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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

233 猫耳の里に出発にゃ~

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「貴様~~~!!」

 ケンフがシェンメイを「筋肉猫」と呼び、わしはリータとメイバイに、「デカ鬼」と、どっちが酷いかを聞いた。それと同時に、シェンメイは斧を振りかぶり、ケンフを襲う。

 マズイ!

 わしは咄嗟とっさに肉体強化魔法を使うと二人の間に入り、ケンフを左手で突飛ばして、斧を右手で受け止める。その衝撃は大きく、床にヒビが入ってしまった。

「何故、止めるの! そいつは敵よ!!」
「子供達の前だからにゃ! 頼むから矛を収めてくれにゃ……頼むにゃ~」
「くっ……」

 シェンメイは辺りを見渡し、子供達の不安そうな顔を見て、元に居た席に戻る。

 いまのは危なかった……。一瞬でも判断が遅れていたら、ケンフは真っ二つじゃった。
 それに力も凄い。さすがは筋肉猫と呼ばれるだけあって、わしの作った床にヒビが入ってしまったわい。普通の床なら、完璧に抜けておったぞ。とりあえず、直しておこう。

 わしが床を土魔法で補修していると、リータとメイバイが心配して近付いて来た。

「シラタマさん……血が……」
「ああ。ちょっと切っただけにゃ」
「あんな大きな斧を受け止めたのにニャ!?」
「あれくらい、どうって事ないにゃ。すまにゃいけど、子供達を別の部屋に連れて行ってくれにゃ」
「……はい」
「わかったニャー」
「みんにゃも出て行ってくれにゃ。……ノエミとケンフは残るにゃ」

 わしの指示に皆は部屋から出て行き、最後に出て行くリータに、水の魔道具とコップを数個渡すと、ケンフとノエミをわしの隣に座らせる。

「これでケンフを殺しても大丈夫にゃ」
「……殺してもいいの?」
「猫耳族にとってケンフは敵だっただろうから、シェンメイの好きにしてかまわないにゃ。でも、どうせ殺すにゃら、情報を絞り取り、使い尽くしてから殺すほうがお得にゃ」

 シェンメイは、わしの発言が意外だったのか、答えに困っているように見える。そんな中、同席しているノエミが声を発する。

「シラタマ君……。あの時も思ったけど、シラタマ君って残酷なのね……」
「………」
「あの時って?」

 ノエミの言葉にわしは黙る。そこに、シェンメイの質問が投げ掛けられる。

「言っていい?」
「……いいにゃ」

 わしが許可を出すと、ノエミが猫耳族を魔法陣で操っていた男の話を始める。わしが怒りに任せてした所業だ。言い訳のしようがない。
 ノエミの話が後半になると、シェンメイは黙っていられないのか、驚きの声をあげる。

「四肢を切り落として、治した!?」
「そうよ。シラタマ君の怒りは、死すら許さないわ。あの時ほど、シラタマ君を敵に回してはいけないと感じた事はないわ」
「信じられない……」
「これは事実よ。ケンフがシラタマ君に従順なのは、同じ事をやられたんでしょ?」
「いや、俺は……」
「してないにゃ」

 ノエミの質問に、ケンフは困った顔をしてわしを見るので、代わりに答える。

「え?」
「ケンフは正々堂々闘って、負けを認めたにゃ。それに自殺をしにゃかったから、そんにゃ事は必要なかったにゃ」
「じゃあ、なんでこんなに従順なの?」
「わしの力の一端を見せたからにゃ。にゃ?」
「ワン!」
「それだけで犬になったの!?」
「ま、まぁにゃ」
 
 ノエミから見ても、ケンフは犬に見えるのか。これも言い訳のしようが……あるかも? だって、バカっぽいもん。

「シェンメイにゃら、わしの力が少しはわかったんじゃないかにゃ?」
「……たしかに。私の本気の一撃を片手で受けて、かすり傷だけなんて有り得ない」
「シラタマ君って魔法だけでなく、そんなに力があるの!?」
「にゃにをいまさら……ノエミを担いで、10メートル以上はある壁を飛び越えたにゃ~」
「あ……」

 ノエミもわしの力を理解してくれたようなので、わしはシェンメイに問う。

「で……ケンフをどうしても殺すにゃ?」
「シラタマが殺すなと言うのなら……」
「わしはかまわないと言っているにゃ。判断をわしにゆだねるにゃ」
「………」
「しいて言うにゃら、ケンフは戦いたいだけのバカにゃ。ケンフに殺された者もいるだろうけど、それは戦争だから、ある意味仕方がないことにゃ」
「あの、シラタマ様……よろしいでしょうか?」

 わしが喋り続けていると、ケンフがそろりと手を上げた。

「どうしたにゃ?」
「俺は最近まで山に籠もっていて、誰も殺した事がないんですけど……」
「そうにゃの!?」
「軍に入ったのも流れでして……」

 ケンフは帝国軍に入った経緯を話す。
 なんでも、最強の武術家を目指す為に山に籠もり、一人で修行していたらしい。

 修行も終わり、村に帰ると騎士への仕官兼、テストの武術大会がラサの街で開催されると聞いたので、参加したらぶっちぎりの優勝。軍に入れば強い敵と闘うのに困らないかと、そのまま入隊したそうだ。
 その成果もあって、騎士になったらいきなりの大役を仰せつかって、さらに出世が出来ると期待していたそうだ。
 まさかそんな順風満帆じゅんぷうまんぱんの成り上がりを、一匹の猫に止められるとは思いもしなかったらしい。

「じゃあ、にゃんでシェンメイの事を知っている風に『筋肉猫』にゃんて呼んだにゃ?」
「猫耳族に猛者がいると聞いていたんで、見た目も合致していたから、皆の共通の呼び名を言ったまでです」
「……シェンメイ。二つ名は『戦乙女』だったかにゃ?」
「そ、そうよ!」
「人族からは『筋肉猫』と呼ばれているにゃ~」
「殺す……」

 うお! 凄い殺気じゃ。ケンフを襲った時より、力が込められておる。「戦乙女」は気に入っておるのか。全然似合っておらんけとな……うっ。わしにも殺気が来た! 話を変えよう。

「シェンメイはいきなり襲い掛かったけど、ケンフは敵だと、すぐに見抜けるのかにゃ?」
「その服装は、帝国軍の正装よ。猫耳族の宿敵だから、当然わかるわ」
「にゃるほど……ケンフ。着替えは持ってる……わけないにゃ」
「はあ……」
「この街の家捜しを命じるにゃ。服ぐらい、少しは残ってるかもしれないにゃ。この際、布でもいいから、片っ端から集めて来るにゃ。一人でも大丈夫にゃろ?」
「はい!」
「ほい。袋と光の魔道具にゃ。日が暮れるまでに戻るにゃ~」
「ワン!」

 ケンフが部屋から出て行くと、わしはシェンメイとの話を再開する。

「えっと~。にゃんだったかにゃ……あ! 猫耳族の長に合わせてくれにゃいかにゃ?」
「……会ってどうするの?」
「わしはこの国の事にうといにゃ。だから情報と、これからの協力を頼みたいにゃ」
「シラタマだけならいいけど、他は連れて行けないわ」
「わしだけにゃ?」
「さっきも言った通り、一族の者には、人族を極度に嫌っている一派もいるわ。連れて行くと、話すどころか里には入れない。私も危険因子となるかもしれないわ」
「にゃるほど……」

 そりゃそうか。隠れて住むぐらいなんじゃから、人族嫌いは当然じゃな。でも、人族じゃなければいいのかな?

「メイバイだったら大丈夫かにゃ?」
「多少は警戒されるかもしれないけど、問題無いわ」
「じゃあ、さっそく向かうにゃ~」
「いまから?」
「里は遠いにゃ?」
「私だったら走れば一時間ぐらいで着くけど、人の足だと丸一日は掛かる場所よ」
「猫の足にゃ~」
「あ……」

 こうしてわしのお願いは了承されたので、主要メンバーを集めて会議。と言っても、お留守番の注意事項。ケンフに集めてもらっている服の処置や、食事の事を話すだけだ。
 裁縫に必要な物も食材も渡しておくので問題は無い。飲み水に困るぐらいなので、魔力の入った水の魔道具を多く用意したから、こちらも問題無いだろう。

 準備が整うと、わしはリータの前に立つ。

「リータ。子供達の事は頼むにゃ~」
「はい!」
「にゃにか足りない物は無いかにゃ?」
「すぐ帰って来るのですよ?」
「出来れば夜には……長くて二、三日にゃ」
「それなら足りています。て言うか多過ぎです! 一ヶ月以上もちますよ!」
「シラタマ殿は、心配性だからニャー」

 どうやらわしの渡した水や食料は、多すぎたようで、リータとメイバイは呆れているようだ。

「あと、空からの警戒だけはおこたるにゃ」
「何度も聞いたから大丈夫ですって~」
「それから……」
「もう! 大丈夫ですよ。私に任せてください!!」
「ほら、シラタマ殿。行くニャー」
「にゃ~~~」
「行ってらっしゃ~い」

 わしは笑顔で手を振るリータに見送られ、シェルターを出る。メイバイに首根っこを掴まれて無理矢理だったが……


 その後、街跡も出て、シェンメイが本格的に走ると言うので、わしとメイバイも走ってついて行く。

 速い! あのガタイでこれほどの速度を出せるのか。メイバイが辛そうじゃな。

「メイバイ。無理せず魔道具を使うにゃ」
「いいニャー?」
「里に着いたら補給するから大丈夫にゃ。切れたらすぐに言うにゃ~」
「わかったニャー」

 うん。これならわしが抱き抱えて走る必要はないな。しかし、この速度で木にぶつからず走るなんて、まるで猫みたいじゃな。
 あ、二人とも、だいたい猫じゃ。わしがほぼ猫っていうツッコミはいらん!

 わしがどうでもいい事を考えていても、皆の足は止まらずに進み、三十分を過ぎた頃に、シェンメイが止まれと指示を出す。

「ハァハァ。休憩ニャー?」
「シッ! 厄介な奴がいる」

 メイバイが息を切らして質問すると、シェンメイは警戒を強めるので、わしは感心して見ている。

 ほう、あの速度で走っていて気付くとは、伊達に筋肉猫と呼ばれていないな。いや、戦乙女じゃったか。
 さて、どうしたものか……メイバイの疲労があるから、二人には休憩してもらうか。

「シラタマ殿。何かいるニャ?」

 わしがこれからの方針を考えていたら、メイバイが質問して来た。

「デカイのがいるにゃ」
「じゃあ、一緒に戦うニャー!」
「疲れてるにゃろ? 水を出すから飲んで待ってるにゃ」
「シラタマ殿だけにやらせるのは……」
「シェンメイの里の者と会うと、にゃにが起こるかわからにゃいから、体力は温存してくれにゃ」
「……わかったニャー」
「ほい。水にゃ。シェンメイも飲むにゃ」

 メイバイに水筒を渡し、シェンメイにも手渡そうとするが、受け取ってくれない。

「私も? この先にいる奴は、私でも出来れば避けたい相手よ。それを一人で相手するつもり?」
「まぁまぁ。座って待ってるにゃ~」
「死んでも知らないわよ?」
「わかったにゃ。行って来るにゃ~」

 と言って水筒を押し付けて別れると、すぐに獣を発見したので、首を斬り裂き、次元倉庫に入れる。悲鳴もあげさせない早業だ。

 そうして、メイバイ達の元へ走って戻った。

「ただいまにゃ~」
「おかえりニャー」
「もう戻って来たの? やっぱり協力が必要なのね」
「いんにゃ。終わったにゃ」
「え? 戦闘音なんて全然しなかったわよ?」
「そうだにゃ。メイバイ、疲れはとれたかにゃ?」
「そんな数分でとれないニャー」
「え? え? え??」

 シェンメイは、わしとメイバイの何気ないやり取りに、目をパチクリさせている。

「どうしたにゃ?」
「本当に倒したの?」
「そう言ってるにゃ」
「……どうやって?」
「剣で首を斬り裂いたにゃ」
「その短い剣で?」
「大きかったから、剣に風魔法をまとわせて斬ったにゃ。おかわりいるかにゃ?」
「お願いニャー」

 メイバイから水筒を受け取ったわしは、水魔法で補充しようとするが、シェンメイがそうはさしてくれない。

「ちょっと! まだ話してるでしょ!!」
「なんにゃ~?」
「だから、どうやって倒したのよ!」
「さっき言ったにゃ~」
「シェンメイさん。シラタマ殿のやる事に、いちいち考えたらダメニャー」

 わしが「にゃ~にゃ~」言っていたら、メイバイが助け船を出してくれたけど、それは助け船か?

「メイバイは信じているの?」
「どんな獣かわからないけど、シラタマ殿が終わったと言えば終わっているニャー」
「そうね。わからないわよね。10メートル近い猪よ。こんなの、音も無く倒せるわけないでしょ?」
「シラタマ殿なら出来るニャー」
「え?」
「もういいにゃ。現物見せたらいいんにゃろ?」
「そ、そうね。移動しましょう」

 シェンメイは、猪が居た方向に歩き出す。

「あ、そっちにはもういないにゃ」
「逃げたってこと?」
「わしが持ってるにゃ」
「……持ってる?」
「そこに出すから離れてくれにゃ~」

 シェンメイは、わしの言葉に意味がわからないって顔をするので、引っ張って離れさせる。そして、次元倉庫から巨大な黒い猪を取り出すと、シェンメイは目を擦って見ている。

「うそ……」
「ニャ? もう考えないほうがいいニャー」

 メイバイよ。そんなにわしのやることに諦めさせたいのか? うなずいていますね。そうですか。

「わかった」

 あ、ついに諦めたか。

「無理に決まっているでしょ!!」


 どうやらシェンメイは、諦めが悪いみたいだ。
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