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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~

087 リータの村に向かうにゃ~

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 キャットランドの説明を受けたさっちゃん達は、今度はリータと子供達が運んで来た料理に興味を奪われた。

「これはなに? 初めて見る食べ物だわ」
「ハンバーガーにゃ」
「どうやって食べるの?」
「行儀は悪いけど、このままかぶりつくにゃ」

 わしは、さっちゃん達に教えるようにかぶりつく。さっちゃん達もわしのマネをしてかぶりつく。

「んん~! 美味しい!!」
「本当に美味しいです」
「この柔らかい物は肉ですか?」
「ソースも美味しい」

 さっちゃんだけでなくソフィ、ドロテ、アイノも気に入ったみたいじゃのう。城の美味しい料理を食べ慣れた、さっちゃんが褒めてくれるなら名物になるかもしれん。

「これも美味しい!」
「それはフライドポテトにゃ。ジャガイモを油で揚げて、塩を振っただけにゃ」
「それだけですか……」
「ホクホクして美味しいです」
「私でも作れそう」

 ハンバーガーとポテトは切っても切り離せんからのう。甘い果汁ジュースを付けて、どこぞのセットメニュー丸パクリじゃわい。わしがパクったのではなく、エミリのお母さんのレシピじゃ。

「もうなくなっちゃった……」
「おかわりは無いのですか?」
「私もいいですか?」
「みんなが頼むなら私も……」
「いいけど、食べ過ぎたら太るにゃ」

 ピシッ

 ん? なにかガラスの割れた音が聞こえたような……

「太るの?」
「太るのですか?」
「本当ですか?」
「なんて物を食べさせるのよ!」

 キレイに平らげといて、いまさら何を焦っておるんじゃ? 年頃の女の子には禁句じゃったか。

「食べ過ぎたらにゃ。にゃんでもほどほどが一番にゃ」
「こんなに美味しい物を出されたら、食べたくなるよ~」

 わしに言われても……褒めるならエミリに言って欲しいもんじゃ。いきなり王女様に褒められたら、エミリの心臓に悪いかもしれんな。

「う~ん。じゃあ、これあげるから我慢するにゃ」

 わしは次元倉庫から、ある物を取り出し、この場にいるさっちゃん達とリータに手渡す。

「デザートに、これを食べるといいにゃ。口がすっきりするにゃ」

 わしの渡した物を、さっちゃん達はスプーンですくって食べる。

「冷たい! けど、美味しい!!」
「初めての食感です」
「これはオレンジですか?」
「誰が考えたの!?」

 試作段階じゃが、オレンジシャーベットも好評みたいじゃのう。これもエミリのお母さんのレシピにあった。もう暑くないけど、わしが食べたかったから作ってもらった物じゃ。
 残念ながら砂糖が高くつくし、氷代金がいくらになるかわからないから、子供がターゲットの売店では出せないじゃろうな。わしが魔法で氷を作れば少しは安く作れるじゃろうが、わし頼りで商売をやって欲しくない。

「レシピはトップシークレットにゃ」
「これは売ってるの?」
「砂糖が高いから売れないにゃ」
「「「「「そんな~」」」」」
「みんにゃ、そんなに悲しそうにゃ顔しないでくれにゃ。たまに持って行くにゃ~」

 なんでリータまでまざっておるんじゃ? リータはわしの味方じゃないのか? 飼い犬に手を噛まれた気分で悲しくなる。猫が犬を飼うのもおかしな話じゃが……

 わしが気落ちした表情で考え事をしていると、さっちゃんが尋ねて来る。

「シラタマちゃんまで、なんで悲しそうな顔になってるの?」
「それは……」

 リータに裏切られたと言うより、いい言葉が浮かんだ!

「みんにゃの期待に応えられないからにゃ」
「ゴメン! シラタマちゃんを困らせるつもりはなかったの。もう我が儘言わないから、そんな顔しないで!」

 相変わらずチョロイのう。でも、嘘をつくのは気が引ける……すぐに思った事を口にするのはやめておこう。

 こうしてさっちゃんと愉快な仲間達の襲撃は、のらりくらりとかわし、料理を堪能させて追い返す事に成功した。貸し切りの日には一緒に遊ぶと約束したから、問題は無いだろう。


 その夜……

 いつものように縁側で、わしは星空を見上げ、酒をチビチビとたしなんでいたら、リータが隣に腰掛ける。

「私もご一緒していいですか?」
「いいにゃ。でも、あんまり美味しくないにゃ」
「猫さんと一緒ならなんでも美味しいです」

 またそれか……最近リータは、必要以上にわしと一緒に居たがる。こんなにべったりしてくるのはなんでじゃろう? 聞けばいいだけの話か。

「リータ……最近、執拗にわしと一緒に居たがるのはどうしてにゃ?」
「それは……」
「にゃにか悩み事があるなら言ってくれにゃ。わし達はパーティ仲間にゃ。それとも、わしにも言えない事かにゃ?」
「いえ、そんな事では……ただ、つまらない話なので……」
「つまらにゃくてもいいにゃ。聞かせてくれにゃ」
「……わかりました」

 リータはわしにべったりな理由を、ポツリポツリと話し始める。

 事の始まりは、わしがリータをアイのパーティに入ってはどうかと言ったところだ。わしに捨てられると、かなりのショックを受けたみたいだ。
 その時は、わしが捨てるなんてしないと言ったから落ち着いていたけど、わしがリータの目を盗んで、こっそりキョリスの所へ行った時に悲しさが蘇ったらしい。

 なのでリータは、わしの行きそうな場所をしらみつぶしに探したそうだ。だが、なかなか見付からず、出会った人に、その都度「猫に捨てられたのか?」と言われ、何度も泣いたらしい。
 泣かせた人はリータに謝り、とっておきの男の口説き方を教えてくれたとのこと。
 だから現在、わしと離れ離れにならないように、実演中と言うわけだとさ。

 そして、わしは最後まで聞いて思う。

 これってわしのせい?

 前半はそうじゃろうけど、会う人、会う人に捨てられたなんて、なんで言われるんじゃ。そんなに悲痛な顔で探しておったのか? それとも、段ボールの箱に入っていたとか? 箱はわしのほうが似合いそうじゃな。
 それに、なんでみんな男の口説き方を教えるんじゃ? リータの実演から察するに、全員、押せ押せ! この世界の女性は引くことを知らんのか? 女王制じゃし、男は尻に敷かれているのかもしれん……
 聞いたところ、リータの心配事は、わしと離れるのが心配になっているだけじゃし、安心させてやれば解決するって事じゃな。

「そんにゃに心配しなくても大丈夫にゃ。ずっと一緒にいるにゃ」
「本当ですか? 言葉だけでは不安だから、形が欲しいです!」
「う~ん。にゃにかプレゼントする物でも考えておくにゃ」
「物じゃないです。これです……ん~」

 なんじゃ? 目をつぶって口を尖らしておる……接吻か? このタコみたいな顔に接吻しろと? その前に猫と接吻するのか……

「それは誰の入れ知恵にゃ?」
「ん~……スティナさんです。疲れてきました。早く……ん~」
「リータ……やめるにゃ。それには効果が無いにゃ」
「でも、スティナさんが……」
「考えて見るにゃ。スティナに男にゃんていないにゃ。これはことごとく失敗しているって事にゃ。あんにゃヤツ、一生、男が出来ないにゃ!」
「シラタマちゃん、お風呂借りに来たわよ~」

 こ、この声は……

 わしはギギギと首を回し、声の主に視線を向ける。

「ス、スティナさん!?」
「どうしたの?」

 よかった。聞かれていなかったみたいじゃ。

「どうぞどうぞにゃ。今から新しいお湯を入れさせてもらうにゃ~」
「今日はいやにサービスがいいのね。それじゃあ、お風呂でお酌でもしてもらおうかしら」
「にゃ? それはちょっと……」
「私と一緒に入るのは嫌だって言うの? 一生、男が出来ないかわいそうな私を慰めなさい!!」
「聞いてたにゃ~~~!」

 その後、スティナにわしの体をスポンジ代わりにして洗われたり、お酌をし、朝までやけ酒に付き合わされるのであった。




 うぅ、頭が痛い。今日は仕事に行く予定じゃったのに、完徹してしまった。休もうかな? いやいや、ただでさえ週三日しか働いておらんのじゃから、行かねば!

 わしが気合を入れる為に、頬をパンパンと……モフモフと叩いていたら、リータが居間に入って来た。

「おはようございます」
「おはようにゃ。リータはよく眠れたかにゃ?」
「はい。猫さんは大丈夫ですか?」

 スティナのやけ酒に付き合ったせいでボロボロじゃ……と、言いたいが、ここはグッと我慢じゃ。

「大丈夫にゃ」
「そうですか。ひとつ聞いていいですか?」
「なんにゃ?」
「スティナさんは、なんで裸なんですか?」
「知らないにゃ。本人に聞いて……いや、寝たら脱ぐ習性があるにゃ」

 危なかった。スティナに聞かれたら、有ること無いこと言われそうじゃ。わし、グッジョブ。

「たしかに、こないだも脱いでましたね。猫さんはそんな事はしません」

 今日のリータはそんなに心配しない? 昨日はスティナのせいで、うやむやになったけど、吹っ切れてくれたらよいが……

「それよりスティナをどうしようかにゃ?」
「起きるでしょうか?」
「やってみるにゃ。スティナ~。起きるにゃ~」
「ん、んん……男がなんだ~!」
「そんにゃこと言ってないにゃ~。このままだと仕事に遅刻するにゃ。ギルドマスターが遅刻していいのかにゃ?」
「仕事!?」
「起きたかにゃ?」
「今日は休みだから寝かせて~」
「ダメにゃこりゃ。仕方ないにゃ。スティナは置いて、わし達は仕事に行くにゃ」
「そうですね」

 わしはスティナを抱き抱え、客室に放り込んで寝かせる。そして書き置きと家の鍵を置いて、ハンターギルドに向かった。
 ギルドの扉を潜ると、出遅れたみたいで、ハンター達はまばらに残っているだけだった。

「ティーサ。おはようにゃ」
「おはようございます」
「ギルマスのスティナって、今日は休みかにゃ?」
「はい。休みになってます。ギルマスに何かご用ですか?」
「いや、本当に休みか聞いただけにゃ。いまはわしの家で寝ているにゃ」
「ギルマスが猫ちゃんの家で? ギルマスにもやっと春が……」
「そんにゃんじゃないにゃ! 朝までやけ酒に付き合わされたにゃ~」
「あ~。それは災難でしたね」

 一発で疑いが晴れた……。スティナの行動って、ティーサから見たら当たり前の行動なのか? まぁスティナの休みは本当の事じゃったし、早く仕事をして帰ろう。


 わしとリータは依頼ボードの前に立ち、仕事を探す。

「う~ん。いいのが無いにゃ~」
「あの……これを受けたいのですが……どうでしょうか?」
「にゃ?」

 リータが依頼を決めようとするなんて珍しい。どれどれ……緊急依頼? イナゴの大量発生? 馬車で五日? 依頼料も安い……
 却下したいところじゃが、リータが珍しく自分の意見を言っているし、なんでこれを選ぶのかを聞いてからじゃな。

「にゃんで、こんにゃ悪条件の依頼を受けるにゃ?」
「その……私の……」
「なんにゃ?」
「この依頼は私の家族がいる村なんです。猫さんは避ける依頼だとわかっています。でも、この依頼を受けさせてください!」
「それを早く言うにゃ! 行くにゃ~!」
「はい!」

 わしは依頼用紙をベリッと剥がし、ティーサのいるカウンターに持って行く。

「緊急依頼ですか……」
「わしが受けるのに、にゃにか問題があるのかにゃ?」
「依頼を受けるのは問題無いのですが……」
「ですにゃ?」
「この依頼は昨日から貼り出されていまして、言ってはなんですが、馬車で五日も掛かるので、行っても、その……」
「ハッキリ言うにゃ!」
「行っても村は壊滅的被害を受けているかと……」
「嘘……そんな……」

 リータは青い顔をして座り込む。そんなリータの代わりに、わしがティーサを問い詰める。

「にゃんで誰も助けないにゃ!」
「それは……依頼額もそうなんですが、イナゴの買い取りが安いからです」
「そんな事を聞いて無いにゃ! 国は! 領主はにゃにをしているにゃ!!」
「動物の狩りは基本ハンターの仕事です。ハンターが受けなければ、領主や国が動きます。予定では、明日に報告し、それから騎士が派遣されるはずです」

 それじゃあ、遅い! 遅過ぎる!!

「猫さん……」
「わかっているにゃ。この依頼、わしが受けるにゃ!」
「失敗扱いになりますよ?」
「いいにゃ! 早く手続きをするにゃ!!」
「は、はい!」

 わしの剣幕に押されて、ティーサは受付作業を始める。なので、わしはリータの腕を取って優しく語り掛ける。

「リータ、大丈夫にゃ。わしが絶対にゃんとかしてやるにゃ」
「猫さん……わ、私も頑張ります!」
「猫ちゃん、終わりました」
「ティーサ。怒ってすまにゃかったにゃ。行って来るにゃ~」


 わしとリータはハンター証を受け取ると、走って王都の門を出る。門を出ると、わしは土魔法である物を作り出す。

「猫さん! そんな物を作っていないで、早く車を出してください!」
「まぁ待つにゃ。これが出来たら、車より早く村に着けるにゃ」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし、ぶっつけ本番にゃから、怖い思いをするかも知れないにゃ。覚悟はしておくにゃ」
「大丈夫です! 早く着くならなんでも我慢できます」
「完成したにゃ。乗り込むにゃ~!」
「はい!」

 わしとリータは完成した乗り物に乗り込む。そして、わしは風魔法を使う。

「【突風】にゃ~~~!!」
「キャーーー!!」

 わしの作った乗り物とは……そう。飛行機だ。その飛行機を風魔法で強い上昇気流を起こし、浮上させる。

「さらに全速前進。【突風】にゃ~~~!!」
「キャーーー-ーー!!!!」


 リータの悲鳴と共に浮き上がった飛行機は、リータの悲鳴と共に、王都を凄い速さで離れ、リータの村に出発したのであった。
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