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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~
339 歴史にゃ~
しおりを挟む大ホワイトタイガーを倒したわしは、次元倉庫に入れると走り出す。
「ニャンニャン、ニャンニャン」
「ニンニン」と言っているつもりで……
そうして、探知魔法で確認したメイバイの元へ向かい、すぐには助けずに様子を窺う。
メイバイは避ける事に専念しているようじゃな。ホワイトタイガーの、あのスピードでは、メイバイが攻撃を当てるのは至難の業か。じゃが、一太刀は入れたみたいじゃな。
さて、どうしたものか……リータを助けに行くか? いや、メイバイの元へ先に来た理由は、体力が心配だから来たんじゃった。
リータなら頑丈じゃし、盾で防いでいれば、動きは小さいからな。メイバイは全力で動き回っておるし、ここはさっさと倒して、リータと一緒に戦わせたら文句はないじゃろう。
わしは刀を抜いて、動き回るホワイトタイガーの背中に飛び乗る。
「シラタマ殿!」
そして顔を見ないように、頭に刀を突き刺し、トドメを刺した。ホワイトタイガーが倒れるとすぐに次元倉庫に入れて、メイバイのほうへと振り向く。
「メイバイの獲物を奪ってすまなかったにゃ」
「ううん。私一人じゃ避けるので精一杯で、助かったニャー」
「そう言ってくれてよかったにゃ。それじゃあ、リータも苦戦しているようだし、助けに行こうにゃ」
「はいニャー!」
わしはメイバイを背負うと、探知魔法で反応のあったリータの元へと走る。
「ニャンニャン、ニャンニャン」
「シラタマ殿……」
「にゃに?」
「また調子に乗ってるニャー!」
「にゃ……」
メイバイに怒られながら……
それからリータの戦っている姿を確認すると、メイバイを降ろす。
「守っているけど、攻め手が少ないから手詰まり感はあるにゃ~」
「私が入れば、攻められるニャー!」
「そうだにゃ。でも、優位に立ったからといっても、くれぐれも気を抜くにゃ」
「シラタマ殿と違うから、わかっているニャー!」
「にゃ……」
「行って来るニャー!」
メイバイはそれだけ言うと、リータとホワイトタイガーの戦闘に加わるのであった。
残されたわしはと言うと……
そんなにわしは、気を抜いておるのか?
納得いってなかった。
だが、二人の戦闘をしばらく見ていると、無理なくホワイトタイガーを削って、安心させる戦い方だった。
わしはその姿を見て大丈夫と確信し、コリスの元へ走るのであった。
風を切って走り、コリスとホワイトタイガーの戦闘区域に入ると、身を隠して様子を見守る。
うん。さすがコリスじゃ。リータ達の修行に付き合っていたから地力も上がっておるし、攻撃も多彩になって、ホワイトタイガーも無難に痛め付けておるな。わしが助けに入らなくても、もうじき終わるじゃろう。
「コォォォォ」
でも、なんでいちいち息吹きなんかしておるんじゃ?
わしが疑問に思っていると、二匹の戦闘に終わりが来る。
コリスは、突撃して噛み付こうとするホワイトタイガーの顔を尻尾で横から叩き、もう一本の尻尾で下から叩き上げる。
そして、落下地点に入ると、両手、両尻尾で殴りまくり、ホワイトタイガーを地に降ろさない。
しばらく打撃音が辺りに響き、ホワイトタイガーの動きが無くなったと感じたコリスは、ジャンプして二本の尻尾で地面に叩き付ける。攻撃はそれだけで終わらず、横たわるホワイトタイガーにのしかかって、首に噛み付いた。
勝負ありじゃな。コリスも最後まで気を抜かず、息の根を止めた。けど、いつまで噛み付いておるんじゃ? ひょっとして……食ってる??
白い獣じゃし、生でもうまいのかもな。とりあえず、全部食べる前に止めよう。
「コリス~。お疲れさんにゃ」
「モフモフ~!」
コリスはわしを見付けた瞬間、走り寄って来るけど、口が血まみれでちょっと怖い。なので、水魔法で口を洗って褒めちぎる。
「よくやったにゃ~」
「うん! ホロッホロッ」
「でも、食べたらダメにゃ」
「え~! おいしかったのに~」
「エミリに料理してもらえば、もっとおいしくなるにゃろ?」
「エミリ!! りょうりしてもらう~」
「帰ったら、みんにゃで食べようにゃ」
こうしてコリスに食べられる前に、ホワイトタイガーは次元倉庫に入れる事に成功した。
コリスは最近、エミリと仲良くしているので、素直に従ってくれたようだ。おそらく餌付けされ、モフモフされていると思うけど……
それからわし達は、追いかけっこしながらリータ達の元へ向かう。そこでは、血濡れになったホワイトタイガーが居て、トドメを刺す瞬間であった。
ホワイトタイガーはリータの盾を崩せず、受け止められた瞬間を狙ったメイバイのナイフに傷を付けられて満身創痍。
そこを二人が同時にふた手に分かれ、リータが跳んで、ホワイトタイガーの頭に拳を落とす。その攻撃で、ホワイトタイガーの頭は地面に減り込み、遅れて跳んだメイバイの光の剣で首を刎ねられた。
「やった~!」
「やったニャー!」
リータとメイバイは「キャッキャッ」と抱き合って喜ぶ。わしはそんな二人に近付き、労いの言葉を掛ける。
「お疲れさんにゃ~。よくやったにゃ~」
「あ! シラタマさん。見てくれましたか?」
「うんにゃ!」
「蟻より強かったニャー!」
「二人とも、かっこよかったにゃ~」
「モフモフ~。わたしは~?」
わしが二人を褒めていると、コリスも褒めて欲しそうに寄って来た。
「コリスもかっこよかったにゃ~」
「モフモフ~!」
「シラタマさ~ん」
「シラタマどの~」
「にゃ!? 重たいにゃ~」
わしは毛玉ダイブに押し潰され、リータとメイバイは毛玉に埋もれ、残念ながらわしに抱きつけなかった。
コリスはなかなかどいてくれなかったが、わしはモソモソと抜け出し、ホワイトタイガーを次元倉庫に入れようと歩み寄る。
「………」
「シラタマさん? どうかしましたか?」
「……にゃんでもないにゃ」
「??」
わしがホワイトタイガーを入れずにその姿を見ていたら、リータに声を掛けられ、慌てて次元倉庫に入れる。
その後、石畳があった場所に向かい、そこで休憩をしてから探索を開始する。
石畳を触り、散らばった石を調べていると、リータとメイバイから質問がやって来る。
「やはり、人が住んでいたのでしょうか?」
「そうだろうにゃ~」
「白いヘビが言ってた場所かニャー?」
「それはわからないにゃ。文字でも残っていたらいいんだけどにゃ~」
建物すら残っていないんじゃ、紙は期待できない。石板があったとしても、風化しておるかもな。ビーダールの遺跡ぐらい、はっきり残ってくれていたらよかったんじゃがな~。
わし達は固まって辺りを探索するが、これと言って珍しい物が見当たらず、諦めて帰ろうとしたその時、コリスが悲鳴をあげた。
「うわ~~~!」
「にゃ?」
わしが振り向くと、コリスの後ろ脚が地面にズボッと嵌まっていた。
「にゃはは。にゃにをやってるんにゃ」
「なんか落ちた~」
「ちょっと待ってるにゃ」
わし達はコリスの脚を抜くために近付き、手を繋いで引っ張ろうとする。
「ほれ、コリスも力を入れるにゃ」
「うん。……わ!」
コリスが逆の脚に力を入れた瞬間、地面が陥没した。
「うわ~! 落ちる~~~!!」
「地下空洞にゃ!? コリス! 暴れるにゃ!!」
わしとメイバイとリータは、暴れるコリスを引っこ抜こうと、うんとこしょと力を入れた……
「にゃ!?」
「ピシッって鳴ったニャー!」
「シラタマさん……まさか」
「にゃ!? くっつくにゃ! 動きづらいにゃ~」
「「「キャーーー!」」」
「にゃ~~~!」
わしが一気に逃げ出そうとしたら、わし達が立っていた地面は大きく抜ける事となった。
そしてドスーンと大きな音を立てて着地。地上から砂が降る中、わしは皆の安否を確認する。
「みんにゃ。大丈夫にゃ?」
「モフモフ~」
「つつつ……なんとか大丈夫ニャー」
「私も大丈夫です~」
メイバイ以外は防御力が高いせいか、痛そうな素振りを見せず、返事をくれた。ひとまず皆の無事は確認が取れたので、光の玉を出して辺りを確認する。
「わりと広いにゃ~」
「シラタマさん! 誰か居ます!!」
「いっぱい居るニャー!」
「にゃ~~~?」
驚くリータとメイバイが指差す場所には、数百の人影があった。
「ただの石像にゃ~。二人は怖がりだにゃ~」
「あ、本当です」
「ちょっとビックリしただけニャー」
「人が居てくれたほうが有り難いんにゃけどにゃ。でも、コリスのおかげで面白い物が発見できたにゃ。ありがとにゃ」
「ホロッホロッ」
わしがお礼を言って頭を撫でると、コリスはご機嫌な声を出した。そうして、光の玉で照らしながら地下空洞の探索を開始する。
「なんで石像がいっぱいあるのでしょう?」
「あ、馬もいるニャー」
「これはお墓かもしれないにゃ」
「お墓ですか?」
「その昔、王様なんかが死んだ時、人間を何百人も一緒に埋めたりしていたんにゃ」
「ひどいニャー!」
「そうだにゃ。だから、石像を使って代用した歴史もあるんにゃ。用途はハッキリわからにゃいけど、おそらくこれは、兵馬俑にゃ」
わしが具体的な名前を出すと、リータとメイバイは首を傾げるので、簡単な歴史の説明をしてみたが、よけい難しい顔へと変わった。
「シラタマさんの世界の歴史なのに、どうしてこんな所にあるのですか?」
「さあにゃ~。偉い人は、みんにゃ考える事は一緒なんじゃないかにゃ?」
「う~ん……そんなモノかニャー?」
「その証拠に、服だって着ているし、麦だって育てているにゃ。世界は違えど、人間が居れば、やる事は変わらないにゃ~」
そうしてぺちゃくちゃと喋りながら壁に到着すると、壁伝いに空洞を一周する。
「崩れている箇所が多いですね」
「本来なら、もっと広かったみたいだにゃ」
「何も無いし、帰るニャー?」
「う~ん。一ヶ所、気になるところがあるから、そこだけ調査してみるにゃ」
わしはそう言って、石像が向いている方向とは逆に歩き出す。皆も続き、奥まで行くと、埋まった場所の土を魔法でどける。周りを注意し、空洞が埋まらないように補強しながら進んで行くと、棺が現れた。
「にゃ~。ハズレにゃ~」
わしは棺をドキドキしながら開けたが、残念ながら、中は空であった。
「何がハズレなのですか?」
「偉い人のお墓だから、お宝が眠っていると思ったんだけどにゃ。もう持ち出されたあとみたいにゃ」
「墓の物を盗もうとしていたニャ!?」
「まぁそうにゃけど……ここにあっても仕方ないにゃろ?」
「それはそうですけど、罪悪感はあります」
「盗っちゃダメニャー!」
さすがに墓荒らしは、リータとメイバイはやりたくないようだが、わしは考えていた事を口にして説得する。
「猫の街に美術館でも作ろうと思っていたんにゃ~」
「美術館ニャ?」
「美しい物を飾る場所にゃ。今回の場合は、歴史館って言ったほうがわかりやすいかにゃ? 発見した、ここの歴史を伝えれば、死者も生きた証明になるんにゃ」
「なるほど……」
「でも、持ち帰る物なんて石像しか……ニャ?」
メイバイは何かに気付いたようで、数歩進んで棺の奥でしゃがみ込む。わしは何かあるのかと、そばに寄って声を掛ける。
「どうしたにゃ?」
「なんか光ったように見えたんだけど……あったニャー!」
メイバイは土に埋まっていた剣を引き抜き、高く掲げた。
「それは……白魔鉱の剣かにゃ?」
「お宝ニャー!」
白魔鉱と言えば白魔鉱なんじゃが、ぶっちゃけ切れるとは思えん。刃の部分はギサギザじゃし、側面は全てザラザラ。まるでサビた剣が白魔鉱になったような……
あ! ここは魔力濃度が高いから、長年放置された剣が、白魔鉱に変化したのかも? となれば、ソウの地下空洞の鉄が、白魔鉱に変化する証拠になるな。
この情報だけでも儲けもんじゃ。
その後、五本の白魔鉱の剣を発掘したわしは、兵馬俑を五体だけ次元倉庫に保管して、また来た時の為に土魔法で堅く封印し、猫の街へと転移するのであった。
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