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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~
074 商業ギルドに行くにゃ~
しおりを挟む猿の討伐依頼を完了した次の日、家の庭で、リータの稽古をつける。と言っても、土魔法で作った盾を渡してサンドバックにするだけ。刃引きの刀で殴ったり魔法で攻撃し、それを受けさせる。
「隙有りにゃ」
「なんの!」
「お! よく止めたにゃ。次は魔法で攻撃するにゃ~」
「はい!」
わしは水魔法で野球ボール大の、柔らかい水の球を百個浮かし、次々とリータに向けて発射する。前からだけじゃ練習にならないので、角度を変えたり、隙を見てわしが飛び込んだりと稽古は続く。
「シラタマちゃん。遊ぼ~」
「猫ちゃん、来たよ~」
「ねこさ~ん」
「「「きゃ~~~!」」」
稽古に集中していたら、家の陰からさっちゃんとアイノ、ローザがいきなり現れた。派手に魔法を放っていたせいで、ちょうど顔を出した三人に水の球が直撃してしまった。
「シラタマちゃん! なにするのよ!!」
「ビショビショです」
「猫ちゃんは相変わらず凄い魔力量ね」
「すまないにゃ。稽古中だったにゃ」
「稽古?」
「この子に稽古をつけていたにゃ」
さっちゃんが首を傾げるので、わしの後ろに隠れていたリータを前に出して、自己紹介をさせる。
「リ、リータと申します。猫さんとはパーティを組んでもらっています」
「こないだの……もしかして、シラタマちゃんと一緒に住んでるの?」
「は、はい……」
「シラタマちゃん! わたし、聞いてないよ!」
「にゃんで言わないといけないにゃ~」
「あわわわ」
「クシュンッ」
わしとさっちゃんの口喧嘩が勃発し、リータが慌てていると、ローザがくしゃみをしたので優しく声を掛ける。
「ローザ。大丈夫にゃ?」
「はい。少し冷えただけです」
「風邪をひいたら大変にゃ。服はすぐ乾かすから、お風呂で温まっていくといいにゃ」
「この家にも驚かされましたが、お風呂まであるのですか」
「シラタマちゃんは、なんでローザには優しくするのよ!」
「さっちゃんも入ればいいにゃ」
「その言い方はなによ~!」
わしはさっちゃんと口喧嘩しながらも、皆をお風呂に案内する。リータは後から入ると主張したが、さっちゃんに無理矢理脱がされて目が潤んでいた。
わしは湯船とタンクに湯を満たし、その場を離れようとしたが、全員に捕まってしまった。
「逃がさないわよ!」
「服を乾かさないといけないにゃ~」
「ねこさんも一緒に入りましょう」
「猫ちゃんとお風呂なんて久し振り」
「猫さん……居てください……」
なんでじゃ? わしは男じゃぞ? まぁ子供の裸なんて見てもどうって事はないが……アイノは相変わらずデカイな。っと、さっちゃんの目が怖い。
リータの口から魂が出かかっておるし、仕方ない。付き合ってやるか。
わしは皆の服を吸収魔法で一気に乾かし、猫型に戻ってお風呂に入る。お風呂のシャワーはひとつしか無いので、わしの魔法でお湯を作り、全員にシャワーを浴びせてから湯船に浸かる。
皆で湯船に浸かると、さっちゃんとローザがキョロキョロとしながら話をしているので、わしもその会話にまざる。
「広いお風呂だから、みんなで入れるわね」
「わたしの屋敷のお風呂より広いです」
「そう言えば、さっちゃんとローザは面識があるのかにゃ?」
「うん。友達よね?」
「サンドリーヌ様に、そう言ってもらえると光栄です」
「ローザは硬いんだから」
「さっちゃんが柔らか過ぎるんにゃ」
「なによ~!」
「「アハハハハ」」
そこがさっちゃんのいいところじゃけどな。でも、ローザの方が振る舞いが王女様っぽく見えるのはわしだけか?
「それで二人は、にゃにしに来たにゃ?」
「わたしは遊びに来たのよ!」
「わたしは貸した土地がどうなったか確認しに来ました」
「さっちゃんの話は置いておいて……」
「むう……」
さっちゃんは少しむくれて尻尾をいじるが、わしはそのままローザとの話を続ける。
「にゃんとか家は完成したにゃ。ありがとうにゃ」
「いえ。わたしはなにも……」
「そんにゃ事ないにゃ。ローザのおかげで家の心配も無くなって仕事も順調にゃ」
「ハンターでしたか。危険な仕事ですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫にゃ。昨日も大きな黒い猿を納品したにゃ」
「それ、ねこさんだったのですか!」
「知っているのかにゃ?」
「屋敷に出入りしている商人が売り込みに来ていましたよ」
高級肉じゃから、貴族中心に売るのかな? ん? リータは……息しておるか?
「そうにゃ! ローザはいつまで王都に居るにゃ?」
「あと、一週間程ですね。もっとねこさんと一緒に居たいのですが、冬支度もありますから帰らないといけません」
「わしとにゃ?」
ローザが意味深な言い方を質問すると、さっちゃんが割り込んで来る。
「ローザ! わたしのシラタマちゃんを取っちゃダメ~!」
「サンドリーヌ様。ねこさんは、わたしを頼りにしているから一緒に居たがっているのですよ」
「そんなことないもん!」
「いえ。あります!」
なんだかバトルが勃発しておる。ここは空気になって逃げよう。こわばらこわばら……
わしは二人から離れ、アイノの側に寄って声を掛ける。
「アイノ。久し振りにゃ~」
「このモフモフ久し振り~」
「離すにゃ~」
「もうちょっと~。それにこうしておいた方が二人から隠れられるよ」
いや、絶対怒られるわ! しかし、この大きな胸に挟まれてしまっては抗えない。わしにもっと力があれば……どこからか、力は有り余っていると言われているような気がしないでもない。
「今日はソフィとドロテは居ないのかにゃ?」
「王女様は勉強に飽きたみたいで、非番の私のところに遊びに来たの。それでどうせなら、二人で猫ちゃんに会い行こうって事になったの」
「アイノ……それはさっちゃんの外出許可は取ってあるのかにゃ?」
「それは王女様が取ったって……」
「さっちゃんがにゃ~? アイノの部屋に逃げて来たのににゃ~? 取るのかにゃ~?」
「え……王女様!!」
わしのいやらしい言い方に、アイノは慌ててさっちゃんに声を掛けるが、そのせいでアイノのふくよかな胸に挟まっている姿を見られてしまった。
「あ~~~! またシラタマちゃんがアイノに挟まってる~!」
「「ねこさんのエッチ!」」
「これは……違うにゃ! ローザもリータもそんにゃ目で見るにゃ~」
わしが必死に言い訳をしていると、ガラっと風呂場の扉が開いた。
「「ごめんあそばせ」」
「お、お姉様!!」
そう。双子王女の登場だ。顔から察するに、さっちゃんが勉強から逃げた事に、ご立腹なのだろう。
「サティ。こんな所で何をしていますの?」
「えっと……」
「さあ、帰って勉強しますよ」
「シラタマちゃん! 助けて~」
「無理にゃ……」
「そんな~~~!」
だって、笑っている目が怖いんじゃもん。女房もあんな顔をしている時があった。顔は笑っているけど、絶対怒っておる。触れてはならんサインじゃ。
程なくしてさっちゃんは、双子王女と合流したソフィとドロテに連れ去られて行った。もちろんアイノも、ソフィにこっぴどく怒られて帰って行った。
そうして静かになったお風呂の中では、ローザがわしを抱き締める。
「ねこさん。やっと二人きりになれましたね」
「いや、リータが居るにゃ」
「え?」
「にゃ?」
さっきのドタバタでお風呂から出たのか? 湯船にはわしとローザの姿しかない。はて? あそこはブクブクと泡が出ているけど、そんな機能を付けた覚えはないんじゃが……
「リータ!」
泡の正体はリータ。どさくさに紛れて、溺れていたようだ。わしは慌てて湯船に沈んだリータを水魔法で引き上げる。
「大丈夫にゃ?」
「王女様が一人。王女様が二人。王女様が三人……」
いちおう数は合ってるな。けど、ダメじゃな……
「もしかして、緊張で気を失ったのでは?」
「そうかもしれないにゃ。わし達も上がるにゃ~」
「はい」
お風呂から上がり、リータをわしの部屋に寝かせ、居間でローザと話をする。
「口に合うかわからにゃいけど、粗茶をどうぞにゃ」
ローザはお風呂上がりで暑そうにしていたので、わしお手製麦茶に氷を入れて勧める。
これは麦が売っていたので作れないかと試行錯誤を重ね、市販の麦茶には劣るが、なんとか作り出した一品だ。
「変わった味ですね。でも、冷たくて美味しいです」
「口に合ってよかったにゃ。あ、そうにゃ。ローザは帰るって言ってたけど、家賃の支払いは何処にすればいいにゃ?」
「そうですね……ねこさんは商業ギルドをご存知ですか?」
「知らないにゃ」
「そこで支払いをしてもらおうと思っていたのですが……でしたら、これから一緒に行きましょうか? 契約もついでに交わしましょう」
う~ん……しっかりしておる。どっかの王女様と大違いじゃ。しかし、十歳の少女と土地の契約なんて出来るのか? やる気満々の目をしておるから聞きにくい。
「じゃあ、お願いするにゃ~」
わしは寝ているリータに、出掛けるのがわかるように書き置きを残し、ローザの屋敷に向かう。馬車も使わず一人で来ていたらしく、貴族がそんな事をして危なくないのかと聞くと、王都は安全だから大丈夫だと言われた。
歩いていると、ローザが手を繋いできたので断ることもないし、そのままローザの屋敷に入る。ただ、ローザのじい様の歯ぎしりが凄かった。少し……かなりうるさいじい様から契約書を受け取ると、商業ギルドへ向かう。
「うふふ」
「嬉しそうだにゃ~」
「王都の中を手を繋いで歩いていると、デートみたいですから、つい……」
デート? 猫を連れて歩いているからペットの散歩じゃなかろうか? いや、そんなこと言ったらわしの精神にダメージが入る。ここはデートにしておこう。
しばしペットの散歩……大通りを歩いていると、大きな建物が見え、ローザが指差す。
「あの建物が商業ギルドです」
あの大きな建物は商業ギルドじゃったのか。ハンターギルドと同じ通りにあるから見た事がある。人の出入りも多いし、わしを見て驚く人が多かったから避けておった。
わしとローザは驚く商人達を尻目に、商業ギルドに足を踏み入れる。すると、お決まりの猫コールが起こる。そんな声は、もちろん無視だ。
「カウンターは埋まってるにゃ。どうするにゃ?」
「え~と……たしか番号札を取って待っていれば、呼んでくれるはずです」
「貴族でも並ぶにゃ?」
「御祖父様なら顔パスでいけると思うのですが、わたしではちょっと……すみません」
「謝る事じゃないにゃ~。それじゃあ、番号札を取って来るにゃ」
「あなたが噂の猫。シラタマさんですか?」
わしが番号札を取ろうと移動すると、ロングヘアーの目付きの悪い美人さんに声を掛けられた。
「どんにゃ噂か知らにゃいけど、わし以外いないと思うにゃ」
猫が立って喋るなんて、この世界にはわししか居ないじゃろ。漫画の中ならいっぱい居るけどな。
「フフフ。たしかにそうですね」
笑われた! 何も面白いこと言ってないのに。存在そのものか……
わしが肩を落としていると、美人さんは鋭い目付きに戻り、会話を続ける。
「失礼しました。今日のご用件はなんでしょうか?」
「このローザと賃貸契約を結んで、支払いを商業ギルドに任せたいにゃ」
「なるほど……わかりました。では、別室に移動しましょう」
「そっちのカウンターでもいいにゃ」
「いえ、シラタマさんがカウンターにいられると迷惑……じゃなく、他の人に迷惑……ではなく、周りがうるさい……」
「もうはっきり言うにゃ~」
「いろいろ迷惑で邪魔なので、別室に行きましょう」
「はっきり言い過ぎにゃ!」
ギルド職員らしき女性は、わしのツッコミを見事にスルーして、わし達を奥の部屋に案内するのであった。
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