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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~
108 蟻駆除・クイーンとキングにゃ~
しおりを挟むうじゃうじゃうじゃうじゃ気持ち悪いわ! リータとメイバイに向かっている黒蟻もおるし、急がねばならん。ならんのじゃけど……気持ち悪い。
穴から出て来て整列する精鋭蟻を、わしが顔を歪めて見ていると、クイーンが念話で話し掛けて来る。
「どうした? 妾の精鋭達に恐れて、声も出ないか? そのまま仲間もろとも殺してやる。お前達、やっておしまい!」
くそ……いいように言いやがって。気持ち悪くて声が出そうじゃから、我慢しておるんじゃ! リータとメイバイを早く助けに行かないといけないし、覚悟を決めるか。
しかし、クイーンのセリフはどこかで聞いたことあるんじゃが……どこじゃったかな?
わしは気合を入れる為に、刀を地面に突き刺し、顔をパンパンと叩く。モフモフとしか鳴らなかったが気にしない。
新たに現れた精鋭蟻達は、わしを取り囲み、包囲を狭める。わしは先程と同じく【鎌鼬・円】を使おうとするが、精鋭蟻の動きがおかしいことに気付く。
「さっきまでと同じだと思ったか!」
クイーンは叫ぶが、わしは無視する。精鋭蟻達は跳び跳ねながらわしに迫っているからだ。
前列が一段目、二列目が跳んで二段目、三列目がさらに高く跳んで三段目。それを列ごとに順番に繰り返し、津波のような動きでわしに迫る。
わしは、その気持ち悪い動きに悲鳴をあげそうになるが、我慢して魔法を使う。
「【土槍・いっぱい】!」
蟻の気持ち悪さにかっこいい言霊が思い付かず、適当になってしまったが、それでも多く魔力を込めたので、絶大な威力となった。
地面から多くの太い【土槍】が生え、精鋭蟻を軽々貫き、運がいい槍には三匹の蟻が刺さり、約三分の二の精鋭蟻は串刺しとなった。
「おのれ~~~!」
クイーンは飛んで逃げたか。残念ながらキングにも避けられたみたいじゃな。じゃが、黒蟻は運が無かったのか、残り全部、串刺しになっておる。まだ動いておるわ……気持ち悪っ!
「これでもくらえ!」
クイーンは空から、液体の塊をわしに向けて吐き掛ける。わしは危険を感じ、液体に【風玉】をぶつける。すると液体は四散し、わしを除く周りに、雨のように降り注ぐ。
蟻が溶けてる? 酸か!? ギ酸ってやつか……白くてデカいだけあって、強烈じゃわい。吸ったら不味そうじゃな。
わしは煙りになっている酸を【突風】で、上空に吹き飛ばし、ついでにクイーンにそのままお返しする。クイーンは一瞬バランスを崩すが、酸は効いていないように見える。
う~ん。耐性でもあるのかな? おっと。
わしがクイーンに目をやっていたら、キングや精鋭蟻が攻撃して来た。【土槍・いっぱい】で密林と化した道を抜い、正確にわしに向かって来る。わしはキングの土魔法を避け、精鋭蟻の突進は避けると共に、二本の刀で斬り捨てていく。
蟻達のわしを捉える正確さ……。クイーンが上から指示しておるのかな? 先にクイーンを仕留めたいな。
わしは自分を中心に、瞬間的に【突風】を起こす。その強風で蟻達は吹き飛び、土の柱に打ち付けられるが、すぐさまわしに向かう。
数秒稼げれば十分。【土槍】発射!!
わしは蟻が串刺しになっていない【土槍】を、上空の女王に向けて、逃げ場の無いように広範囲に発射する。
クイーンは数多くの【土槍】にさらされ、避けようとするが、避けた先にも【土槍】が飛んで来たので、避け切れずに体を打ち付けられる。
滅多打ちとなったクイーンは、羽を貫かれ、浮力を失った体は地面に向かって墜落する。
「女王ぉぉぉ!!」
キングは墜落する女王を見て叫ぶ。
叫んでいる場合ではないぞ?
わしは密度の減った【土槍】の林を駆け、精鋭蟻を切り裂きながら、キングに辿り着く。
くらえ!!
わしは【白猫刀】に【鎌鼬】を纏い、頭から胴にかけて真っ直ぐに斬り裂いた。
「にょおう……」
その攻撃を喰らったキングは、声にならない声で女王を呼び、絶命した。
少しかわいそうじゃが、そろそろフィナーレじゃ! 【円柱】!!
わしは自分を土魔法で作った【円柱】の中に閉じ込め、さっき発射した【土槍】を反転させる。反転し、速度に重力が加わった【土槍】は、周囲に大きな音を立てて降り注ぐ。
わしは音が止むのを待って【円柱】を解除し、周りを見渡す。
……我ながらひどい惨状じゃ。元の世界で、敵国から受けた空襲を思い出させる。これ、わしがやったんじゃよな? う~。なんまんだぶつなんまんだぶつ。
「あ、あなた……」
わしが手を合わせ、念仏を唱えていると、幽かな念話が聞こえた。
わしは念話の聞こえた場所に走る。そこには、傷付いた体を引きずり、キングに近付くクイーンの姿があった。
あ~。やり辛い! 夫婦愛か……これも戦争を思い出す。くそ! わしはハンターで、これは仕事じゃ! こいつらはわしの縄張りを、森を荒らす敵じゃ! ここで情けを掛けるわけにはいかん!!
わしは、クイーンがキングに躙り寄る姿を、自分の正しさを言い聞かせながら見ることしか出来ない。
数分、数十分、数時間……
どれぐらい時間が経ったのかわからない、長いような数秒。ついにクイーンはキングの躯に辿り着く。
「ありがとう。待っていてくれたのね。これで心残り無く逝けるわ。トドメを刺してちょうだい」
わしは黙って【鎌鼬】を纏った刀を振るい、クイーンの命を刈り取った。そしてリータとメイバイの元に全力で走る。
クイーンの晴れやかな顔を忘れる為に……
はぁ……気分が悪い。これだから念話を使う生物は質が悪い。
それより、いまはリータとメイバイじゃ。角の三本ある黒蟻が向かってしまった。取り逃がした黒蟻では、わしの作った【お茶碗】じゃ、耐久力が足りないかもしれない。
リータは前に、黒いイナゴを一人で倒していたが、今度の黒蟻は倍以上も大きい上に、角も三本ある。黒イナゴより強さも倍以上あった。メイバイの実力は少しみたけど、厳しい戦いになっているはず……もっていてくれよ。
わしは大量の黒蟻の死骸を避けながら走り、リータとメイバイの戦闘を捉える。
いた! 二人とも外に出て来ておるのか? 【お茶碗】じゃ、もたなかったか……怪我はないか!?
わしはさらにスピードを上げる。しかし、戦闘の状況を把握し、走るのをやめる。
優勢に戦っておる……おお! メイバイが背中に飛び乗って背中を斬っておる。でも、ナイフじゃ、分厚い皮膚を斬ってもたいしたダメージにはならんか。
あ! 黒蟻がぶっ飛んだ……リータか。相変わらずの馬鹿力じゃな。怒らせないように気を付けよう。てか、黒蟻に乗ったメイバイはどこに行った?
お! 前転しながら飛び降りておったか。猫のように身軽じゃな。いや、猫か。わしの方がもっと猫じゃから、人のこと言えないけど……
この分なら、わしが加勢するのは無粋じゃな。二人の戦闘を拝ませてもらおう。
わしは土魔法で椅子を作り、腰掛けて二人の戦闘を見届ける。
ダメージを受けた黒蟻は怒り「ギーギー」と不快な声を出しながら、土の塊を乱発する。リータは盾に魔力を込め、後ろにいるメイバイを守る。
「突っ込みます!」
「了解ニャ!」
リータは盾を前に構え、黒蟻目掛けて走り、突撃する。それに続き、メイバイも走る。黒蟻は飛んで火に入る夏の虫とばかりに、大口を開けて迎え撃つ。
黒蟻が噛みつこうとしたその時、リータの後ろからメイバイが飛び出て黒蟻の片目を斬り裂き、頭に着地。黒蟻の頭を台にして高く飛び上がる。
黒蟻は突如視界を奪われ、驚きのあまり口を閉じてしまう。そこにリータの盾の突撃がぶつかる。黒蟻はよろめき、残った目でリータを捉えるが、降って来たメイバイの二本のナイフが頭に深々と突き刺さる。
黒蟻の頭に再び着地したメイバイは、ナイフを引き抜きながら、後方宙返りをしながら飛び降りる。
フラフラして、どこを見たらいいのかわからなくなった黒蟻は、動くメイバイに視線を向けるが、その隙にリータは黒蟻に潜り込み、力いっぱいアッパーカットをお見舞いする。
下から殴られた黒蟻は浮き上がり、背中から地面に倒れるのであった。
「「やった(ニャ)~!!」」
二人は倒れて動かなくなった黒蟻を見て喜び、両手でハイタッチをするが……
「【土槍】にゃ!」
突如、わしの放った【土槍】が黒蟻を貫く。
「え?」
「なに?」
黒蟻はリータとメイバイの攻撃で倒れたが、残念ながら絶命には至らなかった。
黒蟻から視線を外して喜んでいた二人に、黒蟻が襲い掛かろうとした瞬間、わしは【土槍】でトドメを刺したのだ。
「最後まで気を抜いちゃダメにゃ~」
「シラタマさん……」
「勝ったと思ったニャ……」
黒蟻が生きている事に気付かなかった二人は、さっきまでの喜びと打って変わり、しゅんとなる。
「でも、よくやったにゃ。二人ともかっこよかったにゃ~」
「「はい(ニャ)!」」
わしが褒めると二人の顔はパッと明るくなった。
「いつから見てたのですか?」
「ちょっと前にゃ」
「あの大軍を、私達が黒蟻と戦っている内に終わらすなんて……シラタマ殿は、ご先祖様の再来ニャー!」
「そんにゃことないにゃ~」
「でも、この辺一帯、凄い事になってますよ?」
わし達三人は周りを見渡す。そこには、地面から無数の槍が蟻を串刺しにし、降って来た槍で地面はひび割れ、真っ二つに切り裂かれた千を超える蟻の死骸があった。
「「ホント(ニャ)にゃ!!」」
「なんでシラタマさんまで……」
「やった本人が驚くって……」
そんな生温い目で見ないで! わしだって、自分のやらかした事が信じられないんじゃ!!
「ワオ-ーーン!!」
「なに?」
「狼の遠吠えニャ!」
「この声は……」
わし達が談笑していると、突然、狼の遠吠えが響き、狼の群れがわし達の元に走って来た。
「蟻の次は狼の群れですか……」
「黒は一匹だけニャ。やってやるニャー!」
「待つにゃ。わしの友達にゃ」
「友達? さっき言ってた狼ですか?」
「そうにゃ。ちょっと話して来るから休んでいるにゃ」
わしは次元倉庫からテーブルセットと紅茶セットを取り出してから、狼の群れに駆けて行く。狼はわしの姿を確認すると、止まってお座りし、黒く大きなボス狼が前に出る。
「久し振りじゃな。ここに何しに来たんじゃ?」
「ああ。うちの者が、お前がこの地に来たと言うから助太刀に来たんだが……いらなかったみたいだな」
「助太刀? なんでお前達が来るんじゃ?」
「俺達もこいつらには手を焼いていたからな。こいつらのせいで食べ物が減って困っていた。他の奴等もそうじゃないか?」
「他の奴等って? ……なんじゃこりゃ!?」
ボス狼が周りに目をやるので、わしも周りを見渡す。すると狼だけでなく、熊、猪、鹿、鳥等……肉食動物、雑食動物が蟻の巣を取り囲んでいた。
「なんでこんな事に……」
「みんなあいつらの被害者だろう。あれだけ派手にやっていれば気付かない奴はいないな。一応ひと吠えして止めてはいるが、いつまで持つか……」
つまりわしの助太刀に来てくれたのか……。こいつら……いい奴じゃな。
「早く手を打たないと、全部食われるぞ?」
は? 食われる?? ……いい奴じゃない! こいつらは、ハイエナじゃ!!
「待て! 待て~!! わしのじゃ~~~!!!」
ボス狼の言葉に、わしは慌てて周囲を走り、ヨダレを垂らす動物達に威嚇して回るのであったとさ。
「食ったら、殺すぞ~~~!!!」
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