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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~

186 女王誕生祭 三日目 3

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 ガキィーン!

 わしはバーカリアンの大振りの剣を避けようと構えていたが、予期せぬ動きに剣で受けざるを得なかった。

 ビックリした~。土魔法で足元をベルトコンベア状にして、一瞬で間合いを詰めたのか。風魔法が得意じゃなかったのか?

 剣を受けて驚いたわしが距離を取ると、バーカリアンは話し掛けて来る。

「よく受けたな。このバーカリアン流剣術を!」

 魔法使ったじゃろ? これを剣術と言うのか? バカにツッコムと面倒臭そうじゃし、無難に褒めておこう。

「さすがバーカリアンさんにゃ。受けるので精一杯だったにゃ~」
「まだ俺様を愚弄ぐろうするのか!」
「にゃんの事ですかにゃ?」
「いまの打ち合いで、お前の実力がわからないと思っているのか!」

 あら? 力を測られていたのか。力を隠す魔法は使っているから、剣士の勘のようなものかな? 剣を合わせれば力がわかるって、師範のじい様も言っていたしな。

「バレたにゃ。それでどうするつもりにゃ?」
「決まっている。お前はそこらのハンターより強いが、俺様のほうが強い! 斬り捨てるまでだ!!」

 わかってなかった~! 忘れておったわ。バカじゃった。

 話を終えたバーカリアンは、わしに斬り掛かる。わしは避けるが、その都度バーカリアンは、避けた方向に土魔法のベルトコンベアに乗って距離を詰め、剣を振るう。

 う~ん。なかなか強い。オンニより上じゃないか? 剣の鋭さ、読み、魔法の使い方……ナンバーワンの理由はここにあるのか。イサベレが名前をあげたのもうなずける。

「やるじゃないか。そろそろ温まって来たし、スピードを上げるぞ!」
「オッケーにゃ!」

 バーカリアンはここから肉体強化魔法で地力を上げ、さらに風魔法で加速して斬撃を繰り出す。
 わしもそのスピードを合わせ、受け、かわし、距離を取るが、バーカリアンはわしを追い掛ける。

「ハーハッハッハッハー。面白いぞ~!」

 キモッ! 笑いながら剣を振るっておる。これだからバカは……

 わし達は訓練場をいっぱいに使い、観客がギリギリ目で追える速度で移動し、縦横無尽に斬り合う。その中に居るティーサが時折、悲鳴をあげているが、もう少し待ってと心の中で呟く。
 長い斬り合いが続き、まだ来ると構えていると、わしの目の前に来たバーカリアンは足を止めた。

「ふぅ~」

 あれ? 止まった。

「どうしたにゃ?」
「どうも派手さが足りないと思うんだ」
「そうかにゃ? これほどの剣のやり取りは、めったに見れないと思うにゃ」
「いや。イサベレ様と闘った時も、似たような事をやった」

 たしかにイサベレが少し手加減すれば、同じ事が出来るか。

「ふ~ん。じゃあ、イサベレみたいに多角的に攻めて来るかにゃ? アレにゃら派手にゃ」
「出来なくは無いが、一人でやるとなると……」
「にゃ~?」
「何故、猫がイサベレ様の戦法を知っているんだ?」
「一度闘った事があるにゃ」
「な……何処でだ!」
「慌ててどうしたにゃ?」
「ハンターがイサベレ様と手合わせしてもらえるのは、誕生祭で行われる騎士との交流試合の時だけだ。それをお前は……」

 ふ~ん。誕生祭では、そんなもよおしが行われるのか。

「ああ。わしはこんにゃ姿にゃろ? 城を歩いていたら、モンスターと間違えられて襲われたにゃ」
「たしかにホワイトダブルが目の前を歩いていたら、騎士なら攻撃してもおかしくないか……。それで、どっちが勝った? ま、まさかお前じゃないだろうな?」

 ん? なんか焦ってる? イサベレにわしが勝ってしまうと、ナンバーワンの座が揺らぐからか? 勝ったと言うと面倒になりそうじゃし、適当にあしらおう。

「途中で女王に止められたから、勝敗は決まっていないにゃ。まぁあのままやっていたら、負けていたんじゃないかにゃ?」
「そうか! イサベレ様に勝てるのは、このバーカリアン様しかいないからな」

 なんか嬉しそうじゃな。

「イサベレ様に勝つと結婚できる噂があるから、これだけは誰にも譲れん。今回こそは、必ず勝つぞ!」

 つまりバーカリアンは、イサベレにホの字なのか。わしが勝ってしまって、言い寄られておるんじゃが……
 そうじゃ! こいつがイサベレに勝ってくれたら、イサベレの肉欲の魔の手から逃れられる! 美人で少しもったい無いが、バーカリアンに譲ろう。

「バーカリアンさんは、イサベレが好きなんにゃ~」
「ああ、一目惚れだ。あれは俺様が子供の頃……」

 ヤバイ! 回想にひたりそうじゃ。止めねば!!

「そろそろ再開しようにゃ。観客も冷めてしまうにゃ~」
「そ、そうだな」
「じゃあ、次はわしが攻めるにゃ~!」
「おう! かかってこい!!」

 わしはバーカリアンのスピードに合わせて攻撃する。突進し、ガードされると飛び退き、空中に出した【風玉】を蹴って、上から、横から、斜め上からと多角的に斬撃を繰り出す。

「これはイサベレ様の……」
「ほら、ほうけていると危ないにゃ。【風の刃】にゃ!」
「クッ!」

 わしは多角的な斬撃に加え、風で出来た刃を放つ。バーカリアンは驚いたのは一瞬で、剣には剣で、魔法には魔法で対処しながら全ての攻撃を受け止める。

「ハハハハ。いい練習相手だ!」

 その通り。練習相手になってやっているんじゃ。イサベレよりスピードが劣るが、慣れれば対処の仕方も見えてくるじゃろう。

 わしの斬撃が百を超えたその時、ついにバーカリアンは攻撃に移る。わしの着地に合わせ、土魔法と風魔法の同時発動。土魔法と脚力で前方に跳び、さらに風魔法で加速して、わしとの距離を一瞬で詰める。

 そして、横一閃。最速の剣が振るわれる。

 もらった!

 バーカリアンの剣に合わせ、わしも横に斬り付け、剣がぶつかる。

 ガキィ-ーーンッ!

「なっ……」

 激しい金属音と共に、わしとバーカリアンの剣は砕け散った。

「折れちゃったにゃ」
「クソッ! 次の一手があったのに!!」
「それは対イサベレ戦で使うにゃ。今日はイサベレも来ているから、いま見せたらもったいないにゃ~」
「……それもそうだな」

 バーカリアンが納得したところで、わしは勝敗の行方を問う。

「お互い武器が折れて、戦闘不能にゃ。ルール通りでいけば、ドローって事になるけどいいかにゃ?」
「う~ん。あまり疲労するのも、ギルド職員に止められていたからここまでにするか。だが……」
「どうしたにゃ?」
「俺様の剣は自前で、ギルドが用意した剣より丈夫なはずなんだが……」

 あ……たしかに、時々鉄魔法で補強しておった。わしが相打ちになるように仕向けたのがバレたか?
 わざわざルールに武器の破損を付け加えたのはこの為じゃったのに。良い言い訳も思い付かないし、タネ明かしをしておくか。

「バーカリアンさんの攻撃に耐えきれそうになかったので、魔法で補強しながら闘っていたにゃ。ズルして申し訳ないにゃ。でも、それすらバーカリアンさんに破られてしまったにゃ~」

 真実をまぜながら、嘘を言う。これでどうじゃ?

「ハッハー! それぐらいのハンデ認めようじゃないか。猫君もよく頑張ったな」

 魔法は使っていいから、ハンデでもないんじゃが……まぁバカでよかった。

「……今回はそう言う事にしておこう。では、さらばだ!」

 そう言うと、バーカリアンはマントをたなびかせ、颯爽さっそうと去って行った。

 あれ? どういうこと? 何か感付いておるのか? バカの言葉だから考えるのは無駄か……

 わしがバーカリアンを見送っていると、わし達から距離を取っていた、ティーサが声を掛ける。

「あの……猫ちゃん?」
「どうしたにゃ?」
「バーカリアンさんは帰って行ったけど、勝敗はどうなったの?」
「見ての通り、武器が壊れたからドローにゃ」
「バーカリアンさんも認めたのですか?」
「特に文句は言って来にゃかったし、そうじゃないかにゃ?」
「わかりました。アナウンスします」

 ティーサが観客に向き直った瞬間、大事な事を思い出したわしは慌てて止める。

「にゃ! 最後にちょっとした芸をするから、観客に残ってもらえるように言ってくれにゃ~」
「芸ですか? 何をするかわかりませんが、私も楽しみです」

 ティーサは勝敗を告げる。かなりの悲鳴が聞こえたので、わしとバーカリアンが相討ちになると賭けた人物は少なかったみたいだ。
 ギャンブラーの……ギルマスのスティナが踊っていたところを見ると、当てたみたいだ。いまにも脱ぎ出しそうだったので、わしとティーサで止める事になってしまった。

 ギャンブルの勝敗で悲鳴をあげていた観客が落ち着くと、わしは芸を始める。
 氷の木、火の蝶、火の花、火の鳥、火災旋風と続き、最後は虹の輪。見た事がある人も居るので、今回は水蒸気の量を増やして五輪の虹の輪にしてみた。


 五輪の虹が残る中、わしはお辞儀をして退席するのであった。


 これで、わしの知り合い全員に芸を見せたから、もうリクエストされる事はないかな?

 わしはギルド内の椅子に腰掛け、リータ達が来るのをお茶を飲みながら待つ。しばらく待つと五輪の虹が消えたのか、訓練場が賑やかになり、さらに待つと、にこやかなリータ達がやって来る。

「お待たせしました~」
「やっぱりシラタマ殿の魔法は素晴らしいニャー」
「本当です。今回も楽しかったです。ありがとうございました」

 興奮するリータとメイバイに、わしはこのあとの予定を聞く。

「喜んでくれて、こちらこそありがとうにゃ。さて、今日はにゃにを食べようかにゃ~?」
「また食べ物ニャ? シラタマ殿は好きだニャー」
「わし達はハンターにゃ。体が資本にゃ~」
「そうですけど、シラタマさんと出会ってから太っちゃいそうです」
「私もニャ。こんなに毎日お腹いっぱい食べられるなんて、信じられないニャー」
「二人も動いているから、全然太ってないにゃ。わしの方が太って見えるにゃ」
「「たしかに……」」

 わしは自分のお腹をぷにぷに触りながら卑下して言ってみたのだが、二人は否定してくれない。

「デブじゃないにゃ~! ちょっとモフモフしてるだけにゃ~!」
「フフフ。そんなこと言ってませんよ」
「シラタマ殿の長所ニャー」

 わしの長所ってモフモフなの? もっと他にもいいところがあると思うんじゃけど……まぁいっか。

「明日はお店も開いてないみたいだから、いっぱい買い込んで帰るにゃ~」
「「にゃ~~~!」」

 相変わらずの気の抜ける掛け声を聞いて、二人に撫で回されたり抱かれながらも、露店で買い食いし、腹も次元倉庫にも食べ物を詰め込んで、家路に就くわし達であった。
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