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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~

102 盾と矛を買うにゃ~

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「「「ドワーフ(にゃ)!?」」」

 わしがリータとメイバイを連れて武器屋に入ると、カウンターにドワーフが座っていた。

「違うわ!!」

 どうやら違ったみたいだ。

「俺はれっきとした人間だ! 少し背が低くて毛深いだけだ!!」
「髭を剃ったらいいニャー」
「ポリシーだ!!」
「髪を切ったらいいのではないですか?」
「切る時間が無いんだ!!」
「ハンマー持ってくれにゃ~」
「うるさい! お前達は何しに来たんだ!!」

 このドワーフ、わし達が入ってからずっと怒っておるな。まぁわしもタヌキって言われたら怒るから気持ちはわかる。

「盾を買いに来たにゃ」
「盾ならそこに並んでいる、勝手に見ろ」
「リータ、好きなのを選ぶにゃ」
「あ、はい」
「シラタマ殿。安くていいから、私も武器が欲しいニャー」
「メイバイは、にゃにを使うにゃ?」
「ナイフニャ」
「メイバイも好きなのを選ぶといいにゃ」
「ありがとニャー」

 わしは盾やナイフを手に持つ二人を眺める。すると、ドワーフが話し掛けて来た。

「お前が噂の猫か?」
「どんにゃ噂か知らにゃいけど、猫にゃらわししか居ないにゃ」
「ちげーねぇ。それにしても、あんな若い娘二人に、盾やナイフを買ってやるなんて、ずいぶん羽振りがいいんだな」
「ボチボチにゃ。ここはお勧めって聞いて来たけど、そんにゃに良い武器屋なのかにゃ?」
「ああ。俺の作る武器は全て一級品だ。黒魔鉱を扱わせたら、王都一と言っても過言では無い。そのせいで、値段も王都一だ。ワハハハ」

 なんですと? ティーサのお勧めは高級店ですと!? 好きな物を選べと言ってしまったじゃないですか!!

「あの~。割引にゃんかは無いかにゃ?」
「一切しておりません」

 なんでそこだけ敬語なんですか! わしも心の中では敬語じゃけど……仕方ない。パーティの底上げじゃ。経費じゃ。……持ち合わせ、足りるかな?
 それにしても黒魔鉱か……。並んでいる武器を見ると、わしの【黒猫刀】に色が似ている武器があるな。オンニが【白猫刀】を白魔鉱と言っておったし、ちょうどいいから聞いてみるか。メンテナンスを頼むのもいいかもしれん。

「王都一の職人に尋ねたい事があるにゃ」
「おう! なんでも言ってみろ」

 適当に言ったのに嬉しそうじゃな。

「白魔鉱は取り扱っていないのかにゃ?」
「白魔鉱か~。なかなか入荷しないんだ。年に一本作れたらいいところだな」
「ふ~ん。この剣を見て欲しいにゃ」

 わしは腰から【白猫刀】を鞘ごと外し、ドワーフに渡す。

「見た目は小さいのに、ずいぶん重い剣を使っているんだな。短いから短刀か? え……」

 ドワーフは【白猫刀】を鞘から抜くと、目を見開き、固まった。

「どうしたにゃ?」
「いや……これはどこで手に入れた? それに誰が作ったんだ!?」
「東の山奥で鉄を集めて、わしが作ったにゃ。それがどうしたにゃ?」
「これは白魔鉱で間違いない。しかし、重さがおかしい……」
「それは三倍に圧縮しているからにゃ」
「どうやったらそんな事が……」
「それは秘密にゃ」
「う、売ってくれ!!」

 食い付きがすごいな。軽い気持ちで見せただけなのに……失敗じゃったか? じゃが、わしはこの刀について何も知らない。聞く以外の選択肢がない。

「わしはハンターにゃ。メインウエポンを売るバカがどこにいるにゃ」
「それはそうだが、こんな物を見せられたら鍛治屋の血が騒ぐ」
「素人が作った物にゃ。そんにゃにすごい物なのかにゃ?」
「たしかに見たところ、切れ味は白魔鉱の本来の力を出し切れていないな。しかし、白魔鉱の量が異常だ。三倍と言ったか?」
「そうにゃ」
「白魔鉱の武器は黒魔鉱よりも丈夫で、魔力も多く込められる。その剣は通常の剣よりも短いが、それでも1.5倍から2倍の魔力を込められる。それだけで切れ味と価値は跳ね上がるぞ!」

 鍛治職人から見ても切れ味はやっぱり悪いのか。素人が見よう見まねで作ったんじゃから仕方ないな。じゃが、魔力を込めればいいのか。はからずも、わしにもってこいの武器になっておるのう。

「にゃるほど~。これも見て欲しいにゃ」

 興奮覚めやらぬドワーフに、わしは次元倉庫から【黒猫刀】を取り出して見せる。

「これは黒魔鉱か……これも三倍に圧縮しているのか?」
「そうにゃ」
「売ってくれ!」

 またかい……

「売らないにゃ。メンテナンスにゃら頼みたいにゃ」
「いいぞ! ………圧縮の秘密が解るかも」
「心の声が漏れているにゃ~」
「しまった~!!」

 馬鹿じゃ。鍛治馬鹿じゃ。本人は否定しておるけど、本当にドワーフなんじゃなかろうか? このままじゃあ、寝る間を惜しんで研究しそうじゃな。仕方ない。

「この剣の作り方を教えてもいいにゃ」
「本当か!?」
「その変わり、絶対に人に言ってはダメにゃ」
「それは当然だ! 誰にも言わないと約束する!!」

 わしはドワーフに作り方を教える。高温の火魔法で炙りながら鉄魔法で五十回折り曲げたこと。重力魔法で三倍に圧縮したこと。その結果……

「出来るか~~~!!!」

 でしょうね。早々に諦めよった。

「いや、この猫と協力して作れば最高の剣が。生涯最高の剣が。千年に一本の最高傑作が作れる! 協力してくれ~」

 諦めねえよ。やっぱりドワーフなんじゃね?

 千年に一本の剣ね~。武器作りのエキスパートのドワーフなら、そんな一本作ってみたいんじゃろうな。面白そうじゃから手伝ってやってもいいんじゃけど。

「手伝ってもいいけど有料にゃ」
「そりゃそうだ。ちゃんと給金は払う」
「いつ作るにゃ?」
「まだ白魔鉱が集まっていないから早くて来年……いや、二年は掛かるだろうな」
「気長に待つにゃ。わしはハンターをやっているから、指名依頼を出してくれにゃ」
「わかった。お前の名前は……あるのか?」
「あるにゃ! シラタマにゃ」
「すまない。俺はマウヌだ。これからヨロシクな」
「叩くにゃ~」

 マウヌは挨拶をすると馴れ馴れしく、わしの背中をバシバシ叩く。そうこうしていると、リータとメイバイがわしの元へ戻って来た。

「シラタマさん。決まりました」
「私も決まったニャー」

 う~ん。盾の良し悪しはわからんな。他の盾より一番大きいかな? リータなら軽々持てるじゃろうし、これでいいか。お値段は……お高いのう。
 メイバイはナイフを二本使うのか……これもまたお高い。じゃが、同じ形じゃないな。ナイフの二刀流の事はわからんが、使いづらくないんじゃろか?

「メイバイはその二本でいいのかにゃ?」
「出来れば形を揃えたいけど、いまは無いみたいニャ」
「猫耳の嬢ちゃんは二刀流か。それならとっておきのヤツがある。この店の最高品質だから、常連にしか見せないんだが特別だ。そっちの盾の嬢ちゃんにも良いのがあるぞ。ちょっと待ってろ」

 ドワーフめ……よけいな事を……お金、足りるじゃろうか?


 わしが次元倉庫から取り出した台帳を確認していると、マウヌは大きな盾と、ナイフが入った箱を抱えて戻って来た。

「二人とも、持ってみな」
「この盾はこんなに大きいのに、見た目と違って軽いんですね」
「ああ。軽くなる効果のある魔道具を黒魔鉱と合わせているからな。魔力を込めれば頑丈さは上がる。それに耐熱性にも優れている」

 魔道具まで使っておるのか……いくらなんじゃろう? 守りに徹するリータにはもってこいの機能だから買ってやりたい。

「このナイフも扱いやすそうニャ」
「それは二本とも黒魔鉱と風の魔道具を使っている。魔力を込めると切れ味は上がるし、イメージを加えると風をまとって切っ先が少し伸びる」

 うぅ。聞くだけで高そうじゃ。でも、面白い機能じゃな。前にエリザベスが爪先に【鎌鼬】を纏っていたのと似ておる。わしでも出来るかな?

「こうかニャ? あ、何か出たニャ。間合いを伸ばしたい時には便利ニャ」
「メイバイは魔法が使えるのかにゃ?」
「少しニャ。肉体を強化する魔法しか使えないニャ」
「それだとナイフの力を使いこなせるのかにゃ?」
「心配しなくても、少しの魔力がきっかけになって発動する。ただし、どちらも魔力を定期的に入れないといけないから注意しろ」

 さっちゃんの部屋にあった明かりと同じ仕様か……スイッチを押す感覚って事かな?

「いくらにゃ?」
「本当はこのぐらいだけど、おまけしてやる」

 高い……なんとか足りるけど、早々に仕事をしないといけないな。いや、次元倉庫の肥やしになっている物を売ってしまうか。ギルドで売ると怪しまれそうじゃが、背に腹はかえられん。

「ほいにゃ。ちょうどにゃ」
「さっき、剣も収納魔法から取り出していたな……なるほど。羽振りがいいはずだ。毎度あり~」
「また来るにゃ~」

 マウヌはわしの次元倉庫に驚く事もなく、大金を受け取る。わしはと言うと、冷静な振りをして武器屋を出るのであった。


 武器屋から出ると、リータとメイバイが各々に買ってあげた装備を持って、礼を言う。

「ありがとうございます」
「ありがとうニャー」
「でも、こんなに高価な物を買ってもらってよかったのですか?」
「パーティの底上げににゃるからいいにゃ」
「メイバイさんもパーティに入れるのですか……」
「そんなこと言わないでくれニャー」
「メイバイの行くところは、わしのところしかないにゃ。仲良くやるにゃ~」
「シラタマ殿~」

 わしが優しい言葉を掛けると、メイバイが飛び掛かって来た。

「抱きつくにゃ~」
「シラタマさんから離れてください!」
「独り占めはズルいニャ。シラタマ殿は私の愛を受け止めてくれたニャー!」
「それはシラタマさんが、あなた達の風習を知らなかったからですよ!」
「私のほうが、耳と尻尾があって、お似合いだと思うニャー」
「私とシラタマさんは、誰にも言えない秘密を共有してます~」
「シラタマ殿を離すニャ!」
「あなたこそ離してください!」

 またキャットファイトが始まってしまった……。二人でわしを引っ張るなんて、どちらも愛情が足りなくない? いや、わしが痛そうにしないからか。

「二人して引っ張るにゃ~。痛いにゃ~」
「シラタマ殿、いま助け出すニャー!」
「シラタマさん、待っていてください!」

 こう言う場合は、愛情が深い者が手を離すはずなんじゃが……二人とも力が強くなってしまった。メイバイは肉体強化魔法でリータの馬鹿力に対抗しておるのか?
 わしの力が二人を凌駕しているから痛くは無いんじゃが、周りの目が痛い。それにパーティとしては、このままではダメじゃな。

「二人とも、いますぐ手を離すにゃ!!」
「それは……」
「まだ……」
「離さないと怒るにゃ!」
「「……はい」」

 わしが語気を強くすると、二人は渋々手を離す。

「仲良くしろって言ったにゃ~」
「「だって……」」
「はぁ……少し二人だけで話し合うにゃ。このお金で孤児院でお昼でも食べるにゃ。わしはあとで合流するからにゃ」
「「あ、待って……」」


 わしは二人の制止を聞かずに飛んで逃げた。風魔法の【突風】で、自分自身を高々と打ち上げ、文字通り飛んで逃げたのであった。

 だって、面倒臭いんじゃもん。
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