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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

204 ジャガイモを食べるにゃ~

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「それじゃあ、夜までに用意しておくから、取りに来てくれにゃ。にゃろめっ!」

 わし達は、巨象の皮を薄くスライスする為に、家に戻る。フレヤの要望では、2メートル四方の皮だったので、作業場では場所が狭いので、庭でやろうと言う訳だ。
 そんな訳で、わしはぷりぷりしながら、急いで家に帰る。

「ごめんなさい!」
「ごめんニャー!」

 家に着くなり、リータとメイバイは謝って来た。当然だ。フレヤの店で、ずっとわしを針で刺していたんだからな。

「痛いって言ったのに、やめてくれなかったにゃ……」
「え……痛くないって言ってたじゃないですか?」
「だから、刺したニャー」

 それは心の声! だからって刺さないで!!

「ごめんなさい!!」
「ごめんニャー!!」

 うん。心の声にも的確に謝られた。心の声を聞いている事にも謝って欲しいもんじゃ。

「「………」」

 聞こえない振りをしやがるよ。ここを譲ると、バカな息子の警察官に撃たれてしまうから、折れる訳にはいかない。でも、このまま怒っても、泣き出しそうじゃし、やんわりと注意しておこう。

「もういいにゃ。でも、針で刺すのはこちょばいからやめてにゃ~」
「こちょばいのですか……」
「シラタマ殿の弱点……」
「……やったらもう、撫でさせないにゃ」
「え……そんな……」
「ひどすぎるニャー-ー」
「泣くにゃ~! 刺さなきゃいいだけにゃ~!!」

 結局泣かれて、わしが折れる事となってしまったが、また刺されると思う。だって二人の手には、針が握り締めてあったんじゃもん。

 二人をなだめ終わると、わしは巨象の皮のスライスを開始する。

 さて、頼まれたものの、フレヤの指定した皮の大きさでは、薄くするのが難しい。2メートル四方か……【鎌鼬かまいたち】で切れたら楽なんじゃけどな~……あ! あの魔法でいくか。


 わしは土魔法で平らな台を作ると、その上に巨象の皮を置く。皮の大きさはハンターギルドの買い取り指定に合わせて3メートル四方なので、そのままの大きさでスライスする。
 使う魔法は【光一閃】。これを出来る限り薄く、目で確認できない程の薄さの、4メートルの剣を作り出す。
 その光の剣を横一閃に平行に振るい、紙ほどの厚さにスライスする。わしは慎重に厚さを調整して切っているが、リータとメイバイには素早く振るっているように見えているようで、飛び交う薄い皮に、拍手喝采はくしゅかっさいを送る。

「すごいニャー!」
「本当です。その剣もキレイですね」
「見てるにゃら、手伝ってくれにゃ~」
「あ……何したらいいニャー?」
「散らばった皮を集めてくれにゃ~」
「はい!」
「わかったニャー」
「わしの前には出るにゃよ~」

 リータ達に拍手を送られるのは、恥ずかしいので仕事を与える。スライスした皮は風魔法でリータ達の元に送り、切る厚さが分厚くなるとスピードをアップして切っていく。

 ふぅ……こんなもんかな? 必要枚数より多く切ったし、大きさも1.5倍あるから、足りなくなる事もないじゃろう。

「二人とも、ありがとにゃ」
「いえ。私達の防具ですからね。少しは手伝えてよかったです」
「これでおしまいニャー? まだ手伝う事はないニャー?」
「もうちょっとやる事があるけど、手伝う事はないかにゃ? あ、今日はエミリが来ないから、料理してくれにゃ~」
「もうそんな時間でしたね」
「美味しい料理、作るニャー!」

 二人が夕食を作りに家に入ると、違う作業に移る。高火力の火魔法を使うので、二人がいないほうがちょうどいい。
 今度は白魔鉱のナイフと針を作る考えだ。フレヤは黒魔鉱のナイフを師匠から借りる予定らしいが、借りられる保証はない。
 白魔鉱は少し余りがあったので、小刀程度なら作れる。ついでに針もプレゼントして、わしの出番を減らそうという算段だ。

 ナイフもドワーフの元で少し手伝った経験があるので、【白猫刀】より切れ味の良い物が作れるはずだ。
 今回は重力魔法で圧縮もしないので、短時間で作り出す。針も簡単に作り、ナイフを研ぎ終わる頃に、リータ達がごはんが出来たと呼びに来た。




「「「「「いただきにゃす」」」」」

 フレヤは呼んだんじゃけど、なんでアダルトフォーがそろっているんじゃ? まぁ自分の分は持ち込んでいるからいいんじゃけど、ここで食べる必要はないじゃろ?

「シラタマさん。食べないのですか?」
「あ、食べるにゃ~。うん。美味しいにゃ~」
「それは私が作ったニャー!」
「これもどうぞ。あ~ん」
「あ~ん。これも美味しいにゃ~」

 わし達が仲良く食べていると、アダルトフォーの、スティナ、エンマ、フレヤ、ガウリカがにらんで来た。どうやら、いちゃいちゃしてるように見えたらしい。

「そんにゃに睨むにゃら、他所に行けばいいにゃ~」
「べっつに~。睨んでませ~ん」
「ペットの餌付けにしか見えませんね」
「猫にしか見えないしね」
「喋っているけどな」

 うん。ガウリカ以外、強がりじゃな。

「それより猫君。巨象の皮はどうなった?」
「もう切り終えたにゃ。そっちの端に置いてあるにゃ」

 わしが部屋の隅を指差すと、フレヤは驚きの表情を浮かべる。

「早っ! でも指定より大きくない?」
「大は小を兼ねるにゃ。小さいよりいいにゃろ?」
「そうだけど、ナイフがね~。借りる当てが外れたのよね」
「ああ。それも問題無いにゃ。ほい。ナイフと針にゃ」

 わしは次元倉庫から出来立てのナイフと針を取り出し、フレヤの元へ、皆に回してもらう。

「これって……白魔鉱?」
「そうにゃ。手持ちがあったから、作ってみたにゃ」
「うそ!? くれるの??」
「う~ん……欲しかったらあげるけど、そんにゃに出番があるかにゃ?」
「たしかに……巨象の皮の依頼なんて、今後来ないか~。白い獣の皮も、私に回って来ないしな~」

 フレヤがナイフを貰うかどうか悩んでいると、エンマが会話に入って来る。

「でしたら、商業ギルドの貸出し用にしてくれませんか? いまは作業できる人が限られていて、まったく足りていないのです」
「へ~。そんにゃ事もしてるんにゃ。フレヤがいいにゃら、わしはそれでかまわないにゃ」
「そうね。これは使う人がいないと、宝の持ち腐れね。終わったらエンマの所に持って行くわ」
「ありがとうございます!」

 エンマはお礼を言うと、わしとの契約を交わそうとするので、寄付すると言ってみたら、猫が良すぎると怒られた。人が良すぎるじゃないかと反論したかったが、怒られるのは嫌なので、安く貸出しするようにお願いして、モグモグする。

 その後、食事を終えると片付けをしてからリータ達とお風呂に入っていたら、アダルトフォーまで入って来た。

 お酌? スティナが完全に出来上がってる? わし達の会話に入れなくて寂しかった? 知らんがな。みんなもわしに押し付けないで!

 風呂から上がると、リータ達には早く寝るように言って、アダルトフォーを離れに隔離。次々に出来上がっていくアダルトフォーの隙を突いて、寝室に移動しリータとメイバイの間で眠りに就く。


 翌日は、ハンターの仕事。アダルトフォーには書き置きだけして家を出る。ジャガイモも忘れず持って王都から出ると、南東の森に転移し、狩りとカミラ探索に取り掛かる。
 ジャガイモを鉢のまま抱えているので、出会った獣はリータとメイバイを主軸に狩ってもらい、わしは後方支援。お昼になると休憩だ。

「そろそろ収穫してもいいかにゃ~?」
「茎も葉もしっかりしてますね」
「もういけるニャー!」
「よし! 抜くにゃ~」

 わしは二人に意見を聞くと、ジャガイモを引っこ抜く。

「にゃ! ジャガイモにゃ!!」
「「やった~!」」
「と、安心している場合じゃないにゃ。切り離すから、持っててくれにゃ」
「私が持ちます」

 リータに茎を持たせると、わしは【白猫刀】を抜いて、またたく間にジャガイモを刈り取った。それを水魔法で綺麗に洗うと、皆で調理に取り掛かる。
 メニューは簡単に作れるフカシイモとスライスして焼いただけの物。キッチンは次元倉庫に入っているので、簡単に出来た。それに合う料理も取り出し、手を合わせて昼食をいただく。

「「「いただきにゃす!」」」
「にゃ!? これはジャガイモにゃ?」

 一口食べて驚いたわしは、リータとメイバイを見ると、二人も驚いているようだ。

「すっごく甘いですね!」
「普通のジャガイモと全然違って、美味しいニャー!」
「これにゃら、うまいし早く出来るから、完璧だにゃ!」
「本当です。国の食糧問題も、すぐに解決しますね」
「でも、美味しいから人にあげたくないかもニャー」
「たしかににゃ。巨象の肉のジャガイモ版って感じだにゃ。でも、飢えている人もいるだろうし、そんにゃ選択は出来ないにゃ~」
「そうだニャ。私の我儘で、独占するわけにはいかないニャー」

 よしよし。これで準備が進む。売る前に、必要個数は確保しないとな。いや、麦でも実験しなくては。てか、他の野菜もうまくなるのかな?

「まぁこれを流通させるのは、他の物も確かめてからだにゃ。さて、腹も膨らんだし、デザートを食べてから狩りにいくかにゃ」
「ブレないですね~」
「ホント、食いしん坊ニャー」
「わし一人で食べてもいいにゃ……」
「食べます!」
「食べるニャー!」


 デザートを食べたわし達は、次なる獲物を求めて歩き出す。しばらくして、狼の群れと出会ったわしは、異変に気付く。

 あれ? リータがメイバイ並みの速度で動いている……メイバイもおっかさん並みじゃ。肉体強化の魔道具は……使っておらんな。どうなっておる?

 わしはリータ達の経験のため、後衛に徹し、危ない場合のみ魔法で攻撃をしているが、出番が来ない。
 リータは盾を背負ったまま素早く動き、飛び掛かる狼に拳をぶつけて遠くにぶっ飛ばす。メイバイも飛び掛かって来た狼の首を、ナイフの一振りで斬り裂き、命を刈り取る。
 複数の狼が襲い掛かっても、二人はものともせずに時間差を使って、わしの出番を奪う。

 う~ん。動きがいいんじゃけど、良過ぎる……それにいつもより、前に出過ぎじゃ。このままでは雑魚に囲まれながらのボス戦になってしまう。動きがいいから、調子に乗っておるのか?

「リータ! メイバイ! 前に出過ぎにゃ!!」
「そんな事ないですよ~。アハハハ~」
「シラタマ殿が遅いだけニャー。アハハハ~」
「にゃ……」

 おかしい……二人がわしの言葉を簡単に否定した上、笑っておる。わしを見た時の目もわっておった……
 何か悪い物でも食ったか? そんな冗談を言ってる場合じゃ……あ! 食った!! ジャガイモか!? 巨象の血が植物と科学変化を起こしたとかか? そんな危険な物質は使っておらんはずなんじゃが……
 わからん! わからんものは、いまは置いておこう。いまは二人の心配じゃ。このままでは、囲まれながらのボス戦に入ってしまう。ここは……

「にゃ~~~ご~~~!!」

 わしは強さを隠す隠蔽魔法を解いて、威嚇する。すると狼達は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。その姿を見たリータとメイバイは、振り返り、わしにゆっくりと近付く。

「どうして逃げて行ったのですか~?」
「シラタマ殿が何かしたニャー?」

 マジか……わしの威嚇を受けて向かって来る者なんて、そう居ないぞ? 前にメイバイの近くでやった時も、うずくまっておったのに……

「なんだか戦い足りないです~」
「そうニャー。せっかくいっぱい居たのにニャー」
「そうだ! シラタマさんが相手してくださいよ~」
「それいいニャー! 訓練ニャー!」

 嘘じゃろ? 二人がわしに殺気を放って武器を向けておる……正気を失っておるのか? これじゃあ肉体強化じゃなく、狂戦士じゃ……

「準備はいいですか~?」
「もう我慢出来ないニャー」

 来る! 覚悟を決めよう……


 二人が駆け出すと同時に、リータ、メイバイVSわしの闘いは始まるのであった。
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