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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
184 女王誕生祭 三日目 1
しおりを挟む『第二回、キャットカップを開催しま~す!』
「「「「「わああああ~~~」」」」」
女王誕生祭、三日目。ハンターギルドでは女王を楽しませる催し「キャットカップ」が行われる。
例の如く、わしは見世物にされ、ギャンブルが執り行われる。ただし、女王の都合で午前中のみの開催となった。
司会も例の如く、バニーガールの猫版「キャットガール」に扮したティーサ。音声拡張魔道具であるマイクを片手に、わしを呼び込む。
『それでは、主役のシラタマさんの登場で~す』
「「「「「きゃ~~~~」」」」」
またわしが主役なのか。試験を受けるハンタ-が主役じゃろうに……何人か睨んでいる奴もいるぞ? はぁ。帰りたい。
わしがトボトボと訓練場の中央に歩き、辿り着くと、ティーサが声を掛けて来る。
「今日はいつもの変わった服なんですね」
「ドレスは褒めてくれたのに、この服は変って、にゃんでにゃ~!」
「変じゃなく、変わった服ですよ。それも似合っていますよ」
「ティーサもキャットガール似合っているにゃ~」
「うっ。言わないでください」
「にゃはは。仕返しにゃ~」
「服装の話はやめましょう。準備はどうですか?」
顔を赤くするティーサの質問に、わしは思い出しながら答える。
「たしか……赤い円から出にゃい。防御のみで、武器は模擬刀だったかにゃ?」
「大丈夫そうですね」
「しかし、前回いっぱい試験を受けたのに、挑戦者はそんにゃにいるのかにゃ?」
「王国全域に告知したので、かなり集まりましたよ。多過ぎて抽選になってしまいました」
「にゃんですと?」
「今回は数を絞って新人ハンター六人と、Dランクハンター十五人。四グループに分けて戦ってもらいます。残りは次回以降ですね」
次回?? まだやらねばならんのか……
「さあ。始めましょう」
ティーサはわしから離れるとギャンブルの説明と、呼び込んだハンターの説明をし、実戦形式の試験を開始する。
わしは赤い円から出ないように、刀や魔法で受験者の攻撃を危なげなく防ぎ、簡単なアドバイスをして試験を終えていく。
観客は賭けに夢中で悲鳴や歓喜の声が聞こえるが、いまひとつ盛り上がりに欠けるみたいだ。
「シラタマちゃん。ちょっといい?」
試験は終盤。わしが休憩していると、スティナがやって来た。
「どうしたにゃ?」
「観客の反応が悪いの。もう少し派手に出来ない?」
「そう言われても、わしは受けるだけにゃ。攻撃魔法にゃら派手に出来るけど、防御魔法じゃ派手ににゃらないにゃ~」
「そこをなんとか!」
「そもそも、これは試験にゃ。試験官が派手に目立ってどうするにゃ?」
「うっ。痛いところを突いてくるわね」
わしに無理難題を吹っ掛けないなんて、珍しくスティナが弱気になっておるな。女王の誕生祭だからか? このまま無難に終わらしてもいいけど、致し方無い。
「試験官じゃなかったら出来るにゃ。飛び入り参加で高ランクの者を募集してみたらどうにゃ? ハンターと言わず、騎士にも募集してみるにゃ」
「あ! それいいわね。陛下の時間もあるし、巻きでやれば、一人か二人はいけるかも」
スティナは中央に立つティーサから音声拡張魔道具のマイクを受け取ると、高らかに宣言する。
『聞け! これまで見た通り、この猫は強い。我こそはこの猫を倒せると言える猛者はいないか?』
突然のスティナの言葉に、観客は静まり返る。
『誰も居ないか……情けない。それでもハンターか! それでも騎士か! こんな事では国を守れないぞ!!』
挑発? 煽って挑戦者を募るのか。普通に賞金を出したほうが、挑戦者が出るんじゃないか?
わしの心配を他所に、ハンター達は沸き上がる。
「俺がやる!」
「いや、私だ!」
「あの猫が目立っているのが気に食わなかったんだ」
「戦う振りして撫でられるかな?」
「あ! それいいね。私もやる!」
「「「私も~!」」」
やるんだ!? 金よりも名誉が欲しい人間もいるのかな? しかし、不穏な言葉が聞こえて来たような気が……
『よし。それでいいんだ。これより、受付カウンターで受け付ける。挑戦する者は集まれ!』
スティナはそれだけ言うと、マイクをティーサに返す。ティーサはマイクを受け取ると、最後のグループを呼び込み、試験を再開する。
一心不乱に攻撃を繰り出す受験者を適当にあしらっていると、最後に見知った人物が現れた。
「ねこさん。お願いします!」
マリーか……受験者が多いのに、よく残ったな。それとも、スティナがわしの知り合いだから、良からぬ考えを持ってエントリーさせたのか?
前回もリータにしてやられたし、わしがやり辛いと思って、マリーに賭けようとしているのかもしれないな。
「マリーも受けていたんだにゃ」
「はい。パーティでわたし一人だけDランクだったので、こんな機会がもらえてありがたいです」
「わしは知り合いだからって手加減しないにゃ。それと、わしの渡した魔道具は実力以上の力が出るから禁止にゃ」
「そうですよね。魔道具は外します。まぁわたしは魔法使いなので、魔法を見せるだけですから、強さは関係ありません。だから、手加減はいりません」
「そうだったにゃ。でも、この赤い輪の中からわしを出すだけにゃ。諦めず、頭を使って掛かって来るにゃ~」
「はい!」
わし達の話が終わると、待っていてくれたティーサが開始の号令をかける。
「【ウォーターボール】」
まずは水魔法のお披露目か。水の量も操作も上々。一緒に狩りをした時も思ったが、猫争奪戦の時より魔法が上手くなっておるな。わしのレクチャーのおかげか。
「【ファイヤーボール】」
ん? 二属性の魔法を同時発動……大きくは無いが、難しい火と水魔法を同時に使うなんて、これだけでCランクハンターになれるんじゃなかろうか?
「【エアーボール】」
三属性!? マリーはかなり魔法が上手くなっておるな。これもわしのおかげか。しかし、水の玉を火の玉で熱しているのが気になる。そこに風の玉が浮いているのは、嫌な予感しかせん。
「準備完了。弾けろ!!」
マリーはわしに向け、熱湯となった水の玉を近付け、風の玉を当てて弾けさせる。
なかなかやるな。わし以外なら、熱湯の飛沫を掛かるまいと、円から出てしまうかもしれんな。
「【旋風】にゃ~」
わしは前方に旋風を起こし、飛沫を全て上空に霧散させる。熱湯の飛沫は、上空に上がると冷まされ、雨となって周りに降り注ぐ。その雨の降る中、マリーは肩を落とす。
「簡単に破られてしまいました……」
「そう悲観しにゃくていいにゃ。難しい魔法をこんにゃに使いこなすマリーは、強くなっているにゃ」
「ねこさん……」
「しいてダメにゃところを言うと、水と火は相性が悪いにゃ。火に風を使うにゃら勢いを増してよかったにゃ」
「なるほど。勉強になります」
「お喋りはここまでにして、あとは得意な魔法を見せてくれにゃ」
「はい!」
マリーはわしの注文通り、風魔法で攻撃する。わしは前回同様、土の玉を回転させて掻き消していく。
そうこうしていると時間が過ぎ、ティーサが終了を告げる。
『タイムアップで~す!』
ティーサの終了の声を聞いて、マリーの緊張が解ける。
「ふぅ~~~」
「よくやったにゃ」
「まったく歯が立たなかったです~」
「それでも時間いっぱい魔力が持ったにゃ。十分な成果にゃ」
「ねこさんに言われると自信が持てます。ありがとうございました!」
こうして試験は滞り無く終わり、マリーもCランクハンターになった。
ギャンブルの結果は大判狂わせが無かったので、あまり沸き上がっていなかったが、嬉しそうな顔をした人々が多かったから、小銭でも手に入ったのだろう。
地に倒れ伏しているスティナは、目論見が外れたのだろう。どれだけ賭けたか知りたいが、下手に触れると何を言われるか怖いので、無視している。
「シラタマちゃん! なんでよ!?」
無視していても、話し掛けられては仕方がない。
「にゃにが?」
「マリーって子。シラタマちゃんの家に居たじゃない!」
スティナは怒鳴りながら詰め寄るので、わしは肉球で顔を押し返す。
「近いにゃ~! それが今回の試験と、にゃにが関係しているにゃ~」
「リータみたいにシラタマちゃんが負けると思っていたのよ! なんでよ~」
「こっちが聞きたいにゃ。離れるにゃ~」
わしが押し返しているにも関わらず、スティナはわしを抱き締めて泣き出した。
「うぅぅ。大金賭けたのに~」
やっぱりか。リータと違ってマリーは正統派の魔法使いだから、魔法が丁寧過ぎる。わしを押し出すには、奇策か力業でしか出来ないから、マリーには酷ってものじゃ。
「それより、募集をかけた挑戦者は決まったにゃ?」
わしの質問に、スティナは目を輝かせ、抱いていたわしを落とす。
「あ! まだ挽回の手段があった!」
「挽回って……まだ賭けるにゃ?」
「ふふん。負けたまま引き下がれるわけないわ! 対戦相手、連れて来る!!」
「ほどほどにするにゃ~」
少しの休憩を挟み、二人の挑戦者と戦うみたいだ。ティーサの説明では二人ともBランクハンターで、一人は目の前にいる「リス」と言う名前の女性。変な格好をしているが、あまり触れたくない。もう一人はあとから派手に登場したいそうだ。
わしがリスを見ないように観客席を見ていると、ティーサが説明を始める。
「それでは、ルールを二人で相談してもらえますか?」
「普通に闘うんじゃダメにゃ?」
「お互いに納得のいく闘い方じゃないと、あとで揉めて困ると、ギルマスが言っていました」
そのギルマスは何処に行ったんじゃ? ハンター同士が揉めないように立ち会うべきじゃろう……居た! ギャンブルの発券所に並んでいるよ。
「わしはにゃんでもいいにゃ。そっちのリスさん?が決めてくれにゃ」
「なんでもいいなら……」
リスが決めた闘い方はこうだ。武器は無し。狭い枠内で相手を押し出すか、相手を数秒押さえ込むか、もしくはギブアップで勝敗をつける。相撲とレスリングを足した様な競技を提案された。
「それでいいにゃらやるけど……」
わしは言葉に詰まりながら、リスを上から下に舐めるように見る。
「どうしたの?」
「その格好でやるにゃ?」
「もちろんよ」
わしの指摘通り、リスは変な格好をしている。白いリスの着ぐるみだ。
「モフモフして動き難そうにゃ~」
「猫のぬいぐるみに言われたく無いわよ!」
ここに、リスの着ぐるみVS猫のぬいぐるみの熾烈な闘いが幕を開けるのであっ……
「リスより猫のほうが俊敏にゃ!」
「リスのほうが猫より強いです~」
「にゃんだと~」
「なによ!」
「シャーーー!」
「ぐぬぬぬぬ!」
熾烈な闘いの前に、程度の低い口喧嘩が繰り広げられるのであったとさ。
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