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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~
258 終戦……
しおりを挟むわしは皇帝の意識を刈り取ると、入口まで下がらせていたリータ達を呼び寄せる。少し距離があるので、皆が来るまでに、皇帝に奴隷紋を施す。
服を剥ぎ取り、土魔法で地面に張り付け、動かないようにするが奴隷紋の痛みで目を覚ますので、その都度、ネコバンチで眠らせる。
そうして奴隷紋が完了する頃に、リータ、メイバイ、ノエミがわしの元へと辿り着いた。
「シラタマさん。お疲れ様です!」
「お疲れ様ニャー! 魔法も剣も凄かったニャー」
「本当に……凄い魔法の応酬だったわ。こんな魔法の戦闘なんて、もう一生見られないわ!」
「労いありがとにゃ。上で戦っているみんにゃも心配だし、戦争を終結させる為に、地上に戻るにゃ~」
「「「にゃ~~~!」」」
わしはそう言うと、皇帝を叩き起こして歩かせる。裸のまま歩かせるのは、さすがに体裁が悪いので、毛皮を羽織らせた。空洞から出ると扉を壊してしまったので、念の為、土魔法で封印してしまう。そして元来た道を戻る。
リータとメイバイは労ってくれているのか、わしを代わる代わる抱いて撫で回す。降ろしてくれと言いたかったが喜んでいるようなので、空気を読み、わしは何も言わなかった。ただ、ゴロゴロ言うだけだ。
長い螺旋階段を上り、宮殿から出ると、コウウン達の姿が目に入る。
う~ん……猫耳軍も完全勝利したみたいで、帝国軍を拘束しておるけど、何故、コウウンとケンフが殴り合っておるんじゃ?
シェンメイは……ボロボロじゃな。疲れたのか座っておる。その隣で大の字に寝ているのは、ガクヒ将軍か? 察するに、シェンメイとガクヒ将軍が闘って、シェンメイが勝ったんじゃろうな。
肉体強化の魔道具を使ったシェンメイが、あそこまでボロボロになるとは、ガクヒ将軍は人間にしてはかなり強かったんじゃな。
ひとまず、殴り合っているコウウンとケンフを止めるか。
「コウウン! ケンフ! にゃに遊んでいるにゃ!!」
「王!?」
「シラタマ様!?」
「戻られたと言う事は……」
「そうにゃ。終わったにゃ」
「お、おおぉぉ……」
コウウンは部下の前だと言うのに、膝を地につけて号泣する。
「コウウン……気持ちはわかるにゃ。でも、まだ後始末が残っているにゃ。もう少し……もう少しだけ我慢してくれにゃ」
「グズッ……も、申し訳ありません。すぐに! グズッ」
「……五分あげるにゃ。それで気持ちを落ち着かせるにゃ。あとで、こき使うからにゃ?」
「グズッ……はっ!」
「ケンフ! 状況説明にゃ!」
「ワン!」
コウウンの復活には、まだ時間が掛かりそうだったので、残していたケンフから話を聞く。
状況をある程度理解すると、コウウンの代わりにリータとメイバイを使って、猫耳族の重傷者を集めるように指示を出す。二人ならずっとわしのそばにいたから、猫耳族も言う事を聞いてくれるはずだ。
集まった重傷者は、わしと皇帝で応急処置をし、軽傷者はノエミに任せる。コウウンとケンフの傷は、罰で後回しだ。
わし達が治療をしていると、時間通り復活したコウウンに、今度は人族の重傷者を集めさせる。反対されるかと思ったが、素直に従ってくれている。
一通りの処置が終わると、次元倉庫から車を取り出し、手すりを付けた屋根に皇帝と主要メンバーを乗せる。
皆が乗ると車を先頭に、猫耳軍を引き連れ、門に向かってパレードだ。コウウンが音声拡張魔道具を使って勝利を宣言し、その証拠の皇帝にも敗けを宣伝してもらう。
帝都の者は、この状況を見てどう反応するのじゃろう? 敗けを受け入れてくれるじゃろうか? かなり脅したが、反抗して来るじゃろうか?
反抗して来るなら、それなりの対応を取らねばならんのじゃが……。すでに百人以上の死者を出しているから、そんな事はしたくない。頼む……もう、血を流さないでくれ……
「「シラタマ(殿)さん……」」
祈るような、泣き出しそうな、なんとも言えないわしの顔を見たリータとメイバイが、心配そうに声を掛ける。
「にゃ?」
「大丈夫ですか?」
「……ダメみたいにゃ」
「シラタマ殿……」
「でも、まだ道半ば……あと少し頑張るにゃ。それが終わったら、お願いするにゃ」
「「……はい(ニャ)」」
わし達のパレードは、終着地の外壁正門に到着すると、猫耳軍は下に待機させ、わし達主要メンバーは外壁に登る。
そこで皇帝を跪かせると、コウウンから音声拡張魔道具のマイクを受け取り、帝都の外にいる猫耳族に語り掛ける。
『え~……元奴隷、並びに猫耳族のみにゃさん。長く辛い戦いは、今日、終わったにゃ。よく今まで耐えて、生き抜いてくれたにゃ~』
わしの言葉に、猫耳族は喜んでいいのか、泣き叫んでいいのか、どうしたらいいのかわからず、座り込んでしまった。
『長い戦いだったもんにゃ。わからないんだにゃ。実感持てないんだにゃ。でも、みんにゃの戦いは終わったんにゃ。喜んでいいにゃ~~~!!』
わしは皆の気持ちを汲んで叫ぶが、猫耳族は喜ぶどころか、隣の者と抱き合ってすすり泣いていた。わしは嬉し涙だと強引に受け取って、体を半回転させ、今度は帝都の中に向けて語り掛ける。
『え~……帝都のみにゃさん。あにゃた達は敗けましたにゃ。今現在、不安で仕方ないと思うにゃ。あにゃた達が猫耳族にした所業を、そっくりそのまま返されると思っているんだろうにゃ~』
わしは意地悪そうに声を掛けると、帝都中がザワザワと音を発する。おそらく、苦難の日々の幕開けだと思っているのだろう。
『本当はしてやりたいにゃ。でもにゃ。わしはある程度は許そうと思っているにゃ。もちろん、元奴隷だった者が裁いてくれと言うのにゃら、命をもらうにゃ。罪ある者には罰にゃ。それ以外は安心してくれにゃ』
わしの言葉にざわめきは減ったが、その代わりに、一部で大きな音が聞こえて来た。
『動くにゃ! いま、帝都から出たら、否応なしに殺すにゃ! 静かに待ってろにゃ!!』
まだ少し声や物音は残るが、移動する者はいなさそうなので、語り掛けを続ける。
『では、そろそろ敗戦の王の処刑を開始するにゃ。これをもって、わしがこの国の王になるにゃ。まずは皇帝……猫耳族と帝都の者へ謝罪するにゃ』
皇帝はわしの命令に背けず、わしの耳打ちする通りの言葉を口にする。猫耳族には人間として扱わず、ごめんなさいと……。人族に対しては、飢えさせ、多くの者を殺した事を謝らせる。
それが終わるとマイクを返してもらい、言葉を発する。
『いまのは奴隷紋を使って、わしが無理矢理言わせた言葉にゃ。皇帝……自由な発言を許可するにゃ。最後に国民に言いたい事があるにゃら、ハッキリ言うにゃ』
わしは皇帝にマイクを近付けると、皇帝は深く息を吸ってから声を出す。
『朕が敗けたのはお前達のせいだ! 何をしている! 猫耳族の畜生はたった数千人だ。どうやったら敗けるのだ。いまだ帝国には七万の人間がいるだろ!! 何をしている! 死ぬまで戦え!! 朕を今すぐ救い出せ! そうすれば、すぐに帝国も、山向こうの国も、朕の物になるのだ~~~!!』
『……最後の言葉はそれでいいにゃ? 家族や国民に対して、別れの挨拶をしなくていいにゃ?』
『別れの挨拶? そんなものは必要ない。これから、全てが朕に平伏すのだからな。ワーハッハッハッハー』
「……わかったにゃ。終わりにするにゃ」
わしはその言葉を最後に、皇帝の首を刎ねた。
その瞬間、世界から音が消え、戻って来るまでに数秒かかる事となった。
「シラタマさん!」
「シラタマ殿!」
「にゃ……」
「これで終わっていいのですか!」
「しっかりするニャー!」
わしはリータとメイバイの声で、一瞬飛んだ意識を取り戻した。
「あ、ああ。すまないにゃ」
「大丈夫ですか?」
「足が震えてるニャー」
「すまにゃいけど、目立たないように支えてくれにゃ」
「「はい(ニャ)!」」
わしは倒れそうな体を二人に支えてもらうと、数度深呼吸をしてから叫ぶ。
『皇帝は死んだにゃ! これより、わしがこの国の王にゃ~~~!!』
わしの叫びに猫耳軍が歓喜の声をあげ、元奴隷の猫耳族は声をあげて泣き叫ぶ。人族はざわめきを隠せていない。
そんな騒ぎの中、わしは言葉を続ける。
『この戦争で家族、友人を亡くした者もいるだろうけど、恨むにゃら、王のわしを恨んでくれにゃ。その恨みはわしが受け止めるから、誰彼かまわず当たり散らさないでくれにゃ』
わしは一呼吸置いて、これからの事を説明する。
『では、いまから抱負を発表しにゃす。わしがこの国の王になったからには、国民のみにゃさんを飢えさせないように努めたいと思いにゃす。その為には、この帝都を運営してくれる人を募集したいと思いにゃす。我こそはと言う人は、日が落ちるまでに宮殿に来てくださいにゃ。それと……』
この後わしは、奴隷商の出頭を促し、捕まえてくれた物には褒美を出すと唆す。それと同時に、食べ物に困っている人も宮殿に来るようにと言って聞かせる。
それが終わると、猫耳族を全て連れて、宮殿に向けて歩く。
帝都の者は、隠れてわし達を見ていたが、気にせず宮殿を占拠する。宮殿の中に入ると、猫耳軍に隅々まで調べさせ、その間にわしとリータ、メイバイは玉座の間に移動する。
そして、玉座の間の前には、ケンフとノエミを立たせ、扉を固く閉ざした。
* * * * * * * * *
パチリ……
とある一室で囲碁のような物を打つ、黒髪の男女の姿があった。男は大きく、そこに居るだけで雄大さを醸しだす。片や女は美しく、そこに居るだけで花を想像させる。
「これでこの一帯は黒に染まったな」
「あら? まだ逆転の目が残っていたと思いましたのに」
「いつもお前はそう言うが、一度も巻き返した事がないだろう?」
「一度だけあったじゃありませんか」
「十目のハンデを付けた時か……アレも結局、黒が勝っただろ?」
「そうでしたわね。それも、よけい酷くなりましたわ」
「五目のハンデがちょうどいいと思うのだが、どうやっても黒が勝ってしまうな。お前もたまには黒を選択してはどうだ?」
「いえ。私は白が好きなんです。それ以外選びませんよ」
「そうか……」
男は何度も繰り返す黒の勝ちに、辟易しながらも、黒の碁石を手に取り、盤面を眺める。
「ん?」
「どうなさりました?」
「この中央の鬩ぎ合い……もう詰んでいたはずなのだが、白の勝ち手が残されている」
「そうでしたか? まだ私は終わったとは考えていませんでしたよ」
「お前はどんな局面でもそう言うだろう」
「もちろんです。一度も白の勝ちを諦めた事はありません」
「そうだったな。お前はそう言う女だ。だが、この一手で右上は全て黒の勝利だ」
「あらあら。まったく白が無くなりましたわ。これでは信じる事すら出来ませんわ」
「まぁいつもの事だ。次の局面は一番下だな。ここもすぐに黒で埋め尽くされるだろう」
「いえいえ。私は諦めませんわ」
こうして、二人の遊戯は続く……
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