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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

069 試験官と闘うにゃ〜

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 スティナとチケット代の取り分でモメていたら試験は進み、わしの順番が来た。わしの相手は、リータの前パーティメンバーのインモ。わしがモタモタしているせいで、ご立腹のようだ。

「早く準備しろ!」
「わかった、わかったにゃ~。この剣を使っていいのかにゃ?」

 わしは腰に差した、名刀【白猫刀】をポンポンと叩く。

「馬鹿か……模擬刀を使え!」
「シラタマちゃん、そこにある剣を使っていいわよ」

 スティナの指差す方向を見ると、数本の剣や槍が、木の箱に入っている。わしはそこに近付き、つかを握る。

 柄が太くて上手く持てん。これは刃を潰した剣かな? それなら……

「手が小さいから、どれも持てないにゃ。自分の使っていいかにゃ?」
「刃が無ければいいけど……どこに持ってるの?」
「ここにゃ」

 わしは右手をだらりと垂らし、着流しの袖の中で次元倉庫を開き、手の中に刃引きの刀を滑り落とす。

「収納魔法?」
「そんな感じにゃ」
「シラタマちゃん。それだけでCランクハンターになれるわよ……」
「そうにゃの? じゃあ、昇級試験は合格にゃ~」
「ふざけるな!」
「それはギルドマスターとして許せないわ!」

 わしのナイスアイデアに、二人が待ったを掛ける。

「え~! 試験の上限はCランクまでにゃ。やる必要ないにゃ~」
「この満員の観客を見て! シラタマちゃんが一回も闘わなかったら暴動が起きるわ! 収納魔法は見なかった事にするからね!!」
「横暴にゃ~」
「その剣でいい! かかって来い!!」
「ほら、インモも、ああ言っているわよ。試験開始~~~!」


 スティナが大声で試験の開始を宣言する。大きく沸く観客の声に、わしは引く事も出来なくなり、インモと対峙する。

「これだけの人数の前で、お前をボコボコにしたら、さぞかし気持ち良いだろうな~」
「わしがボコボコにゃ? にゃんでそうなるにゃ?」
「俺に恥をかかせたからだ! 覚悟しろ!」

 インモがこないだ言ってた、わしに恥をかかすってのはこの事か? はぁ……アホらし。さっさと終わらせよう。

「じゃあ、行くにゃ~」

 わしは右手に持った刃引きの刀をだらりと構え、足に力を入れる。その時……

「猫さん。頑張れ~~~!」

 リータの声が耳に飛び込んで来た。わしはその声を聞き、作戦を変更する。刀を肩に担ぎ、インモの正面を見据え、ゆっくりと歩く。

「馬鹿が!」

 インモは無防備に近付くわしの頭目掛けて、剣を振り下ろす。わしはギリギリを見極めて、左に避けて懐に入ると、鳩尾みぞおちにネコパンチ(掌底)を喰らわせる。

「なんだそれは! 効きもしねえ。その剣も飾りか!」

 ありゃ? 手加減し過ぎたか。リータの戦闘の見本じゃから、簡単に倒れてもらうと困るから抑えたが、もう少し強くいくか。刀も邪魔じゃし、仕舞っておこう。

「テメー……なめやがって! 死ね!!」


 わしが次元倉庫に刀を仕舞うとインモは激怒し、わしに斬り掛かる。わしはその剣を簡単に避けて、また鳩尾にネコパンチを打ち込む。

「グフッ」

 効いたな。力はこんなもんか。

「効かねえって、言ってるだろ!」

 インモはわし目掛けて何度も剣を振るう。縦、横、斜め、わしは全ての剣をかい潜り、その都度、ネコパンチを鳩尾に減り込ませる。
 そうしてネコパンチが十発を超えると、インモの足が止まる。

「クソ猫が……」

 もう少しリータに闘い方を見せたかったが限界か? インモの顔色が悪くなっておる。そろそろ、わしからも攻めるとするか。

 わしはインモに駆け寄り、鳩尾にネコパンチを放つ。しかし、インモは腕でガードする。

「馬鹿が! 何度も喰らうか!」
「馬鹿はお前にゃ」

 わしはネコパンチを止めて軽く飛び上がり、インモの顔に、往復ネコパンチを手加減して喰らわせる。

「くっ。テメー!!」

 おうおう。怒っておるわ。しかし十発もネコパンチを喰らっておったのに、いまさらガードして勝ち誇った顔をするって……インモの頭はどうなっておんじゃ?

 インモは怒りに任せて剣筋も関係なく、剣を振り回す。わしはそんな剣を喰らうわけもなく、お返しのネコパンチを何度も鳩尾に打ち込む。

「死ねーーー!」

 インモの渾身の剣を最後に、今までより力を込めたネコパンチを鳩尾に減り込ませる。するとインモは、前のめりに地面に沈むのであった。

「それまで! 勝者……シラタマ!!」


 審判役のハンターが、わしの勝利を宣言すると、観客席がワッと騒ぎ始める。

「あの猫、剣も持たずにDランクハンターを倒したぞ」
「あんなに柔らかそうな肉球なのに……」
「くそ! インモに賭けたのにスッちまった」
「肉球触りたい……」
「あの猫の次の相手は誰だ?」
「ねこちゃん、かわいい~」
「たしか元Bランクハンターの騎士だ」
「私のペットになって~」
「じゃあ騎士に賭けた方が堅そうだな」
「猫さ~ん」
「「シラタマ様~」」

 うん。うるさい。何を言ってるかほとんど聞き取れないけど、ペットにしたいって奴がいた!

 わしが観客の声に聞き耳を立てていると、スティナが近付いて声を掛ける。

「シラタマちゃん。おめでとう。でも、なんで剣を使わないのよ? 冷や冷やしたでしょ」
「にゃんでスティナが冷や冷やするにゃ?」
「そ、それは……」
「……わしに賭けたにゃ?」
「なんの事かしらん。ほら、次の試合見て! あの男の子、有望な新人なのよ~」
「話を逸らすにゃ~!」
「いけ~! あんたに賭けたんだから、負けたら承知しないわよ~!」

 このギルマス……ギャンブラーじゃ。目の色が変わっておる。気が合いそうと思ったのは間違いじゃったな。


 昇級試験を受けたハンターは、一次を二人がクリアーし、二次で全て敗退。わしの試験を残してEランクに昇級した者は、三人と決まったようだ。

「シラタマちゃん。次は元Bランクのハンターよ。剣を使ってね? 絶対、手を抜いちゃダメよ!」

 スティナはわしの両肩を掴み、ゆさゆさと揺らす。

「揺らすにゃ~。いったいいくら賭けたんにゃ~」
「ギ、ギルマスの私が、そんな事するわけがないじゃない……」

 嘘つけ~! さっき大声であんたに賭けたと言っておっじゃろう。新人ハンターが負けて肩を落としていたし、相当賭けておるんじゃなかろうか?
 てか、そろそろ揺するのはやめてくれんかのう。胸の開いた服を着ておるから、ボヨンボヨンと目の毒じゃ。

「もう離すにゃ~。それにしても、にゃんで次の相手はBランクなんにゃ? Cランクじゃにゃいの?」
「強い方がシラタマちゃんが勝つ確率が下がるでしょ? きっと大穴になるわよ!」

 つまり、オッズを下げて大儲けしようと言う腹か……スティナは本当にギルマスなのか?

「はぁ……もう適当にやってくるにゃ」
「何よその気の抜けた言い方! 気合入れなさい! 絶対勝つのよ~!!」

 勝てと言うが、相手は元Bランクなんだから、それなりの力を見せたら勝たなくても、Cランクに上がれるんじゃないのか? まぁ応援してくれる人もいるから、負ける気はさらさら無いけどな。


 わしは次元倉庫から刃引きの刀を右手に握り、中央に立つ男に近付く。

「お主がシラタマ殿か?」
「そうにゃが……にゃにかにゃ?」
「私は《騎士》クイスマだ。強いと聞いているが、本当なのか?」
「強いにゃ。見た目に騙されない方がいいにゃ」
「そうか。魔法も使えるのだろう? どれぐらい使えるか見てやろう。なんならまぜて闘ってもいいぞ。《騎士》の私には通じないだろうがな」

 妙に騎士を強く発音しておったけど、ハンターから騎士になれて嬉しいんじゃろうか? それに礼儀正しいんだか偉そうなんだか、よくわからん奴じゃのう。
 魔法を見せろ……か。

「【火の玉】×5にゃ~」

 わしは野球ボール大の【火の玉】を五個、周りを漂わせる。わしの妖しい姿を見て、観客席からはざわめきが聞こえる。

「これでいいかにゃ?」
「お、おう……」
「それじゃあ、行くにゃ~」
「待て! 魔法は消せ」
「にゃ? まぜて闘っていいんにゃろ?」
「魔法は見たから、次は剣だ」
「せっかくかっこよく出したにゃ。このままやるにゃ~」
「剣だ!!」

 なんじゃ。久し振りにちゃんとした戦闘が出来ると思ったのに……いちおう試験官じゃし、言う事を聞くしかないか。

 わしは【火の玉】を吸収魔法で消すと、刃引きの刀をだらりと構える。

「いざ参る!」

 わしに先手くれんのか!


 クイスマの両手剣がわしに襲い掛かると、わしはインモの時と同じように見切り、左に避ける。
 その直後、わしはカウンターで刀を振るおうとするが、クイスマがさせてくれない。
 クイスマの両手剣が縦から横に変化し、わしを斬り付けるので攻撃を止め、無駄に後方宙返りで剣をかわす。

 すると、わしの着地と同時に観客席が沸き上がるのであった。

「なかなかやるな」
「そっちこそにゃ」

 さすが元Bランクと言ったところか。剣が鋭い。でも、前にさっちゃんの事件で闘ったダービドよりは弱い。ソフィと比べて、やや上ってところかな?

「次はわしから行かせて……」
「行くぞ!」

 またお前かい! 次はわしの番じゃろうに……先手必勝のタイプなのか? 力はわかったけど、どうするか……もう少し遊んでやるかな?


 わしはクイスマの猛攻を避けながら、タイミングを計る。

「ハハッ。避けるしか出来んのか!」
「そんにゃ遅い攻撃、当たらないにゃ~」
「なんだと! これならどうだ!」

 クイスマが何か呟くと攻撃速度が上がる。

 【肉体強化】か……ソフィも使っておったし、騎士になるには必須なのかな?


 速度の上がったクイスマの剣は、ソフィの真っ直ぐな剣とは違い、ハンターらしい、型にとらわれない剣筋で、時に蹴り、時に拳をまぜてわしを襲う。

 タイミングは取れたが、面倒臭い剣を使う奴じゃな。隙が出来たと思ったら、変な体勢でもお構い無しに剣を振って来るし、手も足も飛んで来る。
 かっこよく全て避けて終わらそうと思ったが、仕方ない。まぁスピードを上げて斬ればすぐに済むんじゃけど……見えないと言われたら元も子も無いからのう。

「喰らえ!」

 クイスマは両手剣を乱暴に横に振るう。わしは後ろに避けるが、クイスマの回転は止まらず、一回転して剣が飛んで来る。

 ここ!

 わしはしゃがんで避けると、通り過ぎた剣に、すぐさま下から刀を振るう。
 クイスマの剣は、わしの刀の衝撃で更に加速し、剣に振り回され、宙に浮き、斜めに回転しながら地面に転がる。

「グアッ!」

 わしは転がったクイスマを追い、仰向けに倒れている顔に目掛けて、刀を振り下ろす。

「ヒッ!」

 クイスマは小さく悲鳴を上げ、目をつぶったところで、刀をピタリと止めた。

「勝負有りにゃ! ……かにゃ?」
「参った……」

 クイスマのギブアップを聞いて、審判役のハンターがわしの勝ち名乗り……

「よっしゃー! 大穴……キターーー!!」


 わしの勝ち名乗りの前に、スティナの勝利の雄叫びが上がるのであった。
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