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第二章 王都編 友達が出来たにゃ~

049 さっちゃんの涙

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 わしがダービドを倒し、担いでソフィ達の元へ向かうと、男の悲鳴と共に決着がついたところであった。


「怪我は無いかにゃ?」
「シラタマ様。負傷者はおりません」
「それはよかったにゃ。じゃあ、こいつらを拘束してくれにゃ。檻を作るから、その中に入れるにゃ」
「わかりました」

 ソフィ達は手分けして男達をロープで拘束していき、次々に檻の中に入れていく。檻に入っていく男達を見ていると、投げナイフの男が血まみれで一番ひどい怪我をしているように見えたが、傷は多いけど、深い傷はひとつも無かった。
 どうやら、エリザベスの芸術的ないたぶりに、気絶した振りをしているようだ。わしは哀れみを感じ、気付かない振りをしてやった。
 一人死にそうな奴がいたから、こっそり回復魔法を使っておいた。余罪もあるだろうし、こんなに簡単に死なせるわけにはいかん。きっちりこの時代の裁きを受けてもらう。もちろんわしの倒した男じゃないぞ。これは本当じゃ。


 男達の処理が終わると、張っていた気を落ち着かせ、男達の正体を話し合う。

「強い連中でしたね」
「そうですね。何者でしょうか」
「わしの相手が五人組って言ってたにゃ」
「あの五人組!?」
「有名なのかにゃ?」
「アルッティファミリーの凄腕集団です。特にリーダー格のダービドは、昔、オンニ様と互角に闘ったと聞いた事があります」
「たしか、わしの相手がそんな事を言ってたにゃ。本当だったんだにゃ」
「猫ちゃんって、すごく強いのね~」
「ダービドと闘いながら、私達に助力してくださっていたのですか?」

 みんなには怪我をされたくないから、危なそうな時には小さな【風玉】を使って援護をしていた。
 騎士は正々堂々とかうるさそうじゃから、こっそりやっていたのに、ソフィにはバレておったか。ここは謝っておくか。

「邪魔してすまないにゃ~」
「いえ。そんな事は……私達だけでは大怪我をしていたかもしれません」
「そうそう。楽に勝てるのが一番よね」
「シラタマ様。ありがとうございます」

 騎士道を傷付けたとか言われて、怒られるかと思ったが杞憂きゆうじゃったか。
 そもそもエリザベスがいたぶってないで、さっさとトドメを刺しておけば、わしが変に気を回さんでも良かったんじゃ。いや、いたぶってなかったら、投げナイフの男は今頃、真っ二つじゃったな。

「軽く尋問するかにゃ?」
「この状態ですから衛兵に任せましょう」
「一人起きてる奴がいるにゃ」
「そうなんですか?」

 わしは檻の前にエリザベスを呼ぶ。エリザベスが来ると、一人の男がプルプルと震え出した。

「本当ですね」
「起きてるね」
「どうして震えているのでしょう?」
「こいつを、エリザベスと一緒の檻に入れればいいにゃ」
「待ってくれ! それだけは勘弁してくれ。なんでも話す!!」

 まだ何もしておらんのに話すのか。エリザベスは、この男にどれほどの恐怖を与えたんじゃ。


 わしはエリザベスを抱え、男から話を聞く。

 男達はアルッティファミリーの五人組で間違い無いようだ。肝心の依頼主の名はわからなかったが、ボスのアルッティが懇意こんいにしている複数の貴族の名前は聞き出せたので、大きな進歩だろう。
 あとはこの街の兵に五人ともこってりと事情聴取してもらって、嘘がないか確認してもらえばいい。他の者と違う事を言っていたら、またエリザベスに登場してもらうと脅しておいたから大丈夫だろう。

 そうして男から聞き終え、皆でまったりとお茶休憩をしていると、アイノが何かに気付いたようだ。

「猫ちゃん。何か聞こえない?」
「敵にゃ? 周りには何もいないにゃ」
「と言うか、何か忘れている気がしますね」
「なんでしたっけ?」
「にゃにかにゃ~?」
「「「「う~ん……」」」」
「「「「あ!!」」」」

 この後、わし達四人は塹壕ざんごうから出れなくなっていたさっちゃんにこっぴどく怒られた。怒るし拗ねるし大変だったが、わしがつきっきりでさっちゃんをかまっていたら、なんとか機嫌を持ち直す事が出来た。
 ソフィ達は紙に一筆書かされていたが、何が書かれているか物凄く気になる。あの、みんなの悲しそうな顔はなんだったんじゃろう?





 五人組の襲撃から二日。今日もみんなでのんびりと屋敷ですごしている。わしはというと、城に来てから慣れない生活が続いたせいか、皆に気を使っていたせいか、猫型でさっちゃんの膝の上に抱かれ眠ってしまっている。

 背中を優しく撫でられて気持ちよく眠っていると、ソフィ達がさっちゃんに、何か言っている声が耳に入る。

「サンドリーヌ様、今日が誓約書の期限です」
「え~! まだいいじゃない」
「サンドリーヌ様が言い出した事ですよ」
「独り占めはズルイです」
「ここにも書いてあります」

 ん、んん~……なんかもめとておるのう。誓約書? なんじゃろう。眠い……

「私にも抱かせてください」
「私にもお願いします」
「私も……」
「え~! こんなに大人おとなしいシラタマちゃんを渡せだなんて……私には出来ない!」
「だからですよ」
「いつもすぐ逃げますもんね」
「猫ちゃんをモフり放題!」

 わしの取り合いをしておるのか? 王女様と取り合いする配下って……そう言えば、昨日はさっちゃん以外と触れ合っておらんかったな。
 たしか昨日は、アイノのベッドで寝る番じゃったが、さっちゃんの部屋で寝ろと言われたな。誓約書か……わしの独占権とか?

「誓約書にも書かれています。シラタマ様を一日、独占を許可する。それ以降は平等に接する」
「サンドリーヌ様が書かれた事です」
「サンドリーヌ様……モフリたいです」
「うぅぅ」

 あの紙にはそう言う事が書かれてあったのか。昨日のみんなの行動の理由は、このせいだったんじゃな。しかし、なんでそんなにわしを抱きたがるんじゃ?
 孫のこんな時に言いたいセリフ集にあった「私の為に争わないで」って言うべきか? あれは美少女のセリフじゃったか……こんなもうろくジジイの台詞じゃないのう。誰が、もうろくジジイじゃ!
 それにしても、身分の差があるのに仲が良いのう。これもさっちゃんの性格のせいかな? このままじゃ、三人とわだかまりが残るかもしれんし、わしが動くかのう。


 わしはむくりと起き上がり、さっちゃんの膝からソフィの膝に飛び乗る。すると、ソフィは飛び乗ったわしをギュッと抱き締める。

「あ! シラタマちゃん」
「シラタマ様……」
「ソフィ……いいなぁ」
「猫ちゃん。次、私に来て!」
「アイノは定時連絡はいいのかにゃ?」
「あ! 忘れてた……すぐ戻るからね!」

 アイノはバタバタとドアを開けて出て行く。わしはしばらくソフィに抱かれていたが、ドロテがガン見していたので、ドロテに飛び移る。さっちゃんの恨めしい目も気になり、さっちゃんの膝に戻る。
 それを何度か繰り返していると、アイノがドアを乱暴に開けて飛び込んで来た。

「王女様! 大変です!!」
「アイノ! もう少し静かに出来ないのですか」
「アイノはいつも騒がしいです」
「アイノだから仕方ないにゃ~」
「みんなしてひどい……あ~! 猫ちゃんがドロテに抱かれてる~! ズルイ~」
「ほらにゃ」
「「「アハハハハ」」」
「う~~~!」

 わしは地団太を踏むアイノの胸に飛び込む。アイノは、わしをモフモフしたりギュッとしたりして、次第に落ち着く。

「で、何が大変だったにゃ?」
「モフモフ~……あ! 王都が大変なんです!」
「王都が? わかるように順を追って説明しなさい」
「王女様の暗殺を企てていた首謀者が、ついに捕まりました! それで……」


 アイノは定時連絡で得た情報を話し始める。

 五人組から得た情報で、アルッティファミリーのアジト、並びにアルッティファミリーが懇意にしていた貴族を女王が一斉検挙したそうだ。全て同時刻に強襲したおかげで、犯人達は抵抗する事も出来ずに逮捕となった。
 貴族達はもちろんゴネたそうだが、アルッティファミリーのアジトには、第一王女派、第二王女派の貴族が関わっていた証拠も見つかり、二人の貴族の財務状況も加わって言い逃れも出来なく、厳罰に処するとのこと。
 その他の貴族は暗殺事件には関与していなかったものの、それなりの悪事が見つかり、追って処罰を決めていくらしい。


「それじゃあ、もうわたしを襲う人はいないの?」
「はい。女王陛下も、安全だからすぐに戻って来るようにと言っております」
「本当に……終わったのね……う、うぅぅぅ」

 さっちゃんはドロテに抱きつき、わんわんと泣き出した。ドロテもよかったと泣き、それに釣られてソフィもアイノも涙を流し、さっちゃんとドロテを抱き締める。

 さっちゃんは、いつも平気な顔で笑っておったが、怖かったんじゃろうな。まだ十一歳じゃ。何度もやって来る暗殺犯を見ながら、今まで泣かずに平気な顔をしている方がどうかしておる。さっちゃんは強い子じゃ。


「終わったの?」

 わしが涙ながらに喜ぶ皆を眺めていると、エリザベスが話し掛けて来る。

「ああ。終わった」
「そう。よかったわ。これでお城でゆっくり出来るわ」
「それなんじゃが……もうさっちゃんからも離れられるし、我が家に戻らんか?」
「しつこいわね。私はね、この暮らしも気に入っているけど、ご主人様も、なんだかんだで好きなのよ」

 そうじゃったんか。ただ、セレブな暮らしがしたいだけじゃと思っておった。

「ルシウスもか?」
「俺は……お母さんも、もういないしどっちでもいい」

 どっちでもいいか……戻ってもいいって事かのう。でも、一匹で我が家に戻すのも心配じゃし、悩むところじゃ。

「それじゃあ、一度おっかさんの墓に行かないか?」
「墓って何?」
「墓って言うのはじゃな。おっかさんを埋めてある場所じゃ。同じ場所におっかさんのおっかさんも埋まっていると言っておったぞ」
「ふ~ん。一度くらいならいいかな?」
「俺は行きたい!」
「決定じゃな!」


 わしは泣きやんださっちゃん達の輪の中に入り、帰りの予定を話し合う。

「帰りですか? 今日は昼を回っているので、明日の朝にでも発ちたいですね」
「そうね。わたしも早くお城に帰りたい」
「出来れば、一日遅らせて欲しいにゃ」
「どうしてですか?」
「兄弟達と、おっかさんの墓参りに行きたいにゃ」
「墓参りって、また変な事を……」
「猫ちゃんの故郷って遠いんじゃなかったの?」
「たしかここから馬車で六日? 山の中を徒歩で五日でしたっけ?」
「一日あれば大丈夫にゃ」

 あの魔法を使えば我が家には簡単に行ける。大量の魔力が必要じゃから、おいそれと使えんがのう。


 わしが一日で大丈夫と言い終わるや否や、シュパパパッと手が上がるのであった。

「シラタマちゃんの故郷……わたしも行きたい!」
「「「私も!!」」」


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