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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
260 凱旋にゃ~
しおりを挟むリータとメイバイに、この国の名を、強引に『猫の国』と決められたわしであったが、泣きやんで必死に却下する。
英語でキャットカントリーって、キャットランドと被っておるじゃろ? それしか考えられない? いやいや、もっとわしに相応しい国名があるはず! じゃあ、多数決を取る? それもやめてくれ! 決定ですか。そうですか……
わしが何を言おうと、リータとメイバイは多数決だけは譲ってくれなかった。仕方がないのでそれだけは受け入れ、わしはアマテラスに願いを捧げる。
わしの強い願いはアマテラスに届いたが、「ケセラセラ。なるようになるさ」と、返答が戻って来た。
そんな事は聞いておらん! 『猫の国』になるかどうかじゃ! え? それが答え? それって……どっち? 決まってる? どう決まっておるんじゃ~~~!
わしがいくら聞いても、アマテラスは答えてくれなかった。いや、それが答えだった。もちろん答えは、わしにもわかっているからな! ちくしょう!!
その後、リータとメイバイには皇帝のベッドで眠るように言い聞かせ、わしは報告にあった書物の保管場所に足を運び、片っ端から次元倉庫に入れていく。
かなりの数であったが全て入れ終わると、まだ働いていたコウウンの元へ行く。
労いの言葉を掛け、ささやかな祝杯を、二人で酒を一杯だけ噛み締める。まだわし達にはやる事が残っているからだ。
酒を飲み干すと、今度はホウジツの働く現場に足を運び、皇帝や戦死者の埋葬、様々な案や、懸案事項。帝都の運営方法を擦り合わせてから、少しだけ眠らせてもらう。
何かあった場合の用心に、寝室の前に待機させたケンフは寝ずの番だ。申し訳ないので、ケンフにも酒を渡してベッドに潜り込んだ。
翌朝……リータとメイバイの間で寝たつもりが、そこにはノエミが潜り込んでやがった。どうやらノエミに抱き抱えられて寝ていたらしく、二人に浮気だなんだと怒られてしまった。
それってわしが悪いの? 二人はノエミが居たのに気付かなかったの? ノエミを抱いて寝ていたんだから、そっちが浮気では? イテテ。
口答えしたら、二人に頬を伸ばされた。建物の中では重たいポコポコをしないとは、二人も学習しているみたいだ。
ベッドから出ると、皇帝のベッドも次元倉庫に入れておく。柔らかくて寝心地が良かったから当然だ。
そして軽めの朝食を済ませると、奴隷のリストを読ませて人数確認をしていた猫耳族に漏れは無いかを確認し、居ない奴隷が居たので、すぐさま捜索に乗り出す。
何人かは死んでしばらく経っていたみたいなので遺体を次元倉庫に入れ、その家主には奴隷紋で縛ってホウジツに引き渡す。
怒りに打ち震えたいが、他の捜索もある。死者よりも、いまは生きている者を探しあてなくてはいけない。
捜索と同時平行で、わしが新しく作る街の住民を募る。これだけ大きな街だ。食えなくて困っている者も居るだろう。
寝床と食事は振る舞うと宣伝しながら街を進み、どうしても見つからない猫耳族は、ホウジツに探し出すように脅して、昼過ぎには猫耳族を引き連れて帝都を出た。
帝都の外には、汚い成りの子供が多く集まっており、中には大人と、綺麗な服を着た者や、家族らしき姿もまじっていた。
わしが集めた移住希望者らしいので、ここで食事を振る舞う。住民達は、本当に食事が出るとは半信半疑だったらしく、驚く顔があった。
猫耳族と人族が真っ二つに分かれる食事会なので、わしが音声拡張魔道具を使って注意事項を説明する。
『え~。みにゃさん、こんにゃちは。ああ、そのまま食べながら聞いてくれたらいいにゃ。これからわしは新しい街を作るにゃ。移住希望のみにゃさんは、その手伝いをしてもらうにゃ。もちろん報酬は払うにゃ。ただし、国が落ち着くまでは食糧で支給しにゃすので、それが不満にゃ人はこちらに残ってくださいにゃ』
まずは人族への説明。言葉を切って少し間を開けるが、とくに文句を言う者がいなかったので、話を続ける。
『猫耳族のみにゃさんには、住む場所を選んで欲しいにゃ。この街は人族の街にするので、他から選んでにゃ。人族が怖いにゃら、猫耳族しか居ない里で住んでくれたらいいにゃ。ラサとわしの街は、仲良く差別のない街にしようと思うにゃ。もちろんどれを選ぼうと、ひもじい思いはさせないにゃ。これから移動するので、考えておいてくれにゃ』
猫耳族も文句を言う者はいないが、どちらかと言うと、考える事をやめているように見える。
食事会も長く続けるわけにもいかないので、説明が終わると、わしはせっせと移動に必要な物を作り出す。人族、猫耳族、合わせて五千人は居るので、大きな乗り物が必要だ。
素材は置きっぱなしにしていた【玄武】。土を操作して、十両編成の列車にしてしまう。
車両は真四角。そこに大きな車輪を四個付けている。真四角な理由は安定性を持たせるため。ボコボコの道では、電車のような形は倒れそうに思えたからだ。
人数が多いのでかなり巨大な列車となってしまったが、作り終えるとコウウンに指示を出し、移住者を乗せてもらう。
これはなに? 列車じゃ。だからそれはなに? 乗り物じゃ。え~い! うるさい! さっさと仕事をしろ!!
わしの指示に、しばらくブツブツ言っていたので無理矢理働かせる。コウウンは渋々猫耳族を乗り込ませると、人族も丁重に列車に乗せていた。
五千人以上いたが、列車の箱は大きく作っていたので、二両余ったみたいだ。なので、連れて来た馬と馬車を乗せる。
全員乗り込んだのを確認すると、列車の一番先頭に連結している二号車に、主要メンバーを乗せて出発する。
最初はゆっくり。馬車の走る速度から始め、二倍、三倍とスピードを上げると、一万人の牢獄に到着する。
そこで今日は野営。毛皮は足りないので各車両には、念の為、火の魔道具を配布。ここでも大規模な炊き出しを行い、皇帝は失脚した事と、兵士達の行き先の説明をする。
皆、ざわめいていたが、帝都から頂戴した王冠や剣を掲げると、悔しがる者や、泣く者が一部に居た。
だいたいは呆然といった感じなので、明日の朝までには、軍人として再雇用するから行きたい街を決めておけと言っておく。
ただし、魔法使いは国の宝だ。希望は聞くが、三分の一に割って、無理矢理にでも連れて行く。すでに奴隷紋で縛っているので、手間なく従わせる事に成功した。
説明が終わると食事を振る舞い、日が落ちるとゴロゴロ就寝。
翌朝、帝都やラサに向かう者には武器を返却して食糧も配布する。セイチュウ将軍には、死者を帝都に送るように命令した。奴隷兵も与えたので、なんとかなるだろう。
そうしてして、全猫耳族とわしの街に向かう人族を乗せた列車は、ラサに向けて発車する。
ラサまでは近かったので、すぐに到着。だが、列車は大きいから畑を踏みあらしそうになったので、主要メンバーを乗せた二号車だけだ。
街に入ったところで、どうやって気付いたのか、ウンチョウとセンジが駆け寄って来た。
「王よ! アレはいったいなんなんですか!!」
「猫様……恐ろしい獣が攻めて来たかと思いましたよ!」
二人とも半ギレ。巨大な列車に驚いて、警戒態勢を取っていたみたいだ。
「まぁまぁ。落ち着くにゃ。アレは乗り物で、猫耳族がいっぱい乗っているにゃ」
「え……。と、言う事は……」
「そうにゃ。戦争は終了。わし達の完全勝利にゃ~~~!」
わしの言葉にウンチョウは目を見開き、膝を突く。そのすぐ後には大粒の涙を落とす……。号泣だ。部下も人族も見ている前で、泣き叫ぶ。その姿を見た猫耳族も、もらい泣きをしている。
これでは話にならないので、センジに街の状況を確認するのだが……
「グズッ……よかったです。よかったです……」
センジまでもらい泣きしていた。それでもうるさいウンチョウよりマシなので、言葉を掛ける。
「センジまで、にゃんで泣いてるにゃ~」
「だって~。え~~~ん」
ダメじゃ。よけい泣かせてしまった。
「コウウン……もういいにゃ! わしがやるにゃ!!」
使い物にならないラサの者は諦めて、コウウンに指示を出そうとしたら、ウンチョウと抱き合って泣いていた。
仕方がないので、泣いていない者だけ連れて仕事をする。列車まで戻って、ラサで暮らす事を予定している猫耳族や魔法使いを降ろし、入口まで歩かせる。
ほとんどの猫耳族は、どこで暮らすか決められなかったので、わしが決めてしまった。街の者で様子を見て、猫耳の里に送るかを決める予定だ。
もちろん人族に怯えている者は、猫耳の里に送り届ける事は決定している。
「ウンチョ~ウ! センジ~! いい加減泣きやんで、仕事をしてくれにゃ~」
一時間ほど時間を空けたのに、まだグズグズ言ってやがった。さすがに文句を言うと、涙を拭ってわしに状況説明をしてくれた。
と言っても、畑の状況と奴隷紋で縛った帝国兵の扱いだ。畑は不作なのでたいした事はないが、帝国兵をどう扱うかを決めてくれていたみたいだ。
エンアク将軍を含め、ひとまずこのまま街の防衛にあて、獣の駆除をさせるとのこと。そこで、この街に来る帝国兵がいる事を伝え、再雇用するように指示を出す。
三分割させた魔法使いもいるので、言う事を聞かない者は奴隷にしてもいいと助言する。
さらに猫耳族を千人ほど受け入れてくれと言ったら……
「「ふざけるな!!」」
息ピッタリの、ウンチョウとセンジに怒鳴られた。
「にゃんで~~~?」
「食糧はどうするんですか! この街にはそれほどの余裕はありませんよ!!」
「少なく見積もっても三千人は増えるのですよね? ……私も難しいと思います」
ああ、なるほど。それが抜けておったな。その前に、ウンチョウの返しが意外じゃ。少しからかっておこうか。
「意外だにゃ~」
「どうしたのですか?」
「ウンチョウにゃら、人族を追い出してでも、猫耳族の食糧を確保するかと思ったにゃ~」
「少し前でしたら、そうしていたでしょう。ですが、センジさんや他の人族の者と触れ合ってみてわかりました。シラタマ王が言った通り、人族も猫耳族も、皆、人間です。それを差別する事は、もう、俺には出来ません」
「ウンチョウさん……」
ウンチョウの言葉にセンジの目が潤むのだが、わしは大声で笑って涙を吹き飛ばす。
「にゃははは。よく言ったにゃ! これにゃら、この街はウンチョウに任せて大丈夫だにゃ」
「はっ! ……いやいや。三千人なんて無理ですからね? 無理難題を吹っ掛けないでください!」
「わかっているにゃ。食糧は、わしが用立てるから心配するにゃ。十日……いや、二週間以内に、生産体制も整えるにゃ。一ヶ月後には、それを売る予定もしているにゃ」
「多く食糧を持っているのは知っていますが、生産体制とは?」
「ああ、それは……」
わしはこれから新しい街で行う事を詳しく説明し、二人の返事をもらう。
「「そんな事が出来るなら、先に言え~~~!」」
またしても同時ツッコミ……どうやら二人は、ずいぶん仲良くなったみたいだ。
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