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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~

092 笑い声

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「もうわかったから頭を上げるにゃ。それと、まだ少し残っているから隠れているにゃ」
「御使い様の、仰せのままに……」

 わしは黒イナゴを次元倉庫に入れて走り出す。村人に御使い様とあがめられ、いたたまれなくなり、脱猫(兎)のごとく逃げ出した。

 まったく……ハンターだと言っておるじゃろう。それを神の使いのごとく崇めやがって。恥ずかしくて顔から火が出たわい。それより、リータじゃ。
 ボスイナゴ達を倒したらすぐに向かう予定じゃったのに、御使い様と崇めるジジイのせいで出遅れてしまった。
 探知魔法オーン! リータのほうに向かったイナゴは二匹じゃったけど、一匹減ってる。リータが倒したのか? 小さいイナゴなら倒せるじゃろうけど、もう一匹は黒イナゴだったはず。
 リータにはちと荷が重い。ちゃんと守りに徹していてくれ。急ごう!


 わしはわらじを懐に入れて、スピードを上げる。スピードを上げたおかげで、すぐに黒イナゴを視界に捉えた。

 リータは防戦一方じゃが、しのいでくれている。すぐに行くからな!

 わしはさらにスピードを上げる。だが、その時……

「バカ~~~~~!!!」

 リータの大きな声が聞こえ、黒イナゴはわしに向かって飛んで来た。

 有難い。わしをターゲットにしたか。しかし、リータはなんで叫んでいたんじゃ?


 わしが急いで走っていると、黒イナゴはわしを通り過ぎ、進行方向の後ろに地響きを立てて落ちた。

 え?

 わしは急停止して、首だけ黒イナゴに向ける。

 動かない? どういうこと? リータが倒したのか?

 わしが混乱していると、走って来たリータが抱きついて来た。

「猫さん! うぅぅ……私……黒イナゴが……猫盾ちゃんが……お父さんが……婚約指輪……怖かった……でも……うわ~~~ん!」

 え~と。整理して話して欲しいんじゃけど……大泣きしていてるから無理か。
 察するに、怖かったけど、黒イナゴを頑張って倒したのかな? じゃが、婚約指輪ってなんじゃろう? それと猫盾ちゃんって、わしが作った盾かな? 名前なんて付いていたのか……新事実じゃ。
 しかし、2メートルはある黒イナゴを20メートル以上、拳でぶっ飛ばしたのか。リータの拳、恐るべし……怒らせたらわしに飛んで来ないか心配じゃ。とりあえず、頭でも撫でて声を掛けておくか。

「よ、よくやったにゃ……」
「猫さ~~~ん!」
「も、もう大丈夫にゃ。イナゴの群れは、リータが倒した黒いイナゴで最後にゃ。リータが村を救ったにゃ~」
「うわ~~~ん!」

 う~ん。話にならん……落ち着くまで待つしかないか。抱き締めが強くてちょっと苦しいんじゃけど、いまは言いづらいな。


 それから数分後……

「グズッ。猫さん……」
「落ち着いたかにゃ?」
「……はい」
「逃げ遅れた人は大丈夫だったかにゃ?」
「あ、はい。お父さんとお母さんだったんです! あっちにいます!」

 リータは思い出したのか、慌てて走り出す。わしも走ってリータのあとに続く。そしてリータは、今にも崩れ落ちそうな家の前で叫ぶ。

「お父さん! お母さん! もう大丈夫。助かったよ!!」

 リータの声にしばらくして、恐る恐る、家の中から父親が出て来た。

「リータ、本当か?」
「うん! 猫さんが助けてくれたんだよ」
「猫さん? 猫!! 助けてくれた??」

 まぁ普通の反応じゃ。怖がらせない様にキチンと挨拶しないとな。

「リータとパーティを組んでいるシラタマにゃ。村の危機は去ったから安心するにゃ」
「喋った! これは……御使い様?」
「違うにゃ。ただのハンターにゃ~」
「おい! お前達! 御使い様が村を救ってくださったぞ! もう出て来ても安全だ」

 リータの父親は家の中に戻り、大声でわしを御使い様と呼ぶ。

「猫さん。御使い様って何ですか?」
「聞かないでくれにゃ」
「??」
「わしは少し村の外を見て来るから、ここは任せるにゃ」
「それなら私も……」
「リータは家族を安心させてやるにゃ。それと、村の中央にある建物に避難している人がいるから、もう安全だと知らせて欲しいにゃ」
「……わかりました。任せてください!」

 わしはリータの倒した黒イナゴを次元倉庫に入れてから、村を囲ってある柵を飛び越えて外に出る。


「ふにゃ~~~」

 おっと、あくびが……完徹で、あれだけ動き回ったら、さすがにキツイ。歳かな? まだ二歳じゃった。すぐさま寝たいが……探知魔法オーン!
 動いてるイナゴも動物もおらんな。これでやっと休める。村の中では、御使い様と持てはやされて、ゆっくり出来そうも無い。逃げて正解じゃ。
 どこで寝ようかな? もしもの時のために離れるわけにもいかんし……村の入口でいいか。車で寝ておれば、何かあればリータが起こしてくれるじゃろう。


 わしは村の入口に移動すると、次元倉庫から車を取り出して中に入る。そして、ベッドにダイブ。ふかふかのベッドは、わしをすぐに眠りに誘う。








「…………」

 ん……笑い声?

「アハハハ」

 嬉しそうじゃな。

「キャハハハ」

 楽しそうじゃな。

「ハハハハ……」

 少し悲しそうじゃな。

 わしはかすかに聞こえる笑い声に、夢現ゆめうつつに耳を傾ける。

 なんでみんな笑っておるんじゃ? あぁ、そうか……リータの村が助かって嬉しいんじゃな。悲しそうな笑い声は、知人を亡くしたのかもしれない。もう少し早く来る事が出来ておればよかったな。少し悔やまれる。
 わしは神では無い。出来る事など少ない。目に映る人を助けるぐらいしか無理じゃ。それでも助けられなかった人には申し訳なく思う。願わくば、次の世は楽しく暮らせます様に……

 わしは再び、深い眠りに落ちるのであった……
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