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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

072 猿と戦うにゃ~

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 わし達は、からんで来たインモパーティを一蹴して街道に戻る。リータはわしの腕に絡み付いていたが、歩きづらかったのかわしを背中から抱き上げ、ぬいぐるみを抱いているが如く歩く。

「馬鹿のせいで時間を喰ったにゃ」
「ここから目的の村まで、徒歩だと二日以上掛かってしまいそうですね」
「大丈夫にゃ。たぶん日帰りで行けるにゃ」
「え?」

 わしはリータに降ろしてもらい、次元倉庫から車を取り出す。

「これは猫さんのお家じゃないですか?」
「あの時は家として使っていたけど、本当の用途は別にゃ」
「そうなんですか?」
「こっちに乗るにゃ」

 わしはリータの手を引き、運転席に乗り込む。そして、ハンドルを握ると土魔法で車輪を回転させる。

「それじゃあ、レッツゴーにゃ~!」
「きゃ~~~!!」

 わしは一気に魔力を流し、速度を上げる。すると……

「速い! 速いです~~~! 速度を落としてくださ~~~い」

 わしとリータを乗せた車は目的地に向けて、物凄い速度でひた走る。リータは車の速度に驚き、悲鳴を上げて泣き言を言い出した。

「お願いします~」
「しょうがないにゃ~」

 わしはさっきまでの速度を四分の一まで落とす。

「これでどうかにゃ?」
「は、はい。なんとか……」

 さっちゃん達は喜んでおったのになぁ。インモ達のせいで遅れたから飛ばしたけど、いきなりのトップスピードはやり過ぎたかもしれん。と、言っても100キロぐらいじゃけどな。
 全開は何キロ出るかわからんが、こんな舗装されていない道を全開で走るのは、わしも怖い。わしが自分で走れば安全に速度を出せるが、リータもおるしのう。

「こんなに速い乗り物なんて初めてです」

 でしょうね。この世界では一番速い移動手段は馬じゃ。わしの車の方が速いに決まっておる。

「こんなに速いのに、揺れが少ないのが不思議です。馬車なんてお尻が痛くなるんですよ」

 うん。知ってる。だからサスペンション搭載なんじゃ。面倒じゃから説明はせんけどな。それにしても遅い……馬車よりは速いが、日帰りする予定じゃから早めに村に着きたい。

「もう少しスピード上げていいかにゃ?」
「うっ。少しですよ?」
「わかっているにゃ」


 わしはリータに気付かれないように徐々に魔力を込めて、スピードを上げていく。車の移動は順調で、獣や盗賊には会わず、時々出くわす馬車がいれば、馬を驚かさないようにノロノロと離れる。
 馬車と擦れ違う時はだいたい皆、大口を開けていたが気にしない。そして、王都から出て約二時間後に、目的の村が見えて来る。

「もう! 少しだけって言ったじゃないですか!」

 怒られた……最後の方は、調子に乗って120キロぐらい出ていたかもな。

「まあまあ。おかげでもう着いたにゃ」
「さっきまで王都にいたのに……信じられません」
「あそこが村の入口かにゃ?」

 村には建物が数十件見え、その周りを木の塀で囲ってあるだけだが、門らしき物が見える。わしはノロノロと車で進み、村の門に横付けする。


「なんだ!!」
「馬車なのか?」

 わしの車に驚いた見張りの男が大声をあげると、その声に気付いた村人が、何事かと近付いて来る。
 村人が集まって来る中、わし達はリータを先頭に車から降りる。

「お前は何者だ!?」
「えっと……」
「ハンターにゃ」

 男が質問をすると、リータは口籠るので、続いて車から降りたわしが質問に答えてあげた。そうすると、村人は「ギョッ」とした顔をしたのも束の間、大声で叫び出すのであった。

「ギャーーー!」
「猫が喋った~~~!」
「モンスターだ~~~!」

 パニックじゃ……村人が逃げ惑うておる。王都ではすでに街の中におったから、遠巻きに騒ぐぐらいじゃったが、ここではモンスターが襲って来たと思われたか。
 少し悲しい……でも、わしをモンスター扱いするんじゃったら、せめて門くらい閉めていかんか!

 わしがズーンと気落ちしていると、リータが話し掛けて来る。

「みなさん家に閉じこもってしまいましたね」
「そうだにゃ……」
「どうしましょうか?」
「依頼主の村長とは話しておきたいにゃ。あの石造りの建物に居るのかにゃ?」
「アレは避難所ですね。各村に必ずあるみたいです」
「にゃるほど。でも、避難所だけじゃ助けに来てもらえないにゃ~」
「中に通信魔道具があるので、ハンターを引退した魔法を使える人が緊急依頼を出してくれるから、数日我慢できれば大丈夫だと聞いています」

 数日か……もし、デカくて黒い獣が来たら持つんじゃろうか? 気休めにしか思えんのじゃが……まぁ今は人の心配より、わしの心配じゃな。避難所に逃げられる前に、村長を捕まえねば。

「あの建物じゃにゃいとすると、村長の家は何処かにゃ?」
「そうですね……たぶんアレじゃないですか?」

 リータの指差す方向を見ると、周りより少し立派な家があった。わしはそこに当たりを付けて移動する事にする。

「行ってみるにゃ。手、繋いでいいかにゃ?」
「はい。いつでもいいですよ」

 笑顔で答えてくれるのは嬉しいが、わしの意図と少し違うな。モンスター扱いされて悲しくて手を繋いでもらったんじゃなくて、家の隙間からコソコソ見ている者に、安全だと思わせるためじゃ。
 こんな女の子が手を繋いでいたら、少しは危険がないと思うじゃろう。

 しかし、寂れた村じゃな。外の畑も荒れておったし、ここも不作なのか……みんな食べ物はどうしておるんじゃろう? ちゃんと食べておるのか?
 王都では食べ物の価格が上がっていると聞いてはいたが、それほど危険には感じなかったんじゃけど……。ひょっとしたら村単位ではひどい事になっておるのかもしれん。おっと、また人の心配をしておるな。


 わし達は村の中を手を繋ぎ、堂々と歩く。狭い村なので村長の家らしき建物にはすぐに辿り着いた。そこで、扉をトントンと叩き、声を掛けてみる。

「ごめんくださいにゃ~」
「………」
「話を聞いてくれにゃ~」
「………」
「わし達はハンターにゃ。猿の駆除に来たにゃ~」
「ハンター?」
「そうにゃ。だからみんにゃに危害を加えないにゃ~」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 扉の向こうでは警戒してなかなか返事をしてくれなかったが、わしの説明には声が返って来た。そうして少し待っていると、家の中から大声が聞こえて来る。

 なんだかひどい言い合をしておるな。わしがモンスターだとか、食べられるだとか……本人が近くにいるんじゃから、聞こえないようにコソコソ喋ってくれんかのう。
 でも、わしに頼るぐらい困っているみたいじゃな。あ、終わった? 扉が開いた……

 扉が開くと同時におっさんが飛び出して、再び扉が固く閉ざされる。するとおっさんは、中に居るであろう奥さんに、扉を叩きながら喚き散らす。

「おい! 入れろ。お前、何するんだ!」
「死にたいなら、あんた一人で死んで!」
「頼む! 頼むから入れてくれ~」

 なんだか浮気がバレて追い出された夫みたいじゃのう。まぁ出て来てくれさえすれば、こっちのもんじゃ。

「取り込み中、すまないにゃ」
「ヒッ。猫が喋った!」
「これハンター証にゃ。リータも見せるにゃ」
「はい。どうぞ」
「これは……本当にハンターなのですか?」
「そうにゃ。猿はどこから来るにゃ?」
「あっちの森からです」
「じゃあ、行って来るにゃ。帰ったら村長に確認だけしてもらえるように言っておいてくれにゃ」

 わしはおびえるおっさんを、これ以上怖がらせないように、簡潔に会話を終わらせて立ち去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんにゃ?」
「まだ猫が喋っているのは信じられませんが、ハンターだとは信じます。私がこの村の村長です。それで……あの森に二人?で行かれるのですか?」
「そうにゃ」
「二人?しかいないなら、やめられた方がよろしいかと……」
「強いから大丈夫にゃけど、どうしてにゃ?」
「実は……」

 村長いわく、本当の依頼内容は、黒い猿率いる猿の群れの駆除。Bランク相当の依頼だが、作物の不作が原因で集めたお金が足りず、ハンターギルドには曖昧な依頼内容で、Cランクの依頼として出したとのこと。
 そこに来たハンターは二人(猫含む)で、この依頼を受けようとするから、このままではハンターが無駄死にしてしまう(猫含まない)と、止めに入ったみたいだ。

「ですから、私の方でこの依頼は取り下げます」

 リータの心配しかしておらんけど、この村長は人が良すぎじゃな。黙って受けてもらって、倒してくれたらラッキーでよかろうに。まぁ嫌いな人種ではないな。

「聞かなかった事にするにゃ」
「え?」
「Cランクの依頼を終わらせに行って来るにゃ。リータ、行くにゃ~!」
「はい!」


 わしとリータは踵を返し、村の入口に停めた車に乗り込む。そして森の近くまで走らせ、車から降りる。

「ここですね。緊張します」
「肩の力を抜くにゃ。わしが必ずリータを守るから、練習通りにやるにゃ」
「はい!」

 森に入る前に、探知オーン! おるわ、おるわ。猿が三十匹どころじゃないのう。軽く五十匹はおるな。大きい反応があるから、これが黒い猿かな?
 こいつに真っ直ぐ進んで、出会った猿を撃退して行くかのう。

「それじゃあ、作戦会議にゃ~」

 わしは簡単に、リータと打ち合わせをして森に入る。するとすぐに、1メートルほどの五匹の猿が現れるた。わしは猿を見つけると、次元倉庫からある物をふたつ取り出す。
 それは長さが60センチ、幅が30センチで少し厚みのある、土魔法で硬く作られた物。そこに丸い握りが付いている。ざっくり言うと、変型のトンファーだ。
 変型トンファーは、両手を目の前で合わせると盾にもなる優れ物。キョリスとの修業で盾を持って闘った時に、遊び心で作ってしまった一品。これでリータを守り、隙をつかせて攻撃をさせようと考えたわけだ。


「打ち合わせ通りに行くにゃ」
「はい!」
「【風玉】×2にゃ~」

 わしはリータを後ろに下がらせると、木の上に居た二匹の猿に【風玉】をぶつける。【風玉】を喰らった猿は吹き飛び、木の上から落ちて動かなくなる。
 残りの三匹の猿は怒ったのか「キーキー」と声をあげ、わし達に襲い掛かって来た。

 うるさいのう……じゃが思った通り、真っ直ぐ向かって来ておる。

 わしは向かって来る猿が間合いに入った順に、変型トンファーを叩き付けていく。

 一匹、二匹……最後はこうじゃ!

 わしは猿をトンファーで、下から|掬【すく】い上げて浮かせる。そうして、猿が落ちて着地するタイミングで、リータに合図を出す。

「いまにゃ!」
「え~い!」

 リータのパンチは猿の胸に突き刺さり、ドスッと鈍い音と共に吹き飛ぶ。吹き飛ばされた猿は、木にぶつかって地に落ちる事となった。

 おお! 凄い威力じゃな。猿の胸が陥没しておる。これなら黒い猿にも通用しそうじゃ。

「や、やりました。初めて一人で獲物を狩れました!」
「わしのお膳立てがあったからにゃ~」
「あ……。そうでした~……」
「そう落ち込むにゃ。これでリータは猿より強い事が証明されたにゃ。慣れたら、一人でも狩れるにゃ」
「は、はい! 頑張ります!」


 その後、わしとリータは猿狩りを続け、時々一匹だけ残し、リータと戦わせる。リータの攻撃は、なかなか猿を捕らえきれずに苦戦するが、一発でも入れば猿の動きは止まる。
 順調に狩りを進め、息の根の止まった猿は次元倉庫に次々と入れていく。そうして三十匹を入れたところで、黒い猿が大きな声を出し、残りの猿達を引き連れて姿を現す。

 そこそこデカイな。3メートルってところか? こいつがボスで間違いないじゃろう。じゃが、角は無し。尻尾も一本か。これじゃあ高く売れんのう。
 まぁ綺麗に殺せば、依頼料より高く売れるか。

「猫さん! 凄い数です。どうしますか?」
「リータは後ろから来た猿を任せるにゃ。あとはわしがやるから安心するにゃ」
「はい!」
「【風玉】×5にゃ~!」


 わしの風魔法を合図に、黒いボス猿率いる猿の群れとの戦闘が始まるのであった。
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