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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

262 働くにゃ~

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 終戦報告の翌日、仮住まいで寝ていたらさっそく寝坊したらしく、ケンフの引き戸を叩く音で目が覚めた。
 王様が初日から寝坊したと住人に知られるのは情けないので、わし達は慌てて食堂に入り、皆の朝食にまざって腹に掻き込む。そして皆が揃っている内に、今後の話に移る。

 わしの街の住人は、国の中のどこよりも人数が少ない。だが、三千人は居るので、仕事の割り振りだけでも大変だ。
 ひとまず必要な仕事。農業従事者、戦闘や狩りの出来る者、建物の修復が出来る者、料理や裁縫が出来る者を分けてしまう。残念ながら約三分の一は子供なので、農業に子供を使うしかない。
 この事を踏まえて、リータとメイバイに振り分けを頼む。

 住人にも炊き出しを行い、皆が食べ終わる前にわしはやる事があるので街の外に出る。

 広範囲に探知魔法を使いながら、巨大な風の刃【大鎌】の連打。街の周りの木と同時に、何百という獣も同時に切り裂いてやった。
 それが終わると、畑の予定地の切り株と獣だけを次元倉庫に入れて真水を掛けておく。あとは耕して種芋を蒔くだけだが、これはわしの仕事じゃない。だが、くわや農具は必要なので、土魔法で大量に作り出す。

 わしが農具をせっせと作っていると、農作業組と戦闘組の者達を、リータ達が引き連れて来てくれた。皆、鳩が豆鉄炮を喰らった顔をしているが、理由がわからない。

「シラタマさん! そういう事をするなら、先に言っておいてください!!」
「すごい音だったニャー! 子供が多いんだから怖がるニャー!!」

 いや。リータ達が怒りながら教えてくれたから、謎は解けた。でも、王様としての威厳があるからポコポコしないで~。

 わしの平謝りでひとまずポコポコは止まったので、住人に語り掛ける。

「驚かせて悪かったにゃ。これから君達に仕事を与えるにゃ。まず農作業組。土を耕して、ジャガイモを植えてもらうにゃ。えっと……子供達ばっかりにゃし、リーダーは、ヨキにゃ。頼むにゃ」
「え……こんな広大な土地を、僕が……」
「こんにゃの序の口にゃ。まだまだ広くなるにゃ。まぁ一時的だから心配するにゃ。適任者が見付かるまで、みんにゃの為に頼むにゃ~」
「う、うん。少しだけやってみる」

 リーダー不在ではまとまるものも纏まらないので、無理矢理にでも押し付ける。それにヨキは、白い巨象の血の栄養水を知っているので、これ以上の適任者は今のところ居ない。
 リーダーが決まると農作業組には、すでに準備が整っていたので、ただちにあたらせる。皆、ヨキのあとに続いて移動してくれた。

「戦闘組は、農作業組を守りつつ、獣の狩りにゃ。まだ収納出来ていない死んだ獣もあるし、避けた獣もいると思うから、追い払うか、狩ってくれにゃ。リーダーは……ケンフ。頼むにゃ」
「ワン!」
「シェンメイの妹さんも、残っているにゃら手伝ってくれにゃ。ケンフの指示が嫌にゃら、別動隊を組んでくれていいからにゃ」
「はあ……」

 シェンメイの妹、ジンリーは、まだ人族とわだかまりがあるみたいなので、ケンフと一言、二言掛けて、猫耳族の者と一緒に畑を中心に守るみたいだ。
 ケンフは先頭に立って獣を狩るみたいなので、頭が二つあるほうがちょうどいいのかもしれない。

「ワンヂェンの魔法組は切り株起こしにゃ。抜いてくれたら、運ぶのは戦闘組や大人組にやらしたらいいからにゃ。倒れないようにやってくれにゃ」
「わかったにゃ。でも、ノエミの力も借りたいにゃ。どこに居るにゃ?」
「ああ。ノエミには違う仕事を頼んでいるにゃ」
「そうにゃんだ」
「魔力が無くなった者は、出来そうにゃ仕事を割り振ってくれにゃ。それじゃあ、みんにゃ。働くにゃ~~~!」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」

 いつの間に決まったのか、この場に居た者は気の抜ける声で応える。さすがに人数が多かったので、ずっこけそうになった。


 皆の作業が始まるのを見て、わしはサボ……りません! 冗談で~す。

「シラタマさんは何をするのですか?」
「さっきサボろうとしてたニャ」

 わしの心の声を読めるリータとメイバイは、何やら疑うような視線を向ける。

「そんにゃ事しないにゃ~」
「「疑わしい(ニャ)……」」
「しないって言ってるにゃ~。わしはもう少し木を切り倒して来るにゃ」
「じゃあ、私達もついて行きます」
「シラタマ殿を見張るニャー!」
「う~ん……わしより他を見てくれにゃ。どこも人手が足りてないにゃ。頼むにゃ~」
「……そうですね。私はワンヂェンさんの手伝いをしましょうか」
「じゃあ私は、狩り組を手伝おうかニャ」
「よし! 昼まで頑張るにゃ~」
「「にゃ~~~!」」

 二人の気の抜ける掛け声を聞いて、わしは走り出す。ひとまず誰も向かっていない方向に走り、木や根っこ、獣の死体を回収し、向かって来る獣も次元倉庫行きだ。
 そうこうしていると、木を切り倒した外周まで到着する。ここでも【大鎌】を乱発して、街の外周を広くしていく。
 一周回ると、今度は木等を次元倉庫に入れていき、向かって来る獣もサクッと倒す。

 二週目も回り終わると太陽が真上にあったので、急いで街に戻る。だが、すでに炊き出しが始まっていた。
 どうやら獣の死体を解体して、焼き肉パーティーをしているみたいだ。王様のわしを待たずに……
 わしは悲しくなったがお腹もすいていたので、列の最後尾に並ぶ。すると、リータとメイバイが走って来た。

「何してるニャー!」
「にゃ? 並んでるにゃ」
「シラタマさんは王様なんですから、こっちです!」
「みんにゃと同じ物でいいにゃ~」
「心配しなくとも同じ物ニャ。リーダー達が集まっている所で食べたほうが効率がいいニャー」
「たしかにそうだにゃ……メイバイも賢くなったにゃ~」
「誰でもわかるニャー!」
「はい、行きますよ~」
「にゃ~~~」


 わしはリータに首根っこを掴まれ、主要メンバーが集まるテーブルに連行される。わしが王様なのに……
 威厳もへったくれもないので、テーブルに並んでいる肉をつまみながら、皆の報告を聞く。

「ヨキのほうはどうなってるにゃ?」
「もう耕し終わりました。あとは植えて、例の水を撒くだけです」
「にゃるほど……獣の肉は順調に集まったにゃ? あ、これは誰が管理してるにゃ?」
「私ニャー」
「メイバイがしてくれてるんにゃ。決めてなかったのに、ありがとにゃ。それで、どんな状況にゃ?」
「シェルターの氷室じゃ全然足りないニャー。どこかに新しいの作ってニャー」
「わかったにゃ。でも、干し肉にゃんかに加工できないかにゃ? 他の街も食糧が必要だから、生では運べないにゃ」
「なるほど……誰か作れる人をあたってみるニャー」

 これで当面の食糧は間に合ったかな? 肉ばかりになりそうだから、ジャガイモを急がないといけないな。

「ヨキのほうで作っていたジャガイモはどうなったにゃ?」
「数日前に収穫して、少し食べました。残りは氷室です」
「じゃあ、それも種芋に回してくれにゃ。肉があるから、収穫するまでは大丈夫にゃろ」
「わかりました。あとで取りに行きます」

 よし。一回目でかなりの収穫が見込めるな。シェルターで作らせておいた物が、功を奏したのう。

「ケンフのほうはどうにゃ? 怪我人は出てないにゃ?」
「足場が悪いので足をひねった者がいますが、獣は弱い奴しか残っていなかったので、重傷者はいません」
「捻挫だけにゃ……夜に、わしかノエミが見るにゃ。でも、重傷者が出た場合はすぐに呼ぶにゃ」
「はっ!」
「ワンヂェン。ワンヂェンのほうはどうにゃ?」
「切り株が多すぎて、魔法使いが足りないにゃ~」

 そりゃそうか。わしと違って魔力も少ないんじゃ、すぐに魔法が使えなくなるわな。となると……

「……魔力が無くなった者も、農業に回してくれにゃ。植えるぐらい出来るにゃろ?」
「わかったにゃ~」
「それとケンフの組は、帰りには切り株を出来るだけ持ち帰ってやってにゃ」
「わかりました」
「あとはにゃにか大事な事はあるかにゃ?」
「いいですか?」

 わしの質問に、ズーウェイが手を上げた。

「どうしたにゃ?」
「調味料が少なくなっています。どうしましょうか?」
「あ、まだまだあるから、氷室を作った場所に出すにゃ。それを干し肉にも使ってもらえるようにするにゃ」
「わかりました。メイバイさん。干し肉も私のほうで担当しますので、どうぞ他の仕事をしてください」
「助かるニャー」
「よし! こんにゃもんかにゃ?」

 わしの質問に、皆、頷く。

「それじゃあ日暮れまで、引き続きよろしくにゃ~」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」

 相変わらずの気の抜ける返事を受けて、わしは肉を頬張って席を立つ。王様が意地汚いと言われても、急いでいるのだから許してくれ。今回だけですか。そうですか。


 ヨキはわしの作ったリヤカーを引いて、子供達と一緒にシェルターに走って行ったので、メイバイのお願いから取り掛かる。

 現在作業が集中している南門に、大きな氷室を道を挟んで二個作る。そこにメイバイが集めてくれた肉の半分を入れて、残りは次元倉庫に入れておく。
 さらに塩と調味料を大量に取り出し、干し肉製作を出来るようにしておく。それが終わる頃に、ヨキ達とズーウェイが走って来たので、ズーウェイに軽く説明してから畑に向かう。

 ヨキ達が種芋を作っている内に、わしは溜め池と、土魔法でバケツを大量に作ってしまう。
 それが出来たら、ヨキに巨象の血の入った大きな桶を預ける。今回の濃度は八倍。少し危険だが、早さを優先する。

「わかっているにゃ? 絶対にこの濃度は守ってくれにゃ。じゃないと、この街は滅びるにゃ」
「わかっているけど、そんなに危険な物なんですか?」
「危険にゃ。リータとメイバイを知っているにゃろ?」
「シラタマさんのお嫁さんですよね?」
「にゃ?」
「違うんですか?」

 いつの間にわしは結婚しておるんじゃ? あの二人は、ヨキに嘘を言ったのか? まさか子供まで外堀を埋めるのに使っておるのか……。ここで否定すると、リータ達に知られた時に怒られる気がする。やんわりとボカしておこう。

「えっと……まだ結婚してないにゃ。いまは彼女かにゃ~?」
「そうなんですか!?」
「にゃんでそんにゃにビックリするにゃ~」
「だって、みんな奥様って呼んでますよ」

 嘘じゃろ? みんなって……みんな!? 誰が言い振らしておるんじゃ! 謎解きしたいが、そんな暇はないし……一旦保留じゃ!

「ま、まぁその件は、いまは関係無いかにゃ? えっと……そうにゃ。さっきの話にゃけど、血のせいで、あの二人がわしを殺そうとして来たにゃ」
「いや、関係ありますよ! シラタマさんを結婚したいほど好きなのに、殺そうとしたんですよね!?」
「そ、そうですにゃ」
「そんな恐ろしい効果があるのですね。絶対に守ります!」
「う、うんにゃ。よろしくにゃ~」

 ヨキは固く約束してくれたので、わしはその場を離れる。誰が言い振らしているかを考えながら……


 それも気になったが、魔法部隊の作業の遅れも気になる。なので、逆側の畑予定地を四面分、耕すのに邪魔になる物を次元倉庫に仕舞って、次の作業に移るのであった。
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