上 下
249 / 755
第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

247 調子に乗ってないにゃ~

しおりを挟む

「はじめ!」

 兵士の合図で、大将同士の一騎討ちが始まり、皆、固唾を呑んで見守る。

 わしは【白猫刀】をだらりと構え、エンアク将軍は湾曲した大きな剣を、片手で中段に構え、睨み合う。

 変わった形の剣じゃな。これもカンフー映画に出てきそうな剣じゃ。薄いから、これも変則的な動きをしてきそう。前の槍使いのように体術も扱いそうじゃから、これにも注意じゃな。

「来ないのか?」
「にゃ? わしから行って、よかったにゃ?」
「ふっ。余裕ぶっているのか……ならば、先手をいただこう!」

 エンアクはそう言うと、ひとっ跳びでわしとの間合いを詰め、剣を振り下ろす。わしはギリギリでかわそうかと考えたが、ひとまず大きく左に避ける。
 するとエンアクは、足を大股に開いて、わしに一歩踏み込むと、体を沈めて低い姿勢で剣を振るう。これも後方に跳んでかわすが、エンアクは低い姿勢のまま回転し、足払いからの低空斬りを繰り出す。

 よっと。お! まだ回って来る。こんな低い攻撃は初めてだから、やりづらいな。しかも、連続攻撃とは……わ!

 わしがエンアクの低空連続回転斬りを、びょんびょんかわしていると、剣が縦に跳ね上がり、わしを斬り付け、続けて回し蹴り、さらに回転して横薙ぎ。少し距離が空くと、また沈み込んで、斬り付け。
 下段、中段、上段と、回転は止まらない。

 【白猫刀】で、勝負を受けるんじゃなかったな。剣を受けると刃毀はこぼれが心配で受けたくないんじゃよな~。魔法は禁止ってルールじゃし、致し方ない。峰で受けるか。

 わしは【白猫刀】を半回転させると、エンアクの中段横薙ぎを受け止め、回転を止める。

 わざと受けたのに、何をニヤリと笑っておるんじゃろう?

 エンアクは一瞬笑みを浮かべたが、すぐに顔を引き締め、沈み込んで足払いを放つ。わしは、跳んでかわすのはやめ、その蹴りを踏み付ける。

「グッ……」

 エンアクは痛みで顔を歪めるのも束の間、すぐにわしの足に剣を振るい、わしの足を退かせて脱出。そして、上体を起こして左縦突き。その拳も、わしの肉球で受け止められる。

 エンアクは、わしに一切ダメージを与えられない事に驚き、大きく後ろに跳んだ。

「嘘だろ?」
「もうおしまいかにゃ?」
「ま、まだだ!」

 口では否定しておるが、足が出ないか。それとも、次の手を考え中か? 一瞬で終わらせてやってもいいんじゃが、心をバッキバキに折って負けを認めさせないと、また自殺云々うんぬんになりそうじゃしな~。

「来ないにゃ?」
「す、少し考えていただけだ!」
「あまりいい案も思い付かないにゃら、ハンデあげようかにゃ?」
「いらん!」
「そうにゃんだ……」

 わしは喋りながら【白猫刀】を鞘に収め、次元倉庫から、ある武器を取り出す。

「それは……ヌンチャク?」
「そうにゃ。重たく作ってるから、当たったら痛いにゃ」
「ハンデなどいらんと言っただろ!」
「あ~。これはわしの得意武器にゃ。だから、剣より上手く使えるにゃ。こんにゃ風に……」

 わしはデモンストレーションで、ヌンチャクを振り回す。右手、左手と素早くクルクル回し、最後に脇に挟んで決めボーズ。

 かっこよく決まったんじゃなかろうか? ブルーさんの映画を見て、よくマネしていたからのう。五十代に……
 まぁ上手く出来たのは、ゆっくりやったからじゃけどな。エンアクのスピードぐらいなら、わしの本気の十分の一以下じゃ。

「にゃ~? わしのヌンチャクさばきは凄いにゃろ?」
「そ、そうだな。それなら、ハンデじゃない」
「じゃあ、今度はわしから行くにゃ~」
「来い!」

 わしは軽く走ってエンアクに近付く。エンアクの間合いに入ると、剣が縦に振り下ろされるが、横に避けるとすぐさまヌンチャクを振るう。

「アニャー!」
「グッ……」

 わしのヌンチャクは弧を描き、エンアクの肩にドスッと鈍い音を出して当たる。だが、エンアクは歯を食い縛り、ミドルキックを放つが、その足を両手に掴んだヌンチャクでガード。
 エンアクのスネに当たり、顔を歪めるのを見て、今度は反対側の腕にヌンチャクを回して当てる。するとエンアクは、うめき声をあげて剣を落とす。

「ホ~~~……ニャニャニャニャニャー!」

 わしはトドメとばかりに、ヌンチャクを素早い手捌きで、右、左と回しながら、エンアクの体に滅多打ちに振り回す。

「ラストにゃ~! アニャーーー!!」

 最後は綺麗に残していた顔めがけて、華麗な飛び蹴り。エンアクは、わしの蹴りを受けて、派手にぶっ飛んで行くのであった。

 う~ん……見た目はかっこよく決まったと思うんじゃが、猫の口のせいで「アチャー」と言えないから、しまらんのう。


 エンアク将軍との一騎打ちは決着はついたので、ぶっ飛んで行ったエンアクのそばに歩み寄ると、残っていた敵兵がエンアクを守ろうと行く手を阻む。
 やり取りが起こると面倒だったので、喋り出す前に、ヌンチャクをぶつけて意識を刈り取る。

 その後、エンアクに話し掛けようとしたら、手加減をミスっていたらしく、顔が陥没していたので、慌てて回復魔法で顔だけ治してあげた。手加減を失敗したのは謎だ。

「シラタマ殿は、すぐに調子に乗るからニャー」

 皆がわしに追い付いて来て、メイバイがおかしな事を言っているが気にしない。そんなわけがないからだ。

「調子に乗るのはやめませんか?」

 リータまでこう言う始末。もちろん調子に乗ってないわしは、意義申し立てる。

「にゃ!? 調子ににゃんて乗ってないにゃ~」
「本当ニャ?」
「ほ、本当にゃ~!」

 ブルーさんのマネをしていたあの頃を思い出し、少し乗ったかも……

「「やっぱり(ニャ)……」」
「にゃ!? そんにゃ事より、将軍を起こさにゃいと!!」

 わしは、二人の探偵の追及を逸らす為に話を変える。それでも追及して来そうだったので、水魔法でエンアクを起こして話し掛ける。

「起きたにゃ?」
「グッ……体が……」
「ああ。ヌンチャクで滅多打ちにしたから、両手両足、他にも骨はボロボロになっているんにゃろうな」
「猫!?」

 ん? また驚いておる。そのやり取りは面倒臭いんじゃよな~。

「猫だにゃ~。それより、わしの犬になる約束は覚えているかにゃ?」
「私は……そうか。負けたのか……」
「じゃあ、さっそく命令にゃ。軍を降伏させてくれにゃ」
「そうだな……約束は約束だ。だが、果たせそうもない」
「にゃんで~?」
「口が動けば、自害は出来る! 皇帝陛下。バンザ……ムグ」

 わしは舌を噛みきろうとしたエンアクの口に、土の玉を入れて自殺を阻止する。

「はぁ……ケンフ。お前の国は、こんにゃ奴ばっかりにゃの?」
「まぁ皇帝陛下に逆らえる者は居ませんからね」
「もう面倒臭いにゃ。こいつを張り付けにして、軍の元に運ぶにゃ。センジ。首長の代わりに、降伏宣言してくれにゃ」
「はい……」


 センジは自信無さそうに返事をするが、帝国兵がセンジの言葉に耳を傾けてくれるかは祈るしかない。
 ひとまず帝国兵は二百人ほど転がっているので、顔だけ出して昼顔にしておく。センジが何か言いたげにガン見していたが、無視して作業の続行。

 それが終わると寝転んで動けないエンアクを、土魔法で作った十字架に張り付け、それを土魔法で操作して起き上がらせると、高々とかかげる。
 車輪も付けたので動かす分には問題無いが、十字架を高く掲げてしまったので、土台が重くなり、わしが魔法で動かすしか出来なくなってしまった。

 リータ達潜入組とセンジを土台に乗せると出発。音声拡張魔道具を使い、センジにエンアク将軍が討ち取られた事と、降伏を呼び掛けてもらう。

 その音に、帝国兵はちらほらと持ち場を離れて集まって来たが、エンアクの救出を企てて来る者には、キャット神拳で撃退。キャット百裂拳で帝国兵を吹き飛ばしてやった。
 リータとメイバイに、また調子に乗ってると注意を受けたが、真面目にやってるんだから、つつかないで~。


 わしのキャット神拳で、帝国兵がおよそ五百を切った頃に、外壁に到着。外からの攻撃に備えていた兵もわし達の登場で、内に集まざるを得なかった。

 帝国兵の視線を集めたところで、センジから音声拡張魔道具を受け取ったわしは、語り掛ける。

『さて、帝国軍のみにゃさん。エンアク将軍は降伏を受け入れたんにゃけど、みんにゃはどうするにゃ?』

 帝国兵は、猫、猫と騒いでいたが、十字架に張り付けられたエンアクを見ると、今度は違うざわめきが起こる。そんな中、一人の男がわし達に歩み寄る。

「エンアク将軍は、本当に降伏したのですか?」
「本当にゃ。証人は、首長の娘、センジにゃ」
「あなたはたしか、副将軍のシトクね。私の顔に、見覚えがあるでしょう?」
「……はい」

 センジがわしの代わりに喋ると、シトクは素直に頷いた。

「父……首長の命も、エンアク将軍の命も、現在、猫さんに握られているのです。私達はたった一人?の猫さんに敗けました。ただちに降伏し、武器を捨ててください」
「敗けとおっしゃいましても、まだ街も落とされておらず、敵は五百の兵で囲んでいます。まだ戦えます!」
「わからないのですか? その半数の兵を、猫さん一人?に倒されたのですよ」
「ですが……」

 う~ん。説得にはもう一声必要か……。センジは、わしを一人と言うのに疑問を抱くなら、一匹って言えばいいのに……
 ひとまず、わしの強さを確認させてやるか。

 わしは、ノエミに猫耳族への前進の合図を出すように指示した後、大魔法を使う。

「【朱雀】にゃ~!」

 突如、出現する10メートルの火の鳥。頭上を旋回させると熱気を振り撒く。

「あ、ああああ……」

 シトクは【朱雀】を見ると、声にならない声をあげる。

「行けにゃ~!」

 さらにわしは【朱雀】を操作して、外壁にぶつける。【朱雀】は壁を、高熱で一瞬に溶かし、大きな穴を開けて浮上。再び頭上を旋回する。
 その光景に、呆気に取られる者、腰を抜かす者、恐怖に震える者と、それぞれ千差万別。わしはその姿を見て、【朱雀】を吸収魔法で消し去る。

 あらら。わしの力を知る、リータとメイバイ、ケンフ以外は固まって、あっちの世界に行ってしまったな。ノエミは……目が爛々らんらんしておるな。教えないよ?
 とりあえず、皆に帰って来てもらわんと話が進まないのう。


 わしは音声拡張魔道具を握り、声を発する。

『さてと……エンアク将軍、首長、並びに街に居るみにゃさんの命は、わしが握ったにゃ。この世から骨まで消して欲しい人は、わしに掛かって来てくれにゃ~』

 返事が無い。皆、わしをゆっくり見ただけだ。

「リータ、メイバイ。またわしは、調子に乗ってしまったかにゃ?」
「「う~~~ん……今度はやり過ぎ(ニャ)?」」

 相変わらず、二人の裁定は厳しいのであった。
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...