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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
291 帰宅にゃ~
しおりを挟む玉座の間に大絶叫が響く中、わしはコリスを撫で回して機嫌をとる。そうしていると、さっちゃんが復活してわしと一緒に撫で回し、その少しあと、女王も復活する事となった。
「シラタマが、王で間違いないのか?」
「そうにゃ。オッサンにはちゃんと説明したけど、聞いてなかったにゃ?」
「キョリスの娘と、王が居るとは聞いたけど……」
「わしは驚かそうとしていないからにゃ? だから怒るにゃら、情報を正確に伝えなかったオッサンにしてにゃ?」
「王になっても、怒られる心配しているのね……わかった」
そりゃ、リータやメイバイにあらぬ疑いを掛けられて怒られておるからな。これ以上、怒られたくないってもんじゃ。
とりあえず、ようやく話が出来るようになったか。
「それで、にゃんでこんにゃに騎士が居るにゃ?」
「それは、コリスと他国の王が同席するから、必要な自衛だ」
「コリスにゃらおとなしいから大丈夫だし、女王の命は親友のわしが、どんにゃ刺客が来ても守ってやるにゃ」
「……そうね。親友だったわね」
ん? わしの耳がおかしいのか? またペットって聞こえたような……
「出来たら、もっと落ち着けるところで話したいにゃ~」
「わかった。しばし待て」
女王が近くに居た初老の男に耳打ちすると、その男の指示でやって来た侍女の案内で別室に移動させられる。ちなみにノエミは、王のオッサンに呼び止められ、その場に留まった。
でも、さっちゃんは残らなくてよかったの? わしとコリスを交互に撫でているけど……
ひとまず落ち着ける事となったので、皆に声を掛けてあげる。
「リータ、メイバイ。大丈夫にゃ?」
「緊張しました~」
「私もドキドキしっぱなしだったニャー」
一度もわしの心を読まなかったのは、緊張していたからかな?
「ワンヂェンはどうにゃ?」
「うちも緊張したにゃ~。あの女王様? 威厳があって、にゃんだか怖そうな人だったにゃ~」
「まぁこの国で、一番偉い人だからにゃ~」
わしがワンヂェンから感想を聞いていると、食い付く者が居る。
「にゃ? にゃ? にゃ~??」
そう。さっちゃんだ。口調に引っ掛かったようだ。
「ワンヂェンちゃんも、シラタマちゃんと一緒で『にゃ』が付くんだ!!」
「まぁ猫だからにゃ」
「シラタマも猫にゃ~!」
「かわいい!!」
「「にゃ!? ゴロゴロ~」」
わしとワンヂェンが言い争いに発展し掛けると、さっちゃんが抱きつき、同時に喉が鳴ってしまった。
わしはさっちゃんとしばらく会っていなかったから好きなようにさせ、ワンヂェンはどうしていいかわからずに、好きなようにさせてしまう。
「コリスは大丈夫か?」
「う~ん。わかんな~い」
「そっか。もう少し我慢してな? たぶんこのあと美味しい物が食べられるからな」
「おいしいの!? がまんする~!!」
やはりチョロイ。わしの頭をモグモグするのはやめて欲しいが……。しかし、みんな緊張しているみたいじゃし、今日は長居しないほうがいいかもな。
コリスがわしの頭をモグモグしていると、侍女が入って来て悲鳴をあげた。どうやら食べられていると勘違いしたようだ。なので、大丈夫だからと言って女王の待つ場所へ案内してもらう。
昼も近付いていたので思った通り王族の食堂に案内され、王族に見守られながらわし達は侍女の指定した席に着く。コリスは椅子を引いてもらっていたけど、「デカイから床でいいよ」とアドバイスしてあげた。
いちおう皆が席に着くと料理が運ばれ、会食が始まるが、コリスの前の料理が一瞬で消えていく。もちろん頬袋に溜めてやがる。
さっちゃんは、コリスに餌を与えないで! リータ達も緊張して食べれないからって、餌を与えないで!!
コリスのおかげか、厳かになる予定の会食が、笑い声の絶えない会食になってしまった。もうコリスの世話は、リータ達に丸投げし、わしはモグモグしながら女王と話す。
「真面目な話がまったく出来なくてすまないにゃ」
「本当に……何から話をしていいかもわからなかったわよ」
「にゃはは。今日は勘弁してくれにゃ」
「まぁコリスはシラタマに懐いているみたいだし、危険はないみたいね」
「そうにゃ。かわいいにゃろ?」
「ええ。私も抱いてもらってもいいかしら?」
「あとで頼んであげるにゃ」
わしと女王が権威を脱いで話をしていると、さっちゃんがわしを膝に乗せて、会話に入って来た。
「やっぱり、シラタマちゃんのモフモフが一番好きかも?」
「食べづらいにゃ~」
「久し振りに会ったんだから、いいじゃな~い」
「いいけど、食事の邪魔しにゃいでくれにゃ?」
「また食べ物~? ホント、シラタマちゃんは変わらないな~」
「さっちゃんもにゃ~」
わしはゴロゴロモグモグと話を再開させようとしたが、さっちゃんがまだ質問をして来る。
「それで、いつもの服装と違うけど、どうして?」
「いちおう王様だからにゃ。偉く見える様に、豪華な服と一緒に権威を着てみたにゃ」
「かっこよくはなったけど、いつもとたいして変わらないよ」
まぁ猫じゃもんな。何を着ても、猫が服を着せられているのと変わらん。はぁ……
「それにリータ達も綺麗な服を着ているのね。わたしにもちょうだい!!」
「う~ん……」
「ちょうだいよ~」
「揺らすにゃ~。ごはんがこぼれるにゃ~」
「また食べ物の心配する~」
「にゃったく……さっちゃんにも用意していたにゃ」
「本当!?」
「さっちゃんの誕生日に、サプライズで渡すつもりだったんにゃ」
「あ……ごめ~ん」
「いまは手元に無いから、また今度にゃ?」
「うん!」
これでおねだりモードは終わったかな?
「肌触りもいいし、綺麗な服ね~。リータ達にも、誕生日プレゼントであげたの?」
「そのつもりで作っていたんにゃけど、誕生日の前に渡す事になってしまったにゃ」
「どうして?」
「即位式と結婚式で使ったにゃ」
「ふ~ん。即位式なら、綺麗な服で出なきゃだね……へ?」
「どうしたにゃ?」
「シラタマちゃん! 結婚したの!?」
「あ……報告が遅くなったにゃ。この度、晴れて二人と夫婦になったにゃ」
「「「「「ええぇぇ~~~~~~!!」」」」」
また大絶叫じゃ。今度は人数が少ないのに、さっきより声がデカくね?
その後、さっちゃんだけでなく、ゴシップ好きの双子王女や女王からも馴れ初めを聞かれ、わしとリータとメイバイはたじたじ。
戦争と関係ない事ばかり話をして、今日は気持ちを落ち着かせる為に、明日、城に顔を出すと言って仕切り直す事にした。
女王もコリスに抱きつけたし、オッサンにあとの事は任せたから大丈夫だと思うが、報告漏れで、女王に怒られる事を望む。
コリスは食べ過ぎて動けなかったので、リータ達と一緒に担いでバスに乗せると、騎士の先導のもと、夕暮れ前に我が家に辿り着いた。
バスから降りると野次馬が多かったが、無視してコリスを担いで降ろし、バスは次元倉庫に仕舞い込む。コリスは寝ていて動かなかったから、大きなぬいぐるみと勘違いされたみたいなので、白黒猫騒動しか起きなかった。
家の門に人が集まって少しうるさいが、手の空いているワンヂェンに家の鍵を開けてもらい、先に入ってもらう。
すると……
「「「「「黒猫!?」」」」」
驚いた顔のアダルトフォー、プラス、エミリに出迎えられる。
「シラタマちゃん。久し振り……」
「シラタマさん。少し痩せました?」
「猫君。真っ黒よ?」
「日に焼けたのか?」
「ねこさん??」
驚いた皆は、スティナ、エンマ、フレヤ、ガウリカ、エミリと順番に、不思議そうに声を掛ける。
「うちはシラタマじゃないにゃ~!」
「え? 口調も一緒じゃない。シラタマちゃんでしょ?」
「違うにゃ~。シラタマ、早く入って来てにゃ~」
「ちょっと待ってにゃ~」
「「「「「え……」」」」」
わし達が玄関からコリスを入れようともたもたしていたら、ワンヂェンが困った声を出す。仕方がないので、わしは土魔法を操作して引き戸を外すと、コリスを担いで玄関に入る。
「ちょっとそこを空けてくれにゃ」
そして、玄関に立っていた皆を奥に移動させると、そこにコリスを置いて挨拶をする。
「ただいまにゃ~」
「「「「「毛玉??」」」」」
どうやらコリスを大きな毛玉と勘違いし、わしが毛玉になったと勘違いし、毛玉が喋っていると勘違いしたっぽい。
このままでは会話もままならないので、アイ達を呼んでワンヂェンの相手をさせ、わし達は縁側からコリスを押し込む。
居間には大人数が集まったが、テーブルをどけてくれていたので、全員、余裕で座る事が出来た。
「さてと~。みんにゃ、久し振りにゃ~」
「え、ええ……」
わしの挨拶に、スティナ達は微妙な顔をする。
「どうしたにゃ?」
「なにからツッコンだらいいかしら?」
「もう今日は説明し疲れたから、明日にでも、リータに聞いてくれないかにゃ?」
「「「「「出来るわけないでしょ!」」」」」
スティナの質問は軽くいなそうとしたが、もちろんわしの意見はすかさず却下され、ひとまずコリスの説明をしてみたら、もれなく固まった。
皆が丸くなって毛玉状態のコリスを青い顔で見るので、このままではいけないかと全員抱きつかせてみたら、だらしない顔になっていた。
その後、エミリを連れてキッチンに行き、味噌と米を試食させるとブツブツ言い出した。何か美味しい物を作れるかもしれないので、任せると言ってルウを手伝いに派遣する。
そして、リータ達と着替えに寝室に入り、わしゃわしゃされてから居間に向かう。
居間に戻ると、数人コリスに埋もれていたが、そんなに気に入ったのか?
とりあえず埋もれている人は無視して、スティナに声を掛ける。
「留守の間、家を管理してくれてありがとにゃ~」
「ほとんど孤児院の子がやってくれたから、それほどでもないわよ。でも、王殿下に呼び出された時は、何かやらかしたかと焦ったわ~」
「急だったからにゃ。オッサンに頼むしかなかったんにゃ」
「それで、殿下から少し聞いたけど、戦争に参加してたんだって? 無茶するわね」
「まぁにゃ。にゃんとか無事帰って来れたにゃ。にゃははは」
「よく笑っていられるわね」
わしがスティナに呆れたような目で見られていると、アイが会話に入って来る。
「ホントに……フェンリルなんて化け物だけでも、私達は心臓が飛び出しそうだったわよ」
「そうだったにゃ? アイ達も物怖じせずに、立派に戦っていたにゃ~」
「それは猫ちゃんが居てくれたからよ。目の前で見た時には、みんな恐怖していたわ」
「ふ~ん。ぜんぜん気付かなかったにゃ~」
「私達は猫ちゃんと違うのよ。コリスちゃんを見た時だって……」
「あ! そうにゃ。アイ達は先に着いていたんだから、コリスの説明もしてくれにゃ~」
「説明しようとしたんだけどね~……どう説明していいかわからなかったのよ。信じてもらえないだろうし」
猫が立って喋っているんだから、コリスぐらい信じられるんじゃないのか? いや……今日、コリスを見た人は畏縮しておったし、見るまでは信じたくないのかもな。
わし達が話をしていると、エミリが料理が出来たと呼びに来る。するとコリスはいい匂いに目を覚まし、「ホロッホロッ」と言って楽しみに待ち、わし達は手分けして料理を運ぶ。
料理が揃えば、宴の始まりだ。
今日の酒の肴は、味噌を使った美味しい料理と、わし達の武勇伝。
フェンリル、パンダ、一万人の帝国軍。どれも信じられないような話なので、質問が飛び交う。でも、立ち会った者も居るし、何より平和がここにある。
長い武勇伝が続くと酒も進み、夜も更け、皆はバタバタと眠りに落ちていく……
「またニャー」
「またですね……」
「でも、帰って来たにゃ~」
「うんニャ」
「ですね」
「にゃははは」
「「あははは」」
王都での騒がしい日常。わしとリータとメイバイは、帰って来たのだと笑い合うのであった。
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