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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
295 世間話をするにゃ~
しおりを挟むハンターギルドに、ワンヂェンとコリスを連れ込んだら質問攻めにあった。仕方なく説明するが、なかなかやまない質問に辟易したので、さっちゃんを召喚する。
「この子は東の国の国賓です! 剣を向けるような事があれば、わたくし第三王女サンドリーヌが女王陛下に成り代わり、罰を与えるので、重々、肝に銘じなさい!!」
さっちゃんの言葉に、ハンター達は口を閉ざす。わしは、コリスに乗ってなかったら、もっとかっこよかったと思ったが、口に出さずに侘びを入れる。
「さっちゃん。権力を使わせてごめんにゃ~」
「ううん。コリスちゃんが剣を向けられるよりましよ」
「それはありがとにゃ~」
「だって、かわいいも~ん」
う~ん……かわいいから権力を使ったの? そこは、コリスに手を出したらキョリスが怖いからではないのか? まぁ静かになったからいっか。
コリスとさっちゃん達には、広い場所でくつろいでもらい、わしとリータとメイバイで、買い取りカウンターのおっちゃんに声を掛ける。
「おっちゃん。久し振りにゃ~」
「久し振りだな。しかし今度は、どえらいモノを連れて来たんだな」
「コリスは売り物じゃないからにゃ?」
「ああ。わかっている。女王様に楯突くわけがないだろう」
女王の親友の、わしの時はしつこかったのに……さっちゃん効果か? さすがに目の前に王族がいたら、口には出来ないか。
「また大蟻のクイーンを狩って来たけど、買うにゃ?」
「クイーン!? どこに居たんだ!」
「東の国じゃないから、安心するにゃ」
「そ……そうなのか?」
「山向こうにいっぱい居るみたいにゃ。これからも、狩ったら持って来ようと思うけど、高く売れるのかにゃ?」
「ああ。貴族の間では、入荷を待っている者も居るぞ。でも、白い巨象には勝てないがな。今日は、巨象は無いのか?」
「そっちも売るにゃ。大蟻と黒蟻もあるから、買い取れるだけ買ってくれにゃ」
「おお! わかった」
わしはおっちゃんの指示する場所に獲物を出していき、世間話を軽くする。
どうやらわしが居ない間、王都のギルドは収獲量が減り、物珍しい獲物も見掛けず、おっちゃんは暇していたようだ。なので、長期間の旅は控えて欲しいと言われたが、王様なので難しい。会釈だけして、受付カウンターに向かう。
受付カウンターに行くと、手前の受付嬢に頼もうとしたら、ティーサが物凄い形相で手招きするので、わし達は苦笑いでティーサの元へ行く。
「ほい。報告書と緊急依頼の完了書にゃ~」
「なんで別のカウンターに持って行こうとしたんですか!」
「空いてて近かったからにゃ~」
「猫ちゃん担当は、私なんですからね!」
そんなの決まっていたのか? たしかにティーサに頼む事と、当たる率も高かったけど、他の人に受付をしてもらった事もあるぞ?
「まぁまぁ。早く処理してにゃ~」
「もう! 猫ちゃんが居ない間、大変だったんですからね!!」
ティーサは作業をしながらも、勝手に世間話をして来る。どうやらわしが居なくてギルドに活気が無くなり、難しい依頼を受ける人も居なかったので、収益が減っていたとのこと。
そのせいでスティナの機嫌が悪く、酒にも付き合わされ、大変だったらしいけどしらんがな。
ほとんどが愚痴だったから聞いている振りをしていたが、言葉を詰まらせて目に涙を溜め、わしの顔をジッと見つめるので何事かと思い、耳を傾ける。
「でも……生きて帰って来てよかったです~。リータちゃんもメイバイちゃんも、こんなに長く音沙汰が無いから心配だったんですよ~」
あ……そう言う事か。ハンターなんて、危険な仕事じゃ。ギルドの受付をしていれば、帰って来ない者もいたんじゃろうな。
仲の良かった者もいたじゃろう。そんな背中を見続けて、送り出していたんじゃな。
「すまなかったにゃ。でも、わしは強いから、絶対に生きてここに帰って来るにゃ。それだけは約束するにゃ!」
「猫ちゃん……」
「そうですよ! シラタマさんは、必ず帰って来ます。もちろん私もです!!」
「私もニャー! 心配してくれてありがとうニャー!!」
「リータちゃん……メイバイちゃん……うぅぅぅ」
わし達の力強い言葉に、ティーサは涙を流す。その涙に、わしももらい泣きしてしまったら、リータとメイバイに笑われてしまった。
その声に誘われ、ティーサも泣きながら笑顔に変わり、わしの渡したハンカチで涙を拭う。でも、テンプレの鼻チーンはやめて欲しかった。
そうして復活したティーサは、質問を投げ掛ける。
「それで、隣のワンヂェンちゃんは、ハンターになるのですか?」
「にゃ~? にゃ!? 居たにゃ!?」
「買い取りから、ずっと居たにゃ~!」
「にゃんか目が赤くにゃい?」
「にゃんでもないにゃ!!」
なんじゃ焦って……この反応は、ワンヂェンまでもらい泣きしておったのか? まぁいまはその事はいいか。
「ワンヂェンも、ハンターになりたいにゃ?」
「狩りはあんまりしてこなかったからにゃ~」
「大蟻の時は戦力になっていたし、やろうと思えばやれるんじゃないかにゃ?」
「う~ん……」
「でしたら、登録だけしておいたらどうですか? シラタマさんが認めているのなら、お強いんですよね?」
「まぁそこそこは魔法は使えるかにゃ~」
「ワンヂェンより、コリスのハンター登録をしたいんにゃけど……」
「うっ……コリスちゃんですか。私の一存ではちょっと……」
「まぁリスだもんにゃ~」
「シラタマだって猫にゃ~!」
「わしの事はいいにゃ~!」
「にゃ~にゃ~」と喧嘩が勃発すると、二人してリータとメイバイに抱きかかえられて、力業で止められた。
そうしてわし達の発言で、ワンヂェンが猫であった事を思い出したティーサが、やっぱり登録は出来ないと言ったら、ワンヂェンが落ち込んだ。
「別になりたくなかったにゃ~」とか言っていたが、強がりっぽいので、本当になりたいなら女王に頼んでやる事にした。コリスのついでだから、猫の一匹や二匹、増えたところでどうって事はないはずだ。すでに猫はいるからな!
その後、スティナが呼んでいる事を思い出したティーサに急かせれ、わし一人でギルマスの部屋にお邪魔する。
「ほい。コーヒーにゃ~」
「あ、ありがとう……」
部屋に入ったら仕事中だったので、コーヒーを淹れてやったのに微妙な顔をされた。納得は出来ないが、そのまま仕事中の机に座り、作業を見つめる。
「……なに? すんごくやり難いんだけど……」
「あ、ごめんにゃ。ちょっとギルマスの仕事に興味があってにゃ」
「シラタマちゃんは、ギルマスになりたいの?」
「いや~……スティナにはいつかバレそうだし、本当の事を言おうかにゃ」
「本当の事ってなによ……」
「絶対に、人に言わないでにゃ?」
「う~ん……ま、シラタマちゃんの秘密なら面白そうだし、黙っていてあげるわ」
「さすがギルマスにゃ~!」
わしはスティナを褒めながら机から飛び降り、正面に立つと右肩を出して凄む。桜吹雪なんて描かれていないけど……
「山向こうの国、猫の国の王様とは、このわし……わしがシラタマ王にゃ~!」
「え……ええぇぇ~!」
ふふん。大絶叫じゃな。ドッキリ成功じゃ。
「……なんてね。知ってた」
「にゃにぃぃ~~~~~~!!」
わしのほうが大絶叫じゃ!
「なんで驚くのよ?」
「いや……にゃんで知ってるにゃ?」
「だって……猫の国でしょ?」
ああ! わしにピッタリですよ~だ!!
「ワンヂェンちゃんって可能性はあったけど、シラタマちゃんが、もったいぶって言うから丸わかりよ」
「じゃあ、王都のみんにゃも知ってるにゃ?」
「さぁね~……戦争に参加したって知ってる人ぐらいじゃない?」
「そうにゃんだ……」
隠しても、隠し切れない、猫問題……。一句読んでいる場合じゃなかったな。
「こっちでは普通に接して欲しいんにゃけど、無理かにゃ~?」
「私は普通に接するわよ~」
「にゃ、にゃんですか? 座っていてくださいにゃ」
「そんなこと言わずに~。ふぅ~」
「にゃ!? 寄らないでくださいにゃ」
「ほら~」
「ゴロゴロ~」
わしは逃げる事も出来ずに、スティナに挟まれた。いや、逃げる事はせずに、抱かれてしまった。
逃げると、リータ達にある事ない事言われそうな予感が働いただけで、けっしてエロイお姉さんに抱かれたいわけではない。ホンマホンマ。
スティナはわしを抱きながら世間話をして来るが、収益が減っただとか、評価が下がっただとか、男が寄り付かないだとか、しらんがな。
愚痴に拍車が掛かると抱き締めがきつくなって、挟まっているわしは息が出来ないからやめて欲しい。
「だから、普通に接するからハンターは続けて~」
「ムゴムゴ~」
「お願いよ~」
「ムゴムゴ~!!」
喋れんのじゃ! いい加減、離してくれんかのう。
わしがムゴムゴ言っていると、ようやく胸に埋もれているわしに気付いて離してくれるが、膝に乗せたまま降ろしてくれない。仕方がないので、そのまま会話を続ける。
「いちおうは、続けるつもりにゃ」
「本当!?」
「ただ、仕事が忙しいから、こっちの活動頻度は低くなるにゃ」
「え~~~!」
「しょうがないにゃろ~? その代わり、白と黒の獣が狩れたら、優先して卸すからにゃ。あと、難しくてどうしようもない依頼にゃんかは、相談してくれたら場合によっては受けるにゃ」
「それならいいか……」
「あ! キャットカップは、もうやらないからにゃ?」
「なんでよ!」
「だって、最後にやった時は、それほど盛り上がってなかったにゃろ?」
「たしかに……賞味期限切れね」
賞味期限? もうわしは食べ頃ではないのか? まぁ目新しさが減ったのだから、当たらずと言えども遠からずか。
「それでスティナの用件って、にゃんだったにゃ?」
「シラタマちゃんがハンターを続けるかどうか、確認したかったのよ」
「それだけにゃ?」
「大事な事よ! 辞めるつもりなら、私の体を使ってでも止める覚悟だったんだからね!!」
「もう使っているにゃ~」
「あ……」
こうして、スティナのハニートラップは回避できたが、結局、セクハラを受けながら世間話は続くのであった。
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