待っていると、数本の黒い木を切断した、白くて巨大な細長い生き物が現れるのであった。
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