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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~
245 首長を監禁にゃ~
しおりを挟むラサの街の広場にて、太った男は鞭を振り上げ、猫耳少女に振り下ろさんと構える。わしは作戦の遂行を優先し、我慢しようとしていたが、リータが飛び出してしまった。
「ダメ~~~!!」
「リータ!!」
リータは猫耳少女に覆い被さり、振り下ろされた鞭を背中で受け……ない。
「なっ……。鞭が……」
ふう。間に合った。
太った男が鞭を振ると、鞭の先は消えていた。わしが風魔法で切ったからだ。小さな【鎌鼬】を一瞬で飛ばし、鞭が振り下ろされる前に切り裂いてやったのだ。
「貴様がやったのか!」
「え? 鞭が来ない?」
「何を惚けてやがる! 人様の物に触れてるんじゃねえ!」
太った男は憤り、リータに詰め寄る。なので、わしは念話でケンフに指示を出し、その状況を見守る。
「私の連れがご迷惑を……申し訳ございません!」
「お前の連れ? こんな事をしでかして、タダで済むと思っているのか!!」
「わかっています。少ないですが、これでご勘弁してください」
ケンフは引いていた荷車ごと、ジャガイモを全て献上する。
「これは……フンッ。今回は不問にしてやる! 次からは注意させるんだな」
「ありがとうございます」
太った男はジャガイモの入った袋を見て満足そうな顔をしたが、すぐに顔を引き締め、捨て台詞を吐き、猫耳少女達に荷車を引かせてこの場をあとにした。
「すみません……」
太った男が去ると、リータはわしを抱き上げて謝罪する。
「気にするにゃ」
「でも、作戦を乱すような行動をしてしまいました……」
「リータが止めに入らなくても、わしがなにかしていたにゃ」
「リータ。ありがとうニャー!」
「シラタマさん……メイバイさん……」
「それじゃあ、そろそろ目的地に向かうかにゃ。メイバイ。案内を頼むにゃ~」
「わかったニャー!」
落ち込むリータを宥め、わし達はメイバイの案内で、とある屋敷に辿り着く。その屋敷とは、街の中でも一番大きな建物。この街を治める首長の屋敷だ。
猫耳族が、街に攻撃を仕掛けられる距離に陣を張れば、首長が指揮を取ると踏んで、この場に待機する作戦だ。
あとは予定通りに事が進むのを待つだけ。首長が動かなくとも、人質にして立てこもり、兵を割く事が出来るので、どちらに動いても問題ない。
「兵が慌ただしく動き出しましたね」
「猫耳族が来たみたいだにゃ」
リータが言う通り、屋敷の前で待機していると、馬に乗った兵士が屋敷に飛び込み、しばらく待つと飛び出し、さらに待つと、十数人の兵士が屋敷から飛び出して行った。
「首長が出て来てくれたら、楽にゃんだけどにゃ~」
「あ、アレは違うかニャー?」
メイバイが豪華な馬車を指差す。
う~ん。首長の顔を知っている者が、いないんじゃよな~。メイバイは会った事がないみたいじゃし、どう判断したものか……
時間も迫っているし、強襲して、違っていたら脅してでも案内させるか。
「よし! あの馬車を襲うにゃ。いまから武器を渡すからにゃ」
リータには盾と猫の手グローブ、メイバイには二本のナイフ、ノエミには杖、その他必要になる装備を渡して準備完了。茶色い猫のわしを先頭に歩き、馬車の行く手を阻む。
わし達が道を塞ぐように立つと馬車は止まり、御者が怒鳴り付けて来る。
「どけっ! この馬車は首長様がお乗りの馬車だぞ! 平民ごときが道を塞いでいいと思っているのか!」
うん。馬鹿で助かる。首長を探す手間が省けたわい。
「聞いているのか! さっさとどけっ!!」
御者の男が叫んでいると、馬車が止まっていると気付いた中の者が指示を出したのか、振り向いた後、馬車でわし達を引こうと発車させる。
わしはその動きを見て馬車に突進し、馬を縛っている縄を風魔法で切り裂き、車輪の前に穴を作って急停止させる。
すると馬は走り去り、急停止させられた馬車から御者が飛び落ちる。ここでやっと、首長らしき偉そうで太った男が姿を現した。
「何事だ!?」
首長らしき男は周りを見て、瞬時に事態を把握する。
「その者達を殺せ!」
「「「はっ!」」」
護衛の兵士はリータ達を囲み、剣を構える。
リータ達は背中を合わせ、中央にノエミを配置する。
そんな中、わしは……
「グアッ!」
「「「首長様!?」」」
「武器を捨てるにゃ~! 捨てにゃいと、首長の命は無いにゃ~~~!!」
馬車の下に潜り込んで人型に変身したあと、リータ達に注意が集中したところで、首長の後ろに回り込んで蹴り倒し、首筋に【白猫刀】を当てた。
その結果、兵士達はわしの脅しに屈して、剣を投げ捨て……
「猫?」
「猫が喋ってる!?」
「猫が服着て立ってるぞ?」
「なんだアレ?」
捨てずに混乱した。
くそ! わしの見た目のせいで、すんなりいかんのう。
「いいから剣を捨てろにゃ! 首長が死ぬにゃ~~~!!」
「お、お前達! 早く俺を助けろ!!」
「人質は黙っているにゃ!」
「グフッ」
わしは、助けを求める首長の背中を踏み付けて黙らせる。兵士達はその姿を見て、ようやく事態を把握したのか、顔を見合わせ、一人、また一人と剣を捨てる。
「みんにゃ、こっちに来るにゃ。ケンフは首長を縛るにゃ」
「ワン!」
リータ達は馬車を背にして集まり、警戒を解かない。ケンフは馬車に上がり、わしの渡した縄で首長を拘束する。すると、首長はケンフの顔を見て、気付いた事があるようだ。
「お前は武術大会の……。帝国軍人が何をしている! 敵はこいつらだ! 早く俺を助けろ!!」
「いえ。俺はもう軍人ではありません。シラタマ様……この猫様の、犬ですワン」
「猫の犬??」
うん。わしも言っている意味がわからん。いつまでその設定、続けるんじゃろう? わしが止めるまでか。まぁ面白いから、もう少し続けるかな。
とりあえず首長は混乱して黙ったので、ケンフに体を起こさせて、わしは語り掛ける。
「さて、首長よ。お前の命はわし達の手の中にあるけど、どうするにゃ? このまま猫耳族と戦争を続けると言うにゃら、いますぐ死んでもらうにゃ」
「皇帝陛下から預かった街だ……。降伏なんて出来ない……。皆の者、剣を拾え! そして、死ぬまで戦え!!」
「「「「「おおおおお!!」」」」」
ありゃ? 自分かわいさに命乞いすると思っておったが、なかなか骨のある男じゃな。それとも皇帝が怖いのか?
いまはそんな事より、この事態の収拾じゃな。
「鉄魔法【操作】にゃ!」
わしは目に見えている剣を、兵士に拾われる前に、一気に浮き上がらせる。そして、馬車の屋根に乗せる。
「みんにゃ、馬車に乗り込むにゃ~!」
「「「「にゃ~!」」」」
皆が乗り込むと、今度は土魔法を操作して馬車をバック。屋敷に突っ込む。
「【大土壁】にゃ~~~!」
屋敷の敷地に入ると、高さ30メートルの【土壁】で屋敷を大きく囲み、皆の安全を確保する。
「よし! 家探しにゃ。残っている人間を、片っ端から拘束するにゃ~!」
「「「「にゃ~!」」」」
……ケンフは「ワン」じゃないのか?
皆の気の抜ける返事を聞き、わしは一人、別行動で屋敷を探索する。わしは屋敷の屋根に飛び上がると、上から部屋をひとつずつ回り、下からはリータ達が部屋を回る。
屋敷の者はわしを見る度、驚いて固まり、猫耳族はご先祖様と拝む。そのせいで、わしの仕事はなかなか進まず、リータに怒られて拗ねる。
残っていたのは、首長の家族、非戦闘員の召し使い、猫耳族の奴隷。首長の家族以外はすんなり、リータ達の指示に従い、一階の部屋に別々に監禁される。
部屋の窓もわしの土魔法で塞いだので、突破は困難。唯一の扉も、土魔法で作った引き戸を外から取り付けたので、中からは開ける事が出来ない。
最後に梃子でも動かない首長家族のいる二階の部屋も、外から土魔法で封じる。それらが済むと、リータとメイバイには猫耳族に事情説明をお願いして、わしは首長とノエミ、ケンフを連れて、家族の部屋にお邪魔する。
首長の家族は五人。嫁さんらしき太ったおばさんと、子供らしき太った男性二人。太った女性一人と、太っていない少女が一人。
こいつらを脅して、白旗を上げてもらおうという三段腹……算段だ。
「さて、みにゃさん。こちらの首長様が、降伏したくないって言ってるにゃ。みんにゃで説得してくれにゃいかにゃ?」
「お前達! こんな猫の言葉を聞くな! 降伏なんてしたら皇帝陛下に、一家全員、処刑されるぞ!!」
う~ん。やはり皇帝に恐怖で支配されておるのか。でも、わしに同じ事をされないとでも思っているのかな? 聞いて見るか。
「あの~? わしも、一家全員、皆殺ししてもいいんにゃけど……」
「え?」
「気付いてなかったにゃ? 戦争にゃら、相手の国の人間を皆殺しにしてもかまわないにゃろ?」
「そんなわけない! 人道的に問題だ!!」
「人道的にゃ? お前達が猫耳族にして来た所業は知らないのかにゃ?」
「奴隷として生かしてやってるだろ!」
「はぁ……」
「ギャーーー!」
わしはため息を吐いて、首長の人差し指を逆に曲げる。
「生かしてやってるにゃ? お前達は肥えているのに、猫耳族は痩せこけてフラフラだったにゃ」
「ギャーーー!」
喋りながら中指を逆に曲げると、首長は再度悲鳴をあげた。
「うるさいにゃ! これぐらいの痛み、猫耳族の痛みの万分の一……億分の一にゃ! お前の全ての骨を砕いても足りないにゃ!!」
「も、もうやめて……」
「お前はやめてと懇願した猫耳族に、慈悲を与えた事があるのかにゃ?」
「あ、あるぞ! 一回や二回じゃ……ギャーーー!」
「慈悲があるにゃら、ここに居た猫耳族は、にゃんで全員痩せこけてボロボロなんにゃ!!」
「ギャーーー!」
首長の薬指、小指と折ると、わしは手を握ったまま目線を合わせる。
「いいかにゃ? わしは猫耳族の怒りの代行者にゃ。この国を滅ぼす為にやって来たにゃ。皇帝が怖いにゃ? そんにゃもん、わしの怖さには遠く届かないにゃ!! 痛いの痛いの飛んで行け~にゃ!」
わしは首長の折った指を、全て回復魔法で治す。
「い、痛くない……治った?」
「次は指を切り落としてくっつけてやるにゃ。全ての指を切ったあとは手足にゃ。首長が終わったら、次は家族にゃ。簡単に死ねると思うにゃよ!!」
わしの言葉に、この部屋に居る者は敵味方関係無く、恐怖に唾を呑み込む。
「……最後通告にゃ。兵に降伏を指示するにゃ」
わしは低い声で言葉を紡ぐ。恐怖で皆、黙り込む中、首長家族の一番下の少女が声をあげる。
「わ、私が降伏させます!」
「センジ! 何を言っているんだ! ぐっ……」
センジと呼ばれた少女を首長が止めようとするので、わしは首を掴んで黙らせる。
「このままでは猫さんに、一家全員殺されます。それならば恭順を示し、私だけでも生き残るほうがお家の為です」
「にゃははは。賢い娘さんだにゃ。センジと言ったかにゃ?」
「はい……」
「センジの申し出は嬉しいんにゃけど、センジで、この街の兵を抑えられるにゃ?」
「それは……家族の首を、全て兵士に見せれば容易かと……」
お、おう……この少女、涼しい顔でえげつない事を言うな。いや……体は正直じゃな。震えているし、冷や汗をかいている。
……ん? 何か言いたげな目じゃな。何か策があるのか? 乗ってやるのも一興か。
「センジ!」
「ケンフ! 首長の口を塞ぐにゃ! ノエミはわしと、センジ以外の家族を縛るにゃ~」
「ワン!」
「……わかったわ」
ケンフはわしの指示通り、首長の口に猿ぐつわを噛ませると、わし達の作業を手伝う。それが終わるとセンジを連れて部屋を出て、扉の引き戸を開かないように閉め、一階に降りる。
一階の応接室らしき部屋にセンジを連れて行き、ケンフとノエミに見張ってもらっている間に、リータとメイバイを迎えに行き、猫耳族の部屋から連れ出す。
「事情はわかってもらえたかにゃ?」
「多少は……」
「にゃ?」
「まだ自由になれるのが信じられないみたいニャー」
「食事も、なかなか手を付けてくれませんでした……」
「そうにゃんだ……まぁ時間が経てば、解決するにゃろ。いまは様子を見守ろうにゃ。リータ達も、こっちに来てくれにゃ」
「「はい(ニャー)」」
二人を連れて応接室に戻ると、皆にお茶を振る舞い、センジの対面に座る。
「飲まないにゃ?」
「………」
「毒にゃんて入れてないから安心するにゃ」
「……はい」
センジは恐る恐る、カップを持ってお茶をすする。そうして、気持ちが落ち着くのを待って、わしは質問する。
「さて、センジは何か兵を止める策があると思って、家族から引き離したにゃ。どうしたら兵は止まるにゃ?」
「え? ……さきほど言った通り、家族全員の首を取れば……」
策はそれしかないんかい! 買い被り過ぎだったみたいじゃ……
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