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第二章 王都編 友達が出来たにゃ~

051 墓参りにゃ~

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 わしが猫の形の石像を墓だと言ったら…… 

「「「「「「猫っ!!」」」」」」

 と、総ツッコミされた。

「おっかさんの形をした墓にゃ。何か変かにゃ?」
「変だよ!! 普通のお墓はこう……」

 さっちゃんは身振り手振りで形を説明する。どうやら、この世界のお墓は西洋風のお墓みたいだ。

「この形はおっかさんの希望にゃ」
「猫ちゃんはお母さんに、死んだら猫の形のお墓を作ってって頼まれていたんだ」

 アイノがしみじみと、わしに尋ねる。

「違うにゃ。死んでから言われたにゃ」

 みんな頭を抱えているけど……どうしてじゃ?

「なんかここに来て、疑問しか思いつかないよ~」
「サンドリーヌ様。私もです」
「みんなそうですよ」
「猫ちゃんは想像の斜め上を行くからね」

 わしが作りたくて作った訳でもないのに、ひどい言われようじゃ。

「猫ちゃん。ちょっと質問していいかな?」
「なんにゃ?」
「お母さんが死んでから、お墓を作ってって言ったの?」
「正確に言うと、わしがお墓(和風)を作っていたら、おっかさんが戻って来て、作るならこの形にしろと言われたにゃ」
「また質問が増えたけど……いいわ! お母さんと、どうやって話をしたの?」
「普通にゃ。話し掛けられたにゃ」
「幽霊ってこと?」
「そうなるにゃ」

 一回死んだ経験から言うと魂が残っていたんじゃろうけど、おっかさんがどうやって現世に残っていたのか、わしにもわからん。可能性として魔法ってところか……魂を一時的に現世に残せる魔法があるのかもしれん。
 それをわし達を心配して使ったのじゃろう。幽霊って言葉にドロテが震えておるが、怖がりじゃのう。

「じゃあ、次ね。なんで猫の石像がふたつあるの?」
「おっかさんとお婆さんにゃ。これもおっかさんの希望にゃ」
「また質問が増えた……もう限界! 誰か代わって~」
「そろそろおっかさんに手を合わせたいにゃ~」
「みんな、シラタマちゃん達だけにしてあげよう」


 さっちゃんは気を利かせてお墓から離れる。皆もわかったとうなずき離れる。
 皆が離れると、わしは人型に変身して石像や周りを掃除する。花を飾り、皿に水を入れ、線香モドキに火を点ける。日本風だが、わしはこれしかやり方を知らない。
 一通りの用意が終わると石像の前に腰掛ける。見ていた兄弟達は何も言わず、わしの隣に座る。そしてわしは目を閉じ、手を合わせ、おっかさんに兄弟達の無事を報告する。


 その時、温かい風が吹き、懐かしい匂いがした。兄弟達も何かを感じとっていたが、皆、口を開こうとはしなかった。





「私も手を合わせていい?」

 おっかさんへの長い報告が終わり、わしが立ち上がると、さっちゃんが声を掛けて来た。

「にゃ? いいにゃ」
「私達もいいですか?」

 さっちゃんに続き、ソフィ、ドロテ、アイノも申し出て来た。わしは許可して、その場を離れる。離れる時に見た、皆の後ろ姿は、なにか謝っているように見えたが、わしはそのまま離れるのであった。


 墓参りも終わり、わし達は家の中に戻って昼食をとる。人数分の椅子は無かったので、広いリビングに次元倉庫から、以前作ったテーブルセットと屋敷で用意してもらった昼食を出した。

「広いリビングね」
「おっかさんが大きかったからにゃ」
「どれぐらいの大きさだったんですか?」
「3メートル以上あったにゃ」
「あのお皿の入った棚は何?」
「おっかさんの作った皿を飾る棚にゃ」
「あそこにある箱はなんですか?」
「あれは薪ストーブにゃ。おっかさんが……作って……欲しいって……うぅぅ」
「シラタマちゃんはお母さんの事が、大好きだったんだね」
「にゃ~~~」

 この家はおっかさんとの思い出がいっぱい詰まっている。忘れていた訳では無いが、人に聞かれて思い出してしまった。今まで我慢していたのか、涙がとめどなく溢れてくる。
 兄弟達も思い出したようで「にゃ~にゃ~」と泣き出した。それを見ていたさっちゃん達は、わし達兄弟を優しく抱き締めてくれた。


 しばらくして泣きやんだわしは、縄張りを回って来ると言って、猫型に戻って外に出る。

 さっちゃん達には絶対に外に出るなと言っておいたから大丈夫じゃろう。引き戸を閉めておけば、動物相手なら気付かないんじゃが……外に出ないと信じよう。
 今はそれどころでは無い。恥ずかしい! 魂年齢百二歳のわしが、十一歳のさっちゃんの胸の中で大泣きしてしまった。これが孫の言ってた黒歴史か……ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい! ……穴から出て来たとこじゃった。
 このモヤモヤは、とりあえず走って発散するしかない! ダッシュ、ダッシュ、ダッシュじゃ~!


 わしが高速で縄張りを走っていたら、二週目で黒狼に出会った。

「帰って来たのか?」
「お前か……なんじゃわしの縄張りで! やんのか! おぉ!」
「待て待て! 敵意は無い!」
「敵意は無いって事は、わしの腹に収まりに来たのか! おぉ!」
「落ち着いて話を聞け!」

 黒狼の言うことにゃ、お猫さん、お待ちなさい……って、何の歌じゃ! はぁはぁ。一旦落ち着こう。そう言えば、黒狼に時々縄張りのパトロールしてもらうように頼んでおったっけ。忘れておったわ。

「いや~。すまんかった。ちょっと気が立っておったんじゃ。すまんすまん」
「はぁ……お前が言い出した事だろう。でも、気をつけろよ」
「あいつらか?」
「いや。最近、お前の縄張りに恐ろしく強い奴が入り込んでいる」
「ほう。どんな奴かわかるか? 探し出して食ってやる!」
「俺は見た瞬間逃げたが、デカくて白い奴だ」
「デカくて白い……」
「俺はそいつを、親父に絶対に近付くなと言われた、この森の主じゃないかと思っている」
「し、尻尾は何本あった!?」
「見間違えでなければ三本……」
「急用を思い出した! お前も見たら、すぐに逃げろよ!」
「お、おう……」
「ほな、さいなら~」

 ポカンとしている黒狼を置いて、わしは全力で我が家に向けて走る。強化魔法もオマケして、疾風となって走る。

 ヤバイ! ヤバイぞ! これが孫の言っていたフラグと言うヤツなら、キョリスが来る! 急げ、わし! 走れ、わし!!


 わしは我が家に辿り着いたが、時、すでに遅し……

「キャハハハハ! この子かわいい~」

 さっちゃんは、何故、子リスに乗っておる……

「この子もシラタマちゃんに負けず劣らずモフモフ~」

 アイノ。顔を埋めている場合ではない……

「この子がキョリスの子供……かわいい」
「おとなしくてかわいいです」

 ソフィもドロテも愛でてる場合じゃないぞ? 子リスのバックにはキョリスがいて危険なんじゃ。注意し忘れてたか……兄弟達も、外に出てるならさっちゃんを止めてくれんかのう。
 じゃが、よかった。間に合った! 子リスしか来ておらん。探知魔法は……あぁ……すぐ側じゃ。


 わしが反応があった方向にゆっくりと頭を回すと、木を掻き分けて大きな物体がふたつ現れた。

「やっと帰って来たのか、ワレー!」
「あらあら。お客様がいっぱいね」
「「「「キャー--!!」」」」
「あ、モフモフ~」

 キョリスと母リスの登場で、さっちゃん達は叫ぶ。ソフィやドロテ、アイノは絶望の顔を浮かべ、恐怖に膝を折り、へたり込む。
 さっちゃんは怖いのか、子リスにしがみ付き、わしを発見した子リスと共に、わしの元へやって来る。

「モフモフ~。やっと会えたの」
「久し振りじゃのう。元気にしていたか?」
「うん!」

 子リスはわしを持ち上げ、顔をスリスリしてくる。その時、子リスに乗っていた涙目のさっちゃんと目があったが、喋らないように手振りで合図した。

「そいつらはなんだ、ワレー!」
「友達です。お父さんが恐いから、みんな震えてしまっています」
「そうよ。大声なんかあげて~」
「友達からしたら、お母さんも大きくて恐いんです。とりあえず、二匹とも座ってください」


 わしはリス家族に動かないようにお願いする。その後、人型に変身して、さっちゃんを落ち着かせながら子リスから抱いて降ろし、ソフィ達の元へ連れて行く。
 家の中に入るように言ったが、全員、腰を抜かして動けないそうだ。10メートルを超える怪獣リスじゃ仕方ない。
 さっちゃん達にも動かないように言い聞かせると、リス家族に近付き、子リスを撫でながら、キョリスと念話で話をする。

「それじゃあ改めまして、お久し振りです」
「おう! 久し振りだ、ワレー!」
「久し振りね」
「どうして、みんなここにいるんですか?」
「娘が時々、ワレーに会いに縄張りから出るんだ、ワレー!」
「それでいつも心配して迎えに来ているのよ。この子も強いから大丈夫だって言ってるのに」
「それとこれとは別だ、ワレー!」

 親バカは相変わらずじゃのう。しかし、どうやってわしの家がここだとわかったんじゃ? 匂いかな?

「なんでここがわしの家だとわかったんですか?」
「モフモフの匂い~。あと、あれ~」
「あんなもんがあったらわかるぞ、ワレー!」
「私もアレ、作ってくれないかしら?」


 リス家族は白い木の下にある、わしの作ったおっかさんの石像を指差す。そんな物を作るのは、わしくらいかと納得してしまった。

「兄弟は無事連れ帰ったみたいだな、ワレー!」
「まぁ、いちおう……」
「なんだ歯切れが悪いぞ、ワレー! 母親の仇は討ったのか、ワレー!」

 キョリスに仇を討ってないと言ったら、おっかさんのストーカーじゃし、面倒になりそうじゃな。キョリスは嘘に敏感じゃから、適当に言っておこう。

「それは楽勝じゃ!」
「そうか……よくやった、ワレー! ワレーがヤッてなかったら、我が行くとこだったぞ、ワレー!」

 適当に言っておいてよかった。こんなのが暴れたら、王都なんて更地になってしまう。それに楽勝ってのは楽に勝てるよと言っただけで、倒していないが嘘じゃない。

「それじゃあ、モフモフ戻って来るの?」
「いや。兄弟達が向こうに残ると言っているから、わしもしばらくそっちで暮らそうと思っている」
「モフモフ、帰って来ないの……」
「我の娘を泣かすなんて、いい度胸だ、ワレー!」
「わ~! 待つんじゃ~~~!!」

 キョリスは指をボキボキ鳴らしてわしを威圧する。

 なんじゃそのしぐさ! リスじゃろう! どこで覚えたんじゃ!!


 その後、リス家族に、わしの命を懸けた説得は続くのであった。
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