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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~

324 新しい仕事にゃ~

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「にゃ……マリーにゃ?」

 わしは無銭飲食をした少女の顔を見て驚く事となった。

「猫!?」

 少女も、わしを見て驚く事となった。

「マリーが、にゃんでこんにゃ所にいるにゃ? アイ達は一緒じゃないにゃ?」
「はあ? マリーって誰よ。私はチィアンファって名前があるわよ!」

 あ、そっくりさんなだけか。マリーが食い逃げなんてするわけないもんな。わしに驚くわけもなかった。

 わしが少女の名を聞くと、それを聞いていたメイバイがわしの服を掴む。

「シラタマ殿……」
「どうしたにゃ?」
「この人は……」

 メイバイが何か言い掛けたその時、チィアンファは突然立ち上がって大声を出す。

「メイバイ! あんたこんな所に居たの!! 奴隷の分際で、綺麗な服まで着て何してるのよ! さっさと私の食事代を立て替えて来なさい!!」
「………」
「何黙っているのよ! 早くしろって言ってるのよ!!」

 チィアンファの言い分に、この場に居た全ての者が不快に感じ、怒りをにじませる。

「チィアンファって言ったかにゃ? ちょっと黙ってわしについて来るにゃ」
「はあ? なんで猫なんかについて行かなきゃならないのよ!」
「……リータ。拘束して口をふさいでくれにゃ」
「はい!」
「何するのよ! 私は貴族よ!! 離しな……ムグッ」

 リータはわしの渡した縄でチィアンファを縛り、ハンカチで口を塞ぐ。その間、わしは住民に解散するように言い、店主にはポケットマネーで被害額を渡す。
 そうして、わしはチィアンファを担ぎ、役場に連行するのであった。


 役場の庭に着くとチィアンファを降ろし、ハンカチを取って座らせる。

「この無礼者~! 縄をほどきなさ~い!」
「はぁ……無礼にゃのはそっちにゃ」
「私は貴族よ! 平民や奴隷や猫が、喋り掛けるほうが無礼なのよ!!」
「いいかにゃ? 帝国は滅び、ここは猫の国にゃ。とっくに貴族にゃんて解体しているにゃ」
「この高貴な血がある以上、それが存在の意味よ!!」
「言ってる意味がわからないにゃ~。そもそも、王様のわしに意見をするだけで無礼なんにゃよ?」
「猫なんかが王様になるなんて、誰が認めるか!」
「みんにゃ認めているにゃ。その王様の妻を奴隷とののしったんにゃ。死罪にだって値するにゃ」
「はあ? メイバイが王妃……あはははは。奴隷のくせに、ふざけんじゃないわよ!」
「最後の言葉はそれでいいにゃ?」
「は? 最後??」

 わしは喋りながら腰に帯びた刀を抜く。

「わしの妻を罵ったんにゃ! 覚悟は出来ているのかと聞いているんにゃ!!」
「え……」
「自分は貴族だからと殺されないと思っていたにゃ? お前にゃんかの汚い血、真っ先にこの手で絶ってやるにゃ!!」
「ヒ~~~!」
「シラタマ殿!」

 わしは刀を大きく振りかぶる。すると、メイバイが間に入ってチィアンファを庇った。

「メイバイ! どくにゃ!!」
「嫌ニャ!」
「にゃんでにゃ!!」
「殺すほどの罪を犯していないからニャー! 私も殺してなんて言ってないニャー!!」
「いんにゃ。わしの気が収まらないにゃ~! リータ! メイバイをどかせるにゃ!!」
「は、はい!」
「リータ。離してニャー」
「シラタマ陛下の命令です。メイバイさん。我慢してください」
「そんニャ……」

 暴れるメイバイを、リータがチィアンファの前から離れさせると、わしは一歩進んでチィアンファの前で刀を振り上げる。

「いや~! 助けてください。申し訳ありませんでした。許してください。殺さないで~!!」
「もう遅いにゃ……」
「きゃ~~~!!」

 わしはそれだけ言うと、刀を振り下ろした……

「にゃ……気絶しちゃったにゃ」

 チィアンファの目の前で刀をピタリと止めると、チィアンファは泡を吹いて気絶してしまった。

「メイバイ……本当にこれでよかったにゃ?」
「はいニャ。ありがとニャー」

 わしとメイバイはにこやかに会話を交わす。何故、このような会話をしているかと言うと、ここまで連れて来る前に、念話で打ち合わせをしていたからだ。
 わしは穏便に済ますつもりだったが、メイバイを罵った事で、あの場に居た者は怒りにとらわれてしまった。なので、そのまま喋らすと恨みを買ってしまいそうだったので、口を塞いで連行する事にした。
 打ち合わせでは、メイバイに罰を決めてくれと頼んだら、脅す演技をしてくれと言われたので、リータと共に協力したわけだ。

「メイバイは、この子に嫌にゃ目にあわされていたんじゃなかったにゃ?」
「うん……でも、シラタマ殿と同じで、恨みを晴らすのはやめたニャ。私も恨みの連鎖を断つニャー!」
「メイバイがそれでいいにゃらいいけど、法律は法律にゃ。返せる物がなければ、一時、奴隷になってもらうにゃ」
「それは仕方がないニャー。命があるだけマシニャー」
「そうだにゃ」

 メイバイの意見にわしは同調し、ここで生活させるには目立ち過ぎたので、気絶している内にソウの街に転移する。
 ソウで目覚めたチィアンファは、命がある事に感謝して、メイバイに泣きながら謝罪していた。その姿を見て、どうして一人で猫の街に来たのかを聞くと、両親も護衛も長い逃亡生活を送っていたらしいが、獣に襲われ亡くなったとのこと。
 自分もここで死ぬのかと覚悟をしたらしいが生き残り、着の身着のまま歩いていたら、猫の街に到着したそうだ。

 情状酌量はあるので奴隷紋は勘弁してやろうかと思ったが、自分から縛ってくれと言われたので、奴隷紋の処置をする。
 その後、ホウジツに預けて出来る仕事を与えてもらい、刑の執行となった。

 しばらく経ってからホウジツにどうなったかと聞くと、秘書として頑張っているらしいが、口が悪いと愚痴を言われた。


 猫の街、初の犯罪は食い逃げといった軽犯罪であったが、住民にはきっちり罰を与えたと知らせ、チィアンファが街から消えているので、どれだけ重い罪になったのかと話題になっていた。
 かなり軽い罰だったのだが、いちいち教える事でもないだろう。幸せに暮らせる猫の街から追い出される心配があるなら、犯罪を犯す者は無くなるはずだ。



 それから数日……

 暑い日が続いていたので、暇潰しに避暑地へ転移。いや、リータとメイバイを地下空洞から連れ出す為に、マーキングしていた川にやって来た。

「獣を狩るのですね!」
「強い獣を見付けるニャー!」
「違うにゃ~!!」

 わしは、脳筋の二人の言葉をすぐさま否定する。

「じゃあ、なんで……」
「遊びに来ただけにゃ~」
「「え~~~!」」
「あんにゃ密閉された空間にいたら、頭がおかしくなるにゃ。たまには息抜きしてにゃ~」
「でもニャー……」
「久し振りに、二人の水着姿を見たいにゃ~」
「「もう! シラタマ(殿)さんったら!!」」
「にゃ~~~!!」
「モフモフ~~~」

 照れるリータとメイバイは、わしの背中を叩くが、勘弁してくれ。力加減をミスって川に飛び込まされた。リータだけでなく、メイバイまで馬鹿力になっているから、水切りの石みたいに水面をバウンドしてしまったじゃろ!
 わしの水切りを見たコリスもマネをしてスピードをつけて飛び込み、数度バウンドすると、どんぶらこと川に流されて行った……

「にゃ~! コリス~~~!!」
「あはは~。モフモフ~」

 わしは慌てて、笑うコリスを水魔法で救出し、岸へと戻る。そうして走り出そうとするコリスを押さえ、リータ達に水着を渡す。
 わしの着替えている間に、コリスはまた水切りをしてどんぶらこと流されて行きやがった。また救出に飛び込み、岸に戻ると二人の水着姿にお世辞を言い、楽しく遊ぶ。
 それと同時に水魔法の勉強。魔力で作るには効率が悪いが、近くに水があるのだから操作するには持って来い。皆、何度も水の玉や刃を放ち、水の上を歩いたりしている。でも、水で猫を作って攻撃の的にしないで欲しい。
 遊び疲れるとランチ。魔力も減っていたらしいので、吸収魔法で回復させる。


 食事も終わり、皆が静かになったところで、わしは仕事に取り掛かる。皆から少し離れた水際まで行くと、川にゆっくり入って調べる。

 この辺でいいかな? 探知魔法オーン! うん。さっぱりわからん。小魚じゃ小さ過ぎて、ゴミと変わらないのう。致し方ない。

 わしは土魔法で囲いを作って狭める。その中で、土魔法と布で作った網を使い、岸辺の草をガサガサと攻める。
 何度か網を入れると小魚がバケツに溜まりだす。一通り小魚が溜まると、水草を根っこごと入れて場所を変え、バケツも代えて作業を続ける。


 ガサガサと作業を続けていると、魔力の回復の終わったリータ達がやって来た。

「なにをしているのですか?」
「水草と魚を取ってたにゃ。これにゃ」
「魚ニャ!? ……ちっさいニャー」

 メイバイは魚に反応したが、バケツの中身を見てガッカリした。

「こんなの食べられないニャー」
「別に食べる為にとっていたわけじゃないにゃ」
「では、なんでこんな事をしているのですか?」
「戦争の時に、大きな穴を掘ったにゃろ? こないだその湖に行ったら虫が湧いていたんにゃ。このままでは水が汚れてしまいそうにゃから、浄化装置にならないかにゃ~と」
「そんなのでなるニャー?」
「たぶんにゃ。ここらの水草も移植するから、上手く行けばなるはずにゃ」
「でしたら、私も手伝います!」
「私もニャー!」
「モフモフ~」
「ありがとにゃ。それじゃあ、コリスは……」

 リータとメイバイは小魚集め。大きなコリスには似合わないので水草集めをさせる。この日はそこそこに集まると、湖に転移して移植を行った。


 それから数日、王と王妃の仕事は、湖とお堀の水質管理となり、双子王女から、王のやる仕事とは思えないとブツブツ言われた。
 ワンヂェンもわし達がやっている事に興味を持ち、連れて行けと「にゃ~にゃ~」うるさいので、川まで連れて来てやった。

「すごいにゃ! おっきにゃ川にゃ~!!」
「……どうして人は、水を見ると走りたくなるんにゃろ?」
「さあ? 私に言われましても……」
「ワンヂェンちゃんは猫ニャー!」
「「「にゃ!!」」」

 走り去るワンヂェンを止めるのが面倒になり、冷ややかな目で見ていたが、ワンヂェンがどんぶらこと流されてしまい、それどころではなくなって救出に向かう。
 わしは流されるワンヂェンのそばまで水を走り、手を伸ばして引き上げると、それと同時に何かがついて来た。

「にゃ~~~!」
「にゃ!? ワンヂェン、暴れるにゃ!!」

 ワンヂェンはついて来たモノに足を噛まれかけて悲鳴をあげる。わしは冷静に刀を抜いて、その生き物の頭に突き刺して引き上げた。

 ワニ? ノーマルなワニじゃな。ここいら一帯で、たいした獣を見掛けなかったから、周りの確認を忘れておった。ひとまず、探知魔法オーン!
 あら。囲まれておる。ここでは戦い難いし、岸に戻るか。

「ワンヂェン。ちと飛ばすにゃ!」
「う、うんにゃ!」

 わしはワンヂェンを担いで水上を走り、リータ達の待つ岸に逃げ帰るのであった。
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