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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
299 コリスとワンヂェンと闘うにゃ~
しおりを挟むさっちゃんの我が儘を聞いた翌日、女王とさっちゃんのモフモフロックから抜け出そうと頑張っていたら、侍女さんが起こしに来てくれたので、なんとか抜け出す事が出来た。
その後、リータとメイバイに櫛で毛並みを整えてもらい、朝食を済ます。そして、リータ、メイバイ、コリス、ワンヂェンを連れて家を出る。
「待ちなさい!」
いや、女王から待ったが掛かったので、バスに乗って移動する。同乗者は、リータ達に加え、女王とさっちゃんと兄弟達。護衛のソフィ達は馬車に乗り込み、バスを誘導してくれている。
どうやらわし達が歩くと、騒ぎが起こると思ってバスに乗せたっぽいが、女王はコリスソファーでだらしない顔をしている。
アイ達も同時に家を出たけど、おそらく目的地は同じだろう。
そしてやって来ましたハンターギルド。今日はコリスとワンヂェンの昇級試験があるので連れて来たのだが、満員御礼ありがとうございま~す! って、なんでやねん!!
「スティナ! またやりやがたったにゃ~!!」
「いやん。怒らないで~。最近、収益が減って困っていたのよん。慌てて告知したけど、満員になってよかったわ~」
くそ! まったく詫びる素振りがない。まぁ今回見世物になるのは、コリスとワンヂェンだけじゃし、女王の所でゆっくりしていよう。
わしは踵を返してスティナから離れようとするが、尻尾を掴まれてグンッとなる。
「急に尻尾を掴むにゃ~!」
「ごめんごめん」
「……まだ、にゃにか用があるにゃ?」
「コリスちゃんって強いんでしょ? 相手が見つからないから、シラタマちゃんが見てあげてよ」
「それにゃら魔法だけ見たらいいにゃ。二人とも得意だから、それでCランクになれるにゃ」
「え~~~! それじゃあ盛り上がらないじゃな~い」
「うるさいにゃ~」
「ここは仕方ない……体で払ってあげるわ」
「にゃ! 寄るにゃ! わかったから近付くにゃ~~~!!」
スティナのセクハラを回避しようと仕事を受けたのに、挟まれて訓練場の中央に連行されるわし。どこからか殺気が飛んで来るからやめて欲しい。ホンマホンマ。
と、アホなやり取りをしていると試験が始まり、コリスとワンヂェンが不安そうな顔をしているので、スティナの豊満な胸から抜け出してコリスを撫でまくる。
ワンヂェンも撫でてやろうとしたら、引っ掻かれた。これだから野良猫は……
そうこうしていると、新人ハンターは試験官に審査され、数人がEランクに上がったようだ。
それが終わると次はワンヂェンの出番が来て、何故かわしが相手をする事となった。わしとワンヂェンが中央に向けて歩くと、二匹の立って歩く猫の登場で、場内は沸き上がる。
「シラタマ~。恥ずかしいにゃ~」
「わしも恥ずかしいんにゃから、我慢するにゃ~」
「うぅぅ。わかったにゃ。でも、にゃにしたらいいにゃ?」
「わしを、魔法で攻撃してくれたらいいにゃ。どんにゃ危険にゃ魔法を使っても、わしがガードするから、気兼ねなくやってくれにゃ」
「う~ん……それじゃあ、一矢報いられるようにやってみるにゃ~」
「おう! がんばるにゃ~」
話が終わると、わしはワンヂェンが闘いやすいように距離を取る。そして、試験官のハンターの開始の合図で、ワンヂェンから魔法が放たれる。
風の刃入りの小鳥が二匹……撃ち落としてもいいんじゃが、それでは試験にならないか。
わしは二匹の小鳥が飛んで来ると、さっと大きく避ける。すると小鳥はカーブを描き、わしを追跡する。その魔法を見た観客席からは、大きな歓声があがっていた。
さすがワンヂェン。やはり自由に動かせるようになったか。リータじゃ、こうも上手くいかん。維持に操作に魔力を持っていかれるからのう。
そろそろ次が来るかな?
わしが小鳥とじゃれあう猫が如く、ぴょんぴょん避けていると、ワンヂェンの目が変わる。その直後、ワンヂェンの【風猫】がわしに直進して来た。
わしは予想していたので簡単に避けるが、空からは小鳥が近付く。魔法で出来た三匹の生き物を避けているだけでは、ワンヂェンの攻撃はやまないので、わしは接近戦に持ち込もうとする。
しかし、ワンヂェンはそうはさせまいと、【エアカッター】を放ちつつ、小鳥と風の猫で行く手を阻まんとする。
わしに掛かれば、そんなモノは簡単に抜けられるが、少し様子を見る為に、【白猫刀】を抜いて【エアカッター】を斬り裂く。
また、観客席から大きな歓声があがるが、ワンヂェンの顔に疲労が見えたので、瞬く間に小鳥と風の猫を斬り裂いてやった。
「勝負ありかにゃ?」
「もう無理にゃ~。強すぎるにゃ~!」
「にゃはは。わしは別格だからにゃ~。でも、ワンヂェンも十分強いにゃ。自信を持つにゃ」
「そうにゃんだ……シラタマ王。胸を貸してくれて、ありがとうございましたにゃ~」
こうしてワンヂェンの試験は終わり、次のコリスを手招きして呼び込む。
「モフモフとたたかったらいいの~?」
「そうじゃ。遠慮はいらん……と言いたいところじゃけど、わし達が本気を出すと、ここがえらい事になるから、打撃だけにしようか」
「う~ん……わかった~」
コリスにはルールを決めて、試験官に開始の合図を頼む。コリスは開始の合図を聞いても小首を傾げるだけだったので、わしが念話で「来い!」と言って、試験が始まった。
コリスの初撃は体当たり。頭を前に、凄い速さで突撃して来た。わしは両手の肉球を前に優しく受け止めるが、体格の差は歴然。電車道で、あっと言う間に壁まで追いやられる。
このままでは壁に大穴が開いてしまうので、コリスの頭を掴んだまま強引に進路を変える。そうして訓練場を一周したところで、ようやくコリスは止まった。その時、逃げ惑うハンター達がいたけど、怪我はないようだ。
コリスの次の攻撃は、手と尻尾を使ったリス拳法。パンチ、尻尾とわしを襲う。
リスパンチを受ければ、回し蹴りならぬ、回し尻尾が来て、これも肉球ガード。なかなかいい攻撃が来ないので、簡単なアドバイスをしながら攻撃を受ける。
その衝撃音は大きく、観客は固唾を呑んで見守っているようだ。
わしがアドバイスしてもクリーンヒットにならないので、コリスはムキーとなって、めちゃくちゃな攻撃をして来る。二本の前脚と、二本の尻尾の連撃……リス百烈拳がわしを襲う。
この攻撃は、森での修行時代に見た事があったが、尻尾が二本に増えた事で手数と速度が上がり、ビックリして動きが遅れる。
受けるだけでは、いいのをもらいそうになり、体勢を整える為に大きく飛んで避けざるを得ない。だが、コリスもわしを追い、リス百烈拳は続く。
わし達は縦横無尽に訓練場を動き、かかと落としならぬ、尻尾落としを何度も避けたせいで、地面に亀裂や穴が出来上がる。
そんな素早い攻撃を捌いていると、辺りが騒がしくなり、大きな声が聞こえて来た。
「ストップ! ストーップ! シラタマちゃん。もうやめて~~~!!」
ん? スティナが何か言っておるな。コリスも息が上がって来たみたいじゃし、止めるか。
わしはコリスのリス百烈拳をすり抜け、顔に飛び付き、よくやったと褒めちぎって撫で回す。すると、コリスは幸せそうな声を出して動きを止めた。ついでに、おかしとジュースもあげたからご機嫌だ。
よし。コリスのご褒美は、こんなもんじゃな。たしか、さっきスティナの声が……
わしはスティナを探すべく、辺りを見渡す。
あ……やっちまった。
スティナの発見より先に、悲惨な現状が目に入る。訓練場の地面は見る影もなくボコボコになっており、辺りは土煙で覆われていた。
わしが辺りの景色に呆気に取られていると、真後ろから殺気を感じて振り向く。
「シ~ラ~タ~マ~ちゃ~~~ん」
「にゃ!? ス、スティナさん? 怖いですにゃ~」
「なんてことしてくれたのよ!」
「直すにゃ! 直すから、怒らにゃいで~~~!!」
試験は終了。コリスとワンヂェンは、無事、Cランクとなり、リータとメイバイに付き添ってもらって、受付で手続きを行う。
観客は、初めて見る白い獣の闘いに最初は戸惑っていたらしいが、帰りには盛り上がり、コリスの勇姿を称えていた。
その傍らでは、一匹でせっせと地面を直す、白い猫の姿があったとさ。わしがやりたくてやったわけじゃないのに……
その後、ハンターギルドで手配していたお金を下ろし、商業ギルドにも寄って、お金を下ろす。その帰りの車内では、女王にもやり過ぎと説教を受けて、無言で帰宅するのであった。
家に帰るとエミリの美味しい昼食を食べながら説教の続きを聞き流し、食事が終わると、ようやく女王とさっちゃんと愉快な仲間達が帰って行った。
ひとまず、腹が膨らんで眠そうにしていたコリスを寝室にて寝かせ、この間にわしはひと仕事する。
ガシッ!
家から出掛けようとしたら、リータとメイバイとマリーに尻尾を掴まれてしまった。
すったもんだあったあと、マリーと手を繋いで街を歩く。コリスと一緒じゃないから怖がられる事はないが、やたら「ペット、ペット」と言われてしまった。どうやら、マリーを連れて歩いている事が裏目に出たようだ。
恥ずかしがるマリーと王都を出ると、お姫様抱っこで走り出す。そして、初心者の森に入っても速度を落とさず、マーキングしていたイグサのポイントで【鎌鼬】連発。
切れたイグサは次元倉庫に入れて、その他に数本引っこ抜くと、根が乾かないように処理して小休憩。チョコとお茶を取り出し、ぺちゃくちゃと世間話に花を咲かせる。
休憩が済めば、マリーを抱いてひた走る。王都に入れば手を繋ぎ、帰宅するとイグサの移植。それと、次の仕事。
白い巨象の皮を取り出したら、【光一閃】で薄くスライス。皆の騒ぐ声を無視して、一塊にすると居間の隅に置いてフレヤの帰りを待つ。
それから小一時間後……どうやらわしは、疲れて眠っていたようだ。腹もへっていたのであくびをしながら目を開くと、全裸で皆に撫でられていた。
「にゃ、にゃんで~! わしの服は、どこにゃ~~~!!」
「「「「「まぁまぁまぁまぁ」」」」」
誰も服を返してくれない。ただ、撫で回すだけだ。
そうして餌付けされながら、夜は更けて行くのであったとさ。
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