54 / 755
第二章 王都編 友達が出来たにゃ~
053 最終回かにゃ~?
しおりを挟むさっちゃんの双子の姉はさっちゃんに抱きついたまま、いっこうに泣きやまないな。綺麗な顔が、涙と鼻水でべちゃべちゃじゃ。さっちゃんの服は……ご愁傷様。
ここまで泣いて心配するって事は、暗殺には間違いなく関わっておらん。わしの思った通りじゃ。うんうん。
「いたっ! なにするんじゃ」
わしがさっちゃん達姉妹を温かく眺めていると、突如、エリザベスのネコパンチがわしに炸裂した。
「あんた。あの二人が黒幕って言ってたわよね?」
「まっさか~。あんなに仲がいい姉妹が、そんな事するわけがないと言ったはずじゃ」
「それ言ったの、俺とエリザベス……」
「そうよ! それなのに注意しろ、注意しろって……」
「そんなこと、言ったかいの~?」
「「言った!!」」
「すいませんでした!」
猫に怒られてしまった。わしは元人間なのに……
「お姉様。もう離してください」
「ぐすっ……ごめんね~」
「ぐすっ……心配だったの~」
「わかりましたから、泣きやんでください」
わし達兄弟と違って、あっちは仲良さそうじゃのう。エリザベスも昔はかわいかったのに……今もかわいいです! そんな目で見ないでください! ……こいつ、絶対わしの心を読んでおる。
迂闊な事を考えるのはよそう。そのうち、おっかさんみたいに目から光線出しそうじゃしのう。
「あなたがシラタマちゃんね」
「サティ……サンドリーヌを守ってくれたそうね」
ん? さっちゃんのお姉さんが話し掛けて来たぞ。猫に話し掛けるとは、変わっておるのう……周りにけっこういるな。まぁ挨拶ぐらいしとくか。
「にゃ~ん」
「シラタマちゃん。そんなに警戒しなくていいのよ」
「お母様から聞いてるから喋ってちょうだい」
女王が? 何を勝手な事を……てか、信じられるのか? さっちゃんに助けを……なんか頷いておる。喋れって事か。
わしは次元倉庫から清潔な布を、二人の頭にふぁさっと落とす。そして念話で話し掛ける。
「なに?」
「布?」
「ハンカチにゃ。綺麗な顔が台無しにゃ」
「頭の中で声がする」
「ハンカチ?」
「シラタマちゃん?」
「そうにゃ」
「「なにそのキザなセリフ~! アハハハハ」」
これが孫が言ってたシンクロ攻撃か……よかれと思ってやったのに、そんなに笑わんでも……恥ずかしい!
「「アハハハハ」」
「そろそろ笑うのはやめて欲しいにゃ~」
「アハハ……綺麗な顔が……」
「ブフー……思い出させないで」
泣いたり笑ったり、忙しい双子じゃな。じゃが、間違いなくさっちゃんの遺伝子が入っているのはわかった。
「もう話さないにゃ」
「あ~。ごめんなさい」
「猫にそんなこと言われたの初めてだから……ごめんなさいね」
「ちょっと失礼するわね」
わしは二人に抱き抱えられる。二人の綺麗な顔が近いから少し照れてしまう。
「それじゃあ、改めまして……」
「シラタマちゃん、サティを守ってくれて……」
「「ありがとう。チュッ」」
「にゃ、にゃ~~~!」
「照れてる」
「かわいい」
そりゃ、こんなべっぴんさんにいきなり両頬にキスをされたら照れるじゃろう。あ、二人して抱きしめないで……。女王に似た立派なお胸が……
「サティに飽きたら、わたくしのところに来てもいいのよ?」
「わたくしのところでもいいわよ?」
「むぅ……お姉様! わたしのシラタマちゃんを取らないで! シラタマちゃんも鼻の下を伸ばさないの! この浮気猫~~~!!」
そんなに顔に出ておったか? 出ていたかも……双子のシンクロ攻撃、恐るべし。
「あら? 男を口説くのに許可が必要かしら?」
「サティがわたくし達に勝てるかしら?」
「お姉様の意地悪……」
さっちゃんが押されておる。ここは助けておかないと後が怖いな。
わしは双子の胸から飛び降りて、さっちゃんの胸に飛び付く。
「あら。振られてしまいましたわ」
「残念ですわ」
「シラタマちゃん。チュッ。エヘヘ~」
図らずも王女様のキスをコンプリートしてしまった。こんな姿、娘にも孫にも見せられん。
「それでは行きましょうか」
「お姉様、どちらに行かれるのでしょうか?」
「サティの部屋よ。あなたは女王になるのですから、わたくし達がしっかり教育してあげますわ」
「え?」
「これから忙しくなりますわ~」
「ええぇぇ~~~!」
わしは野生の感で危機を察して、さっちゃんの腕の中から飛び降りた。そしてさっちゃんは、売られて行く仔牛のような目で連れ去られて行った。
「シラタマちゃ~~~~ん!」
さっちゃんが遠く離れて行くと、わしを呼ぶ声が城に響き渡るのであった。
さて、今日はドロテの部屋にでも厄介になろうかのう。
城に帰ってからの一週間、朝になるとさっちゃんの部屋に、双子王女が毎日現れた。
双子王女のスパルタ指導がうるさく、さっちゃんの部屋ではゆっくり出来ないので、バルコニーにネコハウスを出して兄弟達と寝る事にしが、わしだけ双子に捕まった。
さっちゃんが人型になれる事を密告しやがった。何故そんな事をしたかと尋ねたら、一言、「裏切り者」とだげ言われた。
裏切り者はさっちゃんじゃ! そのせいで双子に挟まれチヤホヤ……いや、イチャイチャ……いや、モフモフされまくった。
さっちゃん。頼むからわしの絵を描いて、ペンで突き刺さないでくれ。
結局、わしも一緒に勉強させられるハメとなってしまった。
王族や貴族の名前の書き取りや、家門の暗記はわしには関係無いんじゃが、双子とさっちゃんが許してくれなくて、泣く泣く勉強させられた。
テストでもいつも負けておる。つい最近、文字と言葉を覚えたんじゃ。勘弁してくれ。
だが、歴史の授業は面白かった。この国の成り立ちや世界史等を習った。どうもこの世界では、突然文明が崩壊して、人間の住める場所が減っていっているみたいじゃ。
なんでもこの国を最東に、隣接する西と南にある国から先は小国が並び、それ以外は黒い森が広がって浸食しているらしい。その森があった場所は、文明があったらしいが、千年以上も昔の話で失伝しているとのこと。
わしの生まれた山の東にも文明があったらしいが突然滅び、それ以降は黒い森になっているらしい。それ以前の文明は、なんだか見た事がある気がしたが、資料が少な過ぎて思い出せない。
楽しく歴史の勉強をする事によって、テストでわしがさっちゃんを僅差で破り、双子にチヤホヤされていたら、さっちゃんから一枚の紙を渡された。
何が書いてあるのかと開いて見たら「エロ猫」って……。この一週間で勉強の点数は上がったが、さっちゃんの評価はだだ下がりじゃ。
そんな勉強漬けの毎日を過ごしていたら、女王から呼び出しが掛かった。場所は案内役が連れて行ってくれるから、さっちゃんに猫型で抱かれて移動する。
「女王はなんの用にゃ?」
「さあ? 事件の事後処理が終わったから、シラタマちゃんに会いたくなったんじゃない?」
「そう言えば帰った次の日に、ちょっと挨拶しただけだったにゃ」
「貴族のお取り潰しや処刑、犯人の刑罰でお母様は忙しかったみたいよ」
へ~。この事件の前も忙しくて娘に会えないと嘆いていた気がするが、国のトップは大変じゃのう。少しは労って撫でさせてやるか。
「こちらでお待ちください」
案内役が部屋のドアを開け、中へ通される。そこには、さっちゃんの護衛を勤めたソフィ、ドロテ、アイノが待っていた。
「サンドリーヌ様……お元気でしたか?」
「もう勉強漬けで疲れたよ~」
「猫ちゃんは元気よね?」
「わしも勉強漬けにゃ~」
「シラタマ様もですか!?」
「さっちゃんに売られたにゃ~」
「シラタマちゃんが逃げるからでしょ! 聞いてよ、ドロテ」
「どうしたのですか?」
「シラタマちゃん、いっつも姉様が来たら猫撫で声を出すのよ」
「それは許せませんね」
「許せない」
「おやつは没収ですね」
「猫にゃ~! 猫撫で声ぐらい、いつも出てるにゃ~」
「そんなこと無い! 撫でられてゴロゴロ言ってるじゃない!」
「ゴロゴロ言っているのですか?」
「言ってそう」
「食事の一品も減らしましょう」
「猫にゃ~! ゴロゴロ言うのは仕事みたいなもんにゃ~」
「プッ」
「「「「アハハハハ」」」」
皆に責められて言い訳……事実を説明していると、皆は急に笑い出した。
「なんにゃ?」
「いえ。懐かしいと思いまして」
「ベネエラの街では、こんな感じでしたね」
「ホント楽しかったね」
「大変なはずだったのにね。これも猫ちゃんのおかげかな」
わしが質問すると、皆は昔を懐かしみ、優しい顔に変わる。そして、真剣な顔になったかと思うと、ソフィから順に、さっちゃんからわしを受け取り、感謝の言葉を述べる。
「シラタマ様、サンドリーヌ様を守って頂きありがとうございました。チュッ」
「シラタマ様には助けられました。ありがとうございました。チュッ」
「猫ちゃん、楽しかったわ。ありがとう。チュッ」
「シラタマちゃんがいなかったら、わたしはどうなっていたか……ありがとう。大好き。チュッ」
なんでみんな礼を言ってキスをするんじゃ? 美女に囲まれ、謝礼のキスを受ける。これは孫が言っていた、フラグが立つってヤツではなかろうか?
最終回? いや、わしは死ぬのか……この扉の先にあるのはギロチン台とか? いやいや、そんな事は無いじゃろう。と、なると別れか?こんな危険な妖怪猫又は王都からの永久追放って事か。
事件が解決したら出て行くつもりじゃったが、それはそれで寂しい気が……
わしが暗い顔をしていると、さっちゃん達が心配して声を掛ける。
「シラタマちゃん、どうしたの?」
「わしは死ぬのかにゃ?」
「どうしてですか?」
「こんな美女に囲まれてキスまでされたにゃ。物語の最終回みたいにゃ」
「なんでそうなるの!」
「じゃあ、この扉の先にはギロチン台があるにゃ?」
「そんなのありませんよ」
「みんなと永遠の別れかにゃ?」
「なんでそうなるのよ! あ、そろそろ始まるよ」
ファンファーレの音と共に豪華な扉が開く。扉の先には騎士、貴族、多くの人が立ち、拍手でわし達を出迎える。
床には赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれ、その一番奥には、玉座に座る女王と両脇に立つ双子の王女。皆、にこやかに、わし達を見つめている。
その光景に、わしは……
「あ~あ……」
「逃げました」
「逃げちゃいましたね」
「やっぱりね」
「でも、シラタマちゃんらしい……行こう!」
扉は閉まり、誰もいなくなった部屋には、式典の漏れる音が聞こえるだけであった。
1
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる