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第二章 王都編 友達が出来たにゃ~

044 馬車を作るにゃ~

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 わしは暗殺犯らしき見張りの人間に聞こえるように、明日は休んで次の日にまた湖に来ると、さっちゃん達に言ってもらった。のぞきと言う線もあるが、貴族が遊ぶ場所だし、さっちゃん暗殺犯の一味の可能性が高い。
 暗殺犯にも準備があるだろうし、一日空けておいた。出来るだけ費用を使ってもらわないと女王が早く見つけられんからのう。しかし、あそこまでひどい演技で暗殺犯が引っ掛かってくれるか、いささか心配じゃわい。

 暗殺犯に情報を流したので帰ろうとすると、さっちゃんがシャワーを浴びたいと言うので、アイノが魔法を使っているように見せて、わしの水魔法で全員洗ってあげた。
 普段なら吸収魔法で水滴を取り除くが、今回は風魔法と火魔法を使ってドライヤーのように乾かしておいた。暗殺犯からしたら、アイノが超一流の魔法使いに見えてしまったかもしれない。
 まぁ実力を見て、高い殺し屋を雇ってくれるなら、こちらとしても万々歳ばんばんざいじゃ。


 馬車に乗ると着替えを済まし、屋敷に向けて帰路に就く。街に入ると、わしは別行動で、見張っていた男のアジトを確認してから屋敷に戻る。

「シラタマ様、どうでしたか?」
「街の宿屋に入って行ったにゃ。中までは確認出来なかったにゃ」
「そうですか」
「明後日に事が終われば襲撃するにゃ。来てくれればいいんにゃが……」
「あれだけいい演技したんだよ」
「猫ちゃんは心配性ね」
「私も頑張りました」
「ハハハ……」

 なにこの自信は! ドロテしか、自分の演技力の無さを自覚しておらん。しかし、やってしまったものは後戻り出来ない。もう祈るしかないな。


 今日は遊び疲れたのか、夕食が終わると皆、早くに就寝となった。わしが誰のベットで寝るかで一悶着あったが、順番制に決まり、今日はアイノのベットにお世話になる。
 さっちゃんが王女の権力を使えばイチコロなのに、いい子だと感心した。わしとしても、子供の頃からそんな力を使って欲しくない。
 昨日とはまた違う心地良さに抱かれていると、すぐに眠りに落ちて朝が来た。だが、アイノの胸に挟まって寝ていたらしく、目が覚めると同室のソフィとドロテが悔しそうな目でアイノを見ていた。


 皆と朝の挨拶をして朝食を終えると、わしは人型のまま庭に出て、昨日中断していた馬車用のネコハウス作りを再開する。

 ソフィに盗賊から没収した剣を二本使う許可はなんとかもらえたし、スプリングから作るとするか。じゃが、その前に……

「みんにゃ、にゃにしてるにゃ?」
「暇」
「暇ですので」
「興味本意で……」
「猫ちゃんの魔法を見て勉強するの」
「「にゃ~」」
「シラタマ様が、何か面白い事をすると聞きましたので……」
「ねこさん、なにするの~?」

 いつものメンバーに、二人増えとる! セベリは執事の仕事はいいのか? ブリタの娘は……許す! あんな怖い目にあったんじゃからな。

「別に見ていても面白くないにゃ」
「暇潰しだからいいのよ」
「はやく、はやく~」
「モアちゃんも見たいよね~?」
「うん!」

 王女様とメイドの娘が仲良くしておるけど、いいんじゃろか? さっちゃんは、五歳のモアを妹みたいに扱って膝に乗せておるが……ブリタが見たら青ざめるんじゃなかろうか?
 この世界ではこんなものなのか? ブリタの心臓が止まりませんように……

「やるけど面白く無いにゃ」


 わしは皆の解散を諦めて、面白く無いと念を押す。その後、鞘から抜いた剣を、鉄魔法で操作して浮かせる。魔法で浮いた剣を見て、皆から感嘆の声があがるが、無視する。

 まずは鉄魔法で剣を一定の細さにする。これは時間と集中力がいるから戦闘に使えない。使うなら、剣を浮かして飛ばした方がよっほど早い。
 【鎌鼬】より威力が劣るから、使う機会も少ないじゃろう。


 ゆっくりと細く長くなっていく剣を見て、皆から感嘆の声がまたあがる。
 細長くなった剣が一定の長さになると、上からひねってスプリングの形にしていく。下まで捻ると、一定の間隔で切り離して完成となる。

 ふぅ。こんなもんかな? 硬さも十分あるし、わし一匹ならこんなもんじゃろう。しかし、前にも盗賊の剣をスプリングに変えた時にも思ったが、森で手に入れた鉄で作った時より、簡単に出来た気がするんじゃが……気のせいか?

「すごい、すごい!」
「すごかったね~」

 さっちゃんとモアは、興奮しながらわしを褒める。

「硬い剣があんなに軟らかく……」
「本物の剣でしたよね」
「猫ちゃん、今の魔法はなに?」
「秘密にゃ」

 聞かれても、元素記号やら数式の説明が難しいから、教えるのはごめんじゃ。でも、鉄魔法を使える人間っておるのかのう?


 わしはそれだけ言うと作業を続ける。毛皮の入った箱は出来ていたから、あとは外側。土魔法でちょうどまる箱を作り、スプリングを固定する。
 最後に、変身魔法を解いて猫型に戻り、完成した箱に入って感触を確かめる。

 うん。三個目とあって、出来もまずまずじゃ。あ! 屋根を付け忘れてた。まぁ屋根ぐらいちょちょいのちょいじゃな。

「ねこさん。わたしもはいれる?」
「ん? モアならいけるにゃ。ちょっと待つにゃ」

 わしは人型に変身すると、モアを持ち上げて箱に入れてあげる。モアは最初、おとなしくしていたが段々はしゃぎ、跳びはねる。

「わ~。ポヨンポヨンするよ~」
「ダメにゃ~。壊れるにゃ~!」
「ねこさん。ごめんなさい」

 モアは素直に謝るが、モアのネコハウスの扱い方を見て、他の者が食いつく。

「前に聞いた猫ちゃんの説明だけじゃわからなかったけど、さっきのスプリングでショックを吸収できるんだ。だから猫ちゃんの車は揺れが少ないのね」
「シラタマちゃん! 私の馬車にも付けて!」
「面倒にゃ」
「そんなこと言わずに~」
「そう言われても、今の馬車じゃ狭くにゃるし、重たくなって馬が大変にゃ。一から作った方が……にゃんでも無いにゃ」
「一からなら作れるのね?」

 しまった! いらんこと言ってしまった。何か言い訳をしなくては……

「いや、その……あ、鉄が足りないにゃ!」
「盗賊の剣がいっぱいあったでしょ?」
「ソフィが使わせてくれないにゃ」
「ソフィ、いいよね?」
「サンドリーヌ様が女王陛下に報告をして頂ければ……」

 あのソフィが折れた! わしが二本の剣を貰うだけでどれだけ苦労したことか……足に擦り寄ったり、抱きついたり、ゴロゴロ言ったりして大変じゃった! 猫じゃなかったらただのセクハラじゃな……
 馬車を作れない理由を、ソフィのせいにしようと思っておったのに作戦失敗じゃ。次の一手を打とう。

「わしは馬車の構造にうといにゃ。だから出来ないにゃ」

 嘘はついておらんし、良い言い訳じゃ。そもそも、わしの車は土魔法で動くから回転する車輪も車軸も無い。そこが故障の原因になるから固定する訳にもいかん。うん。無理じゃ。

「それでしたら馬車の設計図が何枚かありますし、私も何度も立ち会っておりますから助言致しましょう」
「セベリ、頼むわね」

 こんのジジイ! いらんことすな! 執事の仕事をせい!


 この後、わしとセベリの熱い闘いが始まる。設計図を見ながらどこをどのような素材にし、強度をどのように上げるかで言い争う。昼食を迎える頃には、皆、飽きてどこかに行ってしまった。

 サンドイッチをくわえながら、設計図に線を引き、二人の納得のいく出来になると製造に取り掛かる。

 わしは剣を太めのスプリングに変え、ネジやボルト、工具も作り出す。その間にセベリは屋敷に、修理用に保管してある車軸、車輪等、馬車に必要な素材を集める。
 硬くて軽いフレームとサスペンションを土魔法でしっかり作ると、ここからは手作業に移る。土魔法の柱で浮かせてあるフレームの下に二人で潜り、車軸をボルトで固定し、車輪もボルトで締める。
 ボルトやネジはこの世界には無かったが、痛みやすい箇所は修理がしやすいようにしておかないと、壊れたら一発で乗り捨てられる。せっかく作ったのだから長く乗って欲しい。どうせ女王も欲しがるだろうし、あとは勝手にやってもらう。

 馬車の足回りが完成すると残りは外装と内装だ。布製の外装、ほろでいいとわしは主張したが、セベリが王女の乗る馬車に相応しく無いと折れてくれなかったので、木製の外装となった。
 ひとまず内装を、土魔法で軽く硬いベンチを固定で付けてから外装に取り掛かる。
 外装は木を使うので、風魔法で切ったり削ったりで時間を短縮する。コンコンとトンカチの音と作業は続き、皆の夕食が終わった頃に外装は完成する。

 日も完全に落ちてしまった後は、光魔法で辺りを照らして作業をしたら、ギャラリーが集まって来た。だが、地味な作業にすぐに飽きて散って行く。最後に内装を整えて完成した時には、皆、眠っていた。



「完成だにゃ~」
「お疲れ様です。まさか一日で完成するとは思いませんでした」

 わしの作った車より、五倍の時間が掛かったのう。でも、納得の出来じゃ。セベリとは意見の違いでぶつかったりしたが、それも含めて楽しかったのう。


 わしが出来上がった馬車をしげしげと眺めていると、セベリがある物を持って声を掛ける。

「一杯、如何いかがですか?」
「それは……酒かにゃ?」
「ウイスキーと言う物です。少し強いですが美味しいお酒ですよ」

 ウイスキーじゃと? お城でワインを見た事はあるがウイスキーは初めてじゃ。元の世界ではよく飲んでいたから嬉しいのう。
 まだわしは二歳じゃけど、飲んでも大丈夫じゃろうか? 猫だから成人じゃけど……勧めてくれておるんじゃ。一口ぐらいご相伴しょうばんにあずかるのが礼儀じゃな。

「有り難く頂くにゃ」

 トクトクとグラスに注がれる黄金色こがねいろの液体に、わしはゴクリと唾を飲む。

「完成祝いにゃ。セベリも座って一緒に飲むにゃ」
「そうですか。では、ご一緒させて頂きます」

 セベリが自分のグラスに注ぐ間に、わしは氷魔法でグラスにカランと氷を落とす。

「氷……魔法ですか?」
「そうにゃ。セベリもいるかにゃ?」
「お願いします」

 わしはセベリのグラスに氷を落とすと、グラスを持ち、セベリのグラスに合わせる。そして、一口飲む。懐かしい味が口に広がり、わしは目に熱い物を感じる。

「お口に合わなかったですか?」
「いや、うまいにゃ! うまいにゃ~」
「喜んで頂き光栄です」
「ウイスキーはどこでも売っているのかにゃ?」
「庶民のお酒ですので手に入りますが、味はいまいちといったところでしょうか」
「これは美味しいにゃ」
「こちらは私の故郷で作られた物で、時々送ってもらっております」
「残念にゃ。すぐに手に入れば良かったんにゃけどにゃ~」

 わしにとっても故郷の味じゃ。この騒動が終わったら、セベリの故郷に買いに行こう。しかし、先立つ物が無いから仕事をせんといかんのう。やはりハンターか……
 考えるのは今はいい。今宵はこの味を噛み締めよう。


 その後、セベリの故郷の話を聞き、馬車の次のプラン等を話しながら、ボトルが空になるまで語り合った。幸いこの体は酒に弱いわけでは無く、程よい加減で酔う事が出来た。
 今日は夜も遅くなったので、リビングにネコハウスを出して眠りに就く。


 翌朝、さっちゃんに酒臭いと怒られてしまった。
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