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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~
327 猫の国の観光にゃ~
しおりを挟むアイパーティが猫の街に来た翌日、わしはリータ達と共にソウから転移し、猫の街の役場でエミリの料理を食べてから旅館に顔を出す。アイ達も朝食は済ましていたのか、VIPルームを開けると、浴衣姿でゴロゴロしてやがった。
「おはようにゃ~」
「あ、猫ちゃん。おはよう。リータもメイバイちゃんも、久し振り~」
「お久し振りです」
「久し振りですニャー」
「それより、ちょっとくつろぎ過ぎじゃないかにゃ?」
「猫ちゃんの家と一緒で、居心地がいいからね~。外の岩風呂も最高だったわよ」
「気に入ってくれたらのはいいんにゃけど……出掛ける準備はまだかにゃ?」
「あ……そうね。着替えるわ」
わしが見ているにも関わらず、アイ達は着替えを始めるので、わしはコリスと共に縁側でお茶をすする。
見てないんですから、つつかないでください。
リータとメイバイから脇腹をつつかれながら待っていたら、着替えの終わったアイ達から声が掛かる。
皆を連れて旅館から出ると、次元倉庫から出したバスに乗り込んで、ゆっくりと南門に向かう。そうすると、アイが尋ねて来た。
「どこに行くの?」
「えっと……農園を見せようかにゃ~と……」
「え~! そんなの見ても面白くないわよ~」
「猫の街は、にゃにもないんにゃ~」
「え~! 猫の街なんだから、面白い物がいっぱいあると思ってたのに~!」
「うるさいにゃ~。発展途上にゃんだから、あるわけないにゃ~」
「何かひとつぐらいあるでしょ!」
「う~ん……ひとつあったにゃ」
「ほら~」
「じゃあ、内壁を出たら飛ばすにゃ~」
と言って、牛舎まで行って、アイ達をバスから降ろしてみた。
「「「「「あわわわわわ」」」」」
巨大白牛シユウを見た第一声は、こんなもん。アイ達は、あわあわするだけだ。
「いちおう言っておくけど、キョリスより強いから、絶対に手を出すにゃ」
「「「「「出すわけないでしょ!」」」」」
大声でツッコまれたので、一番の目玉見学は即座に終了……してしまうと、見せる物が無くなるので、アイ達にドーナツを渡し、餌付け体験をさせてみた。
アイ達は震えて手元が狂うのか、真っ直ぐ投げれないが、そこは化け物牛シユウ。速さを活かして、地面に着く前に口に入れていた。食い意地が張っていやがる……
それだけしても、皆の緊張が解けないのでバスに積み込み、農園の見学に戻る。するとアイ達は……
「なんてとこに連れて行くのよ!」
「怖かったです~」
「食べられるかと思った……」
「アレを売れば、大金持ち……」
「どんな味なんだろ~?」
怒るアイ、怖がるマリーとモリー、変な事を言うエレナとルウに分かれる。
「エレナとルウは、シユウと戦いたいんだにゃ……わかったにゃ。戻るにゃ~」
「「「「「やめろ~!!」」」」」
わしが戻ろうとしたら、意見は一致した。なので、ノロノロと農園見学。面白くはなさそうだが、質問はして来る。
「黒い牛もいるのね……」
「まぁ群れごと引き抜いたからにゃ。農業を手伝ってもらっているにゃ」
「ふ~ん。ここって猫耳族も働いているけど、聞いた話だと奴隷にされていたのよね? 人族と一緒にして、喧嘩とかしないの?」
「いまのところは無いかにゃ? 人族を極端に怖がっている者や嫌っている者は、猫耳の里ってところで暮らしているから、表面に出ていないだけかもしれないけどにゃ」
「そうなんだ……でも、猫耳の里は初耳ね。仕事の件もあるし、連れて行ってくれない?」
「あ、双子王女にも黙っているように言ってたんだったにゃ」
「なんで?」
「さっき言った理由から、人族の立ち入りは禁止にしているにゃ。今まで酷い仕打ちを受けていたから、もう少し、そっとしておいてあげたいにゃ~」
「そう……でも、報告はしていい?」
「う~ん……時期が来たらわしから言うから、黙っていてくれにゃ~」
「……わかったわ」
アイはわしのお願いを了承し、皆にも秘密にするように言い聞かす。そうして内壁近くになると、マリーが興味本位に子供達がしている事を聞いて来る。
「あそこにいる子供達は、玉を追っているように見えますが、みんなで何をしているのですか?」
「アレはサッカーをしているにゃ」
「サッカー?」
「遊びみたいなもんにゃ。ルールは簡単だし、みんにゃもやってみるかにゃ?」
「はい!」
「ようやく変わった報告が出来るわ」
マリーは快く返事をするが、アイは何かホッとした声を出す。わしは変と言われた事を無視して、バスをサッカーグラウンドの横に停車させる。
皆をバスから降ろすと、簡単なルールを説明して子供達にまぜてもらう。チーム分けは、アイパーティとリータ達は別チーム。ちなみにコリスは、さっちゃん2に変身させてキーパー。わしは審判だ。
「それじゃあ、キックオフにゃ~」
わしの合図で火蓋は切られ、ボールが蹴られる。だが、子供達も始めて間もないので、パスワークもセンタリングもなく、両チームは団子状態でボールを追う。
そんな中、モリーがボールを大きく蹴り上げ、コリスの元へと転がる。そこを大人気ない大人、アイが走り込み、ぎこちないドリブル。
それでも子供より走るのが速いので、コリスと一対一にもつれ込んだ。
わしもそれを追い、アイがペナルティエリアに入るとシュートが放たれる。アイのシュートは枠を捉えるが、キーパーはコリスだ。
コリスはゴールの左隅に飛んで来たボールを、横っ飛びで簡単に止めた。しかし、いまいちルールを把握していないので、弾くだけ。
ポンポンとペナルティーエリアを跳ねるボールは、走って来たエレナが拾ってシュート。
それもコリスが弾き返し、子供達も加わり、何本もシュートが放たれる。
あらら。コリスをキーパーにしたのは失敗じゃったな。素早いから簡単にシュートに追い付いてしまう。コリスもキャッチすれば攻めに移れるんじゃけど、ボールを弾くのが楽しくなってしまっておるな。
わしが笛を片手に試合を見ていると、ついに攻守が入れ替わる。リータがボールを確保し、これまた大きく蹴り上げた。
そのボールを素早いメイバイが追うが、リータのキックは場外ホームランだったため、わしがダッシュで拾いに行き、ルウのゴールキックで開始。
しかし、ジャストミートせずに、ゴロゴロとメイバイの目の前に転がった。メイバイはボールを確保すると、ドリブルでゴールに迫り、ペナルティエリア付近になると子供に囲まれる。
囲まれたメイバイであったが、一瞬で抜き去り、シュート。ルウは反応も出来ずに、ボールはネットを揺らす。
ピーーー!!
「ゴーーール! やったニャー!!」
笛が高らかに鳴り響き、メイバイが喜ぶ中、わしは宣言する。
「メイバイ! レッドカードにゃ。退場にゃ~!!」
わしの反則発言に、メイバイは走り寄って来て、胸でぶつかって来た。そんな暴力を振るってないアピールなんて、教えていないのに……
「なんでニャー! ちゃんとシュートは入ったニャー!!」
「本気を出すにゃ~! 子供に当たっていたら、死んでたにゃ~~~!!」
「あ……」
そう。メイバイのシュートは速すぎて、ネットを突き破り、ルウも当たったらと思ったのか、顔を青くしてへたり込んでいる。
その騒動で、試合は一時中断。リータとコリスも大事をとってチェンジだ。そうなると、大人なアイ達も辞退して、子供達の遊ぶ姿を観戦する事となった。
わしも審判を代わってもらい、飲み物を出して皆の輪に入る。
「どうだったにゃ?」
「疲れたけど、なかなか面白かったわ。でも、子供は元気ね~」
「そうだにゃ~」
わしが質問すると、アイは子供達を微笑ましく見ながら答えてくれた。
「そう言えば、さっき蹴っていたボールってのはよく跳ねていたけど、何で出来てるの?」
「ゴムにゃ」
「ゴム?」
「この国にはゴムの木ってのがあって、その木の樹脂で出来ているにゃ」
「へ~。エンマさんが喜びそうな情報ね」
「あ、そうにゃ。いいものあげるにゃ」
わしは次元倉庫から髪留めを取り出し、一番髪の長いエレナの髪を結ぶ。
「リボン? いえ、結んでなかったわね」
「これはシュシュにゃ。ゴムは伸び縮みするから、簡単に髪をまとめる事が出来るにゃ」
「お金の匂いがする! どこで売ってるの??」
「まだ試作品にゃ。それに木が少ないから、量産するにも時間が掛かるにゃ」
「そんな~」
エレナの質問には無難に答え、売るんだったらあげないと、きつく釘を刺す。そうしてサッカー見学をしていると、ルウの腹がうるさく鳴り響くので、役場の一階、小会議室に連れて行く。
エミリは二階食堂で双子王女の料理を作っているようだったので、次元倉庫の作り置きを食べさせてやった。
ルウはそれでは足りないだろうから、安い肉を取り出し、キッチンで勝手に焼いて食えと言い渡す。
腹が落ち着いた皆は、ルウ以外で役場見学。と言っても見る所も無いので、宝物庫に連れて行き、猫の国の宝を見せてあげる。
エレナは触るなよ? だから触るなと言っておろう? コリス! 逮捕じゃ~~~!!
怪盗エレナはコリス警部のモフモフロックにあって、もがきながら宝物庫の見学を終わらせる。ここもすぐに終わってしまったので、ルウと合流して、王様の居住スペースに連れて行く。
すると、居間で黒猫がゴロゴロしてやがった。
「ワンヂェン……仕事はどうしたにゃ~!」
「にゃ!? シラタマ!!」
「にゃったく……」
「急に驚かせにゃいでにゃ~。まだ休憩中だったんだから、いいにゃろ~?」
「それにゃら職場で休憩したらいいんにゃ」
「え~! ここのほうが落ち着くにゃ~」
「擦り寄るにゃ~」
ワンヂェンがわしに擦り寄るので、アイ、ルウ、エレナのOL達がコソコソと何かを話す。
「やっぱり黒猫ともデキてるんじゃない?」
「ぬいぐるみみたいでお似合いね」
「浮気相手かしら?」
「だからコソコソとは、他所でやってにゃ~」
リータとメイバイの目が怪しく光るからやめて欲しい。ホンマに!
それから猫の街を歩いていみたが、空き家ばかりで面白くないと言われて見学は終わってしまったので、我が家に戻ってお喋りをする。
屋上から山を見ながら落ち行く太陽を見せると、アイ達は朝焼けと勘違いし、山を越えたのだと実感を持てたようだ。
そうして翌日は、飛行機でソウの街の観光。その次の日はラサの街。どちらも建物以外、東の国とたいして変わらないので、ブーブー言われながら観光を終える。
他に何か楽しい事はないのかと言われても困る。なので、ハンターなら、ハンターの仕事をしてみるかと提案し、森に入って狩りをさせてみた。
なかなかの収穫だったのだが、これも東の国で見た事がある獣だったので、いまいち盛り上がりに欠けるようだ。
そんな中、アイ達はある事に気付いたようだ。
「猫ちゃんって……王様よね?」
「そうにゃ。……にゃに?」
「毎日私達と一緒にいるけど、王様って忙しくないの?」
そう。わしもアイ達と一緒に遊びまくっていた。
「王様にゃから、暇なんにゃ」
「「「「「嘘つけ~~~!」」」」」
皆に総ツッコミされたわしであったが、アイ達の観光ガイドが仕事だったと押し通し、なんとか納得させ……
「そう言えば、最近は庭いじりばっかりしてますね……」
「庭だけじゃなく、街の中の花壇もいじっていたニャー」
リータさん、メイバイさん……納得させたんだから、いらぬ情報を付け足さないで!
その後、リータとメイバイにわしの仕事をチクられ、アイ達のツッコミがやまなくなるのであったとさ。
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