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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

222 戦争 2

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 気球で空から攻撃しようとしていた帝国軍は、何度も押し戻される気球での攻撃は諦め、獣を使った攻撃に切り替えた。
 先陣を切ったのは猪の群れ。盾を構える兵士に突撃を繰り返す。その攻撃を兵士は冷静に受け止め、剣、槍、弓で応戦。少しずつだが、猪を押し戻す事に成功する。
 次に帝国軍が放つは狼の群れ。狼は縦横無尽に走り回り、兵士を困惑させようとする。兵士も応戦するが、猪の直線の攻撃に慣れたせいで、狼の群れをなかなか数を減らせないでいる。

「王殿下。兵士が困惑しているようです。如何いかが致しましょう?」
「中央を下げよ。囲んでしまえば、下手な弓でも当たるだろう」
「はっ!」

 アンブロワーズ王が的確な指示を出すが、慌てた兵士が報告を告げる。

「動きました! パンダ、同時に両翼から来ます!」
「王殿下。先程の指示を全軍後退に切り替えますか?」
「いや。いい」

 報告を聞いた参謀は、アンブロワーズに助言するが、首を横に振られてしまう。

「ですが、両翼が手薄となります」
「大丈夫だ。イサベレとオンニを出撃させろ。パンダ以外の獣を相手させる騎士を、両方に一個小隊、必ず付けろ」
「はっ!」

 通信魔道具でアンブロワーズの指示を聞いた、イサベレとオンニは部下を連れ、両翼に配置されたパンダに向けて走り出す。最前線では、アンブロワーズの作戦が功を奏し、獣の群れは着実に減っていくのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 イサベレとオンニが最前線に到着すると、パンダが迫っていた。


 イサベレサイド


「騎士達は他をお願い。私とリータ、メイバイでパンダは討ち取る」
「「「「「はっ!」」」」」
「では、パンダに向けて……突撃にゃ~!」
「「にゃ~~~!」」
「「「「「にゃ~~~??」」」」」

 イサベレの掛け声に、リータとメイバイは応えて駆け出す。他の騎士は疑問の「にゃ~」で、ポカンとする。だが、リータ達が走った姿を見て我に返り、走り出す。

 イサベレを先頭に、獣の攻撃を退けながら隊は進み、バンダに辿り着く。そうしてイサベレは、リータとメイバイを残して隊を散開させ、獣を近付けさせないように命令を下す。

 騎士が獣と戦い、パンダが眼前に迫る中、イサベレは、リータとメイバイと最終打合せをする。

「フェンリルとの戦いで、シラタマは二人にどんな指示を出していた?」
「後ろ脚を潰せと言われて、私達で一本潰しました」
「シラタマ殿が引き付け役をしてくれたから出来たニャー」
「そう……」
「悩んでいますか? でしたら、攻撃力の高いイサベレさんが脚を潰すってので、どうですか?」
「でも……」

 リータの案は、イサベレより危険が高い配置なので、簡単に決定する事は出来ないようだ。

「私達なら大丈夫ニャー。リータの盾は、フェンリルも破れなかったニャー!」
「メイバイさんのスピードも、フェンリルを上回っていましたよ。それで守りやすくなりました」

 メイバイとリータが互いに褒め合っている最中も、パンダが近付いているので、時間がない。イサベレも決定を急がないといけない。

「……わかった。私が迅速に四肢を潰す。その間、引き付け役をよろしく」
「「わかりました(ニャー)」」
「では、ついて来い!」
「「はい(ニャ)!」」

 イサベレは先頭を走り、パンダが腕を薙ぎ払うと、空気を蹴ってかわす。その隙を突いて、リータとメイバイが懐に入り、攻撃を繰り出す。
 リータは拳を、メイバイはナイフを振るい、何度か攻撃すると、パンダの気が引けたのか、二人に右腕が振り落とされる。
 そこをリータがメイバイを下がらせ、盾で受け止める。【肉体強化】の魔道具は、インパクトの瞬間だけ使って節約するみたいだ。

 リータが攻撃を受け止めた瞬間、イサベレはチャンスが来たと、隙が出来たパンダの後ろ脚を、一瞬で数度斬り付ける。
 それでも防御力の高いパンダの足は潰せない。イサベレに照準が移ってしまう。だが、メイバイが魔道具の【風の刃】を放ち、ナイフで斬り付け、パンダの気を引き付ける。

「いける! このままの調子でいく!!」
「「はい(ニャ)!」」

 イサベレより強いはずのパンダも、操られているので強さが半減。三人の攻撃は効いている。

 こうして、パンダとの戦闘は続くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 オンニサイド


「作戦通り、俺のチームが攻撃役。クイスマチームが盾役だ。功を焦るな。パンダを討ち取ったならば、俺達の手柄だ。行くぞ!」
「「「「「おお!」」」」」

 オンニは騎士と元ハンターの連合軍で、パンダに目掛けて駆ける。この数ヵ月、騎士と元ハンターは各々の長所をいかせる演習を重ね、同じ釜の飯を食っていると、互いをたたえあえる間柄へとなっていた。

 獣の群れを抜け、パンダへと到着する頃には、オンニは確信する。これならば、パンダとの戦闘も問題無いと。

「クイスマ! 前へ!!」
「行くぞ!」
「「「「「おお!」」」」」

 オンニの号令でクイスマたち盾役の騎士が走り出す。パンダは射程範囲に入るとクイスマ達に腕を振るう。騎士達が盾で受けた瞬間、クイスマはパンダの手を斬り付ける。浅いが傷は付けられたようだ。

「いまだ! 俺に続け!!」
「「「「はっ!」」」」

 クイスマ達がパンダの気を引き、パンダの攻撃を受け止めると、オンニが精鋭騎士、五人を連れて走り出す。
 そうしてパンダの左後ろ脚に辿り着くと、すぐさま一斉攻撃を加える。パンダの脚は何度も切られるが、ダメージは低いようだ。

「硬いがなんとかなりそうだ。たたみかけるぞ!」

 オンニは騎士を鼓舞し、何度もパンダの脚は攻撃され、ダメージは蓄積されていくのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 王サイド


「王殿下。パンダとの戦闘が開始されました」
「ああ。見る限り順調みたいだな」

 戦闘が進む中、各種報告を聞いたアンブロワーズと参謀は、安心して話し合っている。

「弱体化されているという情報は、確かだったみたいですね」
「あの猫が持ってきた情報だ。嘘は無いだろう」
「意外ですね」
「何がだ?」
「仲が悪そうに見えたので、そこまで信頼なさっているとは思いませんでした」
「ムカつく猫だが、ハンターとしての実力は超一流だ。ムカつく猫だがな」
「ハハハ。たしかにあの巨象を切り刻む様を見れば、この国一の強者だと言わざるを得ません」
「ムカつく猫だがな」

 アンブロワーズが皆の戦いを安心して様子を見守っていると、戦況が変わる。

「また空からですか……」
「押し返すのも飽きたな。そろそろ落としてやろう」
「どうなさるので?」
「両翼、中央に魔法部隊を均等に配置。両翼から風で中央に集めろ。中央から集団魔法を行う」
「なるほど……。直ちに向かわせます」
「頼んだぞ。私も出る!」


 伝令役の兵士が走ると、アンブロワーズは立ち上がり、マントをたなびかせ、中央の魔法部隊に合流するのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 イサベレサイド


 リータとメイバイがパンダの気を引き、イサベレが攻撃を加え、順調にパンダの後ろ脚にダメージが与えられる。何度ものアタックを繰り返していると、イサベレがリータ達の元へ戻って来た。

「どうしたのですか?」
「一本潰した」
「早いニャー!」
「さすがイサベレさんです」
「ん。二人が上手く立ち回ってくれたおかげ。ありがとう」
「お礼はまだ早いニャー」
「そうですよ。シラタマさんなら、まだ気を抜くなって言います」
「ん。そうね」

 集まった三人が話し合っていると、パンダが立ち上がった。

「あ! 何か来るニャー。リータ!」
「下? みなさん私のそばに集まってください! 【土壁・四角】」

 皆がリータのそばに集まると、正方形の土の塊が、皆を乗せて現れる。それと同時に、リータ達の周りに竹林が出来上がった。
 その不思議なパンダの攻撃に、メイバイとイサベレは焦って声を出す。

「何が起こったニャー!」
「竹? 閉じ込められた」

 どうやら三人は竹林に閉じ込められたようだ。本来ならば、竹の突き上げを喰らって怪我を負っていただろうが、リータのファインプレーで助かった。元、岩なので、微妙な土の変化に気付いたようだ。

「変わった魔法ですね。早く脱出しないと」
「むぅ……しなりがあって、上手く切れないニャー」

 リータは竹を掻き分けようとするが、密集しているので出口は無い。それならばとメイバイはナイフで切るが、竹は弾力があるので切る事は難しいみたいだ。

「上から外を見てくる」
「お願いします」

 イサベレは、魔法で固めた空気や竹を足場に空を駆ける。そして、状況を確認するとすぐに落下し、リータ達の元へ戻る。

「まずい。口に魔力が集まっている。強力な範囲魔法が来る」
「逃げるニャー!」
「ダメです。動けません。……イサベレさんだけ行ってください!」
「置いて行けない」
「私達なら大丈夫です」
「そうニャー! パンダが強力な魔法を使うなら、逆にチャンスニャー!」
「……わかった。絶対に死なないで!」
「「はい(ニャ)!」」

 イサベレは二人と言葉を交わすと、空を駆けて竹の檻から脱出する。その直後、パンダの【咆哮】がリータとメイバイを襲うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 オンニサイド


「よし! これで片脚は使い物にならんだろう。クイスマ達と合流だ」

 オンニを含めた六人の騎士は、何度も剣を振り下ろし、パンダの脚を使いものにならないぐらいの、ダメージの蓄積に成功させた。これは、イサベレ一人と、ほぼ同時に達成する事が出来た。

「オンニ様! あれを!!」
「なんだあれは……」

 オンニ達がクイスマ達の元へ向かおうとすると、突如、クイスマ達は、下から生える竹林に呑み込まれた。

「パンダの魔法か?」
「オンニ様。急ぎましょう!」
「ああ……いや、待て!」

 騎士がオンニを急かすが、パンダの動きの変化に気付いたオンニは足を止める。

「どうしました?」
「パンダの口に魔力が集まっている。あの魔法は白猫の……お前! クイスマに防御陣形を取れと伝えて来い。巨大な魔法が来る。急げ!」
「はっ!」
「俺達はパンダに総攻撃だ! 少しでもクイスマ達から魔法を逸らすぞ!」
「「「「はっ!」」」」

 一人の騎士が竹林の元に辿り着くと、大声で危険が迫っていると叫ぶ。その間、オンニ達はパンダの側面から何度も攻撃を繰り返す。しかし、無情にもパンダの【咆哮】が放たれるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 王サイド


「大変です!」

 兵士から、アンブロワーズの元へ凶報が入る。

「竹林だと? パンダの魔法か?」
「おそらくは……」
「イサベレ達はどうした!」
「竹林に呑み込まれたと言う情報が入っています」
「なんだと……しばし待て」

 アンブロワーズは土魔法で作った台に乗ると、シラタマから受け取った望遠鏡をのぞく。

(たしかに竹林が出現して、イサベレの姿が見えない。だが、オンニの姿はある。他の兵はどこに……いや、パンダのあの口の開け方は……)

「マズイ! 両翼の魔法使いに、直ちに【ウォールシールド】を張るように伝えろ! 急げ!!」
「はっ!」
「中央は集団魔法を発動する。こちらもすぐにだ!」
「はっ!」

 焦りながらも迅速に全ての指示を出したアンブロワーズは、魔法部隊の中央に立つと、声を張り上げる。

「行くぞ! 集団魔法【ハリケーン】」

 王軍魔法部隊の【ハリケーン】。巨大な竜巻が軍隊の正面に巻き上がった直後、パンダの【咆哮】が辺りに響き渡るのであった。

「「ア゛ァァーーーー!!」」
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