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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

078 猫争奪戦だにゃ~

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「猫ちゃんはなんで私を見るのよ! 私まで怒られたじゃない!」
「すまなかったにゃ。偶然目が合ったにゃ~」

 わしとアイノはさっちゃん、ローザ、ソフィ、ドロテ、リータに囲まれ、こっぴどく怒られた。皆、胸に関してコンプレックスがあるみたいだ。

 そんなに怒らなくても……さっちゃんとローザはまだ子供なんじゃから、気にする事もないと思うぞ。
 ソフィとドロテは大きくは無いけどきれいな形だと思う。一緒にお風呂に入った事はあるが、見ないようにしていたからわからないけど……ホンマホンマ。
 リータは……成長期だから大丈夫!! だからそんな目で見ないで!

 わしが皆のジト目から解放されると、ローザが最後の別れの挨拶をする。

「それでは皆様、お元気で。またお会いしましょう」
「手紙書くからね」
「遊びに行くから待っているにゃ」

 ローザはわし逹に別れを告げて、領地に向けて旅立った。わし達が手を振り、見送っていると、さっちゃんが口を開く。

「シラタマちゃん。それじゃあ、お城に行きましょう」
「にゃんでにゃ?」
「わたしにもシラタマちゃんエンブレム作ってよ~」

 さっちゃんは甘えた声を出し、わしの両肩を持ってゆさゆさと揺さぶる。

「わかったから揺らすにゃ~。でも、あれはリータが作ったにゃ。わしは仕上げをしただけにゃ」
「そうなの? じゃあ、リータも行くわよ!」
「え……私なんかがお城に行ってもいいのですか?」
「いいわよ。わたし達、もう友達でしょ?」
「ち、違います! 私は王女様の下僕です!」
「リータは言い過ぎにゃ~。さっちゃんに、そんにゃに気を使わなくてもいいにゃ」
「シラタマちゃんは、もう少し気を使ってくれてもいいよ?」

 わしとさっちゃんのやり取りを見たリータは、不思議そうな顔で質問する。

「王女様にそんな態度を取るなんて、猫さんはいったい何者なのですか?」
「ただの猫だにゃ~」
「「「「「絶対、ちが(う!)います!」」」」」

 全員で否定しなくとも……わかっておるわ!

 この日はさっちゃんに城まで連行されて、馬車に何個も猫又エンブレムを付けさせられたとさ。



 ローザの見送りから数日……。さっちゃんの遊び相手、リータとの仕事をして過ごし、ついに猫争奪戦の日が来てしまった。

『みんな~。準備はいいか~!』
「「「「「おおおお!」」」」」
『シラタマちゃんを仲間にしたいか~!』
「「「「「おおおお!」」」」」
『猫争奪戦、開幕だ~~~!』
「「「「「うおおおお~~~!」」」」」

 なんじゃこのノリ……スティナに至っては、目が金貨になってノリノリじゃ。あいつ、ギルマスじゃったよな?

 わしが場の雰囲気に呑まれていると、ハンター達に発破をかけていたスティナがやって来た。

「シラタマちゃんも、準備はいい?」
「よくないにゃ! 入場料の分け前を寄越すにゃ! くれないにゃら逃げるにゃ~!!」

 今回も、ギルドの宣伝効果か、娯楽が無いからか満員御礼じゃ。昇級試験じゃないから、逃げてもわしは一向にかまわん。

「うっ。そんな事をされたらギルドの信用が……わかったわよ。ケチ!」
「どっちがにゃ~!」

 ひとまず口約束だが、報酬をくれると言ってくれたので、信じる事にする。あの顔は怪しいが……

「それでルールはわかっているわね」
「戦闘不能か負けを認めるかにゃ。もしくは審判の判断にゃ。武器は刃の無い武器にゃ」
「大丈夫そうね。それじゃあ始めるわ」


 わしとスティナは訓練場の中央に移動する。すると観客席から大きな歓声が聞こえて来る。

「猫ちゃ~ん」
「負けたら承知しね~ぞ!」
「がんばって~」
「負けちまえ~」
「今日もかわいいわ~」
「頼む! 勝ってくれ~!」

 う~ん……男は賭け事に夢中で、女はわしのルックスに夢中なのか。こんな姿のどこがいいんじゃろ?


 わしが歓声に耳を傾けていると、わしの対戦相手のハンターがゾロゾロと現れる。

「第一試合、始め!!」

 スティナの合図で、二十人のハンターが一斉に攻撃体制を取る。わしは全員が武器を構える姿に驚いて、離れて行こうとしたスティナを呼び止める。

「にゃ!? 待つにゃ~!!」
「急にどうしたのよ?」
「これ、全員相手にするのかにゃ?」
「あら……言ってなかったかしら? シラタマちゃんは強いでしょ? それなのに一対一なんてしたら、誰にもチャンスが来ないじゃない。当然の処置よ」
「聞いてないにゃ~!」
「じゃあ、いま言ったから大丈夫ね。始め!」
「おい……にゃ~~~!」

 わしがスティナに意見をしようとすると、誰かの風魔法が飛んで来た。わしは咄嗟とっさに避けて事無きを得る。

 まだ話しておるのに……仕方ない。暴れるか!


 わしは走りながら、男にはネコパンチで殴り倒し、女には刃引きの刀を寸止めで対応する。
 ハンター達は、わしの素早い動きに翻弄され、捉えきれずに次々と脱落者が出て、数分後にはわしの勝利が告げられる。

「勝者。シラタマ!!」

 全員弱かったけど、FランクかEランクかな? しかし、一対二十ってどんな試合をさせるんじゃ。
 そう言えば、昇級試験でも高ランクをわしにぶつけてオッズをいじっていたな。スティナの奴……またわしを賭け事の対象にしてやがる。

 わしが退場して行くハンターを見送っていると、スティナが寄って来た。

「さっきのは、シラタマちゃんの実力を見せるための準備運動よ。次からが本番だから、私の為に頑張ってね」
「やっぱりにゃ! またわしに賭けてるにゃ~!」
「ソンナコトシナイワヨ」
「絶対してるにゃ! 分け前を要求するにゃ~!」
「ほら! 次よ! 次はDランクで三十人もいるから気をつけてね。始め!!」
「まだ話しは終わってない、にゃ~~~!」


 わしが文句を言っていると、スティナが強引に開始を宣言し、また魔法使いが風魔法で戦いの狼煙を上げる。
 今度は先程と違い、チームプレーが上手いパーティと、共闘してわしに攻撃を行う複数のパーティが出て来た。

 面倒くさい事してきよるのう。上から風魔法と弓。下から土魔法で崩しながらチマチマと剣士や槍士、ナイフ使いが前に出てきよる。まぁ面倒くさいってだけで、わしの敵じゃないけどな。

 わしは飛び込んで来た男には風魔法で吹き飛ばし、ついでに相手の魔法にぶつけてガードする。女にはさっきと同じように、寸止めと弱い【竜巻】で目を回し、戦闘不能とする。
 そうこうしていると数十分後には三十人いたハンターも、残り一人の男の剣士になり、わしに剣を振りかぶり迫ってくる。

「このタヌキが~!」
「誰がタヌキにゃ~!!」

 わしの怒りのネコパンチが男に炸裂し、観客席までぶっ飛ばしてしまった。

 あ……生きておるじゃろうか……

「勝者。シラタマ!」

 スティナの宣言で、わしと三十人のハンターとの勝負は終わりを告げる。

 最後の奴は生きておるかのう? よし、動いた。わしをタヌキと呼ぶから手加減をミスったんじゃ。わし、悪くない。


 観客席までぶっ飛んだ男の生死が確認され、ホッと胸を撫で下ろしていると、笑顔のスティナが近付いて来る。

「これだけハンデあるのに、シラタマちゃんは強いわね~」
「わかっていたにゃら、こんな事しなくてよかったにゃ」
「それはギルドの為だもん」
「だもんって、そんにゃ歳……」
「ああん!?」
「にゃんでもないにゃ」

 危ない危ない。スティナに歳の話は地雷じゃったな。美人でエロイ格好しとるから男を手玉にとってそうじゃが、この時代でも出来る女はモテないのかな?
 それとも性格か……いま、スティナの目が鋭くなった様な気がする! わしの心を勝手に読まないで欲しい。

「次で最後だけど、ちょっと相談に乗ってくれない?」
「嫌にゃ」
「聞くだけでいいのよ」
「嫌にゃ。胸を押し付けても断るにゃ~!」
「ケチね~。でも、これで確信が持てたわ」

 やっぱり、わしに八百長を持ち掛けようとしておったな。色仕掛けまでしよって、本当にギルマスなのか疑問に思うわい。まぁわしも人のこと言えないが……

「次の対戦相手はCランクハンター、十五人よ!」


 スティナの合図で、ゾロゾロと出て来るハンターの中に、見覚えのある者達が現れ、わしは目を見開いて見つめる。しばしわしが固まっていると、その者達は目の前まで歩み寄り、笑顔を見せる。

「ねこさん。久し振りです」
「久し振りね」
「マリー、アイ……」
「この前は助けてくれてありがとう」
「毛皮、良い値段で売れたわよ」
「あの肉、また食べたい」
「それにモリー、エレナ、ルウ……」
「覚えていてくれたのですね」

 もちろん覚えておる。わしが初めて会話した人間じゃ。あの時は、山で迷っている所で偶然出会ったんじゃったな。王都で会う約束をしていたが……やっと会えた。

「忘れてないにゃ。王都で会う約束も忘れてなかったにゃ~」
「それだよ」
「なかなか来てくれないから山の近くまで行ったのよ」
「山の近くの街で目撃したって噂があったからね」
「そしたら、王都に歩く猫が現れたって言うし」
「絶対、ねこさんだと思いました!」
「すぐ戻りたかったんだけど、依頼を受けていたから戻るのが遅くなっちゃったわ」

 わしの言葉に、アイ達は口々に応えてくれる。

「みんにゃも覚えていてくれたにゃ。うれしいにゃ~」
「忘れるわけがありませんよ」
「命の恩人だ」
「熊肉、美味しかったからね」
「収納魔法の使い手だもん」
「その容姿に、助けられた恩もあるもの」

 まぁわしの姿を見て忘れるわけがないか。妖怪猫又は、モンスターで買い取り価格も高いしな。二人ほど、恩よりも違う所で覚えていたみたいじゃけど……

「ねこさんに勝てたら、私達の仲間になってくれるのですよね?」
「勝てたらにゃ」
「私達も、この一年で強くなった」
「前みたいにはいかないわよ」
「わしも強くなったから、変わらないと思うにゃ~」

 わし達が再開を祝し、話し込んでいると、スティナが申し訳なさそうに間に入って来る。

「えっと~。久し振りの再開に水を指すのもなんだけど、そろそろ始めてもいいかしら?」
「あ、はい」
「いいにゃ」
「それでは第三試合……始め!」


 スティナの合図で、ハンター達はパーティーごとに別れ、わしを取り囲む。

 五人ずつのパーティ……女性はアイ達だけか。前衛が多いな。後衛はアイのパーティ以外。一人しかおらんけど、バランス的にどうなんじゃろ?
 まぁ人の心配より、いまをどうするかじゃな。どう戦えばかっこいいじゃろうか……


 わしはどうでもいい事を考え、考えがまとまると、次元倉庫から木刀を取り出す。刃引きの刀と木刀で二刀流だ。

 わしが次元倉庫から木刀を取り出し、だらりと構えると、前衛職が一斉にに襲い掛かる。わしは全ての近接攻撃を避け、いなし、受け止める。だが、受け止め、わずかに足の止まった瞬間を狙って、魔法や弓矢が飛んでくる。
 遠距離攻撃は風魔法でガードし、事無きを得るが、風魔法が切れた瞬間に、次は剣や槍が飛んでくる。

 さすがC級と言ったところか。なかなか休ませてくれん。ならば、こちらからも攻めるとするか。


 わしは土魔法で、先の丸い柱をハンターの真下から何本も生やす。男のハンターには直接、女のハンターには目の前に生やす。何人かのハンターに直撃したが、かわした人数の方が多い。
 それでも人数が減った事に変わりもなく、楽になったわしは、土の柱を縫うように移動し、次々とハンター達を斬り捨てていく。

 そうして、最後に残った五人のハンターに話し掛ける。

「もう降参するにゃ~」
「強い……」
「こんなに差があるの……」
「そんな……」

 もちろん、最後に残ったハンターはアイパーティ。わしの実力と降伏勧告に、モリー、ルウ、エレナは諦めの表情を見せる。だが、アイとマリーは別のようだ。

「まだよ!」
「そうです! ねこさんには弱点があります!」
「弱点?」
「ねこさんは、女性には攻撃を当てていません」
「たしかにそうね」
「それなら勝てるかも」
「勝てないにゃ~。当てようと思ったら当てられるにゃ~」
「それはどうかしら、ね!」

 アイはわしの言葉を信じず、剣を振るう。わしはさっと避けて距離を取る。

 あちゃ~。バレてしもうたか。死んだじい様か親父が口をすっぱくして、わしに女は殴るなと教え込まされたせいで、女は殴れないんじゃよなぁ。
 教えられていなかったとしても、殴るなんてわしには出来ん。さて、どうやって勝ちに持っていこうか。


 わしは勝ち方を考えながらアイ達の攻撃をさばいていく。考え中なので動きは極力小さくし、避けるのは魔法と弓矢だけにして、剣と槍は刃引きの刀と木刀で受け止める。
 アイ達の攻撃を受け止める度に、大きな金属音が辺りに響き渡る。

 【弱竜巻】で目を回してもらうか? さっき見せたから避けられそうじゃな。違う方法は……訓練場は空も見えるから、空を飛んでもらうか? 殴るよりひどい目に合わせてしまうか……
 あれ? エレナの弓矢は切れたのか。ナイフでかかって来た。

 わしはアイ達の攻撃手段、剣二本と槍、ナイフを二刀流で全て受け止めながら、時々飛んで来る風の刃をひょいっと避けて思考する。

 それとも埋めてしまうか? それなら痛くもないし、ギリギリ暴力に含まれないじゃろう。取り抑えるだけじゃ。
 うん! これでいこう。誰からいこうかな~?

 あ……あれ??

 わしが方針を決めて、攻撃に移ろうとしたが、目の前に立っている敵はいなかった。それは当然。アイ達は全員、息を切らして地に伏していたからだ。

「はぁはぁ……」
「もう動けない……」
「手に力が入らないわ」
「どんだけ体力あるのよ」
「私も、もう魔力が無いです」

 デジャヴじゃ……。出会った時とおんなじじゃ。

 初めて出会った時の再現。アイ達はわしに一太刀入れる事も無く、体力は底について動けなくなるのであった。
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