上 下
194 / 755
第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~

192 女王誕生祭 六日目 1

しおりを挟む

 女王誕生祭六日目。今日はハンターと騎士との交流試合が行われるらしい。場所は城の訓練場はふさがっているので、ハンターギルドの訓練場を使うみたいだ。
 城に行って見れない人が多いんじゃないかと聞くと、交流試合のチケットを城に持って行けば、別日に入れるプレミアムチケットらしい。チケットはそこそこ高いにも関わらず人気があって、手に入れられる人が少ないとのこと。
 このもよおしを知った時には、残念ながらチケットは売り切れてしまっていた。と言う訳で、スティナに無理を言って入れてもらう。昨日のギャンブルで儲けたみたいで、ふたつ返事で許可を得られた。

 ギルドに着くと、スティナの案内で特別観覧室に案内される。どうやらここは、急遽、他国のお偉いさんが来て、ゴネた時に通される部屋らしい。
 今日は空いているとの事で、リータ、メイバイ、エミリ、アイパーティも誘ってやって来たのだ。

「スティナ。みんにゃの席まで用意してくれて、ありがとにゃ」
「シラタマちゃんはギルドに貢献してくれてるから、これぐらいお安いご用よ」
「にゃ……また無理難題ふっ掛けるにゃ?」
「まさか~。今日はしないわよ~」
「今日じゃなかったらするんにゃ……」
「あははは~」

 やはりか……その乾いた笑いが正解と言っておる。はぁ……

「そう言えば、わしにはお声が掛からにゃかったけど、出なくていいにゃ?」
「出てくれるの!?」
「いや、聞いただけにゃ~。近いにゃ~」
「うそうそ。冗談よ。シラタマちゃんが出たら目立つから、騎士もハンターもかすんじゃうわ」

 つまり猫のわしが邪魔なのか……無理矢理やらされるのも嫌じゃけど、一言も声を掛けられないのは寂しいのう。

「出場者はどういった条件で決まるにゃ?」
「ランクとギルドへの貢献度ね。そこからリストアップして声を掛けるの。高ランクは変人揃いで、なかなか出てくれないから大変よ」
「そうにゃんだ。リスの着ぐるみを着た奴もいるもんにゃ~」
「猫のぬいぐるみもね」

 え? わしも変人枠に入ってるの? みんな温かい目でうなずいておる……

「まだ高ランクじゃないにゃ~! 変人枠に入れにゃいで~!!」
「じゃあ、シラタマちゃんは猫枠ね」
「そのままにゃ~!」

 変人枠は回避されたのか、されていないのかわからないが、スティナは仕事があると言って特別室から出て行った。
 皆にわしが変人かどうかを聞いて回るが、返事が無い。ただ撫でるだけだ。そうこうしていると、騎士とハンターの交流試合が始まった。

 あれが高ランクハンターか……。騎士に押されて、あまり強いように見えんのじゃが……

「どうしたの?」

 わしが頬杖ついて難しい顔で試合を見ていると、アイが質問して来た。

「あのハンターは、高ランクにゃの?」
「さっき、Cランクハンターって言ってたわよ。最前線で何度か見た顔だし、高ランクで間違いないわ」
「じゃあ、アイ達も高ランクハンターに入るにゃ?」
「いいえ。Cランクでもピンキリなの。私達は良くて中堅に入ったところかしら」
「にゃるほど……あ~。負けちゃったにゃ」

 わしが残念そうな声を出すと、アイがハンターの特徴を説明してくれる。

「私達ハンターは、対人戦に弱いからね~。騎士は毎日のように練習してるでしょ?」
「そうにゃけど……盗賊と闘う事もあるにゃ。人にも慣れてにゃいといけないと思うにゃ~」
「たしかに……」
「バーカリアンだって、リスさんだって、対人戦に慣れていたにゃ。これはどんにゃ相手でも対応できるって事にゃ。トップクラスとの違いは、ここにあるんじゃないかにゃ?」
「……そうかもしれないわね」

 わしの言い分に、アイも何やら思う事がありそうだ。

「アイは初見のリータに負けたにゃ。わしは、あの試合は十回に一回の勝率が、一回目に来たと思っているにゃ」
「耳が痛いわね。たしかにアレは、あとから考えたら、やりようがあったと気付いたわ」
「にゃ~? 毎日とは言わないけど、パーティメンバーと乱取りはしたほうがいいにゃ」
「そうね。時間がある時は練習するわ。やっぱり猫ちゃんは凄いわね。私のほうがハンター歴が長いのに、教わる事ばかりよ」
「あ……ちょっと説教臭くなっちゃったにゃ。ごめんにゃ~」

 わしが謝ると、アイは優しくわしの頭を撫でる。

「ううん。リーダーになると、教わる事が少ないから助かるわ。ありがとう」
「少しは助けになれたみたいでよかったにゃ」
「それにしても、猫ちゃんはどんな相手でも対応できるのがうらやましいわ」
「わしの場合は特殊にゃ。産まれてから、数多くの獣を見て来たからにゃ。やらなきゃ生きて来られなかったにゃ」
「それはマネ出来ないわね」

 アイが諦めたような顔をするので、わしは他の学習方法を提示する。

「そうだにゃ。でも、見て学ぶ事は出来るにゃ。今日の試合も真剣に見て、自分だったらって当てはめれば勉強になるにゃ」
「あ! なるほど。みんな聞いてた? この機会を逃しちゃダメよ」
「「「「はい!」」」」

 この話の後、アイ達は集中して試合を観戦し、わしが話し掛けても無視するか、うるさいと言われてしまった。

 リータとメイバイまで、うるさいと怒らなくてもいいのに……

「よしよし」
「ゴロゴロ~」

 エミリがわしを独占して撫でておる。まぁたまにはいいか。

 わしがゴロゴロだらしない声を出して観戦していると、リータとメイバイが睨んでいて、ぎょっとする。

「「………」」
「にゃ!? 言いたい事があるなら言ってにゃ~」
「いえ。いまは忙しいです」
「帰ったら、覚えておくニャー!」
「にゃ……」

 何を覚えておくんじゃ? 怒られるのか? 怒られるんじゃろうな~。

 それからもわしは、ゴロゴロ時々ムシャムシャと言いながら観戦する。時折、怒ったような視線が飛んで来るが、皆、忙しいみたいで何も言われなかった。きっと帰ってから怒られるのであろう。


 騎士とハンターの交流試合は続き、ハンターの勝ち星が少ない中、時間が過ぎ、お昼休憩となる。

「「「「ゴロゴロ、ムシャムシャうるさいのよ!」」」」

 帰る前に全員から怒られてしまった。

「すいにゃせん!!」

 こうなっては平謝りしかない。謝りながら皆に、次元倉庫からエミリに作ってもらったお弁当と飲み物を取り出して、食事に気を取られている内に逃げ出した。だって、怒られたくないんじゃもん。

 特別室から飛び降り、王族のいる観客席までわしは走る。今回は下から声を掛け、許可を得てから観客席に飛び乗った。
 前回怒られた事を覚えているとは、わしは出来る猫だ。

「それでも失礼には代わり無いわよ!」

 声を掛けても女王に怒られた。

「どうせ向こうで怒られて、逃げて来たんでしょ~?」
「にゃぜそれを……」
「だってシラタマちゃんだも~ん」

 さっちゃんにバレるとは思っていなかった。たまにさといんじゃよな~。いや、しょっちゅう怒られているからか。

「挨拶に来るんじゃにゃかった……」
「じょ、冗談よ。よしよし~」

 わしは子供か!

 わしがさっちゃんに撫で回されていると、女王が質問する。

「それでシラタマは出ないの?」
「お声が掛からなかったにゃ。まぁ掛かっても断っていたけどにゃ」
「え~~~! シラタマちゃんの闘うところを見れると思っていたのに~。いまからでも出てよ~」
「スティナが、わしが出ると邪魔って言ってたから無理にゃ」
「たしかに……」

 さっちゃんのわがままに、わしが出ない理由を説明すると、女王の納得は早かった。

「そんな事ないよ~。お母様。なんとかなりませんか?」
「シラタマはイサベレを簡単に倒す猫よ? こんな小さな猫に、国の騎士が倒されるのを、他国の者に見せるわけにはいかないわ」
「あ……」
「そういうわけにゃ」
「むう……じゃあ撫でる!」
「にゃんでそうなるにゃ~。ゴロゴロ~」
「これあげるから~。あ~ん」

 さっちゃんがフォークで刺したモノを口の前に持って来たので、わしは咄嗟とっさに口を開けてしまう。これは食い意地が張っているというわけでなく、猫の習性だ……と、思いたい。

「あ~ん。モグモグ」

 うまい! これは……チョコケーキか? スポンジもふわふわじゃ~。

「これはどうしたにゃ?」
「エミリと料理長が協同で作ったみたい。昨日の晩餐会で出てたよ。貴族や他国の人に、すっごく評判だったの」
「にゃんですと……」
「招待状は出したんだから、シラタマちゃんも来ればよかったのに」

 そう言えば、わし一人で行くのは気が引けたから断ったんじゃった。こんなうまい物が出るなら行っておけばよかったな。
 国民の贈り物はチョコレートで、貴族達にはチョコケーキじゃったのか。行っていれば、二度美味しかった。

「はい。あ~ん」
「あ~ん。モグモグ。そう言えば、コーヒーはどうだったにゃ?」

 さっちゃんにチョコケーキを口に入れられながら女王に質問すると、答えてくれる。

「匂いに驚いた者が多かったけど、なかなか好評だったわ。貴族の間で流行りそうよ」
「モグモグ。そうにゃんだ~。それにゃら、商売として成立しそうだにゃ~」
「そうね。誕生祭が終わったら、国の出資でチョコとコーヒーを販売する店を出すから、行くといいわ」
「にゃ? それってエミリはどうなるにゃ?」
「心配しなくて大丈夫よ。権利関係はちゃんとしているし、エミリの口座を料理長と孤児院の院長が責任持って管理してくれるわ。シラタマも管理する?」

 料理長も院長のババアも、わしの中では信頼に足る人物じゃな。二人に管理させるって事は、もしもババアが使い込もうとしても、料理長が止めるって感じか。

「いいにゃ。二人にゃら任せられるにゃ。モグモグ」
「あ、次の試合が始まるわね」
「にゃ!? 帰らにゃきゃ!」
「もう試合の邪魔になるわ。ここにいなさい」

 わしが帰ろうとすると女王に止められ、そのすぐあとに、さっちゃんがチョコケーキを口に運ぶ。

「あ~ん」
「モグモグ……にゃっ……はかったにゃ!? わしを食べ物で釘付けにしていたにゃ~!!」
「なんの事かしら~?」
「そんな事しないよ~?」

 やられた。さっちゃんに餌付けされてしまった。試合が始まったら、すぐに二人して撫で出したし、確信犯じゃ。
 撫でられるとゴロゴロ言ってしまうんじゃけど、女王達は怒らないかな? それなら、向こうで見るより怒られないかも……

 こうしてわしは、さっちゃんと女王の膝を行き来し、安心して試合を観戦するのであっ……

「「ゴロゴロうるさ~い!」」
「撫でるからにゃ~~~!」
「「あ……」」

 やっぱり怒られるわしであったとさ。
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...