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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~

059 初仕事にゃ~

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 ハンター登録を行った翌日、朝一の鐘(午前六時)が鳴ると、リータと約束した外壁南門へと街を歩く。朝も早いので人も少なく、不快な言葉も無いので歩きやすい。たまに出会う人は、わしにビックリして固まるだけだ。

「ふにゃ~」

 眠い……でっかい欠伸が出てしまった。昨日は久し振りの一人のベッドじゃったから眠れないかと思ったが、すぐに眠ってしまった。人の目と騒がしさに思ったより疲れていたのかもな。
 かなり眠ったはずなんじゃが、城の生活ではこんな時間に活動しなかったから眠いわい。
 もう少し寝ていたかったが初仕事じゃ。遅刻するわけにはいかん。それにしても鐘の時間表記は、もう少し細かくならんもんかな?
 朝一の鐘(午前六時)の次は三時間もあるから待ち合わせがしづらいのう。城の者は朝二の鐘(午前九時)から働くからちょうどいいんじゃろうけど、ハンターには使いづらいわい。


 わしは考え事をしながら朝の街を歩く。しばらくして、南門が見えて来る。

 あそこが外壁南門か……無事通してくれるか心配じゃ。外に出る時はこれを装着しろと言っておったが……着けたくない。ペンダントなんて嫌じゃ~! 職業ペットのわしがこんなものぶら下げていたら、首輪を着けていると笑われてしまう。
 元々この姿で笑われているけども、それとこれとは別じゃ! 自由を愛する猫のプライドの問題じゃ! でも、着けるしかないのか……

 わしは覚悟を決めてペンダントを首に掛ける。出来るだけ目立たないように、すぐに着流しの襟元えりもとに押し込む。そして、南門に辿り着く。南門には、まだ外に出る人はいないようなので、兵士の姿しか見受けられない。


「あら。猫ちゃん。お出掛け?」

 こいつは……ソフィとの訓練の時におった半分男か。訓練の時にわしが打ち込むと、いちいち「イヤン」とか言っておったから、出来る限り距離を取っておったが……まぁ騒がれて通してもらえないよりはいいじゃろう。

「おはようにゃ。通っていいかにゃ?」
「おはよう。身分証だけは見せてね」

 わしは襟元からペンダントを取り出す。すると兵士はわしの近くに寄る。わしのもの凄く近くに寄り、ペンダントに石版を当てる。

「近いにゃ!」
「大事な仕事だからもうちょっと待ってね」
「石版を当てるだけにゃ! もっと離れるにゃ~」
「もう、つれないわね~。はい。終わったわ」
「にゃにをしていたにゃ?」
「名前とハンターの登録番号を見ただけよ。そのペンダントに石版を当てると文字が浮かび上がってくるのよ」
「ふ~ん。見てどうするにゃ?」
「偽物かどうか見分けるのよ。入国税惜しさに、たまにいるの」
「わしが誰かに渡したら、そのまま通れるのかにゃ?」
「それをされたらお手上げね。でも、通した人も使った人も重い罰があるからやっちゃダメよ。まぁ猫ちゃんの身分証を着ける奴なんていないでしょうけどね」
「にゃんでにゃ?」
「猫ちゃんみたいなかわいい生き物が、ハンターしているなんて他にいないじゃない? 着けて通れるわけないわ」
「にゃ、にゃるほど……そ、そろそろ行くにゃ」
「もっとゆっくりしていっていいのよ」
「待ち合わせがあるにゃ。さいにゃら~」


 わしは半分男の兵士から逃げる様に走り去る。だって「かわいい」って言った時に舌舐めずりしてたんじゃもん。怖かったんじゃもん!

 わしが逃げていると、すぐにリータを見つけたので駆け寄る。

「遅くなったにゃ~! すまないにゃ~」
「ううん。ボクが早く来ていただけだから大丈夫。それじゃあ行こっか」

 わし達は挨拶も早々に、初心者の森に向けて歩き出す。リータが「ボクに着いて来てね」と言うので、わしは後ろを歩く。

 う~ん。リータは昨日の服装のままじゃけど着替えは持っておらんのかな? それに少しにおう。人様にくさいなんて言う勇気も無いし、ここは我慢じゃ。
 においも気になるが、リータの背負っているリュックはパンパンじゃけど、何が入っておるんじゃろう? 仕事に必要な道具じゃろうか?
 次元倉庫があるから手ぶらで来てしまったな。次からは鞄くらい持って来ようか。毛皮なら余っているし、夜にでも作ろうかのう。
 それにしても、よくつまずく子じゃのう。あ、また躓いた……昨日、よくこけるって言っていたのは本当だったんじゃな。後ろを歩けと言われたけど、着く前に怪我をされても困るし、横を歩いた方が良さそうじゃ。

「猫さん。どうしたの?」
「まだ掛かるのかにゃ?」
「もう少しかな。あそこの森だけど見える?」
「見えたにゃ」

 わしは適当な話をして、自然に隣を歩く事に成功する。そして体感時間、徒歩一時間の初心者の森に到着する。

 人間の歩きだと時間が掛かるのう。わしが軽く走れば十分ぐらいで着きそうじゃ。今日は久し振りに重力魔法でも使うかな。家屋に入ると床が抜けそうで使っておらんかったから鈍っているかもしれん。これからは外に出る時は使っていこう。


「ここが森の入口だよ。ボクが先頭を歩くから、注意してついて来てね」
「わかったにゃ」

 リータは注意を促すと森の中に入って行く。わしはリータの後に続き、森に入る。

 探知魔法……オーン! って、切り替えとかないけど、そういう気分じゃ。
 う~ん。初心者の森だけあって、小さな動物しかおらんのう。小鳥は多くいるけど金にならんじゃろうし、狙うなら兎か……もっと奥まで行けば大物はいるんじゃろうか? 聞いてみるか。

「ここの森には、どんにゃ動物がいるにゃ?」
「多くいるのは角兎や蛇や鳥かな? 大きい動物で狼。少ないけど鹿や猪もいるみたい」
「ふ~ん。今日は何を狙うにゃ?」
「薬草採集しながら、角兎でも捕れたらいいかな?」
「そうにゃのか……」

 どう見ても金になりそうにない。せめて猪を狩って帰りたいのう。うん? このまま進めば、リータの言う角兎?の進行方向にぶつかるな。その奥には狼が二匹か。
 どうしたものか? まぁ強くもないし、リータがどうするか見させてもらおう。


 リータは草を引っこ抜きながら森を歩き、わしは何も言わずについていく。しばらく進むと探知魔法の反応そのままに、茶色い角の生えた兎が現れた。

「角兎! 猫さん。先輩のボクに任せて!」
「頑張るにゃ~」

 元々そのつもりじゃ。しかし、この世界の兎って、なんで角が生えておるんじゃろう? 強い動物には角が生えている奴は多いんじゃが、あいつは全然強くない。大きくもないし、角に突き刺さらないように気を付ければいいだけじゃ。
 さて、リータはどうやって捕まえるのかのう。剣を抜いた……小さい角兎相手に剣か。それ以前にあの剣、サビも刃零れもひどいけど切れるのか?

 走った! あ、こけた……


 角兎はリータの動きに構えていたが、リータがこけると攻撃に移り、肩に角を向け体当たりをした。

「いた~い!」

 しまった! いきなりこけたから呆気に取られて動けんかった。角が刺さった様に見えたけど怪我は? ……血が出てない?

 角兎は刺さらないと見るや、角を上げ下げしてリータの頭を何度も殴る。

「いた! いたたた。やめて~」

 なんじゃろう。この光景は……小さい角兎に殴られる人間。まるで漫画じゃ……って、見ている場合じゃなかった!


 わしは頭を抱えて角兎に殴られているリータに素早く近付く。そして、角兎の角をわし掴みにすると持ち上げる。

 捕まえたけど、斬り殺すと毛皮に傷がついて、高く売れなくなるかも。ここは……ネコチョーップ!

 わしは空いてる手で、首元目掛けてチョップする。角兎は脊椎せきついが壊れる感触の後、ビクビクと痙攣けいれんして絶命する。命を絶つと、わしは心の中で手を合わせる。

「もう大丈夫にゃ」
「ね、猫さん? 猫さんが倒したの?」
「そうにゃ。怪我はないかにゃ?」
「うん。頑丈だけが取り柄なの」

 怪我がないじゃと? とがった角が刺さったはずなんじゃが……

「ちょっと失礼するにゃ」
「え?」

 刺さった所の服は小さな穴が開いておるが、肌は赤くなっている程度じゃな。頭の方もコブもない。頑丈だけが取り柄って……頑丈にも程があるじゃろう。


 わしが怪我がないかリータの体を調べていると、ガサガサと草を掻き分けて二匹の狼が飛び出してきた。

 こいつらが近付いておったのを忘れてた。角兎を追って来たみたいじゃな。サクッと倒すか。

「猫さん! 逃げて!!」

 わしが前に出ようとすると、リータがわしよりも前に出て叫ぶ。リータは勢いよく出たが、手に構えた剣は震えている。

「ボク達だけじゃ倒せない。せめて猫さんだけは逃げて」
「大丈夫だからどいてにゃ~」
「ううん。先輩のボクが猫さんを守ってみせる。どれだけ持つかわからないけど早く逃げて!」

 リータはあんな弱いの相手に何を言っておるんじゃ? まぁいいや。さっさと終わらせよう。


 わしはリータを避けて、狼に駆け寄る。駆け寄ると同時に【白猫刀】を抜き。半回転させる。そして角兎と同じ要領で、狼の脊椎を破壊する。

「峰打ちにゃ」
「え?」

 峰打ちだけど狼は絶命している。なんとなく言いたかっただけじゃ。

「いつまで固まってるにゃ?」
「え? え~~~!!」
「そんなに驚く事じゃないにゃ~」
「だって……狼一匹を一人で倒せるのは、Dランク以上の人だよ? それを二匹も一瞬で……」

 そうなの? 人間はそんなに弱いのか……。これじゃあチートジジイ再びじゃ。強さ、隠した方が良かったか? 土地の賃貸料もあるから稼がないといけないし、城でかなりの力を見せたからいまさらじゃのう。


 わしが考え事をしていると、リータが真面目な顔でわしに声を掛ける。

「あの……猫さん……」

 リータの目が真剣になっている……。面倒事の予感がするんじゃけど、逃げた方がいいか? しかし、こんな森の中に置いて行くわけにもいかんし……聞くだけ聞いてみるか。

「にゃにかにゃ?」
「ボクを弟子にしてください!」


 ほら、当たった。
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