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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
189 女王誕生祭 四日目 2
しおりを挟む女王誕生祭、四日目の朝。女王を追い返そうと頑張っているが、なかなか帰らない。ついにカルタ大会に参加しやがった。
はぁ……さっきまで、文章に不満を言ってなかったか? 女王とロランスさんまで「キャッキャッ」と言いながらカルタをしておる。
わしも忘れられておるし、他の様子を見に行くとするかのう。よっこいしょ。
わしはカルタを読む声を聞きながら、離れに移動する。しかしアダルトフォーの巣にいきなり入るのは怖いので、そっと中を覗き見る。
ああ。ここもコタツ虫だらけじゃ。こっちは昼にもなっていないのに、酒を飲んでおるのか。入るか入らないか悩みどころじゃ。
う~ん。オンニがいるから、やめておこう。飲まされているように見えるし、わしまでとばっちりを受けそうじゃ。
わしは扉をそおっと閉めて、立ち去る。オンニの悲鳴が聞こえたのは、気のせいだろう。
そうして、本宅の二階に上がり、アイ達の部屋にお邪魔する。どうやら、リータとメイバイもお邪魔しているみたいだ。
「ここもにゃ~」
「どうしたの?」
「みんにゃコタツに入って、ダラケきっているにゃ」
「そう? 毎年、一日はこんなもんよ?」
わしとアイが話をしていると、ルウが天板に突っ伏しながら喋る。
「このコタツが気持ちよくて、動きたくなくなるね~」
「やっぱり撤去しようかにゃ……」
「「「「え~~~!」」」」
アイ達も悲鳴をあげるのか……。この家で動いているのは、料理班のエミリ、料理長、侍女さんしかおらん。みんなコタツから出る気配がないな。
「シラタマさんも立ってないで、座ってください」
「……そうだにゃ」
リータがスペースを開けてくれたので、リータとメイバイに挟まれる形で座る。撫で撫で付きで……
「一日はこんなもんって言ってたけど、他の家庭でもそうにゃの?」
「そうね。一日は静かに暮らすのが通例だから、何もしないわ。外に出てもやってる店も無いしね」
「ふ~ん。リータの村でもにゃ?」
「はい。静かに家族で過ごしていました」
そんなモノなのか。この国ではお年玉とか、初詣みたいな風習は無いんじゃな。
「誰か変わったこと、やってたりしないにゃ?」
「猫ちゃんより変わったこと出来ないわよ」
アイさん……わしが変わっているじゃと? たしかに猫じゃが、全員で頷かないで!
「それなら我が国では……ムゴッ!?」
わしは咄嗟にメイバイの口を塞ぎ、コソコソと念話で話す。
(だから、我が国とか言っちゃダメじゃ)
(ごめんニャ。すっかり忘れていたニャー)
(それでメイバイの国では、何をしていたんじゃ?)
(街は賑わい、子供はみんな、凧上げしていたニャ)
(凧上げ?)
(シラタマ殿は知らないかニャ? 凧って言って、木に紙を……)
(いや、知っている。わしの故郷にもあったぞ。この世界にもあるのだと驚いたんじゃ)
(そうだったニャ!?)
(メイバイも凧で遊んでいたんじゃな)
(いや……私は……)
あ……奴隷だったメイバイが、そんな遊びは出来なかったのか。いつから奴隷だったかわからないけど、反応から察するに、そう言う事じゃろう。珍しくメイバイから昔の話を聞けたのに、失敗じゃった。
(じゃあ、いまから一緒にやろう)
(出来るニャ!?)
(たぶん、なんとかなる)
「ありがとニャー!」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
メイバイは念話を忘れて声をあげ、わしに噛み付く。すると、ゴロゴロと喉が鳴るわしに、リータが質問する。
「どうしたのですか?」
「にゃんでもないにゃ。ゴロゴロ~」
「二人で念話で、何か話をしていましたよね? 私にも話せない事ですか?」
「いや、あとで話すにゃ。ゴロゴロ~。ちょっとメイバイと外に出て来るにゃ~」
「それじゃあ、私も行きます」
「うんにゃ。一緒に行こうにゃ~。ゴロゴロ~」
と言って、庭に出て来たが、アイ達までゾロゾロとついて来た。
「寒い~~~!」
「別に、ついて来なくてもよかったにゃ」
「何か面白そうな事をする予感!」
「絶対、何かしますよね」
アイもマリーも勘がいいこって……
「にゃにかするけど、まだ時間が掛かるにゃ」
「うっ……待つわ」
「う~ん。縁側に焚き火をするから、そこに居るにゃ~」
「ありがと~」
わしは次元倉庫から木を取り出して火を点けると、焚き火のそばに、土魔法でテーブルを作る。そこに布と大蚕の糸を取り出す。
次に、余っていた木の板を取り出して空中に放り投げ、かっこを付けて、細い棒になるまで刀で斬り刻む。すると、メイバイとリータが褒めてくれる。
「すごいニャー! 板が棒に変わったニャー」
「かっこよかったです」
うぅ。かっこよさそうだからやってみたけど、褒められると恥ずかしい。アイ達も拍手して、やんややんやとうるさい。
「あとは糸で木を固定して、布を張り付けるだけにゃ」
「紙じゃないニャー?」
「大きい紙は持って無いからにゃ。薄い布でも出来るから大丈夫にゃ」
「わかったニャー」
メイバイが凧作りに取り掛かると、リータにも棒を手渡す。
「リータも作るにゃ~」
「何をですか?」
「あ、リータは知らなかったにゃ。手本を見せるから、マネして作るにゃ」
わしは細い木を四角く並べると、四隅を糸でくくる。中央にもバッテンで木を固定し、歪まないようにして、布を縫い付ける。最後に細長い布と長い糸を巻付けた棒を取り付けて完成となる。
リータにわかりやすく教えていたのだが、メイバイも作り方を知らなかったようで、一から教えてあげた。
大蚕の糸は凧糸と違って細いけど、丈夫だから大丈夫じゃろう。みんなも出来たかな?
二人の完成を見届けると、凧を持って庭の端に移動する。
「それじゃあ、上げるにゃ。誰から行くにゃ?」
「私からニャー!」
「オッケーにゃ。ほい。走るにゃ~!」
「ニャーーー!」
メイバイのダッシュに合わせてわしも走り、程よいスピードがつくと、凧から手を離す。だが、上手く上がらず引き摺ってばかりだ。
「難しいニャー」
「違う方法でやるにゃ。【突風】にゃ~」
「ニャ……ん……上がったニャー!」
わしの風魔法で作った強風を受けた凧は空に舞い上がり、メイバイは糸を伸ばしながら、凧のバランスを取る。
「それぐらいの高さでいいんじゃにゃいかにゃ? そこで糸を引いたりしながら高度を維持するにゃ」
「わかったニャー」
「つぎ、リータにゃ~」
「はい!」
リータの凧にも【突風】で風を当て、空に上げる。それと同時にわしの凧も上げてしまう。
「こうですか?」
「うん。そうにゃ。上手いにゃ~」
「これが凧上げですか。あんな物が空に浮くのですね~」
「軽いから、風を受けて飛んでいるにゃ。葉っぱが飛んでるのを見た事があるにゃろ? 原理はそれと一緒にゃ」
「シラタマさんは物知りです~」
リータは感心してわしばかりを見るので、凧のバランスが崩れた。
「にゃ! 気を抜くと落ちるにゃ~」
「あ、はい! ……あ~~~」
「落ちちゃったにゃ。わしの凧を操作してるといいにゃ」
「ありがとうございます」
わしがもう一度凧を上げようとすると、アイ達もやりたいと言い出して来たので、一緒に何個か作って交代で凧を上げる。
魔法使いのマリーもいるので、何度落ちても風魔法で簡単に打ち上げられる。
わいわいと楽しく凧上げをしていると、その声に気付いた家の中に居る者が出て来た。
「何それ! 楽しそう! 私もやらせて~!!」
「にゃ!? 抱きつくにゃ……にゃ~~~」
突然さっちゃんに抱きつかれた事によって手元が狂い、わしが操作していた凧は墜落した。
「急に抱きついたらダメにゃ~」
「ごめ~ん」
「はい。この棒を持つにゃ」
「ありがとう!」
わしは糸の巻かれた棒をさっちゃんに渡すと、凧を取りに走り、そのまま合図をして空に打ち上げる。
そしてさっちゃんの元に戻り、操作の仕方を教えていると、フェリシーちゃんとローザもやりたそうに寄って来た。
「ねこさ~ん」
「私達もいいですか?」
「ん。いいにゃ。えっと~。リータ、メイバイ。二人に代わってあげてにゃ~」
「はい」
「わかったニャー」
わしは二人に世話を押し付け……任せて、外に出て来ていた女王とロランスの元へ行く。
「楽しそうね」
「そうだにゃ。二人もやるかにゃ?」
「ええ。でも、もう少し見させて」
「これも猫ちゃんが考えたの?」
「いや……」
いまは女王とロランスさんしかいないから大丈夫か。
「ロランスさんは、メイバイが何者か知ってるにゃ?」
「さっき陛下から教えてもらったわ。まさか、メイバイが情報提供者だったとわね。てっきり、猫ちゃんだと思っていたわ」
まぁどっちも異形じゃから、そう考えてもおかしくないか。
「間違いなくメイバイにゃ。あの空に浮かんでいるのは凧と言って、メイバイの国の遊びみたいにゃ」
ロランスの言葉を訂正していると、それを聞いていた女王は難しい顔になった。
「そうなの? じゃあ、聞いていたより、文化レベルは高いのかしら?」
「う~ん……あれぐらいにゃら、ここと変わらにゃいんじゃないかにゃ?」
「そうね。シラタマの飛行機があれば驚異だけど、浮くだけなら、それほどでもないか……」
「それはやり方しだいかにゃ?」
「やり方?」
「もしも凧に乗れる人がいれば、空から兵の陣形が丸見えになってしまうにゃ。それぐらい、魔法を使えば出来そうにゃ」
「可能性は否定できないわね。それを踏まえて戦術も考えなくちゃ」
わしと女王が難しい話をしていたら、ロランスは会話に入っていいか悩んでいたが、それでも気になるのか口を開く。
「猫ちゃんは、戦争まで詳しいの?」
「いや、素人の浅はかな考えにゃ。混乱させてごめんにゃ~」
「いいえ。その発想は私では出来なかったわ。ありがとう」
「難しい話しはここまでにして、女王も遊ぶにゃ~」
「そうね。楽しませてもらうわ」
わしは女王とロランスの為に凧を二つ作り、やり方を教えて風魔法で飛ばす。
双子王女やスティナ達も参加し、代わる代わる上げ手が代わり、お昼ごはんが出来るまで、凧上げ大会は続けられるのであった。
「「「「「いただきにゃす」」」」」
なんで全員「いただきにゃす」なんじゃ? 王族にも定着してしまったか……
お昼ごはんを食べ終わると、やっと王族と貴族は帰って行った。アダルトフォーにからまれていたオンニの髪が白くなっていたけど、何があったんじゃろう?
アダルトフォーは帰る気配が無いので離れに隔離し、エミリを孤児院に送り届ける。リータとメイバイもついて来てくれた。
孤児院に着くと新年の挨拶をし、わしのプレゼントした凧で、子供達は凧上げ大会を始める。これは料理を作ってくれていたエミリが参加できなかったからだ。
ここでは風魔法を使える者がわししかいないので、子供達はメイバイに教えてもらって、走って凧を上げていた。
皆、上手く上げるようになったので、わしは離れて、ババアやマルタと一緒に子供達の笑顔を見ながら雑談をする。
空が赤くなると、わしとリータ、メイバイは手を繋ぎ、帰り道を歩く。
「どうだったにゃ?」
「楽しかったニャー! 孤児院の子供もいっぱい居たから、自分も子供に戻ったみたいだったニャー」
「メイバイさん……よかったですね」
「またやりたい事があったら言ってくれにゃ。出来るだけ再現するにゃ~」
「じゃあ……ゴロゴロするニャー!」
はい? ゴロゴロ?? そういう意味で言ったんじゃないんじゃけど……
「にゃ!? ゴロゴロ~」
「あ! 私もします!」
「ゴロゴロ~」
この日の二人の撫で回しは激しく、なかなか眠れなかったわしであったとさ。
「ゴロゴロゴロゴロ~~~」
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