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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

201 ぬいぐるみを探すにゃ~

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 ガウリカの店でカレーを堪能したわしとフレヤは、食後のコーヒーを飲みながら雑談をする。

「それで猫君の用件って、なんだったの?」
「あ、そうにゃ。エンマから聞いたんにゃけど、フレヤって防具も作れたんにゃろ? それで頼もうと思って来たんにゃ」
「防具か~……」
「作れないにゃ?」
「革製品ならなんとかね。でも、防具ってかわいくないじゃない? どうしてもゴツゴツしちゃうから、作りたくないのよ」

 なるほど。フレヤらしい意見じゃ。

「リータの服は、そこそこ防御力がありそうにゃ」
「ああ。アレはね。防具になって、かわいい服を作れないか試した物よ。たまたま残っていたの」
「そうにゃんだ~。じゃあ、無理かにゃ~?」
「頑丈で柔らかい素材ならやってもいいんだけどね」

 頑丈で柔らかいか……。それなら持って来いの物がある。

「巨象の皮にゃんてどうにゃ?」
「アレは少し触れたけど、分厚いし、私の腕では加工できないわ。白魔鉱……最低でも黒魔鉱のナイフが無いとね」
「にゃら、わしが手伝うにゃ。加工しやすいサイズに切ればいいだけにゃろ? 素材もわしがいっぱい持ってるから大丈夫にゃ」
「本当!? それなら、やってもいい! いや、やらして!!」

 おう……目が燃えておる。百合以外に、これほど熱くなるフレヤを久し振りに見たな。大蚕おおかいこの糸のとき以来か。あ、こっちの進捗状況も聞いておこう。

「例の件はどうなってるにゃ?」
「大蚕の? それは染色待ち。猫君の指示通りの色は、なかなか定着しなくてね。時間が掛かってしまうのよ。急ぎじゃないんでしょ?」
「良い物が出来るにゃら、いつまでも待てるにゃ」
「いつまでもって……そこまでは掛からないわよ。それでも、二ヶ月ぐらいは掛かりそうね」
「気長に待つにゃ~」

 わしとフレヤが雑談していると、ガウリカが紙袋を持って戻って来た。

「これ。いつもの」
「ありがと~」
「いつものにゃ?」
「ああ。コーヒー豆だよ。猫が粉にして売ったらどうかって言っただろ?」

 スティナが上手くれられないとボヤいていた時のか。夜に集まって来た時に話したんじゃったな。酒の席の話だったけど、覚えていたんじゃな。

「それも売れてるにゃ?」
「いまはお得意様に販売している。こっちに手間が掛かるけど、皆には受けがいいな。次の入荷のあとに切り替えて、正式な販売になるかもしれない」
「へ~。店の棚も売れてるし、売上は上々みたいだにゃ」
「そうだな。でも、ここまで売れるとは思っていなかったよ。ペルグラン様々だよ」
「ロランスさんにゃ?」
「そうだ。貴族の方々に宣伝してくれたみたいだ。そのおかげで売れている。あ……連れて来てくれた猫のおかげでもあるな」

 あ~。ロランスさんは大量に買って行ったもんな。そりゃ、遠いビーダールの品がこんな所で買えるなら、知った人は欲しがるじゃろう。

「ロランスさんは、勝手について来ただけにゃから、ガウリカの接客の賜物たまものにゃ。わしは関係ないにゃ~」
「またか。いつも猫は、感謝しても受け取らないよな? 仕方ないな~」
「にゃ? にゃ~~~! ゴロゴロ~」

 ガウリカは突然わしを抱きかかえ、撫でまくり、喉が鳴ってしまった。

「にゃにするにゃ~! ゴロゴロ~」
「感謝を伝えているんだよ。モフモフ~」

 撫で方が雑! わしゃわしゃしながら、モフモフ言ってるよ。最近ガウリカまで、わしにセクハラするようになったな。
 フリルの服が好きだったり、モフモフ好きだったり、男っぽいなりなのに、意外と乙女なのか?

 わしが抵抗せずに撫でられてゴロゴロ言っていると、ガウリカはフレヤを見る。

「そう言えば、さっき何を話していたんだ?」
「猫君から巨象の皮で、防具を作って欲しいって頼まれていたの」
「巨象の皮? ……それっていくらするんだ?」
「そうね。手間賃と……素材は猫君しだいかな?」
「ゴロゴロ~。ガウリカも興味あるにゃ?」
「ハリシャ様からバハドゥ王の即位祝いに、何か贈り物に良い物が無いかと頼まれていてな。候補を探しているんだ。国はようやく落ち着いたから、やっと戴冠式たいかんしきを開くみたいだ」

 たしか、巨象騒動から一ヶ月強か? もう落ち着いたのか。バハドゥは良き王として、頑張ったみたいじゃな。

「ゴロゴロ~。それにゃらわしは、ハリシャと共同にしてくれにゃいかにゃ? わしは手間賃だけ貰って、素材の代金はいらないにゃ」
「いいのか?」
「ゴロゴロ~。バハドゥとわしは友達にゃ。それぐらいさせてくれにゃ~」
「ああ。助かるよ」
「でも、バハドゥが受け取ってくれるかどうかだにゃ。ゴロゴロ~。象の肉は、食べるかどうか悩んでいたにゃ」
「そうか……。一度、ハリシャ様に意見を聞いてみるよ」
「そのほうがよさそうにゃ。ゴロゴロ~……そろそろ二人して撫でるの、やめてくれにゃいかにゃ? ゴロゴロ~」

 その後、撫でられ続けながら今後の話をしていたが、フレヤが店に戻ると言うので、わしもそれに合わせて店を出る。リータ達の防具作成はデザインの関係もあり、また後日となった。
 話は終わったので、途中までフレヤに抱かれて移動していたが逃げ出し、帰路に就く。

 家に帰ると家捜やさがしだ。少し怖いが、ぬいぐるみの捜索を開始する。

 さて……リータ達が戻るのは夕方かな? まだ時間もあるし、落ち着いて探せるな。それに狭い家じゃ。わし達が使っている部屋も限られる。
 寝室の押し入れぐらいしか、物を隠す場所も無いしな。簡単なお仕事じゃ。
 わしは背が低いから、下の段しか使っていない。次元倉庫もあるし、入れてある物も、すぐに使うテーブルや座布団しか入れてないので、ここでは無いな。

 リータ達は二段目に服や荷物を入れているから、ここで決まりじゃろう。布団はいつも左側に上げているから、右側を開けて……奥まで見えない。
 へりに手を掛けてっと……よいしょ。服が掛かっているだけじゃな。じゃが、奥行きから考えると、手前しか使っていないように見える。登って確めるか。

 わしはタンスの二段目に上がると、服を掻き分ける。

「にゃ……」

 わしがいっぱいおる……いや、人型のぬいぐるみが四個。猫型が四個。半分は服を着ておる。女の子の服と男の子の服を着た人型と、猫型もペットに着せるような服を着ている。
 ひとつずつ持っているのは知っていたが、どうしてこんな事になっておるんじゃ? てか、いつの間に買いそろえておったんじゃ?

 まさかわしに隠れて仕事しておったのは、ぬいぐるみを買うためじゃったのか? 怪しい……ん? 何か手に当たった。これは……猫耳カチューシャと尻尾か。
 リータがわし達と姿が違うから、仲間外れ感があったから付けておったな。かわいかったけど、ずっと付けているから、そのままのリータが好きと言ったらやめていたか。じゃが、時々付けているのは知っているぞ?

 この端に並んでいるのは……リータの作った猫又人形か。部屋のあちこちに置いてあった物を、わしが注意したんじゃったか。かなりしょんぼりして片付けていたけど、これだけは譲れないからな。猫はわし一匹で間に合っておる。
 しかし、あの時より数が増えておる。それに人型まで作っているとは……ちょっとしたフィギュアコーナーになっておるな。
 いつもすぐに作ると思っておったが、練習しておったのか? 普段はわしが作って欲しくなさそうにしているから、人が頼んだ時にはチャンスと思っているのか?
 そのチャンスを逃さないように練習していたのかもしれない。

 それにしても、押し入れの一画が、ファンシーグッズに占領されていたとは驚きじゃ。発見したからには、何か言うべきか? それとも見なかった事にして、そっと扉を閉めるべきか? う~ん……


 わしがファンシーグッズに囲まれていると、突如、寝室の扉が開き、驚きのあまり押し入れの扉を土魔法を操作して閉めてしまった。

「シラタマさ~ん?」
「ここにも居ないニャ?」
「鍵は開いていたのに、どこに行ったのでしょう?」
「いつもは居間か、離れに居るのにニャー」

 リータ達、もう帰って来たの!? ビックリして押し入れに隠れてしまった。失敗した。これでは青い猫のパクリじゃ……じゃなくて、別に隠れる必要なんてなかったのに……

「とりあえず着替えましょうか」
「そうだニャ。黒い鳥のせいで砂埃がひどかったもんニャ」

 マズイ! このままでは、押し入れを開けられてしまう。どうする? 正直に言って、外に出るか? 二人に内緒で秘密を暴いてしまった落ち度もあるし……
 考えている時間も無い! ひとまず隠れてしまおう。着替え終われば、お風呂にでも行くじゃろう。

 わしが隠れると同時に押し入れの引き戸は開き、リータとメイバイは各々の着流しを取って着替え始める。

 しめしめ。リータ達は気付いていないな。擬態作戦成功じゃ。猫型になって、着流しとぬいぐるみを次元倉庫に仕舞い、猫のぬいぐるみになっておるから、バレるわけがない! ……それはそれで寂しいのう。
 しかし、二人は引き戸を開けたまま服を脱いでいるから、なんだか着替えをのぞいている気になってしまう。まぁいつも生着替えを見ているから、いまさらじゃけどな。

 わしが微動だにせずに二人の生着替えを見ていると、今日の出来事を嬉しそうに話し合っている。

「だけどあの森で、黒いすずめが狩れるなんて驚きましたね」
「本当ニャー。しかも、いきなり向かって来たもんニャー」
「おかげで遠距離攻撃のとぼしい私達でも狩れました。メイバイさんが、すぐに翼を斬り落としてくれたのが大きいです」
「リータが受け止めてくれたからニャー。その一瞬がなかったら、絶対ダメだったニャー」
「いえいえ。メイバイさんのおかげですよ」
「いや。リータのおかげニャー」

 しばし二人は無言で見つめ合うと、同時に目を逸らして頬を掻いていた。

「褒め合うのはやめましょうか」
「そうだニャ。恥ずかしいニャー」
「でも、あんな大物に出会えてラッキーでしたね」
「こんなに早く帰れたもんニャー」

 なるほど。二人が早く帰って来たのは、充分な収穫があったからか。しかし、二人はずいぶん仲良くなったもんじゃ。
 褒め合って顔を赤らめるとは、珍しいモノを見れたわい。あとでからかってやろうか? いやいや。そんな事をしたら隠れていたのがバレてしまう。
 二人も着替え終わったみたいじゃし、そろそろ下に行くかな?

「それにしても、シラタマさんはどこに行ったのでしょうね~?」

 ん? リータがわしを見ておる。気のせいか?

「そうだニャー。案外近くにいるのかもしれないニャー?」

 うっ。メイバイもわしを見ておる。微動だにしておらんはずなのに……まさかバレているのか?

「お風呂行きましょうか」
「すっきりするニャー!」

 ホッ。バレておらんかったみたいじゃな。引き戸も閉められた。念の為、階段の降りる音を聞いてから出ようか。

 わしは聞き耳を立て、押し入れから動かない。すると外から部屋の扉を開閉する音が聞こえて安心していたが、すぐに階段の降りる音が聞こえて来ない。なかなか聞こえて来ないので、わしは不思議に思い、ゆっくりと引き戸を少し開く……

「にゃ~~~!!」

 わしが外を少しだけのぞけるだけ引き戸を開けると、二人も同じように覗き込んでいたので、驚いて声をあげてしまった。
 二人はわしの悲鳴を聞くと、引き戸を勢いよく、大きく開く。

「何してるんですか!」
「何してたニャー!」
「にゃにって……バレてたにゃ?」
「バレバレニャー!」
「わからないとでも思ったのですか!」
「にゃ~! 怒らにゃいで~」
「怒らないから、何してたか言うニャー」

 あ……絶対怒られる言い方じゃ。どうするわし! それに心も簡単に読まれるから、迂闊うかつな事も考えられん。え~い! なんとでもなれ!

「ごめんにゃさい! 二人の着替えを覗いていたにゃ~」
「「え??」」

 二人で見合わせて目をパチパチしておるな。これは正解の答えじゃったのか?

「もう、シラタマさんったら……」
「お風呂でいつも見てるのにニャー」

 二人ともモジモジしまくっておるな。怒られないから、正解だったみたいじゃ。

「今日は寝るまでゴロゴロしましょうね~」
「いや。寝かさないニャー!」

 正解でもなかったみたいじゃ。


 その後、二人のスキンシップは激しく……それはもう激しく、耐えられなくなったわしは、ぬいぐるみの捜索をしていたと自白し、結局、撫でられながら怒られる事となった。

 怒るか撫でるか、どっちかにしてくださ~い!
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