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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~
106 蟻の巣を駆除するにゃ~
しおりを挟むわし達は狩りをするため、実家から離れた蟻の縄張りに足を踏み入れた。そして、猫ぐらい大きな茶色い蟻の集団に取り囲まれ、悲鳴をあげる事となった。
「なんでシラタマさんまで悲鳴をあげるんですか!」
「だって……あんにゃに多いと気持ち悪いにゃ~」
「シラタマ殿が連れて来たニャー!」
「みんにゃがいると安心するかにゃ~と思って……」
「き、来ます。来てますよ!」
「み、みんにゃ、覚悟を決めるにゃ~!」
「うわ~~~!!」
「ニャーーー!!」
わしは飛び上がり【鎌鼬】を連発する。リータは拳と盾を振り回し、蟻をぶちのめす。メイバイはナイフを振り回し、蟻を斬り殺す。連携も無く、ただひたすらに目の前の蟻を倒していくわし達であった。
そして、十分後……
「終わったにゃ~」
「多かったです~」
「いきなり疲れたニャー」
「「「はぁ……」」」
わし達は大量の蟻を倒すと、ため息混じりに、その場に座り込む。
「シラタマさんは、なんで蟻を狩ろうと思ったのですか?」
「歴史の教科書で見た女王蟻は白だったにゃ。高く売れるにゃ」
「あんなに怖がっていて、狩れるニャー?」
「そこは、みんにゃがフォローしてくれるかにゃと……」
わしが泣き言を言っていると、リータとメイバイは目を合わせて頷く。
「が、がんばります!」
「私に任せるニャー!」
「頼むにゃ~」
「それよりこの蟻はどうしますか?」
「三十匹はいるニャ」
「値段はわからにゃいけど、持って帰るにゃ。収納するから、終わったらお昼にするにゃ~」
わしは次元倉庫に蟻を全て入れ、昼食を取り出し、食べながら今後の話に移る。
「これだけ倒せば、あとは少ないのですか?」
「全然にゃ……たぶん一割にも満たないにゃ」
「一割!? なんでそんなこと知ってるニャー?」
「わしは一度、こいつらの巣に攻め込んだにゃ……」
わしはリータとメイバイに、蟻との戦闘の話をする。
あれはキョリスと出会う少し前。わしの縄張りに蟻がチラホラと入って来ていたので、何処から来ているのかを調べた。しかし蟻は広く分布し、森を荒らしていたので、なかなか巣が見つからなかった。
ついに巣を突き止め、縄張りに入ったところで蟻と接触。蟻自体は弱いが、今回と同じく三十匹を超える数に気持ち悪くなったが、辛くも勝利した。
そのまま巣に乗り込もうと向かったが、何匹か取り逃していたのか、巣の前には千を超える軍勢が隊列を組んで待ち構えていた。
ウジャウジャと蠢く蟻の集団を見たわしは、悲鳴をあげて、【鎌鼬】入りの【大竜巻】を撃ち込んでから逃げ帰ったのだった。
「千匹……ゴク……」
「それは気持ち悪いニャー」
「にゃ~? 見たくもなくなるにゃ~」
「それで森はどうなったのですか?」
「それ以来、わしの縄張りでは見てないかにゃ? 友達の黒い狼に、たまに縄張りを見てもらってるけど、どうなったか聞いてなかったにゃ」
「その黒い狼を狩って売ればいいニャ!」
「ひどいにゃ~! 友達は売れないにゃ~!!」
「ご、ごめんニャー」
まったく、なんて事を言いよる。冗談でも笑えない。ふつう、友達を売るって事は情報じゃ。今回は文字通りじゃな……ちょっと面白いかも?
「蟻が千匹もいるなんて、この人数でどうやって狩るのですか?」
「そうニャ。無理ニャー」
「あの時は、わしは弱かったにゃ。いまは強いから怖がらにゃければ、どうとでもなるにゃ。それに、二人もいるから心強いにゃ」
「シラタマさん……」
「シラタマ殿は私が守るニャー!」
「それじゃあ、作戦会議にゃ~」
「「はい(ニャ)」」
わし達は食事と作戦会議を終え、蟻達の巣に向かう。
今回は全ての蟻を倒していたので、巣の周りには隊列を組んだ蟻軍団の姿は無く、複数の穴から出入りする蟻の姿しかなかった。
わし達は巣の近くの草むらに隠れ、出撃のタイミングを計る。
「蟻があんなに……気持ち悪いです」
「ガサガサ気持ち悪いニャー」
「にゃ~?」
「穴も多くありますね。どの穴に女王蟻がいるのでしょう?」
「う~ん……おそらく全部繋がっているから、何処から入っても女王蟻に辿り着けるんじゃないかにゃ?」
「あの穴には、入りたくないニャー」
「わしもにゃ~」
「私もです」
「まぁ作戦通りやるにゃ。みんにゃ、頼んだにゃ~」
「「はい(ニャ)!」」
「行っくにゃ~!」
わし達は草むらから出て、近い穴に向けて走り出す。わしを先頭に【鎌鼬】を放ちながら道を作り、避けて襲ってくる蟻はリータが盾で弾き、殴り飛ばし、メイバイが殿で蟻の足を斬り刻み、機動力を落とす。
そうこうすると、ひとつ目の穴に辿り着いた。
「【火の玉】プラス【蓋】にゃ!」
「いっぱい出て来てます!」
「わかったにゃ! 次、行くにゃ~!」
「次はこっちを真っ直ぐニャー!」
わしは穴だけに集中し、蟻を見ないように地面を見ながら走り出す。リータに状況報告をしてもらい、メイバイに体を向けさせて、その方向に走る。次の穴にも、その次の穴にも【火の玉】を放り込み、土魔法で【蓋】をする。
「そろそろ囲まれて動けなくなりそうです!」
「固まるにゃ!」
「「はい(ニャ)!」」
「範囲魔法【鎌鼬・円】にゃ~!!」
わしは狼達との戦闘で、おっかさんの使った魔法を進化させた【鎌鼬・円】を使う。おっかさんは自分中心に【鎌鼬】を放っていたが、わしはそこに言霊をプラスして放った。
その結果、生じるエネルギーは絶大で、囲んでいた大量の蟻達は、全て腹と背に分かれる。
「すごい……」
「真っ二つニャー……」
「見とれてにゃいで、状況報告と次の穴にゃ~」
「はい! まだ出て来てます」
「次はこっちニャー!」
「行っくにゃ~!!」
それからも穴に【火の玉】を入れて【蓋】をする。大量に囲まれれば【鎌鼬・円】で、全てを斬り裂く。これを続けること三回目の【鎌鼬・円】で、リータとメイバイから違う報告を受ける。
「二匹飛んで避けました。色は黒!」
「白も出て来たニャー!」
「あぶり出し成功にゃ~」
そう。わしの作戦は、蟻を見ないようにリータとメイバイにナビゲートしてもらい、【火の玉】を入れて【蓋】をすれば、熱がこもって、熱さに耐えかねた女王蟻が、巣から出て来るといった寸法だ。
白い蟻が居るのだから、黒い蟻が二匹くらい居るのは想定の範囲内。完璧な作戦じゃ~。わ~はっはっはっは~。
「黒……もう四匹出て来ましたけど……」
「白も一匹追加ニャ……」
「にゃに~~~!!!」
残念な事に、蟻の戦力は、わしの想定を超えていた……
「黒い蟻、全部で六匹です!」
「あれはクイーンと……キングかニャ?」
「キング!? そんにゃの歴史の教科書に乗ってなかったにゃ。そんにゃの居るにゃ?」
「いま名前を付けたニャー」
「二人とも、そんな事言ってる場合じゃないですよ。ふつうの蟻も百匹以上残っています!」
「そうだニャ。今すぐ逃げるニャー!!」
たしかに、二人には厳しい数じゃな。気持ち悪いけど、覚悟を決めて一人で頑張るか。
「【お茶碗】にゃ」
わしは小さく呟き、土魔法でお茶碗をひっくり返したような防御壁を作る。
「なっ……」
「これはなんニャ?」
「あとはわしがやるから、この中に隠れているにゃ」
「ダメです! シラタマさんがいくら強いと言っても、ホワイト二匹は無理です。一緒に逃げましょう!」
「そうニャ! 黒い蟻も六匹も居るニャ。その上、百匹以上の蟻も居るニャ! 風魔法で、飛んで逃げればいいニャー!」
「あれくらい大丈夫にゃ」
「そんなわけないです!」
「ぜったい無理ニャー!!」
あれ? 気持ち悪いってだけで、余裕なんじゃが……信用されてない? まぁザコ以外全部、わしよりデカいから、見た目では勝てるわけがないか。
じゃが、引くわけにはいかん。二人の協力でここまで数を減らせたんじゃ。この程度の数なら……やっぱり気持ち悪い……じゃなく、我慢できる!
「大丈夫にゃ。中に入って信じて待ってるにゃ」
「ダメ……」
「シラタマ殿~」
わしは二人を【お茶碗】の中に押し込め、開いている穴を小さくする。人、一人通れるぐらいの穴だから、ザコはギリギリ通れるが、黒や白の蟻では通れない。頑丈に作ってあるから壊される事もない。……はずだ。
リータ達の安全を確保すると、わしは蟻達に歩を進めながら、次元倉庫から出した【黒猫刀】を左手に握り、右手で腰の【白猫刀】を抜く。そして【肉体強化】魔法を使い、歩みを速める。
そんなわしの背後からは、二人の悲痛な声が響く。
「シラタマさ~~~ん」
「シラタマ殿~~~」
うぅ……二人の声を聞くと、死地に赴く侍の気分じゃ。そんなに信用ないのかな?
蟻は黒が大きいので5メートル。小さいので2メートル。角は三本が一匹、二本が二匹、残り三匹が一本。5メートルで角三本は、黒イナゴのボスぐらいの強さじゃな。
白い蟻は、羽付きで尻が二つある奴が女王かな? もう一匹は、角二本あるけど羽が無い。キングなのかのう? どちらも8メートルぐらいか……。強さはおそらく、二匹合わせてキョリスの半分ってところかな?
これはキョリスとの修行時代以来に、本来の力を出せるな。気持ち悪いけど、楽しみになって来た。
フフ……強い奴を見て楽しむなんて、やっぱりわしも、おっかさんの血を引いておるんじゃのう。
さあ、やろうか!
わしはクイーン目掛けて、猫一直線に走る。
蟻達はザコ蟻が前列に隊列を組み、防御陣形を組んでいる。そこにわしは【大風玉】を三発撃ち込む。巨大な風の玉を受けた蟻達は、あっと言う間に陣形は崩れ、蟻たちは吹き飛んで行く。
だが、【大風玉】に耐えた黒蟻達が、わしに襲い掛かろうと取り囲む。
統率の取れた動きで、二匹同時に、三匹同時に噛み付こうとわしに迫り、遠距離から土魔法を放ち、さらには上から降って来たりと、多彩な攻撃でわしを翻弄する。
まぁうっとうしいけど、この程度でわしに当てようとするとは片腹痛し。カウンターで足を一本ずつ斬っておるから、スピードも落ちて来ておる。
ただ、角三本が土魔法ばかり使って、前に来ないから傷ひとつ付けられていないんじゃよなぁ。それにキングが指示を出してるのか?
ここは頭から攻めてみるかのう。
わしは【突風】を使い、飛び掛かって来た黒蟻を一気に吹き飛ばし、角三本蟻に牽制の【鎌鼬】を放つ。陣形が崩れると砂ぼこりにまぎれて、キングに向けて一直線に走り、跳び上がると、魔力を込めた二本の刀でバッテンに斬り付ける。
だが、一本の触覚を斬っただけで避けられてしまった。
残念……思ったより速いわ。おっと、【土壁】。
わしの着地前に、クイーンから【風の刃】が放たれた。わしは冷静に地面の土を盛り上げて、土の壁でガードする。着地すると、わしは壁に背を向け、後ろから襲い掛かろうとしていた黒蟻に【鎌鼬】を放つ。
まずは二匹……。残り、黒が四匹に白が二匹。どんどん行こう!
わしが二匹の黒蟻を倒すと。蟻達の動きが変わる、クイーンを司令塔に、キングが攻撃に加わり、わしを襲う。
一匹だけ速さが違うとやり辛いかも? しかも、さっきより攻撃が激しい。
外からクイーンの風魔法、中からキングの土魔法と体当たり、さらに残りの黒蟻の攻撃……あれ? 一匹どこ行った? 角三本蟻が見当たらない……
わしが見当たらない黒蟻を探すために、探索魔法を発動しようとしたその時、攻撃が止まり、クイーンが前に出て来た。
「よくも妾の兵隊達を殺してくれたな!」
念話!? だから喋り掛けて来るな! ただでさえ気持ち悪いのに、やり辛くて仕方がない。
わしがクイーンの念話に驚いていると、キングがクイーンの前に出る。
「女王、下がってください!」
「あなた……大丈夫よ。あなたがそばで守っていてくれるから、妾は安心して前に出れるの」
「女王……私が死んでもお守りします」
「だめよ! 妾ひとりを残して先に逝かないで。絶対死んではダメよ。協力して二人で殺しましょう」
「はい。二人で……」
わしはクイーンとキングの寸劇に、イラッとして魔法を使う。
「……【大土玉】」
ドーーー-ーン!!
「なにするのよ!!」
「ふ、不敬だぞ!!」
「チッ。外した……イチャイチャすんな!」
「「なんだと~!!」」
なんじゃ、この蟻夫婦は! 人(猫)前でよくもイチャイチャしてくれるな。虫の嫌いなわしからすると、ただただ気持ち悪いだけじゃ。喋られると殺す気が揺らぐが、今ならどんなに非道な殺し方でも出来そうじゃわい。
「お前は昔、報告にあった白い奴じゃないか?」
「はっ。我が軍に恐れをなして逃げ出した、臆病者かと」
うっ。気持ち悪くて逃げたから反論できん。
「越して来て、やっと軍隊が整った時だったわね。あの時も甚大な被害を出しておいて、また今回……妾に何か恨みがあるの!?」
特に恨みは……。あの時は気持ち悪くて、逃げる前に【鎌鼬】入りの【大竜巻】で斬り刻んだだけ。今日もこいつらを売るために来ただけじゃし……なんだかわしが極悪人みたいじゃのう。それらしい事を言っておくか。
「わしの縄張りを荒らしたじゃろ! 森の仲間もお前らのせいで困っている。それだけで十分じゃろ!」
「フッ……この森は妾の食料よ。黙って喰われなさい!」
おお! わしより悪党じゃ。これで気分も晴れやか。特定外来生物被害防止法を発動しま~す!
「何を笑っておる。いまに、お前の連れて来た仲間は、妾が配下に殺されるぞ」
「なに!?」
探索魔法オン! ……一匹、リータ達と接触している。くそ! いつの間にこんなに距離が離れておったんじゃ。それに、話で時間を稼がれた? 猫のわしが蟻にしてやられるとは……急がねば!
「焦っておるな……さらに絶望を見せてやる。精鋭、出て来い!」
女王の合図で1メートルを超える大きな茶色い蟻が、ワラワラと巣穴から出て来る。その数二百。精鋭蟻は巣から出ると隊列を組んでわしを睨むのであった。
その時のわしの心情はと言うと……
きも~~~い!!
もちろん心の中で、女子みたいに叫ぶのであった。
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