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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

213 敗北にゃ~

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「これが海ですか!? おっき~い!」
「あ、走るにゃ~! メイバイ。エミリを追ってくれにゃ~」
「わかったニャ。待つニャー!」

 カミラパーティの葬式が終わって数日……

 今日は少し元気のなかったエミリを楽しませる為に、海にやって来た。エミリは転生の秘密同様、転移魔法も秘密にしてくれると約束してくれたので、使っても問題ない。
 走り出したエミリはすぐにこけていたが、メイバイに引き起こされ、波打ち際で波と追い駆けっこを始める。
 わしはそんな姿を見ながら休憩場所を作り、テーブルセッティングをリータに手伝ってもらう。

「楽しそうですね」
「そうだにゃ。準備できたから、二人に着替えるように言って来てくれにゃ」
「シラタマさんは、どうするのですか?」
「少し森を見て来るにゃ。アイラーバ達が、あとどれぐらいでここまで来るか気になるにゃ」
「わかりました。いってらっしゃい」

 わしは笑顔のリータに見送られ、探知魔法を使いながら森を走り、高い木に昇って望遠鏡をのぞく。

 おお! けっこう進んでおる。象に交じって、人も一緒に働いておるのか。森の中に広い道が出来上がっている。これなら、真ん中を進んでいれば、急に獣が出て来ても対応がしやすいな。
 しかし、進捗状況からいって、もう一ヶ月もすれば開通しそうじゃ。わし専用プライベートビーチの引っ越しを考えねばならんのう。


 森の状況を確認すると、皆の元へ戻る。皆、水着に着替えて海に入っていたので、わしも急いで水着に着替えて海に飛び込んだ。
 それからリータ達の要望に応え、波を起こしたり、皆を打ち上げたりし、楽しく遊ぶと少し休憩。ただの休憩では面白くないので、土魔法で船を作ってみた。小型の船だが屋根をけたので、日焼け対策もバッチリだ。
 だが、初めての経験に皆は興奮してしまい、休憩にならない。三人で矢継ぎ早にあれやこれやと質問して来るので答えられない始末。なので、今日の主役であるエミリに、代表して質問してもらう。

「ねこさん! こんなに大きな物が浮いてます! これはなんですか!?」
「これは船にゃ。元の世界にはもっと大きく、何千人も乗れる船があったにゃ」
「そんなのどうやって動くのですか?」
「船の下、後部にプロペラが付いていて、科学の力で動くにゃ」
「何を言ってるか、わからないです~」
「う~ん。プロペラってのはにゃ……」

 わしは模型を使って説明するが、どうやらプロペラが回る理屈がわからないみたいだ。なかなか伝わらないので、魔法と違う、不思議な力で動いていると言って話を切った。
 しばらくぷかぷか浮かんでいたが、動かして欲しいと言われ、風魔法を噴射させて発進。気持ちいい風の中、皆は「キャーキャー」と楽しそうだ。

「アイラーバさんの時も楽しかったですけど、前より沖に来れて楽しいです」
「もっと沖に出て欲しいニャー!」

 ようやく落ち着いて来たリータと違い、メイバイはまだテンションが高く、お願いして来た。

「これ以上の沖は、どんにゃ生き物が居るかわからにゃいからダメにゃ。へたしたら、巨象を超える大きな生き物が居ると思うにゃ」
「巨象より大きな生き物ですか!?」
「それはなんて生き物ニャ?」
くじらにゃ。元の世界では、地上では象が一番大きな生物だったけど、海では鯨が一番大きかったにゃ」
「どれぐらいですか?」
「大人で30メートルを超える物も居るにゃ。この世界では100メートルとかいるかもにゃ」
「おっきいニャー!」
「危にゃいから、ここまでにゃ。おっと、そんにゃこと言ってたら、にゃにか来たにゃ~」

 わし達の乗せた船は陸と平行に進んでいたが、その進路を邪魔するように大きな魚が水面を切り裂き、凄い速度で進んで来る。その速度に、逃げる事は難しいと感じたわしは、船を止めて戦いやすいように船と水底を土魔法で繋ぐ。

 よし。準備完了。目視で確認できてよかったわい。ひとまず水に手を入れて……探知魔法オン! う~ん……10メートルはあるけど、変わった形じゃな。サメじゃと思っておったけど、これは……

 わしの戦闘体勢が整うと、迫って来ていた魚は急停止し、海面から顔を出す。

「え?」
「変な顔ニャー!」

 口をパクパクする魚を見て、リータは不思議そうな顔をし、メイバイは魚の顔が気になるようだ。

「これはマンボウにゃ」
「なにか緊張感がなくなる顔ですね」
「う~ん。ヤル気なのかにゃ?」
「とぼけた顔をしているから、わからないニャー」
「どうします?」
「攻撃して来ないにゃら、やりづらいにゃ。しばらく様子を見てみるにゃ」

 わし達は海面から顔を出した白いマンボウと睨み合う。しかし白マンボウは口をパクパクするだけで、一向に動こうとしない。
 そんな睨み合いが続く中、リータ達は飽きたみたいで、わしを置いて船の後部に移動した。

 こいつは何をしたいんじゃ? ヤル気が無いなら、どっか行ってくれんかのう。時間の無駄じゃ。こいつも白い生き物なら、念話が通じるかな?
 む……繋がっている感じがしない。大蚕おおかいこなら少しは反応があったんじゃが、魚は虫より脳が劣るのか?
 もう面倒臭いし、ヤッちゃうか? 威嚇だけしてみるか? 力の差を見せれば去って行くじゃろう。

 わしが白マンボウの目の前に【鎌鼬】を放とうとしたその時、白マンボウの口に魔力が集まる。

「にゃ!? 【大水玉】にゃ!」

 わしは咄嗟とっさに海水を操作し、白マンボウと船の間に大きな水の塊を作り出す。それと同時に白マンボウの口から【水鉄砲】が放たれた。
 マンボウの【水鉄砲】は、わしの【大水玉】に接触すると、中に入り、貫通して空に消えて行った。

 おおう……危なかった。【大水玉】で【水鉄砲】の進路が変わったから、船に当たらずにすんだ。かなりの威力じゃな。顔しか見えないけど、尾びれのダブル、いや、トリプル以上か。
 水の中だから、いまいち強さがわからんのう。まぁお互い交戦状態になってしまったし、さっさと狩るか。


 わしは以前戦った黒鮪くろまぐろと同じく、水魔法、【水柱】で、白マンボウを空中に打ち上げようとする。だが、白マンボウは感知能力が高いのか、【水柱】は避けられる。
 白マンボウは避けると顔を出し、【水鉄砲】を撃とうとするので、それに合わせて【水柱】。避けられて顔を出したら【水柱】。そのやり取りが何度も続く。

「この! この! にゃ~~~!!」

 なかなか当たらないので、わしの苛立ちはマックス。そんなわしを、リータとメイバイが宥めようとする。

「シラタマさん。落ち着いてください」
「あのとぼけた顔がムカつくにゃ~!」
「いつものシラタマ殿なら出来るニャー」
「にゃ!? アイツ、あっかんべ~しやがったにゃ! もう怒ったにゃ!!」
「さっきから怒ってるニャー」
「もう……」

 わしは怒りに任せて、前方の海水を【大竜巻】で巻き上げる。さすがの白マンボウも、攻撃範囲が広かった為、避けきれずに空に打ち上げられた。

「もらったにゃ~! 【鎌鼬】にゃ!!」

 チャンスとばかりに、わしの風魔法。しかし、白マンボウはわしの【鎌鼬】を間一髪避けた。空中で身動きの取れないはずの白マンボウは、体の上下に付いている四本の背びれ、四本の尻びれを巧みに動かし、【鎌鼬】をかわしたのだ。

「にゃ……」

 わしが白マンボウの姿、その避け方に呆気に取られていたら、そのまま空を泳いで逃げて行ったのであった。


「シラタマさん! シラタマさんってば!」

 わしが白マンボウを見送っていると、リータが焦って声を掛ける。

「なんにゃ?」
「水が降って来るニャー!」
「にゃ?」
「「「キャーーー!」」」

 時すでに遅し。わし達は巻き上げた大量の海水を受け、全員、船から投げ出されてしまった。
 これでは呆気に取られているわけにはいかず、わしは慌てて水を操作し、皆を海面に押し上げる。そして皆を船に乗せ、怒りをあらわにする。

「にゃ~~~! してやられたにゃ~~~!」
「取り逃がしちゃいましたね」
「シラタマ殿が負けるのを、初めて見たニャー」

 わしが地団太を踏んでいるのに、リータとメイバイは笑顔で近付いて来た。

「そんにゃにハッキリ言うにゃ~」
「ウフフフ。シラタマさんでも失敗はあるのですね」
「珍しいところを見れたニャー」
「うぅぅ。にゃ~~~!」

 クソッ! マンボウめ。リータ達の前で恥ずかしい姿を見せてしまったわい。今度会ったら、刺し身にして食ってやる!
 ん? 猫の姿よりは恥ずかしくないか。こんな考えを持つなんて、猫に慣れてしまったのか……

 それからわしは、気を取り直して船を進ませる。三人はわしの苛立ちを和らげようと撫で回す。撫でたいだけとわかっているから、ゴロゴロ言うだけだ。
 そうこうすると、小さな島が見えたので船を近付け、水魔法の波に乗って砂浜に乗り上げる。元の世界では出来ない着岸方法。魔法様々だ。

 安全確認が終わると皆を船から降ろすのだが、リータもメイバイもエミリも、何故か首を傾げている。

「シラタマさん。海の真ん中に土や木があります!」
「どうなってるニャー?」
「ねこさん。浮いているんですか?」

 ん? みんな島を知らんのか? さっちゃんは海の中に陸があると気付いておったが、リータ達はわからないのか。さっちゃんは城の本で勉強しているから、庶民のリータ達と比べるのは酷じゃな。

「浮いてないにゃ。これは島と言って……説明が難しいにゃ。海を挟んで向こうの土地が、わし達の住んでいる土地にゃ。これはわかるかにゃ?」
「「「はい(ニャ)」」」
「言うなれば、あれも島にゃ。海の中には島が大小いっぱいあるにゃ」
「「「へ~~」」」

 うん。返事はアレじゃけど、なんとか伝わったみたいじゃな。

「それも元の世界の知識ですか?」
「そうにゃ。にゃ! この知識は元の世界の知識で、この世界の常識と、当てはまらないかもしれないにゃ」
「どういうことニャ?」
「元の世界では、その昔、世界は平らだと思われていたにゃ。それを支える象や亀がいたと考えてた人もいたにゃ」
「え? 平らじゃないのですか??」
「あくまでも元の世界ではにゃ。元の世界は、わし達が立っている場所は球体だったにゃ」
「「「え~~~!」」」

 わしが世界は球体だと言うと、リータ、メイバイ、エミリは信じられないからか、わしに詰め寄る。

「そんなの立ってられないです!」
「そうニャ! 滑り落ちるニャー」
「ねこさんが嘘を言っています!」
「まぁ信じられないだろうにゃ」
「本当なんですか?」
「お腹すいたし、お昼にしようにゃ~」
「どっちニャー!」
「新鮮な魚を捕って来るにゃ~」
「ねこさ~ん??」

 わしは質問に答えず、魚をとり始める。砂浜に囲いを作って、風魔法で追い込むだけの簡単な作業だ。
 三人はしつこく聞いて来たので食事の席で、なぜ球体に人が乗って落ちないのかの、簡単な説明をしてみた。やっぱりわからなかったみたいで、遠い目をしながらわしを撫で始めたので、説明をやめた。
 食事が終わると海でひと遊び。この島は、わしのプライベートビーチ決定だ。

 そうして疲れると小休憩。砂浜に座って海を眺めながら、冷たいジュースを飲んでいると、エミリがわしの目の前に座る。

「ねこさん。ありがとうございます」
「にゃ~?」
「お母さんの遺体を見付けてくれたこと、ちゃんとお礼を言っていませんでした」
「わしが勝手にやったことだから、礼なんていらないにゃ」
「そんなことないです。いっつもねこさんは、わたしを助けてくれます」
「それを言ったらエミリも、いつも美味しい料理を食べさせてくれてるにゃ。ありがとにゃ」

 わしが礼を言っても、エミリは納得いかないようだ。

「ぜんぜん貰った恩の大きさが違います~」
「そうかにゃ?」
「そうです! こうなったら体で返します。わたしを貰ってください!」
「う~ん。エミリが大人ににゃって、立派な料理人ににゃったら考えるにゃ」
「絶対ですよ!」
「うんにゃ。絶対にゃ」

 安請け合い。エミリはわしの子供……いや、孫のような存在なので、おじいちゃんと約束するように聞こえたので、わしは安請け合いする。お父さんでもおじいちゃんでもなく、わしは猫じゃけど……
 しかしそれを聞いていたリータとメイバイは、何やら怒りながらわしに詰め寄る。

「「シラタマ(殿)さん!」」
「どうしたにゃ?」
「そんな約束しないでください!」
「子供の言うことにゃ~」
「エミリの邪悪な顔を見るニャー!」
「にゃ? ふつうにかわいい笑顔にゃ」
「「違 (うニャー)います~」」

 またしてもわしは気付かなかった。メイバイに指摘されて、エミリが邪悪な顔をすぐに引っ込めたことを……


 その後、二人の騒ぎが収まったので島の探検をしようと提案し、皆で出発しようとしたその時……

『にゃ~ん にゃ~ん にゃ~ん』

 突如、わしの首輪型通信魔道具が鳴り響くのであった。
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