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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~
151 パーティ戦闘にゃ~
しおりを挟む楽しい休日を終え、わし達は仕事をするべく、ハンターギルドに向かう。その道中で、リータは家での惨状をわしとメイバイに思い出させる。
「スティナさん達は、置いて来てよかったのですか?」
「リータも、もう……諦めるにゃ……」
「そうニャー!」
いつもの様に、居間で酔い潰れて寝ているアダルトスリーには、いちおう声は掛けた。ガウリカは起きてくれたから言伝は頼んだ。これ以上わしに出来る事はない!
ハンターギルドに入ると、依頼ボードからいい依頼を選択しようとするが、ピンとくる依頼が無い。
「いい依頼は無いにゃ~」
「ここ最近、こんなもんです」
「オフシーズンニャー」
わしが依頼ボードを見て悩んでいたら、リータとメイバイも探してくれるが、二人もやりたい依頼が無いようだ。なのでリータは、違う提案をする。
「あの……お願いしてもいいですか?」
「わしに出来る事なら、にゃんでもいいにゃ」
「またシラタマさんの実家に、連れて行ってください」
「私もお願いするニャー」
東の森の我が家か……そうじゃな。ろくな依頼も無いし、常時依頼で行くか。
「そんにゃ事で頭を下げる事ないにゃ。行こうにゃ!」
「「はい(ニャ)!」」
と、言うわけで、王都を出て森の我が家に転移した。我が家の換気をしてから外に出ると三人でおっかさんのお墓に手を合わせて、今日の予定を話し合う。
「二人はどんにゃ獲物を狩りたいにゃ?」
「最近、弱い獲物しか狩っていなかったから、強い獲物に挑戦したいです」
「弱い獲物は飽きたニャー。私も黒い獲物がいいニャー」
「弱いにゃ? 二人とも、生き物をそんな風に思っちゃダメにゃ。どんにゃ生き物でも、慢心していると怪我をするにゃ」
「「あ……はい(ニャ)」」
わしもそう思っているけど、二人と違って実力差がかなりある。万と一では、怪我を負うわけがない。でも、百と一では、もしもの事がある。
「わかればいいにゃ。これから連れて行く所は、そんにゃ甘い気持ちじゃ死ぬにゃ。気を引き締めるにゃ」
「「はい(ニャ)!」」
リータとメイバイは叱られて暗い顔をしていたが、わしの忠告を聞いたからか、気合の入った顔になった。
「戦術は……リータをリーダーにして、メイバイがアタッカー。わしが後衛にしようかにゃ? そのほうが経験が積めるにゃ」
「え?」
「ダメにゃらいいにゃ」
「いえ。そうしてもらおうと考えていたんです」
「シラタマ殿には、私達の考えはバレバレニャー」
「無粋な事を言ってごめんにゃ。それじゃあ二人とも、わしにしっかり掴まるにゃ」
「「はい(ニャ)」」
「行っくにゃ~~~!」
リータはお姫様抱っこ、メイバイはおんぶで背負うと、わしは森をひた走る。風のように草木を越え、目的地に到着すると、二人は「ピシッ」と固まった。
「ワレー! 我の縄張りに人間を連れて来るとは、どういうつもりだ、ワレー!」
「あらあら。また新しいお友達?」
「モフモフ~」
キョリスは怒りの表情、ハハリスは暢気な表情、コリスは嬉しそうな表情。様々な表情を見せるリス家族のお出迎えに、リータとメイバイは固まったのだ。
「お父さん、すみません。この子達にお父さんの縄張りで、狩りをする許可が欲しくて来ました。そう言わず、許可をください」
「ワレー! 娘と遊びに来たんじゃなかったのか、ワレー!」
「モフモフ~……」
わしがここに来た理由にキョリスが怒ると、コリスは寂しそうな顔になった。
「それは……また明日でもいいかな? 明日、一緒に遊ぼうな?」
「ぜったい~?」
「ああ、絶対じゃ。約束する」
「わかった~。今日も明日も、モフモフとあえてうれしい!」
これでコリスは黙らす事が出来た。問題は人間嫌いのキョリスじゃな。どうか許してくれますように。
「どうか許可をいただけませんか?」
「本当に明日も来るんだろうな、ワレー」
「はい」
わしが頷くと、キョリスの顔が緩んだように見えた。その顔を見たハハリスは、笑いながら会話に入って来る。
「フフフ。お父さんも、あなたに会うのは嬉しいのよ」
「お前……変な事を言うな! ワレー!」
そうなの? こんなデカいリスに懐かれても怖いだけじゃ。コリスでも、わしの倍あって怖いのに……
「じゃあ、許可をいただけるのですね?」
「ああ。だが、そっちの人間……ワレー!」
「はいニャ!」
また勝手に念話を繋ぎやがった。しかし、なんでメイバイに興味を持っておるんじゃ?
「その毛の色……前に見た事があるぞ、ワレー! また我の縄張りに入って来たのか、ワレー!」
「な、なんの事だか、わかりませんニャ……」
あ……前に人間を食べたような事を言ってたな。まさか、キョリスの腹の中に入ったのはメイバイの仲間か? 違うと言ってくれ!
「お父さん。ひとつお聞きしたいのですが、前に言っていた人間は、この子と同じ毛の色をしていたのですか?」
「そうだ。ワレー!」
「この子と同じ様な、耳の形や尻尾が付いていたのですか?」
「む……人間の癖に、なんでそんな所に耳や尻尾が付いているんだ、ワレー!」
セーフ! メイバイの仲間じゃなかった。
「その人間は、山の向こうの人間ね」
「お母さんは知っているのですか?」
「ええ。昔、何度かやり合ったわ」
アウトー! その舌舐めずりが意味する事は聞きたくない。じゃが、昔と言う事は、メイバイの仲間ではないじゃろう。ギリ、セーフとしておこう。
「こないだお父さんの前に現れた人間と、この子は違います。この子は決してお父さんの縄張りを、勝手に荒らす子じゃないです」
「そうか……わかった。ワレーが信用するなら我も信用しよう、ワレー」
「ありがとうございます。それでは、わし達は失礼します」
「モフモフ、またね~」
リス家族に狩りの許可をもらい、固まっているリータとメイバイを担いで走る。十分リス家族から距離を取ると二人を降ろして声を掛ける。
「大丈夫だったかにゃ?」
「「大丈夫じゃない!」」
「にゃ! 二人して、ポコポコ叩くにゃ~」
今日のポコポコは一味違うな。ちょっと痛いぞ。ん? 宝石が光ってる……肉体強化魔法か。だから、リータのポコポコはドゴンドゴンで、メイバイのポコポコはドゴゴゴゴなのか。関心していると、埋まってしまいそうじゃ。
「二人とも痛いにゃ~。埋まってしまうにゃ~」
「「あ……」」
「ひどいにゃ~」
わしが情けない声を出すとようやく二人のポコポコは止まったが、怒りは収まらないようだ。
「シラタマさんが悪いんですからね!」
「そうにゃ! 怖かったニャー!」
「だから気を抜くなって言ったにゃ~」
「「そういう意味と違う(ニャ!)でしょ!」」
うん。たしかに違った。弱い敵でも気を抜くなって意味じゃったな。言い訳失敗じゃ。
「ごめんにゃ~。でも、肉体強化してのポコポコはやめてくれにゃ~。魔力の無駄使いにゃ~」
「これは、つい……」
「ちょっと魔力を補給しておくにゃ」
「ありがとニャー」
わしは二人のアクセサリーに触れ、魔力を流し込む。そうしていると少し落ち着いたからか、リータは先ほどの恐怖体験を質問する。
「さっきのリスが、キョリスですか?」
「そうにゃ。ワレワレうるさいのがキョリスにゃ」
「あんなに白い木が多くある所に住んでいるのですね」
「綺麗だったにゃろ?」
「それどころじゃなかったです!」
「ホントニャー!」
たしかに二人とも固まっておったもんな。変な事を言うと、今度は頭まで埋められそうだから自粛しよう。
「二人は前について来ようとしてたにゃ。来なくて正解だったにゃ?」
「はい。あんなに怖い生き物とは思っていませんでした」
「アイラーバより小さいのに、強さがビシビシ伝わって怖かったニャー」
「だから止めたんにゃ。特にキョリスは人間嫌いだから、怒らせると何をするかわらかないにゃ」
わしがキョリスの説明をしていると、メイバイはキョリスとの会話の内容を思い出したようだ。
「シラタマ殿はそのキョリスを、なんでお父さんって呼んでるニャ?」
「出会った時は、わしも名前が無かったし、キョリスの名前も知らなかったにゃ。区別する為に、お父さんと呼んでいたにゃ」
わしの説明にメイバイだけでなく、リータも安心したような顔になった。
「よかった~」
「にゃ?」
「小さいリス、コリスちゃん?と結婚するのかと思いましたよ」
「ああ。その話の流れはあったにゃ」
「え!?」
「結婚するニャ!?」
「お母さんが、まだ早いって言って、保留?になってるにゃ」
「許可が出たらどうするんですか!」
「う~ん……逃げるかにゃ?」
今度は怒りの表情に変わった二人だったが、わしの言葉で、すぐに笑顔に変わった。
「プッ……アハハハ」
「アハハ。シラタマ殿らしいニャー」
「ほい。魔力の補給終了にゃ。さあ、狩りに行くにゃ~」
「「にゃ~!」」
わしはもう、二人の掛け声は気にしない。探知魔法で大きな反応があった方向に向かおうと指示を出し、それ以降はリータの指示に従う。
リータは注意しながら歩き、メイバイも警戒を解かない。最後尾を歩くわしは……おやつをモグモグしながら歩く。
そうして草木を掻き分け、森の中をしばらく歩いていたら、リータとメイバイは獲物を発見する。
「シラタマさん。ヘビの動きが止まったら横に回って攻撃魔法。メイバイさんは頭を狙ってください」
「「了解にゃ~!」」
わし達は、長さが8メートルはある角の付いたヘビと遭遇し、戦闘に突入した。ヘビは正面からわし達に激突し、リータの盾で受け止められる。
リータのわしへの指示は不規則に動く、尻尾をなんとかしろって事かな? とりあえず【風玉】【風玉】【風玉】っと。お! メイバイがヘビの頭に飛び付いた。これで決まるか?
メイバイは指輪をヘビに向けて魔力を流し、ヘビの顔に【風の刃】を乱発してから跳び上がる。そして、ヘビの頭に着地したメイバイのナイフが頭に突き刺さる。
その痛みに、ヘビは悲鳴をあげて頭を振り回したので、メイバイが高く飛ばされてしまった。
「シラタマさん!」
「【突風】にゃ~」
メイバイはわしの風魔法でフワリと着地し、リータの指示で集合する。
「すまないニャ。浅かったニャー」
「いえ。私の指示が悪かったです」
「反省はあとでするにゃ。いまは次の行動にゃ」
「では、私とシラタマさんとで、土魔法で拘束しましょう。メイバイさんは、さっきの傷を広げてください」
「わしは尻尾をもらうにゃ」
「お願いします。行きましょう!」
「「にゃ~!」」
リータを先頭にわし達はヘビに突進する。リータの盾がヘビの頭と接触した瞬間、わしとメイバイは目配せをして左右に分かれる。
土魔法【ホッチキス】。一個。二個。三個。おまけに四個っと。ヘビの胴体を半分からちょっと上まで封じた。これでわしの仕事は終了。あとは高みの見物じゃな。しかし、メイバイが【風の刃】を多用しているのが気になる。
わしがホッチキスの針を模った土の塊を打ち込み、ヘビの拘束に成功する。それと同時に、リータも盾で守りながら魔法で土を操作して、ヘビの首元に巻き付け、押さえ付ける。
そこにメイバイが跳び乗り、魔力を込めて切っ先を伸ばしたナイフで何度も斬り付け、頭が半分ほど斬り裂かれたところで、ヘビは絶命した。
「ふぅ……」
「お疲れ様にゃ~」
「いえ……」
わしが二人を労うと、リータは浮かない顔をする。
「どうしたにゃ?」
「やっぱり、リーダーは向いてないかと思いまして……さっきもメイバイさんが怪我をするところでした」
「そうでもないにゃ。リータはよく周りが見えているし、作戦も瞬時に切り替えられたにゃ。それにメイバイは、あれぐらいの高さなら無事に着地できていたにゃ。にゃ?」
「そうニャー。リータは頑張ってるニャー。もっと自信を持つニャ!」
「シラタマさん……メイバイさん……」
「お腹も減ったし、お昼にするにゃ~」
「「はい(ニャ)」」
わしはリータの淀んだ空気を変えさせる為に、少し早いが昼食を提案する。大きなヘビは次元倉庫に入れて、テーブルセットと昼食を取り出し、明るい話題をしながら食事をとる。
「わしの作ったアクセサリーは、役に立っているかにゃ?」
「はい。肉体強化魔法、凄いですね。さっきのヘビの体当りも、全然重く感じませんでした。土魔法も今までより、ずっと使いやすくなりました」
補助的な役割を期待していたが、わしの思ったより効果があるのかな? リータのポコポコもパワーアップしていたし、危険な物を渡したかもしれん。
「私も肉体強化魔法の時間が延びて助かってるニャー。私の魔法より強くなるニャ。凄いニャ! それに風魔法、かっこいいニャー!」
メイバイのポコポコも、威力、スピード共に上がっておったもんな。スピードだけなら、おっかさんに匹敵しそうじゃ。
「メイバイさんは風魔法をすぐ使っちゃって、使え無くなってしまうから、注意したほうがいいと思います」
「前にも使え無くなったにゃ?」
「はい」
「魔法が使えて嬉しくって、つい、使ってしまったニャー」
「気持ちはわかるけど、リータの注意はもっともにゃ」
「はいニャ……」
「練習ならわしが付き合うにゃ。それにゃら撃ち放題にゃ。だから、外では節約するにゃ」
「はいニャ!」
仲間を見て、危ないところは注意する。やはり、リータはリーダーの資質があるな。メイバイのフォローは、わしがしたから大丈夫じゃろう。
「お昼も食べたし、そろそろ……」
「そうですね」
「行くニャー!」
「にゃ~~~?」
リータとメイバイが立ち上がるので、わしは疑問の声を出してしまった。
「え……どうしたのですか?」
「デザートにしようと思ったにゃ」
「「戦う前にも食べてた(ニャ!)でしょ!」」
「見てたにゃ~~~!?」
二人にツッコまれ、デザートはおあずけとなってしまい、ブツブツ呟きながら片付けをするわしであったとさ。
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