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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~

326 外国人が来たにゃ~

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 リータとメイバイとワンヂェンが白ワニと激闘を繰り広げる中、わしとコリスはジュースとポテチを食べながら観戦していた。

「にゃ? ワンヂェンだけ走って来たにゃ。心配だから、ちょっと行って来るにゃ」
「うん! ホロッホロッ」

 ご機嫌なコリスを置いて、わしは走ってワンヂェンに合流する。

「どうしたにゃ?」
「にゃんか、無茶するから離れているように言われたにゃ~」

 無茶? 二人は何をする気じゃ? すんごく気になる……

「わかったにゃ。わしがフォローに回るにゃ。ワンヂェンは、コリスと観戦しておいてにゃ」
「はいにゃ~」

 ワンヂェンはふたつ返事で軽やかに走って行った。わしはそれを見送ると、リータ達に隠れて戦闘をのぞき見る。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 白ワニは、大きな体で転がりながらリータ達に向かう。ただそれだけで、人間など押し潰される攻撃だ。しかし、リータとメイバイは、その場から動かない。

「【大土壁】!」

 リータは白魔鉱の盾では、巨大な白ワニを受け止めるには小さ過ぎると感じたのか、大きな土の壁を作り、さらに自分もその壁を押して支える。
 白ワニが【大土壁】と衝突した瞬間、リータに何トンもの衝撃が走るが歯を食い縛って耐える。その結果、白ワニの回転は止まり、偶然、腹が空を向く事となった。

「喰らえニャー!」

 いつの間にか土の壁に登っていたメイバイは、空中に出した風の玉を蹴って急降下。弾丸となったメイバイは、接触する瞬間に突きを放ち、光の剣を白ワニの腹に深々と突き刺す。

「行かせません!」

 白ワニは、痛みでひっくり返ろうともがくが、逆からも土の壁が盛り上がり、身動きがとれなくなってしまった。

「ナイスニャー!」

 メイバイは、その土の壁を蹴り上がって、何度も急降下突きを繰り返す。すると白ワニは顔を起こし、大口を開ける。

「どりゃ~~~!」

 白ワニは口に魔力を集めて【咆哮】を放とうとしたが、胸に飛び乗ったリータに邪魔される。リータが白ワニのあごにパンチを打ち込んだからだ。
 リータは白ワニの口が閉じると同時に鎖を巻き付けて、口が開かないようにする。そしてパンチパンチ。マウントポジションで顎を殴りまくり、白ワニは徐々に地面に沈んでいく。


 その光景を見ていたわしは、こう思った。

 訓練を見る代わりに、ポコポコを禁止しておいてよかった~。

 と……

 そうして轟音が響き渡る中、白ワニの頭が完全に地面に減り込んだところで、メイバイの斬撃によって腹を裂かれ、息絶える事となった。


「も、もう死んでるにゃ~」
「「シラタマ(殿)さん!?」」

 わしは、白ワニが死んだにも関わらず、攻撃をやめないリータとメイバイに声を掛ける。そこで、白ワニが動かなくなった事に気付いた二人は、お互いを称えてハイタッチをする。

「やった~!」
「やったニャー!」

 ついにやってしまったな。強くなっているとは思っていたが、これほどの強敵をほふるとは……完全にイサベレオーバーじゃ。いや、人間のトップレベルを大きく超してしまった。
 これって、やり過ぎたんじゃなかろうか? 他国に知られては、摩擦が起きそうじゃわい。まぁそれ以上の戦力は保有しておるか。

 わしが自分のやらかした事に思案していると、リータとメイバイがわしを抱き上げる。

「にゃ~?」
「シラタマさん! やりましたよ!!」
「うんにゃ。見てたにゃ~」
「これでようやくニャー」
「ようやくってなんにゃ?」
「私、シラタマさんを守るって言いましたよね?」
「私も守るニャー! でも、私の場合はシラタマ殿の剣かニャー?」
「にゃ……」

 つまり、二人はわしの為に鍛えておったのか……まだまだわしに遠く及ばないんじゃけど、二人の気持ちは嬉しい。

「ありがとにゃ~」

 わしは目に涙を溜め、リータとメイバイに、スリスリと頬擦りしながら礼を言う。

「いえ。私達がしたいからしているんです」
「いつでも私達を頼ってニャー!」
「うんにゃ!」
「それじゃあ、帰って訓練しましょう!」
「これからも、もっともっと強くなるニャー!」
「うんにゃ……いやいやいやいや」
「「え?」」
「もう十分にゃ~~~!」

 これほどの成果を出したのに、まだ訓練しようとする二人を、必死に止めるわしであったとさ。


 その後、白ワニも回収したわしは、コリス達と合流し、川で遊んでから水辺の資源を持ち帰る。
 そうして水質管理の仕事をこなす毎日を過ごし、コリスと一緒に猫の街をブラブラしていたら、前に無銭飲食の被害があった食堂から「ギャーギャー」と声が聞こえて来た。
 わしはどうしたのかと思い、コリスと共に暖簾のれんを潜る。

「邪魔するにゃ~」
「猫王様!?」

 また驚かれておる。という事は、また食い逃げか? いや、誰も外に出ていないから、まだセーフかな?

「モフモフ~」
「にゃ? マリーにゃ??」

 わしが辺りを見回していると、マリーにタックルされた。それに続き、アイパーティがテーブルから立ち上がる。

「久し振りにゃ~」
「モフモフモフモフ」
「ええ。久し振り」
「遠路遥々、こんにゃ所まで来てくれてありがとにゃ。それでにゃんか騒いでなかったにゃ?」
「それがね……」

 マリーはモフモフ言い続けるので、アイに質問する。
 どうやらキャットトレインに長く揺られてやって来たらしいが、猫の街には入れたものの、道行く人に聞いた食堂に入って注文すると、料理を出せないと言われたそうだ。
 それでどうしてだと聞くと、マリーが原因と言われ、初めて来た街なのにそんな扱いをされたから、店の外まで聞こえる声で「ギャーギャー」文句を言っていたようだ。

「あ~。ちょっと前に無銭飲食があってにゃ。犯人がマリーにすっごく似ていたから、店主も戸惑ったんにゃ。失礼をして悪かったにゃ」
「猫王様が謝る事じゃありません! 私の配慮が足りなかったせいです。申し訳ありませんでした!!」

 わしがアイに謝ると、店主が慌てて頭を下げる。

「もういいわ。こちらも騒いで迷惑掛けたし、お互い様ってことで」
「だってにゃ。とりあえず、アイ達にはわしがおごるから、ディナーセットと酒を持って来てくれてにゃ」
「はい!」
「ルウは……あとで別の物を用意するから、ここでは勘弁してくれにゃ」
「なんでよ~!」

 ルウの大食いで食べられると、これから食べに来る者の食事が無くなりそうなので、先に釘を刺す。でも、ごはんのおかわりは一杯だけ許してあげた。
 酒が並ぶと再会を祝して乾杯し、キャットトレインでの旅の感想を聞く。しかし、東の国王都から三日で着いたので、聞ける感想は、砦とラサでの料理、車窓の景色しかなかった。

 そうして話をしているとディナーセットが並び、アイ達は舌鼓を打つ。今日のディナーセットの内容は、米と味噌汁、メインに何かの肉の生姜焼き。キャベツの千切りと漬け物だ。
 猫の街では寮生活を送る者が多いので、少し豪華な食事を食べたい時には、ここに来ると食べられる。
 ただし、メニューで悩む者が多いので、栄養の取れるファミレス風のセットメニューで販売させて、どのように頼めばいいかの勉強も兼ねている。

 当然、アイ達には大好評。初めて食べる生姜焼きと味噌汁は絶賛だった。

「これも美味しいわね。変わった味だけど、猫ちゃんの家で食べた気もするわね」
「ここの料理は、エミリがメニュー開発を手伝ってくれたからにゃ。そのメニューに、猫の国の特産品、醤油と味噌が使われているんにゃ~」
「はあ……思ったより、ちゃんとした国なんだ」
「ちゃんとした国にゃ?」
「東の国での噂……聞く?」
「にゃ! 聞きたいにゃ!!」
「じゃあね~……」

 アイの説明では、猫の国はさほど評判がいいとは言えないようだ。と言っても、実際に行った者の話が尾びれが付いた内容ばかり。
 宿も食事も質素で、民も痩せている者が多くいる。これでは、高いお金を払ってキャットトレインで向かうほどの国ではないと言われているようだ。

「そんにゃ~。つい最近まで食糧難だったんだから仕方ないにゃ~」
「噂よ。う・わ・さ」
「それでも風評被害にゃ~」
「休憩で寄ったラサって街は、猫耳族だっけ? 痩せてる人が多かったわね。食事も向こうと変わらないし、いまいちだったわ~」
「ひどいにゃ~。みんにゃ頑張ってるにゃ~」
「あはは。ごめんごめん」

 たしかにどの街も食事はまだまだ質素じゃ。ひょっとしたら、猫の街が一番豪華な食事が出る場所かもな。
 わしが獲物を寄付しておるし、エミリの協力でレパートリーも増えておるしな。

「そんにゃ噂を聞いていたのに、アイ達は、にゃんでこの国に来たにゃ?」
「あ、そうそう。スティナさんとエンマさんの共同依頼で来たの」
「共同依頼にゃ?」
「ハンターは行く人もいないし、商人もラサとソウって街にしか行かないらしくて、情報が少ないから、実際に見て来てと頼まれたの」
「それって……東の国のスパイ活動にゃのでは?」
「平たく言えば、そうなのかな? 猫ちゃんにガイドしてもらえば、情報も手に入るって言われているわ」

 アイは、あっけらかんと言ってくれるな……双子王女には情報を規制しているから、女王の指示で、共同依頼にしたんじゃなかろうか?
 スティナとエンマの依頼なら、わしが話すと思っておるのか? 一番信じておらんのに……

「まぁいいにゃ。猫の街に来た、初めての外国人にゃ。接待させてもらうにゃ」
「やった! これで、宿泊費が浮く!!」
「食事も食べ放題ね!!」
「そんにゃこと言ってないにゃ~!」

 エレナはお金に食い付き、ルウは食事に食い付く。どうやら、スティナ達から出された旅費は十分あるなのだが、出来るだけ削って、ポッケに入れようとしているようだ。
 わしがその事に触れると、撫で回して話を逸らそうとしているから決定だろう。文句を言いたかったが住民の手前、王様がゴロゴロ言い続けるわけにもいかず、食堂をあとにする。


 夕暮れ時とあり、観光は明日にすると言って役場の建つ大通りを歩き、猫の街ただひとつの宿屋、旅館に案内する。

「「「いらっしゃいませ~」」」

 旅館の女将は、猫耳族の女性。それに加え、人族と猫耳族の女の子が仲居として働いている。服装は旅館なので、猫の街の特産にしようと思っている着物を着させた。
 現在は、他の街から来た輸送をしている軍人を練習相手にして営業している。

「女将。この五人はわしの友達にゃから、VIPルームに案内してやってにゃ」
「猫王様のご友人ですか!? わかりました。丁重におもてなしさせていただきます」
「そうだにゃ。練習の成果を見せてやってにゃ」
「はい! ささ。こちらへどうぞ」

 アイ達は猫耳女将に言われるままに靴を脱ぎ、中へ通される。そして中庭が見える廊下を通り、離れの引き戸を開け、皆を中に入れるとお茶を出して、猫耳女将は部屋から出て行った。

「いい雰囲気の庭だったわね」
「そっちの引き戸を開けると、庭が一望できるにゃ」

 アイの質問に答えていると、マリーが引き戸を開けて、庭を見てから振り返る。

「本当です。でも、ねこさんのお家に泊まるのかと思っていました」
「あ~。わしの家は、お堀のある大きにゃ建物なんにゃ」
「あの立派な建物だったのですか!?」
「だって王様にゃもん」
「そうでした! ねこさんは、王様でした!」

 うん。王様じゃよ。まったく見えないけど……みんなして、驚かなくていいんじゃぞ?

「わしの家の二階には双子王女が住んでいるから、みんにゃはその上で寝るのは嫌かと思ってにゃ」
「あ……王女様が、この街を統治してるんだったわね。たしかに、そんな所で寝ると緊張しそう」
「ここは落ち着きますけど、高いんじゃないですか?」
「まぁにゃ。女将には、一番安い料金にしてもらえるように言っておくにゃ」

 わしの発言に、エレナとルウが噛み付く。

「タダじゃないの!?」
「そんにゃわけないにゃろ!」
「食事付き!?」
「ルウには、大蟻を食わせてやるにゃ!」
「はぁ……」
「モリーも興味を持ってにゃ~」

 相変わらずのやり取りをしていたら、アイがある事に気付いて質問して来る。

「そう言えば、リータとメイバイちゃんはどうしたの?」
「二人はソウの街の別荘にいるにゃ」
「え……何か怒らして出て行ったの?」
「違うにゃ~」
「離婚の危機ですか!!」
「マリーは嬉しそうに言わにゃいでくれにゃ~」

 その後、わしの新婚生活を根掘り葉掘り聞いて来るアイ達から逃げ出し、コリスと共に別荘に帰るわしであった。
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