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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

070 また奴が来たにゃ~

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「勝者……シラタマ!」

 審判役のハンターが、声高々にわしの勝ち名乗りを上げる。すると、観客席から歓声と悲鳴があがる事となった。

 悲鳴を上げておるのはクイスマに賭けておったのか? スティナは小躍りしておるし……本当にギルマスなのか疑わしい……

 わしが疑惑の目を送っていると、スティナは気付いたのか、咳払いしながらわしの元へやって来た。

「シラタマちゃん。ありがとうね」
「分け前を要求するにゃ!」
「な、なんの事かな~?」
とぼけるにゃ!」
「私、わかんな~い」
「かわい子ぶっても無駄にゃ! そんにゃ歳じゃ……」
「ああん!?」
「にゃ、にゃんでもにゃいです……」

 おお、怖っ! 年齢は禁句じゃったか。スティナも女性じゃもんな。でも、ギルマスをやるぐらいじゃからけっこうな歳……寒気がしたから考えるのはよそう。

「シラタマちゃんのおかげでギルドも儲かったから、おごらせてもらうわよ。今夜は私のポケットマネーで、パーっといきましょう!」
「わしの取り分にゃ~! ムグ……」
「さあ、昇級の手続きをするわよ」

 わしはスティナから先払いで報酬を貰う。わしが胸に顔を埋められ、連行されて行くかたわらでは、観客達は興奮冷めやらず、今日の闘いを口々にしながら訓練場を後にする。


 受付カウンターにて、ティーサの作業を確認していたスティナは笑顔を見せる。

「はい! これで手続き終了ね。夜一の鐘(午後六時)に、ギルドに来てちょうだい。君はシラタマちゃんのパーティのリータだっけ?」
「は、はい!」
「シラタマちゃんのお祝いだから、リータも来てね」
「わかりました」
「それじゃあ、私は仕事に戻るわ~」

 そう言うと、スティナは手をヒラヒラとスキップで、自室に去って行った。

「え~と……私も行っていいのでしょうか?」
「いいにゃ。元々わしの取り分にゃ!」
「は、はあ」
「「シラタマ様!」」

 スティナを見送り、リータと話をしているとソフィとドロテが駆け寄って来た。

「昇級おめでとうございます」
「さすがシラタマ様です」
「ありがとうにゃ」
「「では、参りましょう」」
「にゃ!?」

 今度はソフィとドロテに両脇を抱え上げられ、わしは連行されて行く。

「リータ~! あとでここで待ち合わせにゃ~」
「猫さ~ん!!」

 リータの声が遠退き、さっちゃんの部屋まで降ろされる事なく、ノンストップでわしは連れ去られて来るのであった。


「もう! シラタマちゃんは、なんで会いに来てくれないのよ!」

 開口一番、さっちゃんに怒られた。

「忙しかったにゃ~」
「そんなこと言って、また新しい女の子を連れ込んで!」
「パーティ仲間にゃ~。言い方が悪いにゃ~」
「この浮気猫!」

 浮気猫って……さっちゃんと付き合っても結婚もしてないのに……

「そう言えば、ギルドマスターとも仲が良さそうでしたね」
「たしかに……胸に挟まれていましたね」
「シラタマちゃん!」
「違うにゃ~」

 スティナと仲良くない! ちょっと豊満な胸は気持ち良かったが……ちょっとだけじゃ。

 その後、わしは必死の言い訳……事実を説明し、さっちゃん達を落ち着かせ、この一週間の出来事を話し聞かせた。

「へ~。本当に忙しかったんだ」
「そうにゃ! これもそれも女王のせいにゃ!」
「でも、宿屋に泊まれないなら、うちに来ればよかったのに」
「女王に負けたみたいで嫌にゃ~」
「シラタマ様は変なところで強情ですよね」
「それで一週間で家を建てるなんて、信じられません」
「ホントに。あのマット、いい匂いだったね。あそこでゴロゴロすると気持ち良かったわ」
「さっちゃんは王女様だから、はしたないからそんにゃ事してちゃダメにゃ~」
「そうですよ」
「ソフィもドロテもしてたくせに~」
「ああ! それは……」

 グ~

「シラタマちゃん?」

 グググ~

「「「あ……」」」
「にゃはははは」
「「「アハハハハ」」」

 わしのお腹の音を合図に、皆のお腹も鳴り出し、お昼を頂く事となった。お昼を食べ、皆に撫で回されながら兄弟達とも会話をして、わしは解放される。


 その後、猫、猫と騒ぐ人々の声を聞きながら街を歩き、スティナと待ち合わせた時間通りにギルドに着く。

「猫さん! 大丈夫でしたか?」
「にゃにが?」
「騎士様に連れて行かれたじゃないですか!」
「王女様に会って来ただけにゃ」
「それが一大事ですよ! 粗相等しませんでしたか?」

 粗相って……生理現象ならちゃんとトイレでしておる! って、この場合は違う意味か。

「しないにゃ。したとしても、さっちゃんは優しいから許してくれるにゃ」
「さっちゃん?」
「王女様を、わしはそう呼んでいるにゃ」
「本当に友達なんですね……」
「だから大丈夫にゃ」
「お待たせ~」

 わしとリータが話をしていると、後ろからスティナが声を掛けて来た。

「そんにゃに待ってないにゃ」
「そこは今来たところって言ってよ。モテないわよ」
「モテなくて結構にゃ!」
「つれないわね~。まぁいいわ。今夜は寝かさないわよ~」

 美人でエロイお姉さんがそんなこと言うと、変に受け止められてしまうぞ? 現に周りでは……

「あの猫、ギルマスとデキているのか?」
「ギルマスが猫ちゃんに手を付けてる」
「馬鹿! 見るな!」
「私も猫ちゃん、お持ち帰りしたい」
「お前達、ギルマスだけはやめておけ」
「ベッドで抱いて眠りたい」

 ほれ。いろいろツッコミたい事になっておる。でも、男から見たスティナの評価が特に気になるな。


 昼同様、スティナに挟まれて連行され、スティナ行きつけの酒場に入る。この国ではお酒の年齢制限は特にないらしく、仕事をしていれば、止められる事はないみたいだ。
 スティナとリータ、わしで乾杯をし、小一時間後には完全にデキあがったスティナが面倒くさくなる。

「だから~。なんでこんなに美人でスタイルのいい私がモテないのよ~」
「にゃんでかにゃ~」
「シラタマちゃん、いい男紹介して!」
「今度にゃ」
「恋に落ちるって言うけど、何処に落ちてるの?」
「拾ったら、スティナに必ず届けるにゃ」
「ほら! コップが空よ!」
「お注ぎしますにゃ~」

 と、スティナは絡み酒で超面倒くさい。リータはと言うと、スティナに飲まされて……

「猫さん。こんな私を拾ってくれて、ありがとうございます!」
「気にするにゃ」
「えへへ~。モフモフしてます~」
「わしの長所にゃ」
「猫さんのところに嫁に行きます!」
「親御さんが賛成してくれたらにゃ」
「猫さん好きです~」
「わしも好きにゃ」

 やっぱり面倒くさい! わしも飲んで酔いたい!! けど、わしが酔っ払うと、こいつらを連れて帰れない。うぅ……わしの祝勝会じゃなかったのか!


 それから一時間後、リータは寝てしまい、その二時間後、スティナがやっと酔い潰れてくれた。店員がわしにお会計をどうするか聞いてくるので、スティナの財布から出してやった。
 ついでにあまりうまくなかったが、安いウィスキーを十本、スティナの財布から買ってやった。スティナの財布には、金貨がたんまり入っていたから問題無いだろう。これぐらい、わしの取り分にしても少な過ぎる。

 わしは酒場を出ると土魔法でリヤカーを作り、一人ずつ抱き抱え、積み込んで帰路に就く。スティナに家の場所を聞いても、何を言っているのかわからなかったので、仕方なく我が家にお持ち帰り。
 家に着くとリータをわしの部屋の布団に、スティナを客間のベッドに運び、寝かせる。服はリータだけ着替えをしてあげた。一緒にお風呂にも入っているからいまさらだ。さすがにスティナのエロイ体に触れる勇気は無かった。

 酔っ払いの処置が終わると、次元倉庫からウィスキーを一本取り出し、縁側に腰掛ける。そして、氷の入ったコップにトクトクとウィスキーを流し込む。

 はぁ……疲れた。この世界に生まれて、今までで一番長い一日じゃったな。
 王都に来て、さっちゃんや女王。ソフィ、ドロテ、アイノと出会い、兵士にも受け入れられた。
 城を出るとローザに助けられ、スティナ、ティーサ、リータと出会い、少しずつじゃが王都に住む人々にも、こんな得体の知れない猫のわしを、受け入れてくれておる。
 人間が猫又に生まれ変わった時はどうしていいか……死にたいとすら思ったわい。でも、優しく強いおっかさんと、兄弟達がいてくれたから、そんな気分も吹き飛ばしてくれた。
 猫又として生まれ変わっても人間と同じく、出会いが大切なんじゃな。


 わしはこれまで生きた時間を振り返り、独り、酒を喉に通す。星を眺め、夜も更けた頃に、頭の中に声が聞こえて来た。


――鉄之丈さん――

 ん?

――鉄之丈さん――

 頭の中で声が……

――鉄之丈さん。アマテラスです~――

 ア・マ・テ・ラ・ス……で、出た~~~!

――人を幽霊みたいに言わないでくださいよ!――

 いや、人じゃないし、幽霊みたいなもんじゃろ?

――あ……たしかにそうですね。アハハハ――

 はぁ……急にどうしたんじゃ?

――あ、そうそう! 鉄之丈さんの活躍を、奥さんと楽しく見させてもらいましたよ――

 はあ!? もう一度言ってみろ!

――あ、そうそう! 鉄之丈さんの活躍を、奥さんと楽しく見させてもらいましたよ――

 一字一句間違わないで言わなくていいわ! てか、なんでわしの女房が、アマテラスと一緒に見ておるんじゃ?

――だって、友達になったんですもん、ね~?――

 ね~?って、まさか……

――あなた……げ、元気に……アハハハハ――

 笑い過ぎじゃ!

――だ、だって……アハハハハ――

――鉄之丈さんの奥様も、元気にしていますよ――

 声を聞けばわかるわい!

――し、白玉……アハハハハ――

 お前の気持ちはわかる……わしだって笑い転げたいわ。

――あ~。面白い。まったく、あなたは何してるのよ――

 何してるって……必死に生きているだけじゃ。

――見ず知らずの子を助けるなんて、死んでも変わらないわね――

 お前の笑いっぷりもな。

――それと、スケベなところもね――

 う、うるさいわ!

――でも、元気そうで何よりよ――

 お前も元気にしてるか?

――元気だけど、まだ赤ちゃんよ。いまの楽しみは、アマちゃんとあなたの活躍を見る事ね……プププ――

 アマちゃんって……神様とどんだけ仲良くなっておるんじゃ。

――親友よね~――
――ね~~~――

 ね~って……それで、何の用じゃ?

――たまたま二人で鉄之丈さんの活躍を見ていたから、連絡しただけです――

 それだけか?

――はい――
――それだけよ――

 はぁ……

――それでは、あいつに見つかると厄介ですから、私達は失礼しますね。これから大変な事が起きますが、頑張ってください――
――あなた。またね――

 ちょ、ちょっと待て! おい! アマテラス!! ……切れたか。

 アマテラスの奴、最後に未来を断言して行きやがった……大変な事ってなんじゃ~~~!!


 その夜、わしはモヤモヤした気分を打ち消す為に、ウィスキーをしこたま飲んで酔い潰れて眠るのであった。
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