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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

065 仕立屋に行くにゃ~

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 リータの女の子騒動も落ち着き、ティーサはわしの渡した報告書の処理をする。

「それでは報告書の狼五匹で、猫ちゃんのランクアップでEランクになります。おめでとうございます」
「もうにゃ?」
「はい。Fランクで、一人で狼を五匹も狩れれば十分なポイントが加算されますからね。それにブラックの毛皮も。二日でEランクなんて驚異的な早さですよ」
「へ~。でも、昇級試験を受けるから、あまり関係ないにゃ」
「そうでしたね。試験には私も応援に行きますね」
「見ても面白くないにゃ~」
「そんな事ないですよ。みんな興味津々ですよ」
「そんにゃのいらないにゃ~。あ、そうにゃ。ティーサに聞きたい事があるにゃ」
「ペットは飼ってません」
「そんにゃの聞いてないにゃ!」

 いま、迷い無く答えよったな……わしをペットにしたいのか?

「リータの服を買いたいにゃ。どこかいい店、知らないかにゃ?」
「う~ん。それなら今から行きますか? リータちゃんにはご迷惑を掛けたので、案内しますよ」
「いいのですか?」
「もう休憩だから時間はありますからね」
「それじゃあ、頼むにゃ~」

 ティーサは奥の部屋に入ると鞄を持って出て来る。

「では、行きましょう」


 ギルドを出ると、また騒ぎが起こるが、わしは気にせず歩き出す。

「猫ちゃん。そっちじゃありません。こっちです」

 わしはティーサに手を握られ反対方向に引っ張られて移動する。

「ティーサ。そろそろ離してくれにゃいかにゃ?」
「え~! リータちゃんはよくて私はダメなんですか?」

 うっ……痛いところを突いてきよる。リータも歩き出したら手を繋いできたからな。両手に花と喜びたいところじゃが、背の低さから、どうしても捕まった宇宙人の写真を思い出してしまう。

「ほら……みんにゃに見られているにゃ~」
「それは猫ちゃんが人気があるからですよ」
「どこがにゃ! みんにゃ奇異な目で見てるにゃ」
「そんな事ないですよ。女性ハンターや女性職員はみんなペットにしたがっていますよ。リータちゃんがうらやましい」
「私は……違います!」

 ティーサよ。なんちゅう事を言うんじゃ。わしはリータのペットでも、みんなのペットでもない!

「ペットじゃないにゃ! 異議申し立てるにゃ~!」
「あ、着きました」

 ティーサはわしの異議を却下するように話しを逸らす。着いた仕立屋は看板は出ているものの、ショーウインドーのような物は無く、普通の家のたたずまいだ。

 ティーサは扉を開けて中に入るので、わしとリータもそれに続く。

「いらっしゃいませ……猫!!」

 二十代半ばだと思われる女性が挨拶をし、わしの姿を見て驚く。

「ぬいぐるみ? 誰か入ってるの?」
「猫だにゃ~。誰も入ってないにゃ~」
「喋った!!」

 そのやり取りはもう飽きたわ! 付き合っているわしもわしか……

「フレヤさん。噂の猫ちゃんですよ」
「これが噂の……」

 どんな噂なんじゃろう? 気になるが、聞いたら精神にダメージを受けそうじゃし、やめておこう。

「わしはシラタマにゃ。よろしくにゃ~」
「私は店主のフレヤよ。猫君はあの子と同じ服を着ているけど、付き合っているの?」
「付き合ってないにゃ~! リータもモジモジしてないで否定するにゃ!!」
「あ……ち、違います……」

 どう見たら猫と人が付き合う事になるんじゃ。ペアルックじゃけど……リータもすぐに否定して欲しいわい。

「そうなんだ。インスピレーションが湧きそうだったのに。残念……」

 どんなインスピレーションじゃ! と、ツッコミたいが、フレヤに合わせていると時間が掛かりそうじゃ。さっさと話を進めよう。

「このリータの服が欲しいにゃ」
「リータちゃんのね。この服も似合っているけど……ナニ、この触り心地!」
「早くして欲しいにゃ~」
「わかったわよ。こんなにかわいい子なら、私の服ならなんでも似合いそうね。来て!」
「あ、ちょっと……」

 興味がいかがわしい方向から服とリータに移った。あれは職業病じゃな。触りまくられておる。しかし、いろんな服を当てて時間が掛かりそうじゃ。

「お勧めの服は無いのかにゃ?」
「そうね……リータちゃんなら、これなんかどうかしら?」

 ワンピースか……似合うじゃろうけど、欲しいのとは違う。

「リータはハンターにゃ。もっと動きやすくて丈夫な服を選んでくれにゃ」
「え~! かわいい服の方が似合うわよ」
「それにゃら要望に添う、かわいい服を選ぶにゃ。一流にゃらそれぐらい出来るにゃ?」
「そ、そうね。一流の私ならそれぐらい出来るわよ」

 お、おう。適当に挑発したら乗ってきた。これなら早く終わるかな?

 フレヤが集中してリータの服を選ぶ中、ティーサがわしの頭を撫でながら声を掛ける。

「猫ちゃんはフレヤさんの扱いが上手いですね」
「そんにゃ事ないにゃ」
「ううん。フレヤさんは気に入った子の服を選ぶ時は。すごく時間が掛かるんですよ」

 でしょうね。女房や娘もそんな感じじゃった。ティーサはそろそろわしを撫でるのをやめようか?

「これはかわいいけど素材が……こっちは素材がいいけどリータちゃんには似合わないか……あ、これがいいかも!」

 決まったかな? 発破を掛けた甲斐もあって、早く決まったのう。

「あっちに試着室があるから着替えて来て」
「は、はい」


 リータは服を持って試着室に入る。フレヤはそれを見送ると、わしに話し掛けてくる。

「ねえ。猫君の服は何の素材で出来ているの?」
「わしもよくわからないにゃ。大きな青虫みたいな虫から糸を貰ったにゃ」
「大蚕かしら? 虫から貰うってのも気になるけど……こんな良い品質の生地、見た事がないわ」

 かいこじゃったの? そう言えば遠い昔、見た事あるかも。何十年も昔じゃったから忘れておった。いや、何百匹もの蚕がウジャウジャしているのを見て、嫌いになったから記憶から消したのかもしれん。

「その生地、売ってくれない?」
「全部使ったから無いにゃ。残っているのは端切れぐらいにゃ」
「そっか。でも、そんな生地で私も服を作ってみたかったな」

 残念にしておるが、無い物は無い。そうじゃ! 服を作るプロなら染める事が出来るかも?

「ちょっと頼めるかにゃ?」
「なに?」
「この服を色染めしたいにゃ。出来るかにゃ?」
「う~ん……これは……難しいかも。やってみないとわからないわね」
「それじゃあ、端切れを渡しておくから実験してくれるかにゃ?」
「いいの!? 新しい素材なら大歓迎よ」
「代金は、いま、あまり持ち合わせが無いから出世払いでお願いしにゃす」
「そんなの私の勉強になるからいいわよ」
「それはダメにゃ。わしの気が済まないにゃ~」
「じゃあ、体を測らせて? それでどう?」
「体をにゃ? そんにゃのでいいのかにゃ?」
「隅々まで測らせてくれたらね」
「それにゃらお安い御用にゃ」

 わしはフレヤのメジャーに身を任せ、体を測ってもらう。わしも自分の体型が気になるし、また服を作る時の参考になるから、紙に写してもらった。
 この時は、このやり取りを軽く見ていて、後日、後悔する事になるとは夢にも思っていなかった。


 そうこうしていると試着の終わったリータが姿を現す。

「猫さん。どうですか?」

 リータの服装は上半身は白いシャツに皮のベスト。藍色の麻のズボンにハイカットの革靴とシンプルに着こなしているな。ズボンは短い気もするが……似合ってるから良しとするか。
 ウエスタンハットを被れば、西部劇に出て来そうじゃ。この国の服装からすれば最先端かもしれんな。

「うん。似合っているにゃ」
「リータちゃん、かわいいです」
「ありがとうございます」
「これで決まりでよさそうね。でも、少し大きいから詰めた方がいいわ。すぐに必要なの?」
「明日は仕事をしたいから、早い方がいいにゃ」
「それじゃあすぐに取り掛かるわ。リータちゃん、さっきの服に着替えてくれる」
「はい」

 リータは着流しに着替えると、すぐに試着室から出て来てフレヤに服を渡す。

「夕方には出来上がるから、もう一度来てちょうだい」
「わかったにゃ……二人はちょっと先に出てるにゃ」
「どうしてですか?」
「いいから、いいから。にゃ?」

 わしは着替え終わったリータとティーサを外に無理矢理追い出す。

「猫君はお姉さんと楽しい事がしたかったのね。さぁ、おいで~」
「違うにゃ~。代金の支払いにゃ~!」
「なんだ。つまんな~い」

 フレヤはいったい猫をなんだと思っておるんじゃ。

「下着も数着欲しいにゃ。足すといくらになるにゃ?」
「下着もね。全身だったから高いけど、これぐらいよ」

 うっ。予想しておったが高い……女の子の服はどこの世界でも値が張るのう。黒い毛皮のほとんどが飛んでしまう。こんな値段を聞かされたら、リータは気を使って断っておったな。外に出して正解じゃ。

「ほいにゃ。また来るにゃ~」
「まいどあり~」

 わしは言われた金額を支払うと外に出る。すると、ニヤニヤしたティーサと、顔を赤らめたリータがわしを問い詰める。

「猫ちゃんは、フレヤさんと二人っきりで何をしていたのですか~?」
「猫さんはフレヤさんがタイプなんですか?」
「にゃんの話にゃ?」
「だって無理矢理追い出すなんて……ね~?」
「猫さん……」
「だからにゃんの話にゃ! ティーサはリータに変な事を吹き込むにゃ! 案内してくれたお礼にお昼をご馳走しようと思っていたけどやめるにゃ~」
「うそうそ。さっきのうそで~す。リータちゃん。猫ちゃんはそんなことしないですよ~」
「はぁ……もういいにゃ。どこかいいお店に連れてってくれにゃ」
「う~ん。パパッと済ませたいので、露店でいいですか?」
「いいけど騒がれそうにゃ」
「こうして行けばいいんですよ。リータちゃんも」


 わしは二人に手を繋がれ、また捕まった宇宙人のように歩かされた。その姿のまま広場に入ると、騒ぎがもちろん起きる。まったく効果は無かった。

「見られてますね」
「だから言ったにゃ」
「こんなに見られると、私が見られているみたいで恥ずかしいですね。リータちゃんは恥ずかしくないの?」
「は、恥ずかしいです」

 わしも恥ずかしいけど、少しは庇ってくれてもよかったのに……

「あそこのサンドイッチでいいですか?」
「いいにゃ」

 わしはサンドイッチを販売している露店主に声を掛け、また猫、猫とやり取りを交わし、お金を払ってサンドイッチを受け取る。
 わしが全員分のお金を払うと周りからどよめきが起こるが、無視してテーブル席に移動する。

「ここのサンドイッチは美味しいですよ」
「楽しみにゃ~。いただきにゃす」
「いただきにゃす」

 わしの食事の挨拶にリータは続くが、ティーサは不思議そうな顔をしてから食べ始める。

 うん。普通にうまい。ソースは、なかなかうまいが、パンが少し残念じゃな。城の食事がうまかったから、味にうるさくなってしまったか。
 二人とも美味しそうに食べているから、これが普通の食事だと認識を変えねばならんのう。

「ごちそうさにゃ」
「ごちそうさにゃです」
「猫ちゃん。ご馳走になって、ありがとうございます」
「こちらこそにゃ」
「ありがとうございました」
「それでは、私は仕事に戻りますね」


 ティーサは小走りに人込みを抜け、ギルドに去って行った。取り残されたわし達は、まだ夕方には時間があるので、夕食の買い出しをする事にする。

 だがその時……

「見つけたよ!」

 わしの前に新たな敵が現れた。

「昨日のお釣り!!」


 敵の正体は食料品を扱っていた、露店のおばちゃんであった。
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