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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
195 女王誕生祭 七日目 1
しおりを挟むうぅぅ。もう朝か……昨夜は飲み過ぎてしまった。まさか、あんな大宴会が行われるとは……何百人いたんじゃろう? まぁタダ酒にありつけたのはラッキーじゃったか。
女王誕生祭七日目の朝、わしは絶賛二日酔いで目覚めた。しかしやる事があるので、ゆっくりしてられない。モゾモゾと一緒の布団に寝ていたリータとメイバイの間から抜け出す。
「ん……シラタマさん……」
二人を起こさないように布団から出たつもりが、リータが気付いたようだ。
「起こしちゃったかにゃ?」
「あ、頭が痛いです……」
「二日酔いにゃ。もう少し寝てると治るにゃ」
「どこか行くのですか?」
「王のオッサンに呼び出されているにゃ」
「じゃあ、私も……」
リータが体を起こそうとするので、わしは頭を撫でて止める。
「無理しにゃくていいにゃ。朝二の鐘に、南門に来てくれたらいいにゃ。メイバイとアイ達にも声を掛けてやってにゃ」
「はい。わかりました」
「テーブルに水差しがあるから、飲むといいにゃ。それじゃあ、行ってきにゃす」
「行ってらっしゃい」
わしはリータに挨拶すると、メイバイの頭も撫でてから寝室を出て、出掛ける準備をする。準備が終わると家を出て、城に向かって歩く。
朝一の鐘(午前六時)が鳴ってしばらく経っていたが、街は静まり返り、歩きやすかった。
城に着くと門兵に挨拶をし、王のオッサンの待つ部屋へ案内してもらう。部屋に入ると、オッサンはわしと二人きりで会うのは嫌なのか、オンニを隣に立たせていた。
「おはようにゃ~」
「おはようございますだ!」
朝からオンニに怒られた。
「女王には、そんにゃ注意受けた事がないにゃ~」
「女王陛下だ!!」
オンニがわしに突っ掛かる中、オッサンはため息を吐く。
「はぁ……オンニ。もういい。この猫と話すと碌な事にならん。準備に取り掛かろう」
「はっ!」
碌な事にならんのはオッサンのせいじゃろう? いつも小学生みたいな喧嘩を吹っ掛けやがって!
わし達は部屋から出ると、城を出て、用意してあった馬車に乗り込む。その馬車に続き、これからの準備を行う騎士と魔法使いの乗った馬車も南門に向かって走る。
この馬車もキャットシリーズか……。さっちゃんの馬車にリータが付けた猫又と違うデザインじゃったが、いったい王都にはどれほどのキャットシリーズがあるんじゃろう? 気になるが知りたくもないな。
わし達が静まり返る中、馬車が南門に着くと、騎士と魔法使いは白い巨象を出す場所を確保する為に、街の外に出てバリケードのような物を配置する。
わしとオッサン達は南門の脇にある螺旋階段から外壁に登り、上から騎士達に指示を出す。
バリケードが大まかに配置されると、オッサンがわしに確認を取る。
「これでどうだ?」
「う~ん。置くだけにゃらいいけど、解体するにゃら、もっと広いほうがいいんじゃないかにゃ?」
「たしかにそうだな。オンニ。直径をもう10メートル広げてくれ」
「はっ!」
オンニは返事をすると、マイクのような魔道具を握り、声を拡張させて騎士に指示を出す。その作業を見ながら、わしはオッサンに質問する。
「それにしても、オッサンは巨象の事を疑わないんだにゃ」
「これでも王だ。各国の情報は入っている。遠巻きだが、現物を見た間者(スパイ)もいるからな」
「じゃあ、女王の耳にも入っているにゃ?」
「いや、私の所で止めた。いくら間者から聞いた話でも、確証の持てる情報でもなかったからな。各所に問い合わせても笑われるだけで、情報も手に入らなかった。噂話が聞こえて来て、やっと信じるようになったんだ」
ビーダールでは、情報を東の国に流れないようにしてもらったからな。ハンターギルドや商業ギルドからの情報漏洩も止めるとは、バハードゥは頑張ってくれたんじゃな。
「あ! そうにゃ。解体した巨象はどうなるにゃ? わしも少し欲しいにゃ~」
「肉は今日、国民に振る舞うが、かなり余るだろうな。腐らせるぐらいなら、お前が持っていろ」
「いいにゃ!?」
「だが、魔道具を作る部位は渡せん」
「え~! 鼻は七本もあるんだから、一本ぐらいくれにゃ~」
「な、七本!?」
はて? 驚いておる。わしはちゃんとスティナに報告したぞ。
「そうにゃ。でも、焦ってどうしたにゃ? スティナから報告があったにゃろ?」
「大きさと鼻が複数あるとは聞いていたが、七本とまでは……そんな化け物をどうやって……」
「殴ったにゃ」
「殴っただと……」
あら? さっきまでしっかり立っておったのにフラフラしておる。まぁキョリスで三本。ハハリスで四本じゃもんな。鼻や尻尾の本数で強さが跳ね上がるから、隣に立つ小さな猫の力がどれほどか、やっと理解したのかもしれん。
「で……鼻を一本、貰えないかにゃ~?」
「はい。仰せのままに」
フッ。勝ったな。これで小学生みたいな喧嘩に終止符が打たれた。かなり怯えているように見えるが、オッサンの足にスリ寄る趣味はない。別に女性の足が好きなわけではない。ホンマホンマ。
オッサンはフラフラと椅子に腰掛け、ブツブツと言い出していたが、騎士達の準備は続く。その作業が続く中、街の者もチラホラ集まって来ていたが、お披露目の時間が近付くに連れて、しだいに集まる人が増えていく。
集まって来ていた街の者も騎士の誘導に従い、街の外に大きな輪となって、バリケードを囲む。
そうこうしていると、女王を乗せた馬車が南門に到着し、王族や貴族、護衛の者達が、外壁の上に設置された見物場に集まる。
一番豪華な席には王族が集まっていたので、わしはその席に挨拶をしに行く。
「みんにゃ。おはようにゃ~」
「ええ。おはよう」
「「「シラタマちゃん、おはよう」」」
わしの挨拶に、女王に続き、三王女が声を揃えて返してくれた。
「女王の今日の服は、さっちゃんからのプレゼントなんにゃ~。とっても似合っていて綺麗にゃ~」
「あら? シラタマでもお世辞を言えるのね」
「本心にゃ~」
「うふふ。冗談よ。ありがとう。このドレスの素材も、シラタマが提供してくれたのでしょう? 着心地も素晴らしいわ」
「わしは依頼を受けて、素材を集めただけにゃ。お礼にゃら、さっちゃんに言うにゃ」
「そうね。サティ。ありがとうね」
「いえ。わたしは……」
ふふ。さっちゃんは照れておるな。でも、母親に褒められて、満更でもなさそうじゃ。
「そのティアラも付けてくれたんにゃ。ドレスに似合っているにゃ」
「これもシラタマが関わっているのよね?」
「そうにゃ。使い方は聞いたにゃ?」
「ええ。こんなに凄い物は初めてよ。代々受け継いでいくわ」
「喜んでくれてよかったにゃ」
「それでシラタマからは、何かないの?」
「まだわしにたかるにゃ!?」
「お母様……」
さっちゃんにジト目で見られた女王は、笑ってごまかす。
「うふふ。冗談よ。もう満足しているわ」
「わしも冗談にゃ。これあげるにゃ」
わしは次元倉庫を着流しの袂に開き、そこから一本の短刀を取り出して渡す。
「これは?」
「誕生日おめでとうのプレゼントと、貰った短刀のお返しにゃ」
「宝石の付いた綺麗な装飾ね」
「抜いてみるにゃ」
女王は短刀を鞘から抜くと、切っ先をまじまじと見つめる。
「白魔鉱……」
「そうにゃ。王都一の鍛冶師マウヌとわしの協同合作にゃ。世界一の短刀にゃ~」
「シラタマ。素晴らしい物をありがとう」
「まだ効果を言ってないにゃ~」
「効果? あ、この宝石……」
「切っ先を正面に向けて、魔力を流してみてにゃ」
「ん……え?」
女王が短刀に魔力を流すと、切っ先から白い光が出て、剣の形を作り出す。
「ティアラが『光の盾』にゃら、短刀は『光の剣』にゃ。軽いから女王でも簡単に扱えるにゃ。どんにゃ危険が来ても、そのふたつで身は守られるにゃ~」
わしの説明を聞いた女王は、大きなため息を吐く。
「はぁ~。ティアラでも驚いたのに、シラタマにも驚かされたわ」
「にゃははは」
「次も期待しているわ」
「次にゃ?」
「本当の誕生日は別だからね」
「にゃ……」
誕生日が複数あるなんて、キャバ嬢か! また、たかられるのか……
「お母様ばかりズルいです。シラタマちゃん! 私にはないの!?」
「あ、さっちゃんにも……」
カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン……
わしがさっちゃんに、プレゼントを渡そうと袂に手を入れると同時に、朝二の鐘(午前九時)が辺りに鳴り響いた。
「にゃ! 時間にゃ~。さっちゃん。またあとでにゃ~」
「ブー! 忘れないでよ~」
「わかっているにゃ~」
わしはさっちゃん達から離れ、ブツブツ言っているオッサンに声を掛ける。するとオッサンは重たい腰を上げ、フラフラと外壁の端に立ち、わしの首根っこを掴んで持ち上げると、音声拡張魔道具のマイクで民衆に語り掛ける。
『聞け! これより大きな生き物の死体が現れる。とても大きな生き物だ。もう死んでいるから危険な事は何も無い。これから、この非常識な猫が生き物を出すが、驚くと思う。だが、焦らず、じっとしているのだ!!』
オッサンはかなり注意をしておるな。じゃが、わしの首根っこを掴んで、非常識な猫とはどういうことじゃ?
文句のひとつも言いたいところじゃが、女王が大きな生き物と聞いてから、わしを睨んでいるからやめておこう。オッサンに文句を言うと、小学生みたいな喧嘩に発展しかねないからな。
「それじゃあ、やってくれ」
「わかったにゃ~」
オッサンの指示に返事したわしは、バリケードが張られた中心に、伝説の白い巨象が出るように次元倉庫を空中に開く。すると、次元倉庫から高さ50メートルを超す巨大な象が、鼻を七本揺らして現れる。
地面にちょうど着くように開いたつもりだったが、少し浮いていたみたいで、大きな音と地震が起こってしまった。
おっと少し揺れたな。さすがにちょうど出すのは無理じゃったか。しかし、みんなの反応が無い。静かなものじゃ。皆、目が飛び出しそうなぐらい見開き、口も閉まっておらんな。
聞こえる音と言えば、風の音と、カツカツと響く靴の音だけじゃ。ん? 靴の音?
ゴンッ!
「にゃ!?」
靴の音の正体は女王で、わしは後ろから拳骨をいただいた。
「にゃにするにゃ~」
「なんてモノ出すのよ!!」
あれ? 喜んでもらおうと思ったのに、女王、激オコじゃ。なんとか怒りを鎮めてもらわねば。
「えっと……誕生日プレゼントですにゃ」
「この化け物が!? この山が!? この象が!?」
「そ、そうですにゃ。わしも頑張って狩って来たですにゃ~」
「はぁ~~~~~~~」
長いため息じゃな。ため息を吐くと、幸せが逃げるって言うぞ? うん。冗談で~す。心を読んで睨まないでくださ~い。
「ビーダールから情報が入って来なかったのは、このせいだったのね」
「あ、それはオッサンが止めてたって言ってたにゃ」
「でしょうね。はぁ~~~~」
「ため息ばっかり吐いて、どうしたにゃ?」
「シラタマのせいでしょ! 心臓が止まるかと思ったわ!!」
「怒らないでにゃ~。ごめんにゃ~」
「今年の誕生祭は驚かされてばかりよ。それなのに、まだこんなに驚かされるとは……」
とりあえず雷はこれで終わったか? 念の為、もうひと押ししておくか。
「この象は、本当に苦労して狩って来たにゃ。わしも血を流し、骨を折って、トドメを刺したにゃ。どうか怒りと共に、納めてくれにゃ」
女王はわしの言葉に、優しい顔に戻り、わしを抱きかかえる。
「そうね。シラタマの努力は受け取るわ。ありがとう。チュッ」
「にゃ!?」
わしは女王から、感謝の口付けを頬に受ける。それを見ていた者が、巨象ショックから復活する。
「シラタマちゃ~~~ん!!」
「バカ猫~~~!!」
この後、さっちゃんとオッサンと口喧嘩に発展したら、皆、仲良く女王から拳骨をいただいたのであったとさ。
わしだけ二発……なんでもありませんから睨まないで!!
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