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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
267 報告に行くにゃ~
しおりを挟む牛の労働力をゲットした翌日。わしは牛を捜し当て、仕事を教え込む。農作業組の半数は休みを言い渡しているので、残りの半数には次の作業で教えるようにお願いしておいた。
と言っても牛鍬の付け方と、その操作方法だけだ。念話の使える黒い牛には作業の仕方を覚えてもらい、牛への通訳と指示を出す係りにしてしまう。
農作業担当はヨキだが、まだまだ子供。いまある仕事をこなすだけで精一杯なので、牛担当を付ける。
力の強い牛相手に、子供や女性では無理があるので、元奴隷の猫耳族の男を任命。この男に牛の事は丸投げ。妊娠している牛からミルクをもらう事も仕事だ。
ミルクは黒牛に言えばいいけど、住み処と餌はどうするかじゃと? 牛担当なんじゃから、なんとかせい!
と言ってみたが、真後ろにリータとメイバイが居たので、めちゃくちゃ怒られた。なので、住み処を作る為に白牛シユウに乗って移動する。
リータとメイバイもお目付け役でついて来た。なんでも、わしに仕事をさせたほうが、仕事が進むらしい……
シユウ達の住み処は、東の外壁のそばに決定。シユウが入れる大きな牛舎を土魔法で建てた。東の壁に近いので、朝の光が入って来ないと寝坊しそうなので、ガラスの天窓も付けてあげた。
硬く作ってあるが、シユウの寝返りには耐えられそうにないので、夜は外で寝るように言ったが、寝相はいいらしい。信じられないので、壊れたら自分で直すように指示を出す。
牛舎作りは早くに終了したので、次は牛達の餌作り。まずはシユウと二人で、畑を耕す。先頭を走るわしが次元倉庫に切り株を入れて、後方のシユウが牛鍬を引っ張って耕す。
二匹の白い獣のタッグなので、今まで耕した畑の三倍以上耕す事に成功する。リータ達も感心していたので、これからは、わしの仕事は減るだろう。
「その意気でやれば、三日もあれば、全ての畑を耕せるのではないですか?」
おかしい。リータがもっと働けと言って来た。
「そうニャ。シラタマ殿がここまで準備すれば、収穫量が増えるニャー」
メイバイまで、わしを馬車馬の如く働かせようとしてくる。わしは猫で、王様だと言うのに……
「農作業ばっかり出来ないにゃ~!」
「なんでですか?」
「それは……」
「なんニャー?」
ヤバイ……質問の答をミスれば、わしの休みが無くなってしまう。二人の目が、つまらない事を言ったら埋めるとも言っているようじゃ。
「わしがやったら、みんにゃの仕事が無くなるにゃ。それに耕しても住人が足りにゃいから、植えるのも収穫も難しいにゃ~」
こ、これでどうじゃ?
「う~ん。たしかに……」
「街の人も自立しないといけないニャー」
ホッ。なんとかわかってくれたみたいじゃ。
その後、昼まで種蒔き。植える物は、リータの村で分けてもらったクローバーだ。季節も合うし、牛の食糧に持って来い。これを耕した場所にばら蒔き、巨像の血を四倍に薄めた水を振り掛ける。
今回のクローバーは、種を集める物なので濃い濃度にしてある。だから、牛達には決して食べるなと脅しておく。そうでもしないと、牛達がムキムキになってしまうからだ。
クローバーが食べられるようになるまで時間が掛かるので、その間は山ほどある木を餌にする。横倒しに何本も出したので、普通の牛でも葉っぱを簡単に食べられる。
少し食べる様子を見ていたが、シユウと黒牛は、木の幹をムシャムシャと食べていた。これならクローバーを植える必要は無かったかも……
牛の住み処と餌の問題が解決すると、シユウに乗って街に帰る。今日も焼き肉は始まっているので、遅ればせながら昼食会議にまざる。
議題は干し肉が溜まり、生肉が少なくなって来ているらしいので、干し肉を次元倉庫に入れて生肉を氷室に出すと解決。
他には無いみたいなので、のんびりとお茶をしていたら、リータ達に働きに行けとつつかれた。
「今日は、これから半休をくださいにゃ~!」
「何をするかによりますね」
「寝るんだったらあげないニャー」
リータとメイバイは、予想通りすんなり休ませてくれないので、それなりの理由を付け足す。
「そろそろ実家に顔を出したいにゃ。それと王のオッサンにも、戦争は終わったと連絡して来るにゃ」
「王様に連絡を取るのはわかりますけど、実家では何をするのですか?」
「コリスとだいぶ会ってないから、わしの縄張りに来てしまいそうにゃ。そうにゃると、キョリスがやって来ちゃうにゃ」
「キョリスが来たらどうなるニャー?」
「地形が変わって、縄張りが荒れそうにゃ」
「「う~ん……」」
「出来るだけ早く戻るにゃ~」
なんとか休みの許可をもらったわしは、一人で森の我が家に転移する。そして縄張りを高速で回ると、一時休憩。
庭に出したテーブルでくつろぎながら、コーヒーを飲んで落ち着く。だが、長くは時間が取れない。この時間を使って、オッサンに連絡を取らなければ。
わしはノエミから借りた通信魔道具に魔力を流すと、オッサンに繋がった。
『ノエミか!?』
「わしにゃ~」
『なんだ、猫か……』
「にゃんだとはにゃんだ……いや、にゃんでもないにゃ」
相変わらずムカつくオッサンじゃ。じゃが、ケンカをしている場合じゃない。簡潔に話さんとな。
『それで、そっちの状況はどうなっている? 通信魔道具が繋がらないから、こちらとしても、兵を下げていいのか悩んでいるんだ』
「ああ。もう下げていいにゃ」
『と、言う事は……』
「戦争は終わったにゃ」
『本当か!?』
オッサンは大きな声を出すので、わしは耳をさすりながら次の言葉を発する。
「本当にゃ。ただ、こっちがごたついているから、もう少し残るつもりにゃ。ノエミもまだ、借りていていいかにゃ?」
『まぁいいんだが、何をするつもりだ?』
「食生活の改善にゃ。人手が足りないから、助かっているにゃ」
『そうか』
「これで貸し借り無しかにゃ?」
『いや。私のほうが返し切れていない』
「にゃ~?」
わしが疑問の声を出すと、オッサンは静かに語り出す。
『北の街のフェンリル。東の街の攻城戦。共にこちらの死者を出さずに乗り越えられたのは、猫のおかげだ。ペトロ……女王陛下に成り代わり、感謝する』
「やめてくれにゃ。北の街は仕事で、東の街はわしの我が儘にゃ。猫耳族を救えたのは、オッサンのおかげにゃ。ありがとにゃ」
「「………」」
お互い感謝の言葉を送ると、照れ臭くて無言になってしまった。
『この話はやめようか……』
「そうだにゃ……お互い似合わなかったにゃ。にゃははは」
『はははは』
「それじゃあ、一ヶ月後を目途にして、一度戻るにゃ。その時はトンネルを開けるから、ビックリしないでくれにゃ」
『ああ。わかった。猫が帰ったら、祝勝会をするからな』
「楽しみにしてるにゃ~」
わしは通信魔道具を切ると、ぬるくなったコーヒーを飲み干し、キョリスの縄張りに走る。縄張りに入ると大きな音が聞こえて来て、何事かと岩に隠れて様子を窺う。
また夫婦喧嘩をしておるのか。どうせつまらん事で喧嘩しておるんじゃろうな。あまり時間が無いからコリスを捕まえたいんじゃが、どこに居るんじゃろう?
あ! 喧嘩のど真ん中におる。……ん? コリスも尻尾が増えて二本になっておる。いつの間に増えたんじゃ? まぁそんな事より、さっさと挨拶を済ませるか。
わしは肉体強化魔法を使うと、怪獣リスのぶつかる瞬間を狙って飛び込み、両手で二匹の衝突を受け止める。するとわしに気付いた三匹は、各々に声を出す。
「モフモフ~!」
「なんじゃ、ワレー!」
「久し振りね~」
コリスは嬉しそうに駆け寄り、キョリスは大きな声、ハハリスは暢気な声で、わしに挨拶してくれた。ひとまずわしは、コリスを撫でながら挨拶する。
「お久し振りです。コリスも元気にしておったか?」
「うん! でも、お父さんとお母さんは、いっつもケンカしてるんだよ~」
「二匹とも、子供の前なんだから喧嘩はやめてください」
「ワレーが悪いんだ、ワレー!」
「お父さんが悪いんでしょ!」
またじゃ。言ったそばから口喧嘩が始まった。どうせキョリスがひっくり返るんじゃから、ハハリスに賛成したらいいのに……。わしなんて、リータとメイバイに逆らえないぞ?
このままコリスと遊ぶと、ここいら一帯が、またボコボコになってしまうな。他所のご家庭の夫婦喧嘩に口を出す気はなかったが、いつも両親を心配しているコリスが不憫じゃ。仕方ないのう。
「いい加減、喧嘩はやめてください。今回は何を揉めているんですか?」
「娘の尻尾が増えたから、一匹で縄張りの外を見て来るように言ったのに、お父さんが行かせないのよ」
「外は危険だからだ、ワレー。道に迷ったらどうするんだ、ワレー」
ハハリスとキョリスは喧嘩の理由を述べるが、また二人の言い合いに発展する。
「シラタマの家までは何度か行ってたし、帰って来れるわよ」
「強い敵に出会ったらどうするんだ、ワレー!」
要するに、初めてのお使いをさせるか、させないかで揉めているのか……リスの夫婦でも、子供の教育で揉めるんじゃな。わしもそれぐらいならさせてもいいと思うんじゃが、キョリスは過保護じゃからな~。
しかし、どうしたものか……ハハリスに味方をすると、キョリスはへそを曲げて、家出とか言ってわしの縄張りに来るし、逆もまた然り。う~ん……
「ワレーに言われても、これだけは譲れないぞ、ワレー!」
「この子の為だから私も譲れないわ!」
「コリスは戦う事が苦手なんだ、ワレー!」
「それはあなたが、すぐに手を出すからでしょ! やれば出来るわよね~?」
「いいや。まだ怖いな、ワレー?」
「うぅぅぅ」
わ! 悩んでたらヒートアップして、コリスに標的が移ってしまった。こういう時、コリスはどっちの意見を聞いていいかわからずに、いつも答が出せないんじゃからやめてあげて!
「もういい! そんなにケンカばっかりするんなら、モフモフとくらす!!」
なっ……第三案が出て来た! その答えの出し方は想定外じゃ。これは早々に拒否しないと、子守りを押し付けられてしまうぞ。
「う~ん……ちょっとのお出掛けのつもりだったけど、それもありね……」
「いや……」
「う~ん……ワレーなら我も認める強者だ。預けても安心できるな、ワレー?」
「いや……」
「そうね。シラタマなら安心だわ。出来るだけ娘に戦わせてね?」
「いや……」
「モフモフ~?」
うぅ……わしが引き取れば丸く収まる展開になってしまった……。これは断れないのか? うん。いま一瞬、二匹の怪獣から殺気が放たれた。やるしかないのか……
「わかりました。引き受けましょう」
「モフモフ~!」
「そうか。頼んだぞ、ワレー!」
「娘のこと、お願いね。さて、私達は……ね? あなた」
「お、おお! ワレー」
キョリスとハハリスはそれだけ言うと、照れ臭そうに巣穴に入って行った。残されたわしはと言うと……
はあ!? まさか子作りする為に、わしに押し付けたのか! 怪獣リスの交尾なんて知りたくも見たくもないが、納得でき~~~ん!!
憤っていた。
「モフモフ。どうしたの~?」
「ああ。なんでもない。行こうか」
「うん!」
そして、トボトボと、我が家に帰るのであった。
「「ホロッホロッホロッホロッ」」
二匹のリスの、意味深な声を聞きながら……
我が家に帰ると、自分の街近くに転移する。一瞬で景色が変わってコリスは驚いていたけど、あまり深く考えない性格なので、撫でてやればどうでもよくなったみたいだ。
そうして追いかけっこしながら街に走り、東の外壁に着いたら、コリスが通れる穴を土魔法で開けて中に入る。
穴を塞ぐと、また追いかけっこだ。わしにかかれば追い付けるわけがないので、たまに止まって、2メートルの毛玉ダイブを受け止める。
夕暮れ時とあり、皆、街で食事をしているのか、外には誰もいない。なので二匹のじゃれあいを見られる事もなく、街の中へと入る。
だが、わしがコリスに乗って現れると、街に騒ぎが起きてしまった。わしの姿では騒がれなかったのに……
その騒ぎの中、リータとメイバイが駆け寄って声を掛ける。
「コリスちゃん!?」
「シラタマ殿。どうしてコリスちゃんがいるニャー!」
「いや。これには深い事情がありにゃして……。ちゃんと面倒は見るから、一緒に居させてにゃ~」
「「帰して来なさい!!」」
こうしてわしは、捨て猫を家に連れ帰った子供の如く怒られるのであったとさ。
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